ﾜｲﾜｲｶﾞﾔｶﾞﾔ

男（……）

男（お、隣に女子が座った）

講師「そんでははじめまーす」

女（あれっ？あれ？）

女（ノート忘れた……終わった……）

女（この講義友達いないんだよなー。参ったなあ）

男（なんかキョロキョロしてんな……眼合わせないようにしよ……）

女（隣の人ルーズリーフか……一枚貰おうかな）

女（でも何か……話しかけづらい雰囲気……）

女（う～ん……背に腹は代えられない！）

女「あの～」

男（……え、俺？）

男「あ、はい」

女「ルーズリーフ一枚貰えませんか、忘れちゃって……」

男「ひゃはい、いいすよ」

男（うわーテンパっちまった）

女（あ、テンパってる……）

ｶｽｯｶｽｯ

男（ルーズリーフうまくとれねー！！！！）

男「……はい」

女「あ、三枚も」

男「いちおうね」

女「ありがとうございますっ」

男「いえ」

男（あー、緊張しちまった……）

女（助かったー。ありがとう隣の人！）

男（……）

男（なんかこう、もっとフランクに話せなかったものか……）

男（キモがられたかな……いや、恩人をキモいという女など眼中にない）

男（……落ち着け俺。眼中もクソもなかった）

女（やば、眠くなってきた……）

女（でもルーズリーフ貰った手前寝る訳にもいかないし……）

男（講義全然頭に入ってこねえ……）

ｷｰﾝｺｰﾝｶｰﾝｺｰﾝ

講師「おわりー。各自復習しとくようにー」

女（よし、持ちこたえた……偉いぞ私）

男（もっとフランクに……そもそも眼中に……）

女「さっきありがとうございました」

男「へあっ！いえ、ダイジョブっす」

女（オタクかなーこの人）

男「じゃ、帰るんで」

女「あ、はい。ほんと助かりました」

男「いえ……」

ｿｿｸｻ

男（ムリムリムリムリムリムリ）

帰路

女「やー、参ったよ。ノート忘れちゃってさー」

女友「えー！手帳とかにババーっと書いちゃえばいいじゃん」

女「私そういうの分けたい派だから！」

女友「あー、そうだよね。そういうとこあるよねー、うん」

女友「で、どうしたの？」

女「隣の男子にルーズリーフ借りたんだけどー」

女友「ふ～ん」

女「めっちゃ授業眠くてねー」

女友「そりゃつらいわー」

女「貰った手前ねー」

帰路

男（女子とまともに話したの何年振りだ……）

男（もうちょっと落ち着いて話せれば……）

男（……いや、もう反省会はよそう）

男（帰ってゲームして忘れよう）

男（それがいい）

男（ああ、でもちょっと幸せだったな）

男（特別可愛い子でもなかったけど）

男（神様ありがとう）

一週間後

男（もし先週の女子がまた隣に座ってくるようなことがあったらどうしよう）

男（いや、ありえない。ありえないが上手く話せるだろうか）

男（一応考えておくのもいいのではないか。思考実験としてありではないか）

男（……そもそも俺の顔を覚えていないのではないか）

男（つうか俺が覚えてないわ）

女（よいしょっと……間に合った）

女（……うわ、隣の人先週と同じだ）

女（どうしよ、シカトするのも感じ悪いよなー、うーん）

男（お、今週も女子が隣か……あれ、先週の？いや、違うか？）

女「あの～、先週はありがとうございました」

男「……あ、やっぱりそうでしたか！」

女「んっ？」

男「あ、いえなんでもなっひす」

女「……」

男「……」

男（やばいムリムリムリ）

男「ああの、この講義の先生好きなの？」

女「いや～、そういう訳じゃなくて」

男「あ、空いてるとことったみたいなね」

女「あ、はい。それなんですー」

男「……」

女「……あはは」

男（俺死ぬかもしんねえ）

女（やっぱりこういうタイプかあ）

ｷｰﾝｺｰﾝｶｰﾝｺｰﾝ

講師「うーい、はじめまーす。先週どこまでやったっけ？」

男（助かった！）

女（……）

女（こういう人っていつも何してるんだろう）

女（ゲーム？ネット？うーん……）

女（オタクの友達はいるけど、雰囲気違うしなあ）

女（でもこんな人クラスに一人はいたなあ）

女（……小学生の頃はみんなでイジめてたっけ……最低だったな……）

男（全然頭に入ってこねえー！）

ｷｰﾝｺｰﾝｶｰﾝｺｰﾝ

講師「終わりまーす。また来週」

男（ふう……かえろ）

女「じゃ、お疲れ様でしたー」

男「あ、お疲れっす」

男（あれ、今俺イケボでなかった？）

女（今日は飲みかー。なんかだるいなー）

女（でもいくかー）

女（うわ、隣のあの人めっちゃ早歩き）

男のアパート

男「あ、お疲れっす」

男「あ、お疲れっす」

男「あれ、違うな……」

男「あ、お疲れっす」

男「あ、お疲れっす」

男「今の近かったな……！」

居酒屋

男子A「じゃーまずは乾杯しましょーかー！」

男子B,C「「うぇーい！」」

女子A「はーい！」

女（えー、男子も来るなんて聞いてない……）

女友「どしたのー！元気ないじゃーん！」

女「ん、だいじょぶ！私梅酒で！」

男子A「しぶっ！」

男子B,C「「どっ」」

女「えー！おいしいんだよー！」

女のアパート

女「うぇー、気持ちわる……」

女「あー……」

女「男子がいるならそういえってんだよ！」

女「何がうぇーいだよ！」

ｶﾞﾝｯ

女「いたっ！あーもー！」

女「お風呂……朝でいいか」

女「化粧だけでも……めんど……ねむ……」

ﾄﾞｻｯ

一週間後

男（……）

男（……）

男（……来ないな）

男（休みか。いや、後ろの方に座ってるのか）

男（俺を避けて……いや、俺のことなんてそもそも）

男（そんなに気にしてる訳……）

男（……）

男（……）

ｷｰﾝｺｰﾝｶｰﾝｺｰﾝ

講師「はじめんぞー」

ｷｰﾝｺｰﾝｶｰﾝｺｰﾝ

講師「はい終わり。また来週」

男（来なかったな）

男（バカバカしい、帰ろ）

男（……何がバカバカしいんだかな）

男（……）

男（来週はくるのかな）

女のアパート

女（うぐぐ……やば……激重……）

女（これはいつにもまして……）

女「うごごごご」

女「ゴアーーーーーーーー」

女（寝よう。寝よう寝よう寝よう）

女「……うごごご」

一週間後

女「どうもー」

男「ん……あ、ども」

男（来ました。来ましたよこれ）

女「いや～、この講義友達いなくって」

男「あ、俺もなんすよ」

女（やば、友達いないから仕方なくっていう風に聞こえたかな）

男（ほんとはどの講義にも友達いないんすよ）

女「え～と、お名前はまだ聞いてなかったよね」

男「男です」

女「男さんかー。友達の苗字と同じだー」

男「そうなんすか」

女「そーなんす！」

男「……」

男（ポケモンネタ？いや、ゲームの話に食いついたらキモがられるのでは）

女「……」

女（会話つづかなーい！）

女「私は文学科三年の女です」

男「文学科なんすか」

女「うん、男さんは？」

男「俺も文学科の三年」

女「えー！同級生じゃないですか！」

男「そっすねー。へへ」

男（なんだこの小悪党みたいな笑いは）

女「全然気付かなかったです！」

女（あー、またうっかり失礼なことを……）

男「俺もです」

女「ですよねー……」

男「座ってる位置とか違うのかもね」

男（なんで俺中途半端にタメ語になってるんだ……）

女「あー。そうかもー」

ｷｰﾝｺｰﾝｶｰﾝｺｰﾝ

講師「うーい」

男「あっ、はじまるすね」

女「ん」

男（……めっちゃしゃべったな）

女（……）

女（先週のノート借りたいこと、切り出せなかった……！）

女（どんなことやったのかなー……）

ﾁﾗｯﾁﾗｯ

男（……な、何を見てるんだ）

女（くっ、見えない……その腕、ずれろ！ずれろ！）

男（……ノートか。やっぱり先週休んでたのか？）

男「……もしかして先週休んだ？」

女「！」

女「……そうなんす」

男「……これ、先週分」

男（ルーズリーフでよかった……）

女「うわ、いいんですか」

男「うん……でもそろそろ静かにしないと」

女「あ、はい……」

男（うわあああ余計なことを……）

女（お、怒られちゃった……）

ｷｰﾝｺｰﾝｶｰﾝｺｰﾝ

講師「うーい」

男（全然頭に入ってこなかった……）

女「ノートありがとうございました」

男「いえ、おっけーおけ」

男（あ、フランク無理だわ。俺絶対無理）

女（怒ってはなさそうかな。よかったー）

女「それじゃ、お疲れ様でーす」

男「お疲れっす」

女「また来週この辺座ります？」

男「え、あ、分かんないけどたぶん」

女「ほーい」

男（えー……えー！）

男のアパート

男「……」

男「俺、惚れたかもしれん」

男「いや、無茶だ」

男「しかし、しかしだ」

男「友達には、なれたんじゃないだろうか……」

男「なんか俺、幸せだな……こんだけで……」

男「神様ありがとう……」

女のアパート

女「ふー」

女（色んな人がいるもんだー）

女（しっかしノートも字もめっちゃ綺麗だったなー）

女（顔の割に……いや、あー、ダメダメ）

女（それに比べて私のノートは……）

ﾍﾟﾗｯ

女（あれ、案外っていうかめっちゃ綺麗っていうか）

女「これ男くんのじゃん！」

女（返したはずなのに！メールしないとメール！）

女（……アドレス知らない）

女（まずい、一週間会えないのに……）

三日後

男（食堂でぼっち飯うめえな）

男（……ん、あれは女さん）

男（ぼっちで食ってるとこ見られたくないな）

男（気配を消そう……）

女「あの、男くん？」

男「エアッはい！」

女「やっぱり！会えてよかったー」

男「え、ええ？」

男（これなんてエロゲ）

女「ごめんなさい」

男（えー！？）

女「実はこの前のノート間違って持って帰っちゃって……」

ﾍﾟﾗｯ

男「あー」

男「だいじょぶ、気付かなかったから」

女「そういう問題じゃないじゃないですか！」

女「ほんとごめんなさい！」

男「いやー、ほんと、全然」

男（いや、マジでそんな）

女「はー。よかったー……」

女「男くん勉強してそうだから困ってるかなって」

男「いやー、家では全然してない」

女「隣いいですか？」

男「だいじょぶっす」

男（俺死ぬわ）

女「もしかしてお昼一人で食べる派？」

男（死んだ）

男「いやー……うん、最近は結構……」

女「あー、わかりますよ」

男（え？）

女「いつも友達と食べるのも疲れるよねー」

女「あ、タメ語混じりでごめんなさい」

男「いや俺もなんでっ同級生だしそこは別に」

女（友達いない訳じゃないんだ）

男「あー俺そろそろ講義だから……」

女「ほい。お疲れ様ー」

男「お疲れっすー」

男（……とんでもなく消耗した）

男（まともに講義を受けられるだろうか）

女（相変わらずテンパってるなー）

女（でもいい人だなー。ほんとに）

女（私も人に優しくしよう……なるべく）

四日後

女「こんちはー」

男「どもっす」

女「……えー！」

男「えー……？」

女「これペプシコモドオオトカゲ味じゃないですか！」

男「ああ、うん……いつもの不味いシリーズの」

男（しまった。店頭に並んでたからいつもの癖でつい……）

女「これ美味しいんですかね。飲みました？」

男「めっちゃ不味かった」

女「えー！何で買ったんですか！」

男「ははは……」

男（何でだろうか……）

女「一口飲んでみていい？」

男「えっいいの？」

女「ん？」

男「いやっ。飲んでいいよ」

女（……間接キスに耐性ないのかー！）

女（そのまんまだなこの人は……）

ｺﾞｸｯ

女「……ありがとう」

男「どう？」

女「ちょっとムリかな……」

男「だよね、こりゃムリだ。後で捨てちゃおっかな」

女「あはは」

男（家宝にしたい）

ｷｰﾝｺｰﾝｶｰﾝｺｰﾝ

講師「うーい、終わりー」

女「あー、もう試験再来週かあ」

男「だるいなあ」

女「ほんとねー」

女「じゃ、お疲れ様ー」

男「お疲れっす」

男（なんか俺、結構自然に喋れてね）

男（始まったのか？俺の大学生活始まったのか？）

男のアパート

男「……ペットボトル」

男「持って帰って来てしまった」

男「……」

男「……」

男「……」

帰路

女「てな感じで、最近結構話すんだわ」

女友「ほ～。男くんってオタクっぽい人でしょ？」

女「うんー」

女友「どうなの？」

女「普通だよ」

女友「あー、普通かー」

女「ちょっとテンパってるけど普通っちゃ普通」

女「でもめっちゃいい人で、ノート貸してくれるしー」

女友「便利みたいな？」

女「ちょ、いや、そんなんじゃないから！」

女友「はは。いい奴なんだ」

女「そうだよー」

男のアパート

男「……いや」

ｶﾞｼｬｺﾝ

男「ゴミはゴミ箱へ……」

一週間後

女「男くんは試験勉強とかする～？」

男「いや、試験前は別に」

女「ノート見返したりもしないの？」

男「講義聞いてるからそれで十分かな」

男（うちではネトゲで忙しいし……）

女「えー。そっかあ」

男（……嫌味に聞こえなかったかな）

女「ノート見返さないのかあ……」

男（……もしかしてノート貸して欲しいのか？）

女「勉強しないとなあ。めんどくさー」

男「ノート貸そうか？」

女「え！」

女「いやいや、勉強は自分で頑張るよ！」

男「使わないからいいよ」

女「大丈夫だよー。ありがとね」

男「そか」

男（違うのか？よかったのか……？）

ｷｰﾝｺｰﾝｶｰﾝｺｰﾝ

講師「うーい」

男「はじまるね」

女「ん」

ｷｰﾝｺｰﾝｶｰﾝｺｰﾝ

講師「来週はテストだかんな。勉強してこいや」

女「ふー」

男「おつかれ」

女「なんか疲れるわこの講義」

男（俺が隣にいるせい……じゃないよな）

男（そうなら席移るよな……）

女「疲れない？」

男「俺はこの講義、好きだよ」

女「えー、変わってるなあ」

男「そうかな」

男（講義が好き、か……）

女「ま、講義前に喋ってるのは楽しいけどね」

男「あ……」

女「じゃ、お疲れ様ー。試験がんばろうねー」

男「……お疲れ様。また」

男（楽しい、か）

男（……）

男（来週試験で……この講義が終わって）

男（その後も女さんに会えるのだろうか？）

男（……いや、これ以上何を望むんだ……）

女のアパート

女（あ、またアドレス聞きそびれたな）

女（うーん）

女（でも連絡することも別にないし……）

女（連絡……）

女（あれ、試験終わったら男くんと会えなくなる？）

女（んー、それは参ったなあ）

女（んー？）

女（参った？参るのかな、私？）

一週間後

女「おはよー……」

男「おはよ。お昼だけど」

男「一夜漬け？」

女「そうなんす……」

男「そっか」

女「……」

男「……」

女「男くん、やっぱり勉強してこなかった？」

男「うん。まあなんとかなるかなって」

女「うわー。女の敵だ……」

男「えー……」

女「そろそろかな」

男「あと１分」

女「あー、もうちょっとノート見とこうかな」

男「うん」

女「……」

女「やー。やめた」

男「大丈夫なの？」

女「まーなんとかなるかなーって」

男「……今の俺の真似？」

女「オウム返し！」

男「もしかして、ポケモン好き？」

女「え！うん、実はねー」

ｷｰﾝｺｰﾝｶｰﾝｺｰﾝ

女「あ……よし、がんばろう！」

男「……うん。がんばろ」

…………

ｷｰﾝｺｰﾝｶｰﾝｺｰﾝ

女「燃え尽きたわー……」

男「お疲れ様」

女「ほんとねー」

男「どうだった？」

女「問２がなー全然自信ない」

男「ああ、あそこは柿本人麻呂うんぬんかんぬん」

女「なんだ、合ってるかも……」

男「そっか、良かった」

男「……」

女「……」

男「えっと」

女「男くんごめん、私友達待たせてるから、行くね」

男「あ……うん」

女「また見かけたら声かけてね！」

男「うん、またね」

ﾀｯﾀｯﾀ

男（行ってしまった……）

男（それから何度か彼女を見かけることはあったが）

男（俺から彼女に声をかけることは一度もなかった）

男（彼女から声をかけてくることも何度かあったが）

男（大した会話にならず、顔を合わせるのが少し気まずく思えた）

男（卒業式でも、ただ一人俺に声をかけてくれたが）

男（それ以来彼女と会うことはなかった）

男のアパート

男「この部屋とも今日でお別れか」

男「えっと、この資料はこっちで……」

男「これは……ん？」

男「懐かしいな……あの時のか」

彼女に貸したあの日のノート

男「はは、何だか虚しいな、おい……」

敷き詰められた素っ気ない文字

ﾍﾟﾗｯ

その間隙を見つけて描かれた

男「！」

水色のモンスター

男「……こちらこそ」

伸びた吹き出しに丸い文字
『ありがとね！』

おわり

>>104
ない！でもこんな小さなことを誇りにしてこの男は逞しく生きていくんだと思います
人生そんなもんだと思います

見てくれてありがとう　おやすみ