5:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 22:09:20.59 :F8K8mWpgO
昼飯を食べ終わり、自室へ戻る。今日は本を読んで過ごそうか、そう思い立ち、使用人に本を持ってこさせた。
「それは何の本なのだ?」
錬金術、いわゆる魔法の本だ。そう答えると、彼女は心底意外そうな顔で、
「だが、魔法はもっと器具のあるところで学ぶのではないか?」
確かに、普通はそうする。ただ、僕は両親が残した物を学んでいるだけだからな。彼女は頷き、そうして黙った。
何で錬金術を知っているんだ?これは、人間だけしか使わない技術のはずだが。僕が本から顔を上げ、唐突に尋ねる。
彼女は、少し迷うように下を向いてから、顔を上げて、
「妾の国では、人間と貿易していてな。妾達の資源と引き換えに、人間から技術提供をしてもらっていた」
昼飯を食べ終わり、自室へ戻る。今日は本を読んで過ごそうか、そう思い立ち、使用人に本を持ってこさせた。
「それは何の本なのだ?」
錬金術、いわゆる魔法の本だ。そう答えると、彼女は心底意外そうな顔で、
「だが、魔法はもっと器具のあるところで学ぶのではないか?」
確かに、普通はそうする。ただ、僕は両親が残した物を学んでいるだけだからな。彼女は頷き、そうして黙った。
何で錬金術を知っているんだ?これは、人間だけしか使わない技術のはずだが。僕が本から顔を上げ、唐突に尋ねる。
彼女は、少し迷うように下を向いてから、顔を上げて、
「妾の国では、人間と貿易していてな。妾達の資源と引き換えに、人間から技術提供をしてもらっていた」
6:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 22:11:18.87 :F8K8mWpgO
そう。貴族は、そうやって他種族と貿易し、栄華を保っている。ただ、他種族との関わりを持つというのはタブーとなっているから、秘密裏に、なのだが。
それを知っているということは、政を両親から習っていたのか?こう尋ねると、彼女は少し拗ねたような顔で、
「妾を何歳だと思っている。これでも、お前たちの慣習に乗っ取れば、とっくに成人は迎えているのだぞ」
エルフの寿命は長く、その美しさは死ぬその時まで保たれるという。確か、人間の二倍近い寿命だったはずだ。
ならば、実際は僕の少し上位の年齢なのか。そう言うと、彼女は少し驚いて、
「そうなのか?うーむ、人間の歳はわからない」
それが普通だろう。他種族のことなど、一切知らずに一生を終える者も多いのだから。僕はそう言って、本に目を落とした。
そう。貴族は、そうやって他種族と貿易し、栄華を保っている。ただ、他種族との関わりを持つというのはタブーとなっているから、秘密裏に、なのだが。
それを知っているということは、政を両親から習っていたのか?こう尋ねると、彼女は少し拗ねたような顔で、
「妾を何歳だと思っている。これでも、お前たちの慣習に乗っ取れば、とっくに成人は迎えているのだぞ」
エルフの寿命は長く、その美しさは死ぬその時まで保たれるという。確か、人間の二倍近い寿命だったはずだ。
ならば、実際は僕の少し上位の年齢なのか。そう言うと、彼女は少し驚いて、
「そうなのか?うーむ、人間の歳はわからない」
それが普通だろう。他種族のことなど、一切知らずに一生を終える者も多いのだから。僕はそう言って、本に目を落とした。
7:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 22:13:06.08 :F8K8mWpgO
使用人のノックの音で我に返り、今いく、とだけ返事をする。彼女を見ると、ベッドの上で本を読んでいた。せわしなく目が動いている。かなり集中しているようだ。
勝手に読むな、僕はそう注意するが、全く反応しない。
肩を掴んで軽く揺さぶると、ようやく反応した。
「どうした?夕食か?」
何故勝手に本を読んだ。そう聞くと、
「妾は何度もお前に読んで良いのか尋ねたが、お前は本に夢中だったからな。妾がいるのに本を置いていたから、構わないのかと思って。だめ、だったか?」
彼女は、ばつの悪そうな顔をしてこう答えた。
……お前に読まれたところで、困る本ではない。それに、読んだところでお前の役に立ちはしないだろう。それでも読みたいのなら、勝手にしろ。
僕がそう言うと、彼女は嬉しそうに目を細め、頷いた後、服を着始めた。
使用人のノックの音で我に返り、今いく、とだけ返事をする。彼女を見ると、ベッドの上で本を読んでいた。せわしなく目が動いている。かなり集中しているようだ。
勝手に読むな、僕はそう注意するが、全く反応しない。
肩を掴んで軽く揺さぶると、ようやく反応した。
「どうした?夕食か?」
何故勝手に本を読んだ。そう聞くと、
「妾は何度もお前に読んで良いのか尋ねたが、お前は本に夢中だったからな。妾がいるのに本を置いていたから、構わないのかと思って。だめ、だったか?」
彼女は、ばつの悪そうな顔をしてこう答えた。
……お前に読まれたところで、困る本ではない。それに、読んだところでお前の役に立ちはしないだろう。それでも読みたいのなら、勝手にしろ。
僕がそう言うと、彼女は嬉しそうに目を細め、頷いた後、服を着始めた。
8:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 22:15:28.18 :F8K8mWpgO
夕食が終わり、自室に戻ろうとしたところを、使用人に引き止められた。彼女に先に戻っておけと言って、使用人室へ向かう。
部屋に入ると、使用人は、淡々と、次のような報告を始めた。
エルフの国でクーデターが起きたとのこと。前王は殺され、新体制となったようです。恐らく、人間と手を組んだエルフによるものでしょう。前々からされていた噂は本当だったようです。貿易は続けるとのことでしたので、私達の生活には直接の影響はありません。ご心配無く。
使用人室には重い空気が流れていた。我が家はエルフの国とは密接な繋がりがあっただけに、予想出来たクーデターだったとは言え、ショックは大きいようだ。
夕食が終わり、自室に戻ろうとしたところを、使用人に引き止められた。彼女に先に戻っておけと言って、使用人室へ向かう。
部屋に入ると、使用人は、淡々と、次のような報告を始めた。
エルフの国でクーデターが起きたとのこと。前王は殺され、新体制となったようです。恐らく、人間と手を組んだエルフによるものでしょう。前々からされていた噂は本当だったようです。貿易は続けるとのことでしたので、私達の生活には直接の影響はありません。ご心配無く。
使用人室には重い空気が流れていた。我が家はエルフの国とは密接な繋がりがあっただけに、予想出来たクーデターだったとは言え、ショックは大きいようだ。
9:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 22:18:02.00 :F8K8mWpgO
ここにいる使用人達は、先代から仕えてきた者ばかりで、僕はほとんどの仕事を、彼ら彼女らに任せている。そのため、貿易をする必要上、様々な種族と関わりを持っていた。
エルフの彼女をお嬢さんと呼んで、当たり前のように使用人達が接するのは、そのような理由からである。
エルフの国王が殺された、というのは、使用人達にとっては、旧友が殺されたのと同じような感覚なのだろう。
僕は、わかった。報告ご苦労だった。そう労いの言葉をかけ、使用人室を後にした。
自室に戻ると、彼女はまたベッドで本を読んでいた。
自分の両親が殺されたと知らない彼女は、目を輝かせて、その元凶となった、錬金術の本を読んでいる。
僕は、こいつは何も知らない。それでいい。これで約束は守れる。そう自分に言い聞かせながら、そんな彼女を見ていた。
ここにいる使用人達は、先代から仕えてきた者ばかりで、僕はほとんどの仕事を、彼ら彼女らに任せている。そのため、貿易をする必要上、様々な種族と関わりを持っていた。
エルフの彼女をお嬢さんと呼んで、当たり前のように使用人達が接するのは、そのような理由からである。
エルフの国王が殺された、というのは、使用人達にとっては、旧友が殺されたのと同じような感覚なのだろう。
僕は、わかった。報告ご苦労だった。そう労いの言葉をかけ、使用人室を後にした。
自室に戻ると、彼女はまたベッドで本を読んでいた。
自分の両親が殺されたと知らない彼女は、目を輝かせて、その元凶となった、錬金術の本を読んでいる。
僕は、こいつは何も知らない。それでいい。これで約束は守れる。そう自分に言い聞かせながら、そんな彼女を見ていた。
10:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 22:19:18.62 :F8K8mWpgO
彼女を買ってから、今日で五日目。彼女はすっかり日常に溶け込んでいた。
朝、僕を起こし、一緒に朝食を食べ、本を読み、昼食を食べてまた本を読み、夕食を食べ終わると、またまた本を読む。
驚くべき集中力である。僕も本を読む方だと自覚していたのだが……
本を読むのは好きだったのか?そう聞くと、
「政を習うのに、本を読まなければならなかったし、物語なども好きだったからな」
錬金術の本は、楽しくないだろう。こう言うと、
「そんなことはない。それに、妾は一回学んでみたかったのだ。お母様とお父様が夢中になっていた人間の魔法を」
笑顔でそう言う彼女に、そうか、とだけ言って、また本を読むのに没頭した。そうして、また一日が終わった。
彼女を買ってから、今日で五日目。彼女はすっかり日常に溶け込んでいた。
朝、僕を起こし、一緒に朝食を食べ、本を読み、昼食を食べてまた本を読み、夕食を食べ終わると、またまた本を読む。
驚くべき集中力である。僕も本を読む方だと自覚していたのだが……
本を読むのは好きだったのか?そう聞くと、
「政を習うのに、本を読まなければならなかったし、物語なども好きだったからな」
錬金術の本は、楽しくないだろう。こう言うと、
「そんなことはない。それに、妾は一回学んでみたかったのだ。お母様とお父様が夢中になっていた人間の魔法を」
笑顔でそう言う彼女に、そうか、とだけ言って、また本を読むのに没頭した。そうして、また一日が終わった。
12:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 22:20:38.56 :F8K8mWpgO
こんな生活が更に一週間続いた。何かに夢中になると、時の流れは恐ろしく早くなる。
彼女が僕の物になってから、十三日目。彼女は、ふと、こんな事を言い始めた。
「実際に、実験をしてみたいものだ……」
何のために?僕がそう尋ねると、
「知識の収集にのみ力を注いでも、それを実際に使えるかどうかはわからない。習ったことを実践しなければ、生きた知識にはならない」
真剣な表情でこう言う彼女に、幼い頃の自分を思い出した僕は、何も言い返せなくなり、結局押し切られてしまった。
こんな生活が更に一週間続いた。何かに夢中になると、時の流れは恐ろしく早くなる。
彼女が僕の物になってから、十三日目。彼女は、ふと、こんな事を言い始めた。
「実際に、実験をしてみたいものだ……」
何のために?僕がそう尋ねると、
「知識の収集にのみ力を注いでも、それを実際に使えるかどうかはわからない。習ったことを実践しなければ、生きた知識にはならない」
真剣な表情でこう言う彼女に、幼い頃の自分を思い出した僕は、何も言い返せなくなり、結局押し切られてしまった。
13:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 22:22:43.11 :F8K8mWpgO
屋敷の地下にある、僕の実験室へと向かう。扉を開けると、そこには整えられた実験室があった。
「この屋敷にこんなものが……」
彼女はかなり驚いていた。無理もない。本でしか見たことの無かった物質や器具が、全て目の前に置いてあるのだから。
さぁ始めよう。そう言って、僕らは準備を始めた。
錬金術とは、もとは金を作り出す事が目的だったようなのだが、そんな物は既に達成されてしまっていて、今の錬金術の目標は、全ての願いを叶える、万能の力を手に入れることである。
今回は、炭から金の生成をする。
物質その物を変化させることこそが、錬金術の要であり、その基礎訓練としては代表的な物である。
屋敷の地下にある、僕の実験室へと向かう。扉を開けると、そこには整えられた実験室があった。
「この屋敷にこんなものが……」
彼女はかなり驚いていた。無理もない。本でしか見たことの無かった物質や器具が、全て目の前に置いてあるのだから。
さぁ始めよう。そう言って、僕らは準備を始めた。
錬金術とは、もとは金を作り出す事が目的だったようなのだが、そんな物は既に達成されてしまっていて、今の錬金術の目標は、全ての願いを叶える、万能の力を手に入れることである。
今回は、炭から金の生成をする。
物質その物を変化させることこそが、錬金術の要であり、その基礎訓練としては代表的な物である。
15:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 22:25:00.94 :F8K8mWpgO
「――――――!」
錬金術が魔法と言われる所以は、呪文によって物質を変化させるからだ。
「出来た……だろうか?」
貸してみろ。そう言って彼女の作った物を手に取る。
軽い。確かに外側は金なのだが、内側まで呪文は浸透していないようだ。
ただ、触媒無しにこれだけ物質を変換できるというのは、かなりの才能があると言ってよい。
中身は完全に炭のままだが、頑張った方じゃないか?そう言って返すと、悔しげに顔を歪め、その炭に向かって、
「何故妾に従わぬのだ。妾に従え!」
などと言ってから、また呪文を唱え始めた。
触媒を使って、呪文の浸透率を上げれば、確実に純金が出来上がるだろうが、僕はそれを言う気にはなれず、黙って彼女を眺めていた。
「――――――!」
錬金術が魔法と言われる所以は、呪文によって物質を変化させるからだ。
「出来た……だろうか?」
貸してみろ。そう言って彼女の作った物を手に取る。
軽い。確かに外側は金なのだが、内側まで呪文は浸透していないようだ。
ただ、触媒無しにこれだけ物質を変換できるというのは、かなりの才能があると言ってよい。
中身は完全に炭のままだが、頑張った方じゃないか?そう言って返すと、悔しげに顔を歪め、その炭に向かって、
「何故妾に従わぬのだ。妾に従え!」
などと言ってから、また呪文を唱え始めた。
触媒を使って、呪文の浸透率を上げれば、確実に純金が出来上がるだろうが、僕はそれを言う気にはなれず、黙って彼女を眺めていた。
16:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 22:27:36.81 :F8K8mWpgO
結局、夕方まで実験室にいた僕達は、夕飯を食べ終えると、彼女は、明日に向けた知識の収集のために本を読み出した。僕も本を読み始め、静かに夜は更けていった。
次の朝、彼女はまだ寝ている僕の手を引っ張りながら、
「早くいくぞ!時間が惜しい!」
と言ってきた。まだ眠いと言っても聞かないので、僕は仕方なく起きた。
手を引っ張られるまま、食堂に行くと、使用人達は手を繋いでいる僕らを見て微笑んだ。手を繋いだまま座れるようにだろうか、彼らは椅子を並べて引いた。
僕はされるがままに席につく。彼女はナイフとフォークを持とうとして、ようやく僕の手を握っているのに気付いたらしい。顔を赤らめて、
「わ、わざとではないぞ!成り行きだ!勘違いするな!」
そんなことを言ってから、僕の手を離して、食べ始めた。
僕もまだはっきりと覚醒しない頭で、もそもそと食べ始めた。
結局、夕方まで実験室にいた僕達は、夕飯を食べ終えると、彼女は、明日に向けた知識の収集のために本を読み出した。僕も本を読み始め、静かに夜は更けていった。
次の朝、彼女はまだ寝ている僕の手を引っ張りながら、
「早くいくぞ!時間が惜しい!」
と言ってきた。まだ眠いと言っても聞かないので、僕は仕方なく起きた。
手を引っ張られるまま、食堂に行くと、使用人達は手を繋いでいる僕らを見て微笑んだ。手を繋いだまま座れるようにだろうか、彼らは椅子を並べて引いた。
僕はされるがままに席につく。彼女はナイフとフォークを持とうとして、ようやく僕の手を握っているのに気付いたらしい。顔を赤らめて、
「わ、わざとではないぞ!成り行きだ!勘違いするな!」
そんなことを言ってから、僕の手を離して、食べ始めた。
僕もまだはっきりと覚醒しない頭で、もそもそと食べ始めた。
18:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 22:29:51.06 :F8K8mWpgO
食べ終わると、使用人が僕を呼んだ。彼女を見ると、今にも飛び出しそうな表情をしていたので、よけいな物には触らないように、とだけ言ってから、先に実験室へ行かせた。
パーティーの招待状です。今週末のようですね。これまでで最も規模の大きなパーティーだそうです。使用人は淡々と言い、僕も淡々と、わかった。とだけ答える。
おそらく、エルフのクーデター成功の暁に、大量のエルフを貰ったのだろう。全く、反吐が出る。そう思いながら、僕は実験室へと向かった。
食べ終わると、使用人が僕を呼んだ。彼女を見ると、今にも飛び出しそうな表情をしていたので、よけいな物には触らないように、とだけ言ってから、先に実験室へ行かせた。
パーティーの招待状です。今週末のようですね。これまでで最も規模の大きなパーティーだそうです。使用人は淡々と言い、僕も淡々と、わかった。とだけ答える。
おそらく、エルフのクーデター成功の暁に、大量のエルフを貰ったのだろう。全く、反吐が出る。そう思いながら、僕は実験室へと向かった。
19:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 22:31:12.99 :F8K8mWpgO
実験室に入ると、異臭がした。彼女が炭にかけている、何かの液体が元凶らしい。
この臭いは……触媒か?近付いてそう尋ねると、
「そうだ。昨日本に書いてあってな。……何故、昨日妾に秘密にしていたのだ」
半眼で責めるように言う彼女。実験というのは、そんな簡単に上手く行かないものだ、ということを教えようとしただけだ。
僕がそう言っているうちに、彼女は触媒のかかった炭に呪文を唱える。拳大の炭が萎んでいき、手の平サイズの純金へと姿を変えた。
彼女はそれを持ち上げ、そのずっしりとした重みを感じ、ふむ、と一つだけ頷くと、得意気な顔で、
「こんな風に上手くいったら、面白くないからだろう?」
と、声色まで得意気にそう言った。
実験室に入ると、異臭がした。彼女が炭にかけている、何かの液体が元凶らしい。
この臭いは……触媒か?近付いてそう尋ねると、
「そうだ。昨日本に書いてあってな。……何故、昨日妾に秘密にしていたのだ」
半眼で責めるように言う彼女。実験というのは、そんな簡単に上手く行かないものだ、ということを教えようとしただけだ。
僕がそう言っているうちに、彼女は触媒のかかった炭に呪文を唱える。拳大の炭が萎んでいき、手の平サイズの純金へと姿を変えた。
彼女はそれを持ち上げ、そのずっしりとした重みを感じ、ふむ、と一つだけ頷くと、得意気な顔で、
「こんな風に上手くいったら、面白くないからだろう?」
と、声色まで得意気にそう言った。
20:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 22:33:36.25 :F8K8mWpgO
そういう風に調子に乗るのが目に見えていたからだ。僕は一言そう言って、彼女の手の平の上の金を取り上げ、彼女の手の届かない位置まで手を上げる。
あ、と言って拗ねた表情をする彼女。おもちゃを取り上げられた子供みたいだな、と思い少し笑った。
「妾を今子供みたいだと思ったな!?妾を子供扱いするな!そしてその気持ち悪い笑みをやめろ!」
全くうるさい奴だ。
少し金の密度が荒いな、もっと触媒を上手く調合しろ。そう言って、手の平を返し、金を下に落とすと、彼女は慌てて両手でキャッチした。
「人の物を粗末にするな馬鹿者!落としたらどうする!」
と叫ぶと、静かにポケットに金を入れ、触媒の調合を再開した。
元々その炭も触媒も僕の物なんだが。お前の物じゃないんだが。喉元まで出掛かったその言葉を飲み込む位には、僕は大人だった。
そういう風に調子に乗るのが目に見えていたからだ。僕は一言そう言って、彼女の手の平の上の金を取り上げ、彼女の手の届かない位置まで手を上げる。
あ、と言って拗ねた表情をする彼女。おもちゃを取り上げられた子供みたいだな、と思い少し笑った。
「妾を今子供みたいだと思ったな!?妾を子供扱いするな!そしてその気持ち悪い笑みをやめろ!」
全くうるさい奴だ。
少し金の密度が荒いな、もっと触媒を上手く調合しろ。そう言って、手の平を返し、金を下に落とすと、彼女は慌てて両手でキャッチした。
「人の物を粗末にするな馬鹿者!落としたらどうする!」
と叫ぶと、静かにポケットに金を入れ、触媒の調合を再開した。
元々その炭も触媒も僕の物なんだが。お前の物じゃないんだが。喉元まで出掛かったその言葉を飲み込む位には、僕は大人だった。
21:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 22:35:27.28 :F8K8mWpgO
このようにして、彼女の実験はどんどん高度な物になった。
翌日、つまり、最初の実験を始めて三日目には、二つの物質の合成に挑戦した。さらにその翌日にはそれを成功させた。
五日目には、三種以上の物質を合成したし、六日目には、合成させる時に、それぞれの物質の好きな特性を選ぶことを成功させた。
例えば、金と布とを合成し、質感そのままに金色の布を作ることができる。まぁ、そんな物を作ったところで、眩しいだけだろうが。
このようにして、彼女の錬金術のスキルは、本を読んでいた時期も合わせると、たった二週間で、並みの貴族を超すレベルにまで達した。
このようにして、彼女の実験はどんどん高度な物になった。
翌日、つまり、最初の実験を始めて三日目には、二つの物質の合成に挑戦した。さらにその翌日にはそれを成功させた。
五日目には、三種以上の物質を合成したし、六日目には、合成させる時に、それぞれの物質の好きな特性を選ぶことを成功させた。
例えば、金と布とを合成し、質感そのままに金色の布を作ることができる。まぁ、そんな物を作ったところで、眩しいだけだろうが。
このようにして、彼女の錬金術のスキルは、本を読んでいた時期も合わせると、たった二週間で、並みの貴族を超すレベルにまで達した。
22:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 22:37:59.20 :F8K8mWpgO
そうして、翌朝。彼女が買われて二十日目。
「起きろ。今日は仕事なのだろう?ビシッとしなければ」
いつものように、彼女の声で目を覚ます。ここで起きなければ、無理やり手を引っ張られ、使用人達に冷やかされる。最近はその想像で、朝スッキリと目が覚めるのだから、感謝しなければならないのかもしれない。
「よし、起きたな。待っていろ、妾は服を着る」
この前、僕を起こす前に服を着ろ、と言ってみたところ、
「妾は極力裸がいいのだ!」
と、力説された。
エルフというのは、美しい故に、その溢れんばかりの魅力を発散しないと、死んでしまうのかもしれない。そうでないなら、こいつはただの露出狂なのだろう。
試しに、お前は露出狂なのか?と尋ねると、ゴミを見るような目をされたので、前者のようだ。
僕は彼女の着替え姿を見ながら、それにしても、毎日見ても飽きない美しさだ、と内心感動していた。
そうして、翌朝。彼女が買われて二十日目。
「起きろ。今日は仕事なのだろう?ビシッとしなければ」
いつものように、彼女の声で目を覚ます。ここで起きなければ、無理やり手を引っ張られ、使用人達に冷やかされる。最近はその想像で、朝スッキリと目が覚めるのだから、感謝しなければならないのかもしれない。
「よし、起きたな。待っていろ、妾は服を着る」
この前、僕を起こす前に服を着ろ、と言ってみたところ、
「妾は極力裸がいいのだ!」
と、力説された。
エルフというのは、美しい故に、その溢れんばかりの魅力を発散しないと、死んでしまうのかもしれない。そうでないなら、こいつはただの露出狂なのだろう。
試しに、お前は露出狂なのか?と尋ねると、ゴミを見るような目をされたので、前者のようだ。
僕は彼女の着替え姿を見ながら、それにしても、毎日見ても飽きない美しさだ、と内心感動していた。
23:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 22:38:52.29 :F8K8mWpgO
朝飯を食べ終え、外行き様の服に着替える。彼女には、今日は実験室には入らないように、とだけ言って、僕は出かけた。
目的の屋敷に着き、扉を開けると、いつもの様に下級貴族達がわらわらと集まってきた。
適当に受け答えをし、次の上級貴族へ皆が行った後、席につく。
周りを見渡すと、有名な上級貴族が何人かいた。今回のパーティーが特別だ、というのは、どうやら本当のようだ。
一体この中の誰が、エルフのクーデターに協力したのか、僕には全員が怪しく思えて、判断できなかった。
朝飯を食べ終え、外行き様の服に着替える。彼女には、今日は実験室には入らないように、とだけ言って、僕は出かけた。
目的の屋敷に着き、扉を開けると、いつもの様に下級貴族達がわらわらと集まってきた。
適当に受け答えをし、次の上級貴族へ皆が行った後、席につく。
周りを見渡すと、有名な上級貴族が何人かいた。今回のパーティーが特別だ、というのは、どうやら本当のようだ。
一体この中の誰が、エルフのクーデターに協力したのか、僕には全員が怪しく思えて、判断できなかった。
25:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 22:40:45.34 :F8K8mWpgO
しばらくして、今回のメインが始まった。司会は女のようだ。今回は、これまでで最大級のメインでございます。ここにいる皆様一人一人に、エルフが一匹付きます!司会の女も興奮した様子で、上擦った声でそう言った。
入り口の扉が開き、ぞろぞろとボロ布を纏い、手枷と首輪を付けられたエルフ達が入ってくる。
貴族達の歓声が爆発した。
僕は、一体、こんな大量の者達をどうやって誰にもバレず運んだのだろうか。そんなことを思っただけだった。
上級貴族の皆様から選ばれて下さい、そう言われ、エルフ達の顔をチラリと見る。すると、見知った顔が二つあった。
しばらくして、今回のメインが始まった。司会は女のようだ。今回は、これまでで最大級のメインでございます。ここにいる皆様一人一人に、エルフが一匹付きます!司会の女も興奮した様子で、上擦った声でそう言った。
入り口の扉が開き、ぞろぞろとボロ布を纏い、手枷と首輪を付けられたエルフ達が入ってくる。
貴族達の歓声が爆発した。
僕は、一体、こんな大量の者達をどうやって誰にもバレず運んだのだろうか。そんなことを思っただけだった。
上級貴族の皆様から選ばれて下さい、そう言われ、エルフ達の顔をチラリと見る。すると、見知った顔が二つあった。
26:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 22:42:45.91 :F8K8mWpgO
普段僕はあまり楽しんでいないんだ、こういう時くらい、わがままを言ってもいいだろう?そう皆に言うと、貴方も人が悪いなぁと言いながら、どうぞと言ってきた。
僕は、さっき目に付いた二人、いや、この場では二匹と言った方が正しいだろう、その二匹を選んだ。
二匹の目の前に行くと、僕の顔を見て、ほんの少し眉を動かした。
王と王女は殺されたと聞いたが。僕がそう囁くと、約束……約束は、果たしているか?そう囁き返してきた。
僕がほんの少し顔を動かし、それを肯定すると、彼等は安堵の表情を浮かべた。
その後ろでは、真っ先に選んだ僕が、エルフをどう扱うのかを心待ちにしている貴族共の、僕へ向けられた視線を感じる。
いつも参加しない彼は、一体、どんなことをエルフにするのだろうか。そんな吐き気のするような残酷な期待。
僕に任せろ、安らかに逝け。僕がそう囁くと、王と王女は、微かに微笑み、目を瞑った。
普段僕はあまり楽しんでいないんだ、こういう時くらい、わがままを言ってもいいだろう?そう皆に言うと、貴方も人が悪いなぁと言いながら、どうぞと言ってきた。
僕は、さっき目に付いた二人、いや、この場では二匹と言った方が正しいだろう、その二匹を選んだ。
二匹の目の前に行くと、僕の顔を見て、ほんの少し眉を動かした。
王と王女は殺されたと聞いたが。僕がそう囁くと、約束……約束は、果たしているか?そう囁き返してきた。
僕がほんの少し顔を動かし、それを肯定すると、彼等は安堵の表情を浮かべた。
その後ろでは、真っ先に選んだ僕が、エルフをどう扱うのかを心待ちにしている貴族共の、僕へ向けられた視線を感じる。
いつも参加しない彼は、一体、どんなことをエルフにするのだろうか。そんな吐き気のするような残酷な期待。
僕に任せろ、安らかに逝け。僕がそう囁くと、王と王女は、微かに微笑み、目を瞑った。
27:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 22:45:50.83 :F8K8mWpgO
僕は、懐のナイフを取り出すため、右手を上着の中に入れた。僕の錬金術で作られた合金で、よく切れる。
そうして、二匹に向かって呪文を呟き、ほんの少し遅れて、ナイフで二人の首元を横に薙いだ。
二匹は同時に崩れ落ち、僕は勢いよく吹き出す鮮血を身体に受ける。
エルフの内の何人かは、恐怖のあまり失禁し、何かうわごとを言いながら、その場に座り込んだ。唖然とする貴族達の方へと振り向き、血だらけのまま、僕は次のように話した。
僕は、懐のナイフを取り出すため、右手を上着の中に入れた。僕の錬金術で作られた合金で、よく切れる。
そうして、二匹に向かって呪文を呟き、ほんの少し遅れて、ナイフで二人の首元を横に薙いだ。
二匹は同時に崩れ落ち、僕は勢いよく吹き出す鮮血を身体に受ける。
エルフの内の何人かは、恐怖のあまり失禁し、何かうわごとを言いながら、その場に座り込んだ。唖然とする貴族達の方へと振り向き、血だらけのまま、僕は次のように話した。
28:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 22:48:08.91 :F8K8mWpgO
僕は他種族という奴が大嫌いでね、本当ならこうやって、一思いに殺してやりたいんだ。特に、芸術品のようなエルフを殺して壊してやるのは、最高だ。
ただ、それをやると君達が楽しめないからね。まぁ、今回で僕は結構満足したよ。
さぁ、どうぞ、次は君達の番だ。存分にやっておくれ。
そう言って戻ると、貴族共は、僕を畏れと賞賛の入り混じった目で見てきた。
服に着いた血は、もう落ちないだろうな、そう思いながら、血を洗い落とすために風呂場へ向かった。
この時、ある上級貴族が、僕を疑いの目で見ていたことを、僕は微塵も気づいていなかった。
僕は他種族という奴が大嫌いでね、本当ならこうやって、一思いに殺してやりたいんだ。特に、芸術品のようなエルフを殺して壊してやるのは、最高だ。
ただ、それをやると君達が楽しめないからね。まぁ、今回で僕は結構満足したよ。
さぁ、どうぞ、次は君達の番だ。存分にやっておくれ。
そう言って戻ると、貴族共は、僕を畏れと賞賛の入り混じった目で見てきた。
服に着いた血は、もう落ちないだろうな、そう思いながら、血を洗い落とすために風呂場へ向かった。
この時、ある上級貴族が、僕を疑いの目で見ていたことを、僕は微塵も気づいていなかった。
30:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 22:50:06.07 :F8K8mWpgO
夜中、屋敷に戻ると、使用人達は、僕の服が変わっていることに気付いたが、それには何も言わずにいてくれた。全く、こういう時の気配りは有り難い。
自室に戻ると、彼女は、ベッドに腰掛け、こくりこくりと船をこいでいた。僕が来たことに気付くと、眠そうな顔で、微笑しながら、
「お疲れ様。仕事は上手くいったか?」
僕は笑顔で、あぁ、と呟く。彼女に近付いて、待っててくれたのか、ありがとうな。眠いならもう寝て良いぞ。僕もすぐ寝る。そう言う。
「わかった、おやすみ……」
そう言って、掛け布団にくるまると、すぐに気持ちよさそうな寝息を立て始めた。
僕は、全く感情の起伏を感じなかった。約束を守れている、それだけを、心の中で繰り返し唱え続けているだけだった。
冷えた思考のままベッドに横たわり、隣の芸術品を横目で確認して、目を閉じた。
夜中、屋敷に戻ると、使用人達は、僕の服が変わっていることに気付いたが、それには何も言わずにいてくれた。全く、こういう時の気配りは有り難い。
自室に戻ると、彼女は、ベッドに腰掛け、こくりこくりと船をこいでいた。僕が来たことに気付くと、眠そうな顔で、微笑しながら、
「お疲れ様。仕事は上手くいったか?」
僕は笑顔で、あぁ、と呟く。彼女に近付いて、待っててくれたのか、ありがとうな。眠いならもう寝て良いぞ。僕もすぐ寝る。そう言う。
「わかった、おやすみ……」
そう言って、掛け布団にくるまると、すぐに気持ちよさそうな寝息を立て始めた。
僕は、全く感情の起伏を感じなかった。約束を守れている、それだけを、心の中で繰り返し唱え続けているだけだった。
冷えた思考のままベッドに横たわり、隣の芸術品を横目で確認して、目を閉じた。
32:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 22:51:51.84 :F8K8mWpgO
次の日、彼女を買って二十一日目の朝。僕は誰にも起こされることなく目を覚ました。
隣に寝ていたはずの彼女がいない。その事実に違和感を感じながら、僕は自室を後にした。
食堂に行くと、使用人がいた。おはようございます。いえ、もうこんにちは、でしょうか。そう言ってきた。もう昼過ぎのようだ。
お嬢さんなら、蔵書室で朝から本を読むと言っていましたよ。僕があいつの事を聞く前にそう言われた。僕は、それを聞いた瞬間、嫌な予感がした。
何か、おかしな所は無かったか?僕は早口でそう尋ねる。いえ、いつも通りでしたよ?使用人の答えを聞き、そうか、わかった。とだけ返事をして、僕は早足に蔵書室へと向かった。
次の日、彼女を買って二十一日目の朝。僕は誰にも起こされることなく目を覚ました。
隣に寝ていたはずの彼女がいない。その事実に違和感を感じながら、僕は自室を後にした。
食堂に行くと、使用人がいた。おはようございます。いえ、もうこんにちは、でしょうか。そう言ってきた。もう昼過ぎのようだ。
お嬢さんなら、蔵書室で朝から本を読むと言っていましたよ。僕があいつの事を聞く前にそう言われた。僕は、それを聞いた瞬間、嫌な予感がした。
何か、おかしな所は無かったか?僕は早口でそう尋ねる。いえ、いつも通りでしたよ?使用人の答えを聞き、そうか、わかった。とだけ返事をして、僕は早足に蔵書室へと向かった。
34:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 22:55:29.07 :F8K8mWpgO
蔵書室へ入ると、彼女が部屋の中央の椅子に腰掛けて、本を読んでいるのを見つけた。周りにある本の山を見る。
そこに、僕の恐れていた本があった。彼女に近づき、肩を揺さぶり、話しかける。
僕は、ここに入って良いなんて言っていないぞ。
彼女はゆっくりと僕の目を見た。僕は、きっと恐怖を宿した瞳をしているに違いないと思っていた。だが、そこにあるのは、縋るような目だった。
「お前は、ここに書いてあったようなことは、やっていないよな?」
彼女のいう『ここ』とは、間違いなく、貴族のあの狂った見せ物を記録した本のことだ。
……自分の手ではやっていない。僕はどう答えようか考えながら、そう言った。脳裏をよぎるのは、昨日の二人のエルフを殺した光景。
彼女の瞳に、ほんの少しの安堵が宿る。
「それは、どういうことだ?」
蔵書室へ入ると、彼女が部屋の中央の椅子に腰掛けて、本を読んでいるのを見つけた。周りにある本の山を見る。
そこに、僕の恐れていた本があった。彼女に近づき、肩を揺さぶり、話しかける。
僕は、ここに入って良いなんて言っていないぞ。
彼女はゆっくりと僕の目を見た。僕は、きっと恐怖を宿した瞳をしているに違いないと思っていた。だが、そこにあるのは、縋るような目だった。
「お前は、ここに書いてあったようなことは、やっていないよな?」
彼女のいう『ここ』とは、間違いなく、貴族のあの狂った見せ物を記録した本のことだ。
……自分の手ではやっていない。僕はどう答えようか考えながら、そう言った。脳裏をよぎるのは、昨日の二人のエルフを殺した光景。
彼女の瞳に、ほんの少しの安堵が宿る。
「それは、どういうことだ?」
35:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 22:57:16.10 :F8K8mWpgO
貴族は定期的にそれに参加しなければならないからな。僕は見ているだけ、ということだ。僕は、だから安心しろ、という風に彼女に語りかける。
彼女は、ふっと一息を吐いて、目をつむって下を向いた。そうして、小さく呟いた。
「それを止めることは、出来ないんだろう?」
あぁ。それを止めたら、僕が生きることが出来なくなるから。自分で言いながら、どこか言い訳じみているように感じて、心の中で自嘲した。
貴族は定期的にそれに参加しなければならないからな。僕は見ているだけ、ということだ。僕は、だから安心しろ、という風に彼女に語りかける。
彼女は、ふっと一息を吐いて、目をつむって下を向いた。そうして、小さく呟いた。
「それを止めることは、出来ないんだろう?」
あぁ。それを止めたら、僕が生きることが出来なくなるから。自分で言いながら、どこか言い訳じみているように感じて、心の中で自嘲した。
36:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 22:58:41.59 :F8K8mWpgO
彼女は、自分の両肩を抱いて、震えた声で、
「妾は、一層人間が恐ろしくなった……」
……僕も、人間が嫌いだ。大丈夫、僕はそんな人間達とは違う。そう言って、肩を抱く彼女の手を握る。
彼女は、僕を濡れた目で見て、
「お前だけは、妾を裏切らないでいてくれるか?」
勿論だ。僕が微笑みながらそう言うと、泣きながら、僕の手を両の手で握り返してきた。
しばらくの間、彼女の泣き声が、蔵書室に響いた。
これだけ僕のことを信じていたら、昨日のことに気付かれることも無さそうだ。
人間である僕の手を握りしめて泣く彼女に、そんなことを考えて、僕は安堵していた。
彼女は、自分の両肩を抱いて、震えた声で、
「妾は、一層人間が恐ろしくなった……」
……僕も、人間が嫌いだ。大丈夫、僕はそんな人間達とは違う。そう言って、肩を抱く彼女の手を握る。
彼女は、僕を濡れた目で見て、
「お前だけは、妾を裏切らないでいてくれるか?」
勿論だ。僕が微笑みながらそう言うと、泣きながら、僕の手を両の手で握り返してきた。
しばらくの間、彼女の泣き声が、蔵書室に響いた。
これだけ僕のことを信じていたら、昨日のことに気付かれることも無さそうだ。
人間である僕の手を握りしめて泣く彼女に、そんなことを考えて、僕は安堵していた。
37:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 23:00:10.44 :F8K8mWpgO
今回の事で、信頼を失うことは無いと判断した僕は、彼女に蔵書室を好きに利用する許可を出した。
その時の彼女のはしゃぎようは、年相応に見えた。あくまで、見た目の年、だが。
蔵書室で、錬金術に関する彼女の質問に答えていると、使用人がやってきた。上級貴族の客人が来ている、玄関で待たせているので、急いで来て下さい、とのことだった。
客人?誰だろうか。思い当たる節の無い僕は、怯える彼女に、自室に戻って鍵をかけておくように言いつけて、玄関へと向かった。
今回の事で、信頼を失うことは無いと判断した僕は、彼女に蔵書室を好きに利用する許可を出した。
その時の彼女のはしゃぎようは、年相応に見えた。あくまで、見た目の年、だが。
蔵書室で、錬金術に関する彼女の質問に答えていると、使用人がやってきた。上級貴族の客人が来ている、玄関で待たせているので、急いで来て下さい、とのことだった。
客人?誰だろうか。思い当たる節の無い僕は、怯える彼女に、自室に戻って鍵をかけておくように言いつけて、玄関へと向かった。
38:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 23:01:20.41 :F8K8mWpgO
駆け足で玄関に着き、お待たせした。そう言うと、客人らしい長身の初老の男性は、突然の来訪の無礼を許して欲しい。そう言って、一つ礼をした。
この男は、確か昨日のあの屋敷にいた男か……僕はそう思いながら、食堂へと彼を案内した。
世間話をしながら並んで歩く。武器は持っていないようだ。それに少し安堵しながら、それでも僕は警戒を緩めなかった。
食堂に着き、お互いに席に腰掛ける。
さて、本題を聞こうか。僕からそう切り出した。
そうさせていただく。昨日のことなのだが、君は昨日、あれを殺す時に何かしただろう。私は、そのことについて知りたくてね。
駆け足で玄関に着き、お待たせした。そう言うと、客人らしい長身の初老の男性は、突然の来訪の無礼を許して欲しい。そう言って、一つ礼をした。
この男は、確か昨日のあの屋敷にいた男か……僕はそう思いながら、食堂へと彼を案内した。
世間話をしながら並んで歩く。武器は持っていないようだ。それに少し安堵しながら、それでも僕は警戒を緩めなかった。
食堂に着き、お互いに席に腰掛ける。
さて、本題を聞こうか。僕からそう切り出した。
そうさせていただく。昨日のことなのだが、君は昨日、あれを殺す時に何かしただろう。私は、そのことについて知りたくてね。
39:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 23:02:42.12 :F8K8mWpgO
なんのことだ?僕はそうとぼける。ただ、内心は焦っていた。
屋敷まで来るということは、かなり自信があるということだからだ。僕が何か隠しているという自信が。
そうだな。まずは、殺す前に何か話していただろう。なんと言っていたか。たしか……約束がどうとか。
相手が話しかけてきただけだ。恐怖のあまり、気が狂っていたのだろうな。
僕の焦りは一層大きくなる。まずは、こいつはそう言った。どこまで聞かれた?それとも……すべて知られている?
嘘は良い。君がそれに首を振って返事をした瞬間、奴らは安堵を浮かべた。これは、意志疎通が成立していた、そういうことだろう?
なんのことだ?僕はそうとぼける。ただ、内心は焦っていた。
屋敷まで来るということは、かなり自信があるということだからだ。僕が何か隠しているという自信が。
そうだな。まずは、殺す前に何か話していただろう。なんと言っていたか。たしか……約束がどうとか。
相手が話しかけてきただけだ。恐怖のあまり、気が狂っていたのだろうな。
僕の焦りは一層大きくなる。まずは、こいつはそう言った。どこまで聞かれた?それとも……すべて知られている?
嘘は良い。君がそれに首を振って返事をした瞬間、奴らは安堵を浮かべた。これは、意志疎通が成立していた、そういうことだろう?
41:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 23:04:40.01 :F8K8mWpgO
こいつは、全てを聞いていたようだ。僕は必死に嘘を吐く。
……わかった。ありのままお伝えしよう。実は、僕は、彼らとは繋がりがあったのだ。
僕がそう言うと、彼は、ほぉ。と一言言った。
あなたも貴族ならわかるだろう?僕は彼らの国と貿易をしていた。その国とは長い付き合いでね。彼らの王とは面識があったのだ。
僕はここで言葉を切る。
そう、お察しの通り、あの二人はその国の王と女王だ。約束とは、彼らの国との貿易を取りやめないこと。僕の技術定期で、彼らの国は莫大な利益を得ているからね。
僕の言葉に、相手は微動だにしない。まだ疑っているのだろう。
こいつは、全てを聞いていたようだ。僕は必死に嘘を吐く。
……わかった。ありのままお伝えしよう。実は、僕は、彼らとは繋がりがあったのだ。
僕がそう言うと、彼は、ほぉ。と一言言った。
あなたも貴族ならわかるだろう?僕は彼らの国と貿易をしていた。その国とは長い付き合いでね。彼らの王とは面識があったのだ。
僕はここで言葉を切る。
そう、お察しの通り、あの二人はその国の王と女王だ。約束とは、彼らの国との貿易を取りやめないこと。僕の技術定期で、彼らの国は莫大な利益を得ているからね。
僕の言葉に、相手は微動だにしない。まだ疑っているのだろう。
42:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 23:06:34.79 :F8K8mWpgO
……そうか。わかった。それはそういうことにしておこう。
では、彼らを殺すときに、何故呪文を使ったのだ?使わなくても、殺せていただろう。
僕は咄嗟に言葉が出てこず、沈黙する。
しかもあれは、物質を消滅させる呪文だ。どういうことだ?畳みかけるように彼が言葉を繋ぐ。
あれは、何かの命を奪う時の癖のような物だ。
そもそも、触媒だって無かっただろう?そんな状態で、錬金術が発動するわけが無い。あなたもご存知だと思うが?
僕は必死に言い訳を捻り出す。
……そうか。わかった。それはそういうことにしておこう。
では、彼らを殺すときに、何故呪文を使ったのだ?使わなくても、殺せていただろう。
僕は咄嗟に言葉が出てこず、沈黙する。
しかもあれは、物質を消滅させる呪文だ。どういうことだ?畳みかけるように彼が言葉を繋ぐ。
あれは、何かの命を奪う時の癖のような物だ。
そもそも、触媒だって無かっただろう?そんな状態で、錬金術が発動するわけが無い。あなたもご存知だと思うが?
僕は必死に言い訳を捻り出す。
45:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 23:10:20.99 :F8K8mWpgO
……優れた錬金術の使い手は、触媒など無くても、ある程度の発動は出来る。そんな話を聞いたことはないか?
……無いな。そんな物は伝説だろう。
彼はまだ僕を疑っている。
しばらく、沈黙が続いた。
……わかった。私の勘違いだったようだ。非礼を詫びる。彼はそう言って立ち上がった。
僕も立ち上がり、彼を玄関まで案内する。その間、言葉が交わされることはなかった。
そうして、彼は帰り際、玄関を出て数歩のところで立ち止まり、僕の方を見ることなく、こう言ってきた。
エルフの国で起きたクーデターをご存知か?そこでの噂なのだが……なんでも、姫が見つからないそうな。
……そうか。奇怪なこともあったものだ。僕がそう答えると、彼は何も言わずに帰って行った。
……僕は、とんでもない男に目を付けられたのかもしれない。背中を走る悪寒に、微かに身を震わせた。
……優れた錬金術の使い手は、触媒など無くても、ある程度の発動は出来る。そんな話を聞いたことはないか?
……無いな。そんな物は伝説だろう。
彼はまだ僕を疑っている。
しばらく、沈黙が続いた。
……わかった。私の勘違いだったようだ。非礼を詫びる。彼はそう言って立ち上がった。
僕も立ち上がり、彼を玄関まで案内する。その間、言葉が交わされることはなかった。
そうして、彼は帰り際、玄関を出て数歩のところで立ち止まり、僕の方を見ることなく、こう言ってきた。
エルフの国で起きたクーデターをご存知か?そこでの噂なのだが……なんでも、姫が見つからないそうな。
……そうか。奇怪なこともあったものだ。僕がそう答えると、彼は何も言わずに帰って行った。
……僕は、とんでもない男に目を付けられたのかもしれない。背中を走る悪寒に、微かに身を震わせた。
49:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 23:21:47.52 :F8K8mWpgO
自室の前に立ち、扉をノックする。しかし、返事は返ってこなかった。
おい、どうした?そう叫ぶが、反応が無い。
マスターキーで部屋を開ける。そのまま部屋に入ると、彼女はベッドの上でうずくまって寝ているようだ。
近付くと、彼女は泣きながら寝ていた。
「お母様……お父様……」
彼女がそんな寝言を言った。
もういない。俺が殺した。この手で。僕は心の中でこう呟く。
そうして、彼女を守るという約束を、どうすれば果たせるのか。それをずっと考えていた。
自室の前に立ち、扉をノックする。しかし、返事は返ってこなかった。
おい、どうした?そう叫ぶが、反応が無い。
マスターキーで部屋を開ける。そのまま部屋に入ると、彼女はベッドの上でうずくまって寝ているようだ。
近付くと、彼女は泣きながら寝ていた。
「お母様……お父様……」
彼女がそんな寝言を言った。
もういない。俺が殺した。この手で。僕は心の中でこう呟く。
そうして、彼女を守るという約束を、どうすれば果たせるのか。それをずっと考えていた。
50:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 23:28:25.68 :btHJE0/n0
④
51:>>49 ×俺→僕:2012/10/13(土) 23:30:16.99 :F8K8mWpgO
翌朝、彼女を買って二十二日目の朝。
今日も、誰からも起こされることなく、目を覚ました。
彼女はもう本を読んでいるのだろうか、そんなことを考える。
起きて食堂に行き、遅めの朝食を取る。どうやら、昨日のように、昼飯となることは避けることができたようだ。
蔵書室には、やはり彼女がいて、一心不乱に本を読んでいた。
僕も椅子を彼女の隣に用意し、読書に没頭した。
夕方になり、夕飯を食べに食堂へ行く。
いつものように向き合う位置で座り、彼女の顔を見ると、不安げな表情をしていた。
翌朝、彼女を買って二十二日目の朝。
今日も、誰からも起こされることなく、目を覚ました。
彼女はもう本を読んでいるのだろうか、そんなことを考える。
起きて食堂に行き、遅めの朝食を取る。どうやら、昨日のように、昼飯となることは避けることができたようだ。
蔵書室には、やはり彼女がいて、一心不乱に本を読んでいた。
僕も椅子を彼女の隣に用意し、読書に没頭した。
夕方になり、夕飯を食べに食堂へ行く。
いつものように向き合う位置で座り、彼女の顔を見ると、不安げな表情をしていた。
52:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 23:37:44.89 :F8K8mWpgO
どうしたんだ?そう聞く。
「妾は怖いのだ……お母様やお父様が無事かどうか、心配で心配でたまらないのだ」
彼女は、声を震わせてそう言った。
「もし人間に捕まえられたりしたら、あんな酷いことをされるのだろう?そんな想像をするとな、涙が止まらないのだ」
大丈夫だ。僕が知る限り、エルフの王が捕まった、なんて話は聞いたことが無い。だから、安心しろ。僕はまた嘘を吐く。
「そうだな……お前が言うなら、そうなのだろうな……ふふ、不思議だな。お前がそう言うだけで、不安など吹き飛んでしまった」
彼女は笑いながら言う。僕は曖昧に笑いながら、夕食を食べ始めた。
どうしたんだ?そう聞く。
「妾は怖いのだ……お母様やお父様が無事かどうか、心配で心配でたまらないのだ」
彼女は、声を震わせてそう言った。
「もし人間に捕まえられたりしたら、あんな酷いことをされるのだろう?そんな想像をするとな、涙が止まらないのだ」
大丈夫だ。僕が知る限り、エルフの王が捕まった、なんて話は聞いたことが無い。だから、安心しろ。僕はまた嘘を吐く。
「そうだな……お前が言うなら、そうなのだろうな……ふふ、不思議だな。お前がそう言うだけで、不安など吹き飛んでしまった」
彼女は笑いながら言う。僕は曖昧に笑いながら、夕食を食べ始めた。
53:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 23:48:05.58 :F8K8mWpgO
夕食を食べ、また読書した後、僕達は自室へと戻った。
ベッドに二人で横たわり、おやすみと言い合う。
僕は彼女に背を向けて、目を瞑った。
多分、あの上級貴族の男は、近いうちに、この屋敷にまた来るだろう。次は、武力を持って、僕の嘘を暴こうとする筈だ。
僕は、彼女を守らなければならない。僕に出来ることは何なのだろう。
そんなことを考えていると、不意に背中に体温を感じた。
「今日はこうしていたいのだ……いいか?」
僕は頷く。彼女は、僕の背にぴたりと寄り添っていた。
僕は、僕は……まとまらない思考のまま、眠りに落ちていった。
夕食を食べ、また読書した後、僕達は自室へと戻った。
ベッドに二人で横たわり、おやすみと言い合う。
僕は彼女に背を向けて、目を瞑った。
多分、あの上級貴族の男は、近いうちに、この屋敷にまた来るだろう。次は、武力を持って、僕の嘘を暴こうとする筈だ。
僕は、彼女を守らなければならない。僕に出来ることは何なのだろう。
そんなことを考えていると、不意に背中に体温を感じた。
「今日はこうしていたいのだ……いいか?」
僕は頷く。彼女は、僕の背にぴたりと寄り添っていた。
僕は、僕は……まとまらない思考のまま、眠りに落ちていった。
55:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/13(土) 23:56:02.47 :F8K8mWpgO
二十三日目の朝。
「起きろ。朝だぞ」
彼女の声で目を覚ます。朝から彼女の声を聞くのが、酷く懐かしい気がした。
「何だ?変な顔をして」
いや、お前に朝から起こされたのは、久しぶりだと思って。そう言うと、彼女は何故か顔を赤くした。
いそいそと服を着だした彼女を見て、僕は少し笑った。
その日も、昨日と同じように過ぎていった。
夜、彼女が僕の背中に寄り添うと、思考が定まらなくなるところまで、同じだった。
二十三日目の朝。
「起きろ。朝だぞ」
彼女の声で目を覚ます。朝から彼女の声を聞くのが、酷く懐かしい気がした。
「何だ?変な顔をして」
いや、お前に朝から起こされたのは、久しぶりだと思って。そう言うと、彼女は何故か顔を赤くした。
いそいそと服を着だした彼女を見て、僕は少し笑った。
その日も、昨日と同じように過ぎていった。
夜、彼女が僕の背中に寄り添うと、思考が定まらなくなるところまで、同じだった。
56:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 00:04:02.79 :rgTuZ4JDO
二十四日目。
彼女に朝から起こされ、朝食を食終わると、使用人に呼ばれた。
彼女もそれに気付くと、そそくさと食堂を出て、蔵書室へと向かった。
この前の男から、手紙が来ました。そう言って手紙を渡される。
そこには、僕にはエルフの要人誘拐の疑いがかけられている、との旨が書いてあった。
明日、家を捜索させてもらうとも。
僕が彼女を守るためには、どうすればいいのだろうか。
嘘だらけの僕に、約束を果たすことは出来るのだろうか。
二十四日目。
彼女に朝から起こされ、朝食を食終わると、使用人に呼ばれた。
彼女もそれに気付くと、そそくさと食堂を出て、蔵書室へと向かった。
この前の男から、手紙が来ました。そう言って手紙を渡される。
そこには、僕にはエルフの要人誘拐の疑いがかけられている、との旨が書いてあった。
明日、家を捜索させてもらうとも。
僕が彼女を守るためには、どうすればいいのだろうか。
嘘だらけの僕に、約束を果たすことは出来るのだろうか。
57:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 00:11:14.87 :rgTuZ4JDO
その日の夜。僕は、彼女に、明日人が捜索に来ることを伝えた。
彼女は、捕らえられることを想像したのか、一瞬表情を固めた後、微笑して僕にこう言った。
「妾はお前を信じている。妾は何をすればいい?」
時間が来るまで実験室に隠れていてくれ。そう言うと、
「わかった」
とだけ返事をした。
僕も信頼された物だ。
どんどん自分が薄汚れていくのを自覚しながら、僕は眠りについた。
その日の夜。僕は、彼女に、明日人が捜索に来ることを伝えた。
彼女は、捕らえられることを想像したのか、一瞬表情を固めた後、微笑して僕にこう言った。
「妾はお前を信じている。妾は何をすればいい?」
時間が来るまで実験室に隠れていてくれ。そう言うと、
「わかった」
とだけ返事をした。
僕も信頼された物だ。
どんどん自分が薄汚れていくのを自覚しながら、僕は眠りについた。
58:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 00:16:15.79 :rgTuZ4JDO
二十五日目。
彼女に起こされ、目を覚ます。朝食を食べ、実験室へと向かった。
彼女を実験室に入れ、鍵の閉まる音を聞いてから、玄関へと向かった。
扉が閉まる時、僕に笑いかけた彼女の顔が、脳裏から焼き付いて離れなかった。
玄関で『敵』が来るのを待っている中で、僕はこれまでのことを思い返していた。
二十五日目。
彼女に起こされ、目を覚ます。朝食を食べ、実験室へと向かった。
彼女を実験室に入れ、鍵の閉まる音を聞いてから、玄関へと向かった。
扉が閉まる時、僕に笑いかけた彼女の顔が、脳裏から焼き付いて離れなかった。
玄関で『敵』が来るのを待っている中で、僕はこれまでのことを思い返していた。
59:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 00:25:33.22 :rgTuZ4JDO
僕の両親は、どちらも錬金術の天才だった。どんどん新たな技術を発見し、富も名声も欲しいままにした。
二人とも誠実で、何より優しかった。他種族への偏見も無かった。だから、貴族達を嫌っていた。
当然、貴族は彼らを煙たがっていた。だから、僕を誘拐し、その解放を条件に、彼らは貴族になった。
あの悪趣味な見せ物を記録したのは、きっと貴族に対するささやかな抵抗だったのだろう。貴族という物の醜さを、彼らは誰かに伝えようとしたのだ。
僕は彼らが貴族になるのを条件に解放されたが、誘拐されている中で、心に傷を負った。
僕の両親は、どちらも錬金術の天才だった。どんどん新たな技術を発見し、富も名声も欲しいままにした。
二人とも誠実で、何より優しかった。他種族への偏見も無かった。だから、貴族達を嫌っていた。
当然、貴族は彼らを煙たがっていた。だから、僕を誘拐し、その解放を条件に、彼らは貴族になった。
あの悪趣味な見せ物を記録したのは、きっと貴族に対するささやかな抵抗だったのだろう。貴族という物の醜さを、彼らは誰かに伝えようとしたのだ。
僕は彼らが貴族になるのを条件に解放されたが、誘拐されている中で、心に傷を負った。
62:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 00:34:26.95 :rgTuZ4JDO
僕を誘拐した貴族達は、幼かった僕にありとあらゆる醜悪な物を見続けさせた。
他種族を生きたまま解剖したり、殺しあいをさせた。ホビットやゴブリンが悲鳴をあげるたびに、貴族達は笑い声をあげた。
解放された時、僕は人に対して幻滅していた。人は醜悪な物で、僕も醜悪な存在で、この世界は汚れている。そう感じていた。
それから、僕は美しい物に異常な執着を見せるようになった。
そうしなければ、生きる気力なんてわかなかっただろう。
僕を誘拐した貴族達は、幼かった僕にありとあらゆる醜悪な物を見続けさせた。
他種族を生きたまま解剖したり、殺しあいをさせた。ホビットやゴブリンが悲鳴をあげるたびに、貴族達は笑い声をあげた。
解放された時、僕は人に対して幻滅していた。人は醜悪な物で、僕も醜悪な存在で、この世界は汚れている。そう感じていた。
それから、僕は美しい物に異常な執着を見せるようになった。
そうしなければ、生きる気力なんてわかなかっただろう。
64:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 00:48:11.63 :rgTuZ4JDO
そんな中、両親が貿易のために連れて行ってくれたエルフの国は、僕にとってはたまらない物だった。
美しい彼らは、僕の憧れだった。
それから何年か経ち、僕が成人して少し経った頃、両親は死んだ。錬金術の実験中の事故死だった。
彼らの錬金術の能力は、もはやその最終目標の達成、万能の力を手に入れる間際にまで達していた。
その最後の実験の前。父は、これが最後になるだろうから、僕に手紙を渡すようにと、使用人に言いつけていた。
使用人から受け取った手紙には、これを見たら実験室に来るように、そこにあるものが、私達からの贈り物だ。そう書いてあった。
父と母の実験室に向かった僕がみたのは、黒い石だった。
そんな中、両親が貿易のために連れて行ってくれたエルフの国は、僕にとってはたまらない物だった。
美しい彼らは、僕の憧れだった。
それから何年か経ち、僕が成人して少し経った頃、両親は死んだ。錬金術の実験中の事故死だった。
彼らの錬金術の能力は、もはやその最終目標の達成、万能の力を手に入れる間際にまで達していた。
その最後の実験の前。父は、これが最後になるだろうから、僕に手紙を渡すようにと、使用人に言いつけていた。
使用人から受け取った手紙には、これを見たら実験室に来るように、そこにあるものが、私達からの贈り物だ。そう書いてあった。
父と母の実験室に向かった僕がみたのは、黒い石だった。
66:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 00:59:09.17 :rgTuZ4JDO
僕がその石を握った瞬間、僕の頭の中に二人の一生の記憶が流れ込んできた。
そうして、悟った。これが、錬金術の最終地点なのだと。
ただ、その石を使ったことは一度もないし、これからも使うつもりはない。
彼らが死んだので、僕がこの屋敷の当主になった。僕は貴族になった。
両親の記憶を使えば、錬金術の発見には事欠かなかった。そうして、僕は上級貴族という階級を、両親から受け継いだ。
エルフの国との貿易も、上手くいっていた。
ただ、貴族として過ごすうちに、僕の心は更に冷えてしまったが。
そんな日々が続いて、エルフの国の王と女王から、頼みごとをされた。
僕がその石を握った瞬間、僕の頭の中に二人の一生の記憶が流れ込んできた。
そうして、悟った。これが、錬金術の最終地点なのだと。
ただ、その石を使ったことは一度もないし、これからも使うつもりはない。
彼らが死んだので、僕がこの屋敷の当主になった。僕は貴族になった。
両親の記憶を使えば、錬金術の発見には事欠かなかった。そうして、僕は上級貴族という階級を、両親から受け継いだ。
エルフの国との貿易も、上手くいっていた。
ただ、貴族として過ごすうちに、僕の心は更に冷えてしまったが。
そんな日々が続いて、エルフの国の王と女王から、頼みごとをされた。
68:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 01:07:51.52 :rgTuZ4JDO
最近、クーデターが画策されているような動きがある。人間側が糸を引いているようで、私達は殺される可能性が高い。
そこで、頼みがある。どうか我が子を守ってはくれないだろうか。
それは、そんな頼みだった。
両親の記憶によれば、この国の王と女王とは、仲がよかったらしい。
そうして、両親は、貴族になる前も後も、この二人から援助を受けていたからこそ、生活出来ていたようだ。
僕が彼女に暴行するとは、考えないのか?そう尋ねる。
君は美しい物にしか興味がないのだろう?ならば、我が子にそのようなことはしないはずだ。全てを見透かした様な目をしながら、王はそう言った。
それに、あの二人の子供が、そのようなことをするわけ無いもの。女王は微笑みながらそう言った。
最近、クーデターが画策されているような動きがある。人間側が糸を引いているようで、私達は殺される可能性が高い。
そこで、頼みがある。どうか我が子を守ってはくれないだろうか。
それは、そんな頼みだった。
両親の記憶によれば、この国の王と女王とは、仲がよかったらしい。
そうして、両親は、貴族になる前も後も、この二人から援助を受けていたからこそ、生活出来ていたようだ。
僕が彼女に暴行するとは、考えないのか?そう尋ねる。
君は美しい物にしか興味がないのだろう?ならば、我が子にそのようなことはしないはずだ。全てを見透かした様な目をしながら、王はそう言った。
それに、あの二人の子供が、そのようなことをするわけ無いもの。女王は微笑みながらそう言った。
69:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 01:21:04.24 :rgTuZ4JDO
一体、エルフの二人に、人間の何がわかるのだろう。その時、僕はそう思っていた。
僕の苦しみも知らないくせにと、憤りすら覚えた。
だが、初めて彼女を見た瞬間、僕はその美しさに全てを忘れた。僕の凍った心が、溶けていくような気がした。
この美を守るためなら、何でもしよう。僕はそう誓った。
王と女王は、気付かれないように彼女を国外に出すように要求してきた。
散歩中の彼女を、腕利きの人間にさらわせ、予め決められていた通りに謝礼を払い、僕は彼女を手に入れた。
一体、エルフの二人に、人間の何がわかるのだろう。その時、僕はそう思っていた。
僕の苦しみも知らないくせにと、憤りすら覚えた。
だが、初めて彼女を見た瞬間、僕はその美しさに全てを忘れた。僕の凍った心が、溶けていくような気がした。
この美を守るためなら、何でもしよう。僕はそう誓った。
王と女王は、気付かれないように彼女を国外に出すように要求してきた。
散歩中の彼女を、腕利きの人間にさらわせ、予め決められていた通りに謝礼を払い、僕は彼女を手に入れた。
71:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 01:27:19.00 :rgTuZ4JDO
僕は、最高の芸術品を手に入れた。そう思っていた。
だからこそ、僕は彼女を汚すことは出来なかった。
そうして、徐々に彼女に情が移っていくのも感じていた。
彼女の両親は、きっとそれを見抜いていたのだろう。
今更になって、あの時の言葉がよくわかった。
玄関がノックされる。来たようだ。僕は玄関を開ける。
ようこそ、我が屋敷へ。僕は、そう言って微笑むと、そいつらは屋敷へと入ってきた。
僕は、最高の芸術品を手に入れた。そう思っていた。
だからこそ、僕は彼女を汚すことは出来なかった。
そうして、徐々に彼女に情が移っていくのも感じていた。
彼女の両親は、きっとそれを見抜いていたのだろう。
今更になって、あの時の言葉がよくわかった。
玄関がノックされる。来たようだ。僕は玄関を開ける。
ようこそ、我が屋敷へ。僕は、そう言って微笑むと、そいつらは屋敷へと入ってきた。
72:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 01:36:26.10 :rgTuZ4JDO
この前の初老の男を入れて、十人の男達がいた。
それでは、捜索させてもらうが、構わないな?初老の男がそう言うと、他の九人は屋敷の中に散らばっていった。
返事も待たずに人の屋敷に勝手に侵入するとは、あなたの部下は随分良い躾がされている。僕がそう言うと、男は僕を睨みつけながら、化けの皮を剥いでやる。そう言った。
僕は何もしていないのに、何故こうも疑われるのか…残念だ。僕はそう言って、男を見た。僕を睨むその瞳には、僕ではなく、別の誰かが映っているような気がした。
この前の初老の男を入れて、十人の男達がいた。
それでは、捜索させてもらうが、構わないな?初老の男がそう言うと、他の九人は屋敷の中に散らばっていった。
返事も待たずに人の屋敷に勝手に侵入するとは、あなたの部下は随分良い躾がされている。僕がそう言うと、男は僕を睨みつけながら、化けの皮を剥いでやる。そう言った。
僕は何もしていないのに、何故こうも疑われるのか…残念だ。僕はそう言って、男を見た。僕を睨むその瞳には、僕ではなく、別の誰かが映っているような気がした。
74:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 01:50:39.86 :rgTuZ4JDO
結局、何も発見が無いまま、夕方になった。
もう疑いは晴れましたか?僕がそう言うと、男は僕を睨んだ後、九人の部下達に帰るぞと言って、帰って行った。
彼らが屋敷から離れていったところを確認して、僕は地下へと降りる隠し階段を降りていった。
実験室をマスターキーで開け、中に入る。
彼女は僕を見ると、僕の方に走ってきて抱きついた。
「良かった…本当に良かった…」
そう言いながら僕の胸に顔を埋める彼女を、僕は優しく抱き返した。
罪悪感と、これからの現実から目を背けながら。
結局、何も発見が無いまま、夕方になった。
もう疑いは晴れましたか?僕がそう言うと、男は僕を睨んだ後、九人の部下達に帰るぞと言って、帰って行った。
彼らが屋敷から離れていったところを確認して、僕は地下へと降りる隠し階段を降りていった。
実験室をマスターキーで開け、中に入る。
彼女は僕を見ると、僕の方に走ってきて抱きついた。
「良かった…本当に良かった…」
そう言いながら僕の胸に顔を埋める彼女を、僕は優しく抱き返した。
罪悪感と、これからの現実から目を背けながら。
75:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 01:58:46.50 :rgTuZ4JDO
その夜。ベッドに二人で腰掛けて、話をする。
「それにしても、どうやって見つからないようにしたのだ?」
彼女は首を傾げながらそう聞いてきた。地下の階段への扉は、普通に見ても床と区別のつかない仕掛けになっているからな。そう簡単に見つかりはしないさ。
「確かに妾も全く気付かなかったからなぁ…」
彼女はそう言った後、
「これから、どうなるのだろうな」
ぽつりとこう零した。
その夜。ベッドに二人で腰掛けて、話をする。
「それにしても、どうやって見つからないようにしたのだ?」
彼女は首を傾げながらそう聞いてきた。地下の階段への扉は、普通に見ても床と区別のつかない仕掛けになっているからな。そう簡単に見つかりはしないさ。
「確かに妾も全く気付かなかったからなぁ…」
彼女はそう言った後、
「これから、どうなるのだろうな」
ぽつりとこう零した。
76:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/10/14(日) 02:08:33.67 :rgTuZ4JDO
「妾は、ずっと隠れておいた方がいいのだろうか?」
そんな必要は無い。気付けば、僕はそう言っていた。
「だが、妾がそうしておいた方が、お前は」
お前は芸術品として買ったんだ。なのに、それを見えないところに置いとくなんて、馬鹿のすることだ。僕は、照れを隠すように、こう言う。
「そうだな。なら、お前は妾を守るのだから、心配なんていらないな」
満面の笑みでこういう彼女。あぁ。……もう遅い。寝よう。それだけ言って、ベッドに潜った。
今日も彼女は僕にくっついてきて、その体温に僕は安心した。守らなければではなく、守りたいと、そう思っている自分を自覚した。
「妾は、ずっと隠れておいた方がいいのだろうか?」
そんな必要は無い。気付けば、僕はそう言っていた。
「だが、妾がそうしておいた方が、お前は」
お前は芸術品として買ったんだ。なのに、それを見えないところに置いとくなんて、馬鹿のすることだ。僕は、照れを隠すように、こう言う。
「そうだな。なら、お前は妾を守るのだから、心配なんていらないな」
満面の笑みでこういう彼女。あぁ。……もう遅い。寝よう。それだけ言って、ベッドに潜った。
今日も彼女は僕にくっついてきて、その体温に僕は安心した。守らなければではなく、守りたいと、そう思っている自分を自覚した。






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