若手商人「はい──はい──ではそないな方向で……ええ、ほなすんまへんけど、お願いしときますー」ﾋﾟｯ

若手商人「おっしゃー！　デカイの引っ張れそうやでー！　やっぱMSの販売はオイシイ商売やわ……ん？」

若手商人「なんやーじっちゃんえっらい久しぶりやん！　元気しとった？」

行商人「おお、若手の。ご無沙汰じゃったな」

若手商人「ホンマやでぇ。どないよ商売の調子は」

行商人「ふぉふぉ、さっぱり売れんわい。こりゃいよいよ引き際かのう」

若手商人「えー！　MS売りなんてオイシイ商売しとんのに儲かってないんか？　難儀やなあじっちゃん……」

行商人「お前さんはえらく羽振りがよさそうじゃが……」

若手商人「そらもうウッハウハでっせ！　今もイノベイダー㈱さんからMS１０００機の取引引っ張ってたトコや」

行商人「せっ１０００機も……！？」ﾌｶﾞｯ

若手商人「あんまり言いたくないけど……やっぱじっちゃんのやり方は古いんやろなぁ」

行商人「ふ、古い……のかのぅ」

若手商人「まずじっちゃんのあつこうとる商品見てみいや」

行商人「えーと、ガンキャノン、ゲルググ、アッガイ、ズゴック、ハンブラビ、メッサーラ……あ、ズゴックは錆とるから無しじゃ」

若手商人「かーーーっ！　アカンアカン！　そないな古臭いMS、今時のニーズに合わんわ！」

行商人「アカンかのう……」

若手商人「もー需要がニッチもニッチ、そないなもんあつこうとるからニッチもサッチもいかんようになるねん」

行商人「そ、そうなのか……」

若手商人「それにいっぺんにそんな種類とりあつこうても今時あかんわ。ワイやじっちゃんみたいな個人販売はええもんを集中してあつかわな」

行商人「なるほど……つまり人気のある高いMSを沢山取り扱うというわけじゃな」

若手商人「そうそう！　じっちゃんなら昔なじみのツテとかからちょっとくらいなら仕入れられるんちゃう？」

行商人「ふむ……ではさっそく」

若手商人「──ジオングとかZガンダムとか言いなや」

行商人「えっ、だ、駄目なのかの」

若手商人「はぁ……ゆーたやんかさっきぃ……そないな古臭いMSは今時需要が少ないて」

行商人「しかし昔からワシらの間じゃあZガンダムは子供から大人に大人気と……」

若手商人「何時の話しとんねん何時の。歴史の教科書に書いとるような事やで。そんなもんワイでも買い取らんわ」

行商人「そうなのか……」

若手商人「ええか……今時の売れ筋から……じっちゃんでも仕入れられそうなもんやから前シーズンの型落ちが無難か……そっからMSランクとラインナップを──えっと、この辺がええんちゃうか」

行商人「……なんじゃこりゃ」

若手商人「じっちゃんこのあたりのMSすら知らんかったんか……リサーチ怠るどころやないでそりゃ」

行商人「こんなもん本当に売れるのか？　なんか見た目がえらくギラギラして装甲も頼りなさそうじゃのう」

若手商人「ええからええから、騙されたと思って仕入れてみぃって」


数日後

行商人「え～モビルスーツ～モビルスーツ～いら～んかね～」

行商人「今ならこの～……えーっと」


行商人「ガンダムエクシアがーお買い得ー」

行商人「え～MS～エクシア～いらんかねー」

セッチャン「おいじじい」

行商人「ふがっ！？　い、いらっしゃいませ」

セッチャン「それってガンダムエクシアか？」

行商人「そ、そうじゃが……」

セッチャン「一個くれ」

行商人「ほ、本当か！？」

セッチャン「うん」

行商人「あ、ありがたい！　ありがたいのう！　お客様は神様、今のワシにとっては仏様じゃ！」

セッチャン「俺はガンダムだ」

行商人「売れた……売れたぞい……」うるうる

若手商人「な？　うまいこといったやろ」

行商人「おお若手の！　久しぶりにMSが売れたぞい！」

若手商人「へっへーまだまだこれからやでぇ。次はそうやなぁ……この辺をちょっと大目に仕入れてみよか」

行商人「う……また妙な機体じゃが……だ、大丈夫かの……」

若手商人「だーいじょうぶやて！　ワイが保障したる！」


数日後

行商人「え～モビルスーツ～モビルスーツ～いら～んかね～」

行商人「今ならこの～……えーっと」


行商人「デュエルガンダムがーお買い得ー」

行商人「え～MS～デュエル～いらんかねー」

行商人「今なら～ASアタッチメント～同時購入で、１０パーセント割引……」

おかっぱ「おいそこの雑種」

行商人「ふがっ！？　い、いらっしゃいませ」

おかっぱ「貴様……この我の許しも得ずに商売とは、我の足元を汚す下賤か？」

行商人「ひ、ひぃ、とんでもございません」

おかっぱ「まあいい、どうせ暇を持て余していたところだ。目録を見せよ。我の目にかなうものを商っていれば、見逃してやらんでもない」

行商人「へ、へぇ……」

おかっぱ「ほう……モビルスーツ……それもデュエルガンダムか……」

行商人（こ、この客なんか怖いのう……失禁しそうじゃわい）

おかっぱ「AS付属で割引……ふむ、枯れた年寄りにしては面白い趣向をしている。気に入った、全機体を買おうぞ」

行商人「ほ、本当でございますか！？」

おかっぱ「興が乗った。感謝せよ」

行商人「あ、ありがたい！　ありがたいのう！　お客様は神様、今のワシにとっては仏様じゃ！」

おかっぱ「はっはっは！　次はゴッドガンダムも用意しておけよ！」

行商人「売れた……売れたぞい……」うるうる

若手商人「な？　うまいこといったやろ」

行商人「おお若手の！　またMSが売れたぞい！」

若手商人「そらもうバッチシや！　次の予約まで取り付けたやんか！」

行商人「ゴッドガンダム……仕入れられるかのう」

若手商人「もうじっちゃんその感覚古いて！　今はGガンもやすなってるんやから！」

行商人「そ、そうか！」ﾌｶﾞﾌｶﾞ

若手商人「よっしゃ！　この辺でもうちょいデカいの狙ってみよか！　次はこれや！」

行商人「……また不安がよぎるのう」


数日後

行商人「え～モビルスーツ～モビルスーツ～いら～んかね～」

行商人「今ならこの～……えーっと」


行商人「フリーダムガンダムがーお買い得ー」

行商人「え～MS～フリーダム～いらんかねー」

メガネ君「あの……すいません」

行商人「ふがっ！？　い、いらっしゃいませ」

メガネ君「MSの販売ですか？」

行商人「そ、そうですが……」

メガネ君「フリーダム……フリーダム……これさえあれば……」

行商人（なにやら気弱そうな客じゃのう……）

メガネ君「──一つください」

行商人「ほ、本当か！？」

メガネ君「うん」

行商人「あ、ありがたい！　ありがたいのう！　お客様は神様、今のワシにとっては仏様じゃ！」

メガネ君「これさえあれば……」

声「ふふふ、甘いね……メガネ君」

メガネ君「な、なに……この声は……」

ｶﾞｻｯ

少年「愛と正義のコーディネーター、貴公子推参！」

メガネ君「お……お前！　今日と言う今日は、フィアンセを返してもらう！」ｶﾞｼｭﾝ

少年「へえ……いきなり買ったばかりのフリーダムは、いくらなんでも早すぎると思うけど」

メガネ君「生意気言うんじゃないよ！　うおおおおおおお！！」

行商人「ふ、ふがっ！？　生身の人間にMSじゃと！？」

少年「ふふ……」ﾊﾟﾁﾝ

ﾊﾞﾋﾞｭｰﾝ

メガネ君「う、うわっ！」ﾄﾞｶﾞｱｱｱﾝ

メガネ君「あ、あ……俺の、MSが……」

少年「ありがとう歌姫……」

歌姫「貴方の新しい機体ですわ」

メガネ君「そ、それはストライクフリーダムガンダム……」

少年「さあ、帰ろう」

メガネ君「ま、待てよ！」

少年「ﾁｯ」ｶﾞｼｯ　

メガネ君「ぐ、ううううう！」ｷﾞﾘｷﾞﾘｷﾞﾘ

少年「や　め　て　よ　ね」

メガネ君「う……うぐ……」ｸﾞｽｯ

行商人「い、いったいなにがどうなっとるんじゃ……」

メガネ君「あの……じいさん」

行商人「は、はい何か」

メガネ君「買ったばっかりですけど……修理お願いできますか」

行商人「う、承ります……」

行商人「商品は売れたんじゃが、なんか釈然とせんのう……」

若手商人「ええやんええやん。お客様の事情には首つっこんだらあかんて。修理の依頼も入ったんやし、順調やん」

行商人「う、うむ……」

若手商人「さて、ほな次は」♪ｲﾏﾜｲｲﾉｻｽﾍﾞﾃｦﾜｽﾚﾃ～

若手商人「っと、電話や、もしもし──」

行商人（い、今の曲は……）ﾌｶﾞﾌｶﾞ

若手商人「ええ、ええ──はい、わかりました、ほな後で、お願いしますー」ﾋﾟｯ

若手商人「すまんなじっちゃん。ワイ出張せなあかんわ」

行商人「そ、そうか……またさびしくなるのう」

若手商人「次おーた時もまたレクチャーしたるさかいな！」

行商人「いや、さすがに悪いわい」

若手商人「えーねんて！　じっちゃん昔気質やけど商人の魂は本物やからな、ワイも気になんねん。世話させてーな！」

行商人「若手の……」

若手商人「ほなな！」

行商人「ああ、元気でのう」

行商人「若い世代がああやってMS売りを生業にがんばっとる……」

行商人「──ワシもまだまだ、負けられんかの！」


こうしてMS売りの行商人は新たなスタートを切ったのでした

めでたしめでたし









男の子「MS　売るよ！」

MS販売業界の競争は、果てしなく続く

おわり