少女「すいか、かき氷、りんご飴、め、め……あー、しりとり終わり」

少女「なにかあるっけ、め、で始まる夏っぼい単語」

少女「……」

少女「夏って、なんなんだろうね。不思議だよね」

少女「わくわくする季節のはずなのに、なんだか……」

少女「大人になると、夏休みなくなっちゃうんだよね」

少女「夏休みの無い夏……楽しいのかな？」

少女「私にはよくわからないや。だって、夏には楽しい思い出がいっぱい。小さな花火、小さな盆踊り大会」

少女「お祭りで好きな子に会えるか、ムダにドキドキしたよね。あの日は夜まで遊んてても結構許されていて……」

少女「今じゃあ、時間なんて関係なくなっちゃったね。特に朝のあの感覚はもう……」

少女「消えた」

少女「今日は何をしようかなって、朝目が覚めるの。眠いながらもラジオ体操にいくの」

少女「何人か友達もきていて、お昼過ぎに学校で遊ぶ約束をするの」

少女「クタクタになって帰る時の夕陽は、とてもとても綺麗なの」

少女「日が落ちて、優しい風と緑の匂いが香る中、私は家に帰っていく……あの時は、時間がとても穏やかに流れていたと思うよ」

少女「いつからだろうね、夏が特に楽しみになくなったのって」

少女「帰る途中、色んなお家から夕食の匂いがしてくるの」

少女「今日はここはカレーかな。こっちは煮物みたい。ハンバーグ……いいなあ」

少女「そこで私は、おじいちゃんとおばあちゃんの料理を思い出すの」

少女「遠い場所にいる、おばあちゃん。どんはご飯も作ってくれた。美味しいって私が言うと、それはそれは喜んでくれた」

少女「そんな事を考えながらお家に帰ると、やっぱりいい匂い」

少女「何もしなくてもご飯が出来てる、お風呂がわいてる……外では、虫がリーンリーンとないている」

少女「ふっとそらを見るとね、薄紫の空に白いお月様が出ているの。その時、夕方の風が吹いて緑の匂いを一気に運んでくるの」

少女「空気は少し冷気を帯びて、私は名残惜しそうにうちのなかに入っていく。ただいま」

少女「おかあさんは、おかえりって言ってくれる。帰れる場所があるって、嬉しいよね」

少女「……あなたには、ある？そんな場所」

少女「あるのだとしたら、それはとても素晴らしい事なの。うらやましい」

少女「……大人になるって、そういう、事なのかな」

少女「ずっと夏休みが続けばいいのにね」

少女「進まない時間、永遠の夏休み。終わらない夏祭り、空に咲きっぱなしの花火」

少女「そんな夢の中で生きる私にも、また夏はやってくる」

少女「綺麗に見えた空も、今はなんだか……ただ明るいだけのような、そんな気さえする」

少女「神社で食べるアイスの美味しさや、ひっそりとやる手持ち花火の美しさはもう戻ってこないんだなあ、って」

少女「あなたには、そんな夏ありますか」

少女「あるのだとすればそれは、とても幸せな事なんでしょう。忘れないで」

少女「どんなに生を全うしても、夏は100回も来ない……その中の一夏を、どう生きるのか」

少女「夏……太陽が照るだけでこんなにも人は」

少女「眩しい光に負けてカーテンをしめて、夕闇を楽しむの」

少女「……ううん、今日こそは一歩でも外に出てみようかな。少し、ほんの少しだけ太陽の光を浴びて」

少女「少しでもあの思い出が輝くのなら……」


そして、外に出ても変わらない現実と強い日差しだけが私たちを待っている。

汚れた空気、変わる街並み。
それでも夏はやってくる。
過去の思い出をゆっくりと蝕みながら、少女に現実を見せつける。

あなたはこの夏、何をしますか？

何かをしようと考えられ実行できるあなたは……とても幸せな人間なのでしょう。

少女「夏の思い出を、そっとつかめるようなそんな時間を……」

夏はすぐそこにあって、でも最も遠い中にいる。

少女「夏って幻みたい」
あなたは大切な夏、持っていますか？