あかり「宇宙にいるのに息ができるよぉ」

櫻子「ここはあかりちゃんの」

櫻子「宇宙だからだよ」

あかり「どういうことなのぉ」

櫻子「ここはあかりちゃんの世界なんだよ」

あかり「あかりの中に宇宙はないよぉ」

櫻子「あかりちゃんの心の中が宇宙なんだ」

あかり「ひえぇーあかりの中に宇宙があったなんて」

あかり「驚きだよぉ！」

櫻子「あかりちゃん、あかりちゃん人は皆誰しも宇宙を持ってるんだよ」

あかり「そうなのぉ？」

櫻子「そうだよイデアを生み出すのは宇宙があるからなんだ」

あかり「イデア？」

櫻子「あるいは存在だよ」

あかり「あかりはここに存在しているよぉ」

櫻子「そうだよあかりちゃん」

あかり「あかりが存在してるから宇宙があるの？」

櫻子「まさにその通りだよ」

あかり「そして宇宙があるからあかりが存在してるの？」

櫻子「明白だね」

あかり「あかりがいなくても誰かの宇宙は存在しているの？」

櫻子「存在しないんだよ、あかりちゃんそれは明白じゃないんだよ」

あかり「そんなことないよぉ！櫻子ちゃんはこうやって存在してるよぉ」

櫻子「それは酷く不確かな事なんだよ、少なくともあかりちゃんの宇宙では」

あかり「そんなことないよぉ！」

櫻子「どうして？」

あかり「だって櫻子ちゃんはこうやって体があって喋ってて・・・」

櫻子「体があるってどういうことなの？」

あかり「そ、それは細胞で構成されてて・・・一定の空間を占めてて・・・」

櫻子「続けて」

あかり「意思とか心とかあって」

櫻子「うん」

あかり「あかりのお友達だよぉ！」

櫻子「そうだね」

あかり「そうだよぉ！だから櫻子ちゃんは確かにここにいるんだぁ」

櫻子「ありがとう、あかりちゃん」

あかり「えへへぇ」

櫻子「そうだね、私は存在しているとしよう」

あかり「してるよぉ」

櫻子「そういう細胞？とか物質とかからなってるよね」

あかり「そうだよぉ」

櫻子「意識や心、あるいは脳細胞、シナプス・・・ニューロン・・・中枢神経系」

あかり「？？？」

櫻子「そういうものって何処から来たの？」

あかり「そ、それはご飯とか食べて櫻子ちゃんの体になって・・・」

櫻子「私が成長したんだよね」

あかり「そうだよぉ」

櫻子「私たちは自然から出来てるんだね」

あかり「自然って偉大だよぉ」

櫻子「まさしく自然は雄大で不変なんだよあかりちゃん」

あかり「ほんとうだよぉ」

櫻子「それは一つの定義だねあかりちゃん」

あかり「？？？」

櫻子「私たちを構成しているものは自然から出来てるんだよ」

あかり「そうだよぉ」

櫻子「でも自然って酷く不自然だよね」

あかり「そんなことないよぉ！自然は空気が美味しくて草花が茂ってて」

あかり「とても自然な状態だよぉ！」

櫻子「その自然ってさ」

あかり「うん」

櫻子「長い時間をかけて物理法則から生まれた種々の変化の無数の現象の結果でしかないよね」

あかり「？？？」

櫻子「宇宙が出来て水素が重金属にまで変質し作り上げられた世界は」

櫻子「こんにちここに至るまで全て物理法則上の結果でしかないんだよ」

櫻子「物理法則に従って動いた原子によって作り上げられた自然って

櫻子「方程式通りに進んだだけの自然ってとても不自然だと」

櫻子「あかりちゃんは思わない？」

あかり「そんなことないよぉ！それってあかり自身も方程式通りに原子が動いてるだけってことになるよねぇ」

櫻子「明白だね」

あかり「でもあかりは自由に物事を考えられるし・・・」

櫻子「でもそれってあかりちゃんを構成する原子の働きでしょ」

あかり「そ・・・それは・・・」

櫻子「そのように振舞うのは物理法則に従ってるだけだよ。あまりに複雑相互に作用してるからまるで自由意志をもつかのように」

櫻子「錯覚してしまっているだけで」

櫻子「それらは運命的なものなんだよ」

あかり「あかりは・・・」

櫻子「でもねあかりちゃん」

あかり「・・・うん」

櫻子「それでもあかりちゃんは自由で独立してる事を」

櫻子「私は証明が出来る」

あかり「・・・・・・！！！」

櫻子「私はあかりちゃんの欲しい答えを持っている」

あかり「そ・・・それって・・・！」

櫻子「あかりちゃん夢を現実だと思う？」

あかり「思う訳ないよぉ」

櫻子「そうだよね」

あかり「そうだよぉ」

櫻子「じゃあこの世界が夢じゃない事を」

櫻子「あかりちゃんは証明できる？」

あかり「あかりは起きてるよぉ！」

櫻子「起きてると思ってる夢の中であかりちゃんはいるんだよ」

あかり「そ、そうなったらあかりは夢から覚めるしか・・・ここが夢だって解らないかも・・・」

櫻子「あかりちゃんは覚める事のない夢にいるんだよ」

あかり「冷める事のない夢」

櫻子「そうだよ・・・物理法則もあると思わされてる幻想の世界」

櫻子「その中にあかりちゃんはいるんだ」

あかり「でもそれって・・・現実的な話じゃ・・・」

櫻子「あかりちゃんさっき言ったよね・・・ここが夢の世界じゃないのを証明できないって」

あかり「夢の中にいるあかりのままでは夢の世界にいることを否定できないよぉ」

櫻子「そうだよあかりちゃんつまり」

櫻子「この世界は　ど　れ　だ　け　物　理　学　や　科　学　が　発　展　し　よ　う　と」

櫻子「人間の自由意志が　た　だ　の　物　理　現　　象　だ　と　解　明　さ　れ　よ　う　と」

櫻子「この世界が夢だと証明されない限り」

櫻子「人　間　の　自　由　意　志　は　否　　定　さ　れ　な　い　」

櫻子「そして　神　は　い　る　ん　だ　よ　否定できない以上ね」

櫻子「だから　ある有名な哲学者は言ったんだ」

――我思う故に我あり、と

――YuruYuri for philosophy with waltz

櫻子「夢ではないと証明されない限り、の間違いだね」

あかり「そうだねぇ」

櫻子「だからあかりちゃんには宇宙があるんだよ」

あかり「あかりの宇宙」

櫻子「そうだよ、あかりちゃん」

櫻子「あかりちゃんの宇宙はあかりちゃんに縛られてもいないんだよ」

あかり「あかりに縛られてない？」

櫻子「そうだよ、言語や社会や習俗・・・それらがあかりちゃんの」

櫻子「あかりちゃんを構成するものだけど」

櫻子「それすらも捨てていいんだよ」

櫻子「全部自由になっていいんだよ、あかりちゃん」

あかり「あかりは自由だよぉ」

櫻子「あかりちゃん、あかりちゃんの常識や道徳や正義や美は」

櫻子「何処からきてるのだろう」

櫻子「それってこれは美しいものだよって教えられたりこれが正義だって教えられたからじゃないかな」

櫻子「・・・それとも魂から美や正義は生まれてくるの？」

あかり「あかりは人間さんは元々みんな良い人で」

あかり「だけど悪い事覚えちゃってその誘惑に耐えられなかった可哀相な人が」

あかり「美しいものを汚して悪い事を行うと思うよぉ」

あかり「だから美や正義は魂からきてると思うんだぁ」

櫻子「あかりちゃんそれはね」

櫻子「　宗　教　な　ん　だ　よ　」

櫻子「哲学はある意味で」

櫻子「宗教的観念の発展形なんだ」

櫻子「ある絶対の存在が俯瞰していらっしゃる」

櫻子「そこに安寧を求め魂や心の在り処を探り」

櫻子「哲学はその働きを人間という未熟な存在でありながら記述しようと努力する試み」

櫻子「哲学者は大陸で興隆を迎え哲学という思考法の土台になった」

櫻子「その土台をつくった人たちの感性――つまり文明が未だ未発達で神を信仰する」

櫻子「彼らが生んだ思考法だと踏まえないと特に日本人は」

櫻子「正しく理解できないんだ、あかりちゃん」

櫻子「そして魂や正義や美の観念は哲学でそして哲学であるからこそ宗教に根差してるんだ」

あかり「ぶっひぇーーあかりは宗教に隷属されてたんだよぉ」

櫻子「そんなものからも解き放たれていいんだよあかりちゃん」

あかり「あかりは・・・」

櫻子「あかりちゃんはあかりちゃんのままでいいんだ」

あかり「・・・あかりは・・・・・・」

櫻子「人生の実はただ自分が思考することにあり」

櫻子「ただ生きる事にあるんだ、この自然の中で」

あかり「・・・・・・・・・・あかりは・・・」

櫻子「それはねあかりちゃん」

――我が上なる星空と、我が内なる道徳法則、我はこの二つに畏敬の念を抱いてやまない

という

上なる大いなる自然

内なる思考

それだけが

それが

あかりちゃんなんだ

だからね

意味を記述しない

踊る事を私は好きなんだ

だから踊ろうよ

あかりちゃん

ワルツを

意味を求めないでいいんだ

何かを記述しなくていい

あかりちゃん

この世界が仮にクッキーモンスターに支配されていようとね

そのクッキーモンスターは理由のない世界の

そういう住人なんだ

それが世界を支配する住人なんだね

だからあかりちゃん

「私と理由のないワルツを踊ってください」



おわり