洋榎「て結局拾わんのかーい！」

絹恵「だれもツッコんでくれんからって自分でツッコむのはどうなん…」

洋榎「自分でツッコまんと収拾つかんしな。したらこの子拾えんやん」

絹恵「拾う気満々なんやな」

洋榎「絹も妹欲しい言うてたやんか」

絹恵「まぁ。そらせやけど」

洋榎「ようし。今日からうちらがお姉ちゃんやでー。名前はそうやな…マートンや！」

絹恵「よしとき…箱に名前書いとるよ。サキちゃんやて」

洋榎「ざんねん…ま、ええか。サキちゃんゲットや！」ｶﾞﾊﾞｯ

絹恵「ちょ、待ってよお姉ちゃん！うちにもだっこさせ！」

洋榎「うほほーい！」ﾀﾀﾀ

サキ「…っ！」ｼﾞﾀﾊﾞﾀ

洋榎「おわ…暴れたらあかん！」

絹恵「あぶなっ！」

サキ「」ｽﾎﾟｰﾝ

洋榎「あーっ！」

絹恵「セービング！」ﾊﾞｯ

　がしっ

絹恵「…ふぅ」

洋榎「ナイスキャッチ！」

絹恵「アホ！振り回したら危ないやろ！」

サキ「」ｶﾞｸｶﾞｸ

洋榎「やーすまんすまん」

絹恵「まったく…サキちゃんが怯えてもうたやん」

絹恵「だいじょうぶやで？なーんも心配あらへん」ﾅﾃﾞﾅﾃﾞ

サキ「…」ｷﾞｭｯ

絹恵「わ、見て見てお姉ちゃん！抱きついてきたで！」

洋榎「ぐぬぬ…」

絹恵「かわええなぁ！」ﾅﾃﾞﾅﾃﾞ

洋榎「ぐ、ぐぬっ…絹のバカー！アホー！浮気モンー！」ﾀﾞｯ

絹恵「え、それどゆことや！？」

サキ「…」ｽﾘｽﾘ

洋榎「家すぐそこやったわ」

絹恵「走り出したお姉ちゃんがすぐに途中で戻ってきて家に入ってったのはシュールやったで」

洋榎「さすがにもう家モードやったしな」

絹恵「なんやそれ」

洋榎「家モード知らんの。家にいる時の気分のことや」

絹恵「まんまやん…」

洋榎「サキちゃんどこやった」

絹恵「とりあえずお風呂やろ思うて脱衣所」

洋榎「おう…浪速の洗い師と呼ばれたこの洋榎に任しとき」

絹恵「うさんくさ」

洋榎「とつにゅー！」

サキ「」ﾋﾞｸｯ

洋榎「なんやまだ着とんのか？風呂はすっぽんぽんで、これ鉄則やで～」ｶﾞｼｯ ｸﾞｲｸﾞｲ

サキ「～～～～」ｼﾞﾀﾊﾞﾀ

洋榎「ええやんええやん、ちょっとだけやって…ほらほら、暴れたってむだですよ～って」ﾇｶﾞｾﾇｶﾞｾ

サキ「！！！」ｹﾞｼｹﾞｼ

洋榎「ちょ…足はアカン！足は…あっ！」

サキ「ﾌｰｯ、ﾌｰｯ」

絹恵「…なにやってんの」

洋榎「ただの脱ぎンシップや。いきなり入ってくんなや」

絹恵「そら怪しげなセリフとどたばたいう音が聞こえてきたら何事かて思うよ」

洋榎「そか。んじゃサキちゃんと洗いっこしてくる」ﾊﾞｯ

サキ「っ！！！」

絹恵「ホンマにだいじょうぶなんか…」

＜おら！おとなしくせえ！おとなしくしてたら痛くはせんから！

＜～～～～～っ！

＜おい噛むなや！

絹恵「あ、だめっぽい」

雅枝「なんやこれ」

絹恵「妹」

洋榎「拾った」

サキ「…」

雅枝「…まぁええか。大人しそうやし」

絹恵「やた」

洋榎「よかったなサキ。これでお前も愛宕ファミリーの仲間入りやで」

サキ「…」ﾌﾟｲｯ

洋榎「…」ﾆｭｯ

サキ「！…っ」ﾌﾟｲｯ

洋榎「…」ﾆｭｯ

サキ「…」

洋榎「そんないやそうな顔せんでもええやん…」

絹恵「お姉ちゃんになかなか懐かんね。やっぱ最初のアレがあかんかったんかな」

洋榎「なるほど…洋榎で拾えなんて安直すぎっちゅーわけか。手厳しい」

絹恵「いや、そこちゃう。そこもやけど」

雅枝「なんでもええけどきちんと世話したりよ。拾ったからにはきちんとお姉ちゃんやらな」

洋榎「まかせとき。絹のぼよんぼよんを育てたこのうちにな！」

絹恵「お姉ちゃんに育てられた覚えあんまないけど」

　姫松

サキ「…」

部員B「なんですかこの子！」

部員A「ちょーかわいー」

洋榎「うちの妹や」

部員A「え…じゃあこれが絹恵ちゃん？」

部員B「退行しとるやん！」

絹恵「なんでや！なんぼなんでもおかしいやろ！」

部員A「絹恵ちゃんおるやん」

部員B「絹恵ちゃん、なんで分裂してしまったん？」

絹恵「なんでどっちとも絹恵ってとこを譲らんの…こっちはサキちゃんいうんよ」

部員B「裂き…」

絹恵「いまどんな漢字当てた？ん？」

部員A「サキちゃんちょーかわいー」

洋榎「ひとが対局してる卓の横でやーやー騒ぐなや！集中できん！」

恭子「おつかれー」ｶﾞﾗｯ

部員A「あ、おつかれさんですー」

恭子「なんやこの子」

洋榎「うちの妹！」

恭子「はぁ…？なに言ってるんです主将…絹ちゃんならこっちに」

洋榎「そのボケはもうええっちゅうに！」

絹恵「サキちゃんです」

部員B「つまり絹恵ちゃんはサキちゃんだった…？」

絹恵「もうわけわからんな」

恭子「関係者以外を部室に連れ込まんでくださいよ主将」

洋榎「うちの関係者やもん」

恭子「…うっさいわ」

洋榎「いや正論やったろいまの。なんでや」

恭子「部の関係者っちゅーことです。主将のは詭弁です」

恭子「ていうか部員Aはなにしてるんや」

部員A「サキちゃんのすべすべあんよきもちーですよ」ｸﾞﾌﾌ

恭子「サイコーにサイアクな絵面やで…」

由子「こっち終わったのよー部員Aー」

部員A「え、もうですかはやくないですか」

由子「交代なのよー」

部員A「由子先輩、本気出しやがったな…！くっ、うちだって瞬殺されてきますよ！」

由子「疲れたのよー」ｽｯ ｻﾜｻﾜ

恭子「…由子までなにやっとんの」

由子「恭子、きてたのよー？」

恭子「うん。いや、なにやってんのって」

由子「サキちゃんのすべすべあんよを堪能してるのよー」

恭子「これはあかん」

洋榎「はよトべや上重漫ゥア！！」

漫「うちがなにしたっていうんですかぁぁ！」

絹恵「はよ卓から抜けてサキちゃんに構いたいお姉ちゃんと犠牲者の図です」

恭子「ははぁん」

漫「のんきにしてないで助けてくださいよぉ！」

恭子「…」

由子「きもちーのよー」

恭子「…あれ、本人は嫌がっとらんの？」

絹恵「最初は嫌がって、というか怯えてたんですけどね。真瀬先輩がなでなでしてるうちにあんま抵抗なくなっちゃったみたいで」

恭子「ほーん…」

恭子「…」

由子「さっきからちらちらとどーしたのよー？」

恭子「なんでもない」

由子「恭子が髪くしくししながらそう言うときはだいたいなにかあるのよー」

恭子「なんでもない」

由子「あ、もしかしてサキちゃんのすべすべあんよを」

恭子「なんでもない」

由子「ぺろぺろ」

恭子「さすがにそこまでせんよ！」

恭子「あっ」

由子「語るに落ちてるのよー」

恭子「ゆーこォ…！」

由子「まぁまぁ。ほら、思う存分撫でたらいいのよー」

恭子「だからべつにうちは…」

恭子「…」

恭子「…」ｽｯ ﾅﾃﾞﾅﾃﾞ

恭子「！」

恭子「」ﾅﾃﾞﾅﾃﾞﾅﾃﾞﾅﾃﾞ ｻﾜｻﾜｻﾜ ﾍﾟﾀﾍﾟﾀ

サキ「ん…ふ…」

絹恵「これあかん絵面やないですかね」

由子「ギリギリ…セー…？」

洋榎「連荘とは喧嘩売っとるんやな？そうなんやな？」

漫「勘弁してくださいよもう…」

　愛宕家

洋榎「サキがおらん」

絹恵「お姉ちゃんがアホみたいに猫かわいがりするからやろ」

洋榎「わかっとらんな絹は。妹っちゅーのは姉からの愛情をようたくさん受けてすくすく育っていくんや」

洋榎「…」ﾁﾗｯ

洋榎「な？」

絹恵「なんでうちの胸みたのかしらんけど、そんなもんかな？」

洋榎「そんなもんや。むしろそれがすべてでさえある」

絹恵「ハイハイ…で？家んなかはぜんぶ探したん？」

洋榎「だいたいはな。冷蔵庫の影から戸棚のなか、ソファの下、テレビの裏なんかを」

絹恵「子どものかくれんぼやん…行動範囲がリビングとキッチンだけかい」

洋榎「まぁ、なんか居間出ると探す気起きひんし」

絹恵「わかるわかるー。んでひとりだけ気合いれて凝った場所に隠れたやつだけ探されすらしなくてねー」ｱﾊﾊ

洋榎「孤独感と閉塞感に必死に耐えてる間、みんなはゲームしてましたーってなー」ﾊﾊﾊ

絹恵「…」

洋榎「…」

絹洋（はよ見つけたらんと…っ！）

絹恵「いうて、結構うちんなかも広いもんなー。どのへんに隠れたかだけでもわかれば…」

洋榎「まったくわからん」ﾊﾊ

絹恵「どこに目ん玉つけてたんや」

洋榎「この神の造り賜うた超絶美形のこのへんや」

絹恵「はいはい」

洋榎「そこツッコんでくれんとめっちゃ恥ずかしいだけなんですが…」

絹恵「めんどいもん…」

絹恵「サキちゃん出ておいでー」

洋榎「マックロクロスケの原理やな」

絹恵「いや、うん…いや…せやね」

洋榎「フクザツな顔されたらこっちも反応に困るわ…」

絹恵「まー、案外…たとえばちょっと前に買ったテレビが入ってたこの箱のなかにおったりしてな」

洋榎「まっさかやろ」ﾊﾊﾊ

サキ「…」

洋榎「マジか」

絹恵「まさかやったね…」

雅枝「今日はからあげやで」

洋榎「よっしゃ！」

絹恵「おいしそー」

洋榎「…」

絹恵「…」

雅枝「ン？食わんの？」

洋榎「いや、なんちゅーか…」

絹恵「からあげってだいたい皿に山盛りに出てくるやん？」

雅枝「まぁ、ちょっと揚げるんもいっぱい揚げるんもいっしょやし、それやったらっていっぱい揚げるからな。べつに余してもええし」

洋榎「その山盛りのからあげを見て…こう、な？」

絹恵「うん。じゅわじゅわしてるからあげの山をみて、ちょっとおなかいっぱいに」

雅枝「なんやそれ」

サキ「…」ﾓｸﾞﾓｸﾞ

洋榎「ほれサキ、あーん」

絹恵「どうせそっぽ向かれるだけやって」ﾊﾊ

サキ「…」ﾊﾟｸｯ

洋榎「ほれほれあー…あ？」

洋榎（なん…）

絹恵（やと…？）

絹恵「ちょ、うちも！」

洋榎「割り込むんはあかん！ちゃんと並び！」

雅枝「ちょいお母ちゃんにもやらせてみ」

サキ「…けぷ」

洋榎「なんやセーラのやつがサキに会わせえ言うとるで」

絹恵「どっから知ったんや」

洋榎「知らんし、会わせる気もないけどな」

絹恵「まぁ現実的ではないな」

洋榎「大方あれやろ。インハイチャンプのコラム読んだんやろ」

絹恵「ウィークリー麻雀トゥデイのあれな。『宮永照の妹日記』」

洋榎「あれの前にサキちゃんを拾ったうちらはどう考えても勝ち組！」

絹恵「やな」

　ｱﾊﾊﾊ




浩子「おばちゃん、サキちゃんたらいう子、ちょっと連れてきてみいひん？」

雅枝「なに言うとるんや。天下の千里山女子麻雀部やでここ」

浩子「ええからええから」

雅枝「まったく…ちょっとだけやで？」

浩子（よっし！）

　カン

これが後の姫松千里山妹戦争に端を発するあれである