ホームレス「ふぅん、って。お前、全然信じてないだろ？」

子供「まあね」

子供「なんかあまりにも可哀想だから、おじさんの妄想話に付き合ってあげてるだけ」

子供「一種のボランティアだよ」

ホームレス「……かわいくないガキだな」

子供「現実的っていってよね」

子供「じゃ、ぼくそろそろ帰るね！」

子供「もしヒマだったら、明日もまた来てあげるから！」

ホームレス「ふん、もう来なくていい！」ｼｯｼｯ

店長「おい、おっさん」

ホームレス「なんだ？」

店長「俺はそこのコンビニの店長なんだけどよ」

店長「そんなとこに居座られたら、客が来なくなっちまうだろーが！」

店長「俺が本部に怒られちまうだろーが！」

ホームレス「なにもドアの前にいるわけじゃなし、別にいいじゃないか」

店長「なんだと～～～～～！？」

店長「素直に立ち去るんなら、廃棄弁当でもくれてやろうと思ったのによぉ……」

店長「このクソオヤジが！」

ドカッ！

ホームレス「がふっ！」

店長「何様のつもりだ！　この社会のゴミが！」

ドカッ！　ドゴッ！　バキッ！

店長「けっ！」

店長「いいか、今度ウチの店の前に来たら、こんなもんじゃ済まさねえからな！」





ホームレス「うう……」ﾎﾞﾛｯ…

次の日――

子供「おじさん、どうして場所を変えたの？」

子供「それにケガしてるじゃん。なんかあったの？」

ホームレス「なに……ちょっとコケただけさ」

子供「ふうん……」



ワーワー！　キャーキャー！

ワーワー！　キャーキャー！



ホームレス「なんだ？　この騒ぎは？」

子供「だれか有名人が近くに来てるみたいだね」

子供「あっ、あれはっ！」

子供「かつてものすごいピッチャーだった、野球界のヒーローじゃないか！」

子供「今や日米野球界の首領（ドン）ともいわれてる人だ！」

子供「すごいなぁ、貫禄あるなぁ、かっこいいなぁ！」

ホームレス「！」ﾊｯ

ワーワー！　キャーキャー！

ヒーロー「ハッハッハ……」





ホームレス（あいつは……！）

ホームレス（かつて、甲子園の決勝で投げ合った、俺のライバル……！）

ホームレス（いや……ライバルだった男、か）

ホームレス（今や俺とあいつの立場は、天と地以上に離れてるもんな……）

ザワザワッ！



「キャーッ！」　「ひったくりだっ！」　「なんだって！？」　「あっちに逃げたぞ！」





ひったくり「へへへっ、この人混みの中なら、仕事がしやすいぜ！」ﾀﾀﾀｯ

ヒーロー「おのれ、ひったくりめ！」ｻｯ

野次馬「おおっ、石を拾った！　まさか！」



ホームレス「逃がすか！」ｻｯ

子供「おじさん、石なんか拾ってどうするの！？」

ヒーロー「でやっ！」ﾋｭｯ

ホームレス「とりゃっ！」ﾋｭｯ



ひったくり「あぎゃっ！」ｶｺﾝｯ



ヒーロー（外れた……！）

ホームレス（当たった！）

キャーキャー！　ワーワー！

「さすが！」　「あなたは今でも世界一のピッチャーだ！」　「ナイスコントロール！」

ヒーロー「いや、今のは……」





ホームレス「……」

ホームレス（これでいいんだ……）

ホームレス（ひったくりは退治できたし、あいつにはまた一つ武勇伝が増えた……）

ホームレス（明日のスポーツ新聞の一面はきっと盛り上がるぞ）

ホームレス（『健在の右腕！　やったぜ泥棒退治！』……ってなもんだろう）

ホームレス（今の俺にできることとしちゃ、上等すぎるってもんだ）

子供「おじさん！」

ホームレス「！」

子供「今の、見てたよ」

子供「おじさんの話って、全部本当だったんだね」

ホームレス「ありがとう……」





おわり