山城「ただでさえ、まだ寒いのに……」ﾌﾞﾙﾌﾞﾙ

山城「何が悲しくて、海辺で一人ゴミ拾いなんか……」


山城「……まぁいいわ」

山城「いっぱいゴミを集めて……」

山城「姉さまにうんと褒めてもらうのよ」ｸﾞｯ

山城「がんばるわっ」

ﾃｸﾃｸ


山城（それにしてもここ、すごいゴミの数だわ……）

山城（皆が捨てて行くのもあるらしいけど）

山城（他の国から流れてくるものもあるみたい……）

山城（これじゃあ、いくらやってもキリがないわね）


グシャ

山城（ひ～ん！）

山城（中身の入った缶踏んじゃった……）ｸﾞｽｯ

山城（足袋がビールまみれに……もぉ最悪っ）


……
…………
………………

ｻﾞｻﾞｰﾝ…
ｻﾞｻﾞｰﾝ…


男「……はぁ……」


男（僕は生まれてこの方、勉強ができること……それが全てだった）

男（賢くなっていい大学を出て、一流企業に就職をする……）

男（それこそが、親に認めてもらうこと……）

男（ひいては、僕を馬鹿にしてきた奴らを見返すことに繋がると思って頑張ってきた）


男（でも……今はこのザマだ）

男（第一志望の企業はおろか……第二、第三……）

男（くだらない会社だと思っていた所にまで落とされた）

男（僕にはもう……何ものこっていない）

男（もう……限界なんだ）

男（さよなら父さん、母さん）

男（誰も見ていないこの海で、僕は逝くことにするよ……）


ﾋﾞﾘｨｯ
ﾄﾞｻﾄﾞｻｯ

男「ん……？」ﾁﾗｯ

山城（せ、せっかく袋一杯に缶を集めたのに……）ﾜﾅﾜﾅ

山城（袋が破れて全部出ちゃった……）ｶﾞｸｯ

山城「不幸だわ……」



男（うわあの人ビールくさっ）

男（まさか、僕以外に人がいたとは……）


男（……止められでもしたら困る）

男（この人がどこかへ行くまで、様子を見よう）

山城「うんしょ……うんしょ……」ﾋｮｲ

ﾋﾞﾘｨｯ
ﾄﾞｻﾄﾞｻｯ

山城「ふぇ～ん！」ｸﾞｽｯ

男（また破けた……）

ﾋﾞﾘｨｯ
ﾄﾞｻﾄﾞｻｯ

山城「こ、この……っ」


ﾋﾞﾘｨｯ
ﾄﾞｻﾄﾞｻッ

山城「姉さま～っ」ｸﾞｽｯ…



男「…………」

男（……よく、続けられるなぁ……）

男（……あんなにやってもダメだったら）

男（諦めてしまえばいいのに……）

男「…………」

ｷｭｯ

山城「……よしっ」ﾌﾌﾝ

山城「えへへ……」



男（あ、今度は無事だ……）

男（なんだか、すごく嬉しそうだ）ｸｽｯ


男「…………」

ﾃｸﾃｸ…


男「行ったか……」

男「……じゃあ、僕も……」

男「…………」



男（……本当に、それでいいのかな……）

男（僕が諦めるのは……まだ早いんじゃないかな……）

男（あの人を見ていたら……なんだかそんな気がしてきたんだ）

男「…………」

男（……まだ先でも、いいかな）ﾌﾌｯ

男（今まではプライドが邪魔して、見向きもしなかったけど……）

男（フリーターでもやって生きていれば……）

男（いずれ機会が巡ってくるかもしれない）


ｽﾀ…

男（……帰ろう、家に）

ｽﾀｽﾀ……

ﾋﾞﾘｨｯ
ﾄﾞｻﾄﾞｻｯ

山城「あぁっ」ｶﾞｸｯ

山城「……早く帰りたい……」ｸﾞｽｯ

………………
…………
……


山城「つ、疲れた……」ｸﾗｯ

山城（だめだわ……ピンからキリまで終わらせようと思うと）

山城（やっぱり大人数が必要ね……）

山城（でも、今から皆を呼ぼうにも）

山城（もう本来の任務や遠征に出ちゃってるよね……）ｶﾞｸｯ


山城（頼れるのは……自分自身だけ）

山城「……よし、がんｂ」ｶﾞﾌﾞ


山城「――――ッ！」ｼﾞﾀﾊﾞﾀ

山城「舌っ噛んらっ」

山城「もうやらぁ……」ｸﾞｽｯ



山城「…………んぇ？」ﾁﾗｯ

山城「あーーーっ！」

山城「こ、これらっ……」ﾋｮｲｯ

山城（懐かしい……バァビィ人形じゃない！）

山城（まだ続いてたんだ、このシリーズ……）ｷﾗｷﾗ

山城（昔よくこれで、姉さまと遊んだっけ）ﾌﾌｯ

山城（なんでこんなところに捨ててあるのか知らないけど……）

山城（持って帰って姉さまと一緒に懐かしもーっと）ﾆｺﾆｺ


……
…………
………………

ｻﾞｻﾞｰﾝ…
ｻﾞｻﾞｰﾝ…


ポチ「クゥン……」

女の子「……」ｸﾞｽｯ

女の子「どこ行っちゃったの……あたしのばぁびぃちゃん……」

女の子「ふえぇ……」ｸﾞｽｯ

ポチ「クゥン」


ポチ「……！」ﾋﾟｸｯ

ポチ「ワン！ワン！」


ﾀﾞｯ


女の子「えぇっ！」

女の子「ちょっとポチ！どこ、いくの！？」

ポチ「ワンワン！」ﾀﾞﾀﾞﾀﾞｯ

女の子「ポチぃ～！まって！」

女の子「ポチまでいっちゃやらぁ！」ｸﾞｽｯ



女の子「うぇーん……！」


……
…………
………………

女の子「ひぐっ……えぐっ……」ﾎﾟﾛ…ﾎﾟﾛ…


ポチ「ハッハッハッ」ﾀﾀﾀｯ

女の子「……！」

女の子「ポチッ！」ｷﾞｭ

女の子「おかえりなさいっ」

女の子「どうしたのっいきなり走りだして……え？」


女の子「あぁっ、あたしのばぁびぃちゃん！」

女の子「ポチえらいっ」ﾅﾃﾞﾅﾃﾞ

ポチ「わふ」ﾊﾟﾀﾊﾟﾀ

女の子「あはは、ポチなんかくさーい」ﾆｺｯ


女の子「でも、ママのかたみ、見つけてくれてありがとっ」

女の子「しんかいせいかんが出る前に……しせつにかえろっ」

ポチ「ワン！」


……
…………
………………

山城（ひ～ん！びっくりしたぁ……）ｼﾞﾜ…

山城（いきなりドーベルマンが襲ってくるなんてぇ……）


山城（あぁ……懐かしのバァビィ人形がぁ……）

山城（噛んだりはしなかったけど、怖かったよぉ……姉さまぁ）ｸﾞｽｯ


ﾋｭｩ-…


山城（おまけに、戦闘でもないのに中破状態に……）

山城（お尻らへんがとても寒いわ……）ﾌﾞﾙﾌﾞﾙ


……
…………
………………

ｻﾞｻﾞｰﾝ…
ｻﾞｻﾞｰﾝ…


山城（だめ……終わらないわ……）ｶﾞｸｯ

山城（な、なんだか……もう……）

山城（心が折れそう……）ｼｭﾝ





「あ、いたいた～」

「山城さ～ん！」

山城「！」

雪風「山城さんっ」

時津風「おつかれさまぁ～」

山城「あ、あなたたち！」

山城「どうしたのっ、遠征に行ってたんじゃ……」

雪風「しれえが行先をまちがえたので中止になりましたっ！」

時津風「時津風と雪風もお手伝いするよ～」

山城「あなたたち……」ｸﾞｽｯ



山城「だ～い好き！」ｷﾞｭ

雪風「ひゃっ」

時津風「なんかくさい～」ｲﾔｲﾔ


……
…………
………………

ｻﾞｻﾞｰﾝ…
ｻﾞｻﾞｰﾝ…


老人「……」ﾄﾎﾞﾄﾎﾞ


ﾀﾀﾀｯ…


ﾄﾞｶｯ

男子１「おわっ」

老人「……っ」ﾖﾛｯ

男子１「じーさん邪魔だぞーっ」

男子２「そんなとこでボケボケしてんなーっ」

ｷｬﾊﾊｯ
ﾀﾀﾀｯ…


老人「…………」

老人「……」ﾄﾎﾞ…ﾄﾎﾞ…

ｻﾞｻﾞｰﾝ…
ｻﾞｻﾞｰﾝ…


雪風「山城さんの恰好、なんだか……」

雪風「すごいです！」ﾆｺｯ

山城「ふふふ……これには深い事情が……」ｼｭﾝ

時津風「おしり噛んでいい？」

山城「だめっ！」ﾌﾞﾝﾌﾞﾝｯ


ｻﾞｻﾞｻﾞｰﾝ…
ｻﾞｻﾞｻﾞｻﾞｻﾞｻﾞｻﾞ…


雪風「……あっ」

時津風「あっ」

山城「へ？」


ｻﾞｯﾊﾟｰﾝ！

山城「…………グスン」ﾎﾞﾄ…ﾎﾞﾄ…

時津風「お、大波だぁ……」

雪風「だいじょうぶですかっ？」

山城「……えぇ……慣れっこよ……」ﾌﾌﾌ…

雪風「かぜをひいちゃうから、早くかえったほうが！」

山城「いいの……それより」


山城「あなたたちは……大丈夫だった？」

雪風「はい！」ﾆｺｯ

時津風「全然濡れてないよ～」ﾍﾍﾍ

山城「……そか」ﾆｺ



老人「……」ｼﾞｰ…

老人「……」

老人「……あ……ぁ……」


……
…………
………………


……駆逐……多……


…戦艦六……洋艦八……健在……


……あぁ……が……！……

1944年10月25日――03:53


ズン……ッ


敵巡洋艦隊、発砲！クソッ！クソッ！

こっちにゃもう、これと最上、山城しか残っていないんだぞ！

泣き言をくっちゃべるなッ、測距続けろ！


て、敵戦艦発砲！

衝撃波伝播ッ！継続してますッ！

艦影が雨みてぇだ……駆逐艦隊も肉薄してやがる！

あぁッ！三時方向、雷跡確認！その数四！


あと少しでスリガオ海峡を抜けられるというのに……！

畜生……！



下士官「……もう、ここまでか……」

……あぁッ！山城が！

下士官「！？」


山城転舵！

山城が敵射線上に……ッ！

なんだと！？


ズンッ


あ！あぁ！

水柱です！山城……ひ、被雷！

バカなッ、何故！

おい、また被弾したぞ！艦橋より火災！


下士官「山城が集中砲火を……！」

ギ・・・・ギ・・・・・


減速している……主機をやられたかッ！？

山城、傾いています！ですが一、二番砲塔が……！

山城はなぜ発砲をやめないんだ！

おぉぉいッ！早く退艦しろーッ


下士官「……我々が前に出ていれば……あの砲火に晒されていた……」

下士官「……山城……！」

ギ・・・ギギ・・・ギ・・・


山城……大きく傾いています！


あぁ……山城が……沈む……！

……当艦の被弾、二発

ですが応急舵により無事、離脱中です……


山城が……この時雨の盾になってくれたんだ……

あ……あぁぁぁ…………！



下士官「……山城の皆……」ﾎﾟﾛ…ﾎﾟﾛ…

下士官「すまない……！」ﾌﾟﾙﾌﾟﾙ…


………………
…………
……


老人「……あ……あ……」ﾌﾙﾌﾙ…

雪風「～♪」ﾋｮｲﾋｮｲｯ

老人「……」ﾖﾎﾞ…ﾖﾎﾞ…

老人「……」ﾋｮ…ｲ

雪風「……あれっ」


雪風「こんにちは！」ﾍﾟｺｯ

老人「……あ……」ｺｸ

雪風「もしかして、おじいさんもお手伝いですかっ」ﾆｺｯ

老人「…………」ｺｸ…

雪風「ありがとうございます！」ﾊﾟｧｧ

山城「あれ、雪風……どうしたの？」

雪風「このおじいさんが、手伝ってくれるって！」

山城「えぇっ？」

老人「…………」


山城（す、すごいヨボヨボだけど……）

山城（でも……嬉しいな）ﾌﾌｯ

山城「おじいさん、ありがとう……」ﾍﾟｺｯ

老人「……ニッ」ﾆｺｯ

「山城～それ、虫が入ってたよ～」

「キャー！」

「クスっ……あはははっ」

「ほっ……ほっ……」




男子１「…………」ｼﾞｰｯ…

男子２「……なぁ」ﾁﾗ

男子１「……うん」ｺｸ


「ねぇー！」

「おれたちも手伝うよー！」


……
…………
………………

山城「……クシュン！」

山城「うぅ……」ｽﾞｽﾞｯ

山城「不幸だわ……」ｸﾞｽ


扶桑「ごめんね……山城……」

扶桑「私が代わりに行っていれば、こんなことには……」ｼｭﾝ

山城「い、いえいえ！姉さまが風邪を引くなんて……そんなの、絶対だめです！」ﾌﾞﾝﾌﾞﾝｯ

山城「それに……」


山城「あの海岸……これからは近隣住民の皆さんが」

山城「自分たちの海岸は自分たちでって」

山城「分担して掃除をすることになったそうですよ」ﾌﾌ

扶桑「そうだったの……」

扶桑「それは、いいことだわ……」ﾆｺｯ

扶桑「これも、あなたのおかげね……」

山城「……私なんかのおかげじゃ……ありません……」ｼｭﾝ

山城「私は……どうやっても」

山城「不幸の戦艦山城でしかありません……」

山城「今回だって、雪風たちが手伝ってくれたおか」

ｷﾞｭ

山城「！」

扶桑「……山城」

扶桑「あなたは……私の自慢の妹よ……」

扶桑「他の誰がどう言おうと……」

扶桑「私……あなたが不幸を振りまくような子だとは思っていないわ」

扶桑「……だって、あなたと一緒に過ごしているだけで」

扶桑「お姉ちゃん……とても幸せなんですもの……」ﾆｺｯ

山城「姉……さま……」


扶桑「……ふふ、山城……ビールくさいわ」

扶桑「久しぶりに二人で……お風呂に入りましょう」

山城「お……！おふ……っ」ｶｧｰ…


山城「……は……」

山城「はいっ！」ﾆｺｯ



―――――――――ｆｉｎ――――――――――