不良「エプロンをつけて、と……」ﾊﾞｻｧｯ

不良「まずボールに卵黄を入れて」ﾊﾟｶｯ

パシリ「すげえ！　片手っすね！」

不良「あたぼうよ！　んで、グラニュー糖を入れてよく混ぜる」ｶﾁｬｶﾁｬ

パシリ「グラニューってどういう意味っすか？」

不良「粒状にした、っつう意味だな」ｶﾁｬｶﾁｬ

パシリ「ヒエェ～、勉強になるっす！」

不良「んでもって、溶かしたバターをこいつらに加えてさらに混ぜる」ｶﾁｬｶﾁｬ

不良「しばらく混ぜたら……」

不良「こいつらに牛乳とヨーグルトを少々加えて、さらにかき混ぜる」ｶﾁｬｶﾁｬ

パシリ「あの……」

不良「なんだ？」ｶﾁｬｶﾁｬ

パシリ「牛乳は分かるっすけど、なんでヨーグルトを……？」

不良「ま、そいつは後で説明してやる」ｶﾁｬｶﾁｬ

不良「さて、そろそろ混ぜるのはやめて、と……」

不良「次は薄力粉とベーキングパウダーを合わせて、ふるいにかけ……」

不良「こいつらも混ぜる」ﾄﾞﾊﾞｯ

不良「んで混ぜるの再開」ｶﾁｬｶﾁｬ

不良「さて、ここらでさっきの質問に答えてやろう」

パシリ「へ……！」

不良「ヨーグルトを混ぜると、ベーキングパウダーと反応してふわふわ感が増すんだよ」

パシリ「へえ～」

不良「どのぐらい入れるか、あるいは入れないかは、ま、好みの問題だな」

不良「さぁ～て、いよいよ焼くぞ」

パシリ「へ、へい……」ｺﾞｸｯ

不良「このフライパンはフッ素加工してあるから、油をひく必要はねえ」

不良「おめえの手柄だぜ……こいつは」ﾆｶｯ

パシリ「あざっす！」ｳﾙｳﾙｯ

不良「おたまからこうやって生地を垂らして……」ﾄﾛｰﾘ…

不良「まん丸くのばして……」ｽｯｽｯ

不良「じっくり焼いてく」ｼﾞｭｩｩ…

不良「火加減調節しながら……」ｼﾞｭｩｩ…

不良「じっくり焼いてく」ｼﾞｭｩｩｩ…

パシリ「あの白く味気なかった生地が、うまそうな色と匂いを帯びていく……」

パシリ「なんつうか、一つの生命の誕生、って感じっすよね！」

不良「大げさすぎ」

パシリ「す、すんません！」

不良「だが、嫌いじゃないぜ」

パシリ「あざっす！」ﾊﾞﾊﾞｯ

不良「焼いてるやつに気泡が出てきたら……裏返す」ﾋｮｲｯ

パシリ「おぉ～鮮やか！」

不良「どんなもんでも、表と裏がある……」

不良「オメーもワルやってくんなら、その見極めをつけられるようになれよ」

パシリ「へい！　ご指導ありがとうございます！」

不良「へへ……」

不良「裏側も焼けたら……ほいっと」ﾋｮｲｯ

不良「ハチミツたっぷりぶっかけて……と」ﾄﾛｰ…

不良「俺特製ホットケーキ……出来上がりだ！」





パシリ「うおおおおおおおおおお！！！」

パシリ「い、いただいていいっすか！？」

不良「いいぜ」

パシリ「いただきマンモス！」ﾊﾟｸｯ

パシリ「……」ﾓｸﾞﾓｸﾞ

不良「どうだ？」

パシリ「うめえっす！　ふわっふわしてて、マジうめえっす！」

パシリ「生きててよかった……！」ｸﾞｽｯ…

不良「お、おいおい！　なにも泣くことはねえだろ！」

パシリ「すんません！」

教師「コラーッ！　なにやってる！」ｶﾞﾗｯ

教師「勝手に家庭科室を使って、料理するんじゃない！」



不良「ゲ！　先公！？」

不良「ズラかんぞ！」ﾀﾀﾀｯ

パシリ「へいっ！」ﾀﾀﾀｯ



不良「へへへ……家庭科室を占拠するなんて、俺らってホントワルだよな」ﾀｯﾀｯﾀ…

パシリ「ホントっすねえ！　この学校シメる日も近いっすよ！」ﾀｯﾀｯﾀ…

教師「まったく……あのワルガキどもめ」

教師「ん？　これは……ホットケーキか」ﾊﾟｸｯ

教師「！」ﾓｸﾞｯ…



教師「ほう……アイツ……また腕を上げたな」







―　完　―