女「ねえ……」

男「あ、なに？」

女「いちいち“あ”をつけるのやめてよ！」

男「あ、どういうこと？」

女「それよそれ！　しゃべるたびに最初に“あ”をつけるのやめてってこと！」

男「あ、どうして？」

女「なんていうか、みっともないんだよね。いちいち言葉に詰まってる感じがさ」

女「自分の言葉にそんなに自信がないの、って思っちゃう」

男「あ、なるほど……」

女「ほらまた！」

男「あ、ごめん」

女「もう！」

女「いい？　今から“あ”をつけるの禁止！　分かった！？」

男「あ、うん」

女「……」ｷﾞﾛｯ

男「……うん」

女「よろしい」ﾆｺｯ

女「ほら、ちゃんとできるじゃない」

男「……うん」

女「今日は寒いね」

男「……寒いね」

女「ほら、できるじゃない！」

男「……なかなか難しいなぁ」

女「そうやって馴らしていけば、そのうち“あ”をつけずにしゃべれるようになるはずよ！」

男「……分かった、頑張るよ」

女「その意気よ！」

男「ぁ……う、うん」

女（これはなかなか時間がかかりそうね……）

しばらくして――

男「おはよう！」

女「おはよーっ！」

男「今日は久々に暖かいね！」

女「そうね……って、あれ？　最初に“あ”をつけずにしゃべれるようになったじゃない！」

男「ハハハ、だろう？」

男「意識して“あ”をつけるのをやめるよう特訓してたら」

男「いつの間にか、こうしてハキハキとテンポよくしゃべれるようになってたよ」

男「これも君のおかげだよ！」

女「ふふっ、ありがとう」

女「こっちも言いすぎたかな、と思ったけど、やっぱり言ってよかったわ」

男「おかげでぼく、自分の発言に自信を持てるようになってきたんだ！」

女「へぇ～、よかったじゃない」

男「だから……今こそ君に伝えたいことがある」

女「え……っ！」ﾄﾞｷﾝ…

男「ぼく……君のこと……」

女「……」ｺﾞｸｯ

男「いしてます！」

女「そこは“あ”つけてよ！」








―おわり―