3:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/02/26(日) 22:46:16.13 :Erqo33dK0
二月も下旬となり、ようやく氷漬けになった北半球が解凍される兆しが訪れた……かのように見せかけて、朝晩はまだまだ冷える、そんな曖昧な季節。
今日も今日とて、部活動という名目で何をするでもなく部室に居座り、俺はひたすらに怠惰を貪っていた。
いや、何をするでもなく、というのは言い過ぎか。
朝比奈さんが淹れてくれた玉露を啜っていると、古泉が例の如くニヤニヤと気持ちの悪い笑みをこちらに向け、何やらボードゲームの駒のような物を並べ始めたので、俺は嫌々ながらその対局に付き合わされていたのだ。
古泉「んふっ。やはりあなたはお強いですね。さすが、と言っておきましょうか」
負けた癖になんでコイツはこうも上機嫌なんだ?
いちいち気持ちの悪いコメントにげんなりした俺は、勝っても負けてもニヤニヤと気色悪い笑みを浮かべるこの不審人物をこれ以上視界に収めることは目に毒だと判断し、目を逸らす。
キョン「んん~……」
長時間盤上を俯瞰していた為、すっかり丸まってしまっていた背筋を伸ばし、首をコキコキと鳴らしていると、ぶるりと背筋が震え、自らに訪れた生理現象を知覚した。
ふと、時計を見上げると、そろそろ下校時間。
帰る前に、出すものを出しておくことにしよう。
そう思い、席を立つと……
古泉「おや?トイレ、でしょうか?ならば、僕も同伴させて頂くことにしましょう」
古泉が連れションを希望してきた。
そして、この一言が、事件の発端となるのだった。
二月も下旬となり、ようやく氷漬けになった北半球が解凍される兆しが訪れた……かのように見せかけて、朝晩はまだまだ冷える、そんな曖昧な季節。
今日も今日とて、部活動という名目で何をするでもなく部室に居座り、俺はひたすらに怠惰を貪っていた。
いや、何をするでもなく、というのは言い過ぎか。
朝比奈さんが淹れてくれた玉露を啜っていると、古泉が例の如くニヤニヤと気持ちの悪い笑みをこちらに向け、何やらボードゲームの駒のような物を並べ始めたので、俺は嫌々ながらその対局に付き合わされていたのだ。
古泉「んふっ。やはりあなたはお強いですね。さすが、と言っておきましょうか」
負けた癖になんでコイツはこうも上機嫌なんだ?
いちいち気持ちの悪いコメントにげんなりした俺は、勝っても負けてもニヤニヤと気色悪い笑みを浮かべるこの不審人物をこれ以上視界に収めることは目に毒だと判断し、目を逸らす。
キョン「んん~……」
長時間盤上を俯瞰していた為、すっかり丸まってしまっていた背筋を伸ばし、首をコキコキと鳴らしていると、ぶるりと背筋が震え、自らに訪れた生理現象を知覚した。
ふと、時計を見上げると、そろそろ下校時間。
帰る前に、出すものを出しておくことにしよう。
そう思い、席を立つと……
古泉「おや?トイレ、でしょうか?ならば、僕も同伴させて頂くことにしましょう」
古泉が連れションを希望してきた。
そして、この一言が、事件の発端となるのだった。
5:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/02/26(日) 22:50:46.03 :Erqo33dK0
ハルヒ「ねぇ、それってもしかして……『連れション』ってヤツ?」
古泉と連れションなどまっぴら御免だった俺が、どうやってそれをを阻止しようかと考えあぐねていると、ハルヒは唐突に目を輝かせてそう聞いてきた。
もしかしても何も、これが連れション以外に何に見えるんだ?
おっと、男子生徒2人がトイレの個室でくんずほぐれずなんて不埒な妄想はやめて貰おうか。
何せお前は願望を実現出来る能力があるんだからな。
そんな願望が実現されようものなら、俺はその瞬間に生きることを諦めなければならない。
ハルヒ「別にあんた達で変な妄想なんてしてないわよ。あたしはただ、連れションに興味があるだけ」
半ば呆れたようにそう言い切ったハルヒに、俺は胸を撫で下ろしたのだが……連れションに興味があるというのも如何なものだろうか?
ハルヒ「別に何もやましいことはないわ。一緒にトイレに行って、たわいのない会話をしてみたいのよ」
ふむ。
男の俺からすれば、そんなこと、大して面白いことではないと断言出来るのだが、女のこいつにそれをわかれと言っても無理な話か。
なら、こういった趣向はどうだろう。
キョン「だったらお前も、朝比奈さんや長門を誘ってトイレに行って来たらどうだ?女だって連れションくらい出来るだろう」
ハルヒ「ねぇ、それってもしかして……『連れション』ってヤツ?」
古泉と連れションなどまっぴら御免だった俺が、どうやってそれをを阻止しようかと考えあぐねていると、ハルヒは唐突に目を輝かせてそう聞いてきた。
もしかしても何も、これが連れション以外に何に見えるんだ?
おっと、男子生徒2人がトイレの個室でくんずほぐれずなんて不埒な妄想はやめて貰おうか。
何せお前は願望を実現出来る能力があるんだからな。
そんな願望が実現されようものなら、俺はその瞬間に生きることを諦めなければならない。
ハルヒ「別にあんた達で変な妄想なんてしてないわよ。あたしはただ、連れションに興味があるだけ」
半ば呆れたようにそう言い切ったハルヒに、俺は胸を撫で下ろしたのだが……連れションに興味があるというのも如何なものだろうか?
ハルヒ「別に何もやましいことはないわ。一緒にトイレに行って、たわいのない会話をしてみたいのよ」
ふむ。
男の俺からすれば、そんなこと、大して面白いことではないと断言出来るのだが、女のこいつにそれをわかれと言っても無理な話か。
なら、こういった趣向はどうだろう。
キョン「だったらお前も、朝比奈さんや長門を誘ってトイレに行って来たらどうだ?女だって連れションくらい出来るだろう」
6:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/02/26(日) 22:53:03.65 :Erqo33dK0
ハルヒ「はぁ……あんたって、本当に馬鹿ね」
我ながら冴えた提案だと思っていたら、ハルヒは嘆息し、にべもなく却下した。
キョン「何が不満なんだよ。朝比奈さんや長門とは連れション出来ないってのか?」
頭ごなしに否定されたことに加え、今もこの身を苛んでいる尿意で余裕がない俺は、苛立ちを隠さずに理由を問う。
すると、ハルヒは腕を組み、顎を突き上げると、勝ち誇ったような笑みともに高々と言い放った。
ハルヒ「あんたってば、なんにもわかってないんだから!いい?女子トイレってのは全席個室なの!だから、用を足しながら気軽に話したり出来ないってわけ」
なるほど。
これぞ、ぐうの音も出ない理由だろう。
だが、敢えて言おう。
そんなこと、知るか。
キョン「なら諦めるんだな。悪いが、こればっかりは男の特権だ」
古泉「そうですね。この時ばかりは、外見上の性別が男で良かったと思いますよ」
外見上の性別って……
中身は違うとでも言いたいのか?
いよいよもって古泉の脅威度が増してきたこともあり、そんな脅威など感じることすらお断りのいたってノーマルな俺は、ため息混じりについこんな妄言を吐いてしまった。
キョン「俺が女だったら……ハルヒ、お前とも連れションしてやれるんだがな」
ハルヒ「はぁ……あんたって、本当に馬鹿ね」
我ながら冴えた提案だと思っていたら、ハルヒは嘆息し、にべもなく却下した。
キョン「何が不満なんだよ。朝比奈さんや長門とは連れション出来ないってのか?」
頭ごなしに否定されたことに加え、今もこの身を苛んでいる尿意で余裕がない俺は、苛立ちを隠さずに理由を問う。
すると、ハルヒは腕を組み、顎を突き上げると、勝ち誇ったような笑みともに高々と言い放った。
ハルヒ「あんたってば、なんにもわかってないんだから!いい?女子トイレってのは全席個室なの!だから、用を足しながら気軽に話したり出来ないってわけ」
なるほど。
これぞ、ぐうの音も出ない理由だろう。
だが、敢えて言おう。
そんなこと、知るか。
キョン「なら諦めるんだな。悪いが、こればっかりは男の特権だ」
古泉「そうですね。この時ばかりは、外見上の性別が男で良かったと思いますよ」
外見上の性別って……
中身は違うとでも言いたいのか?
いよいよもって古泉の脅威度が増してきたこともあり、そんな脅威など感じることすらお断りのいたってノーマルな俺は、ため息混じりについこんな妄言を吐いてしまった。
キョン「俺が女だったら……ハルヒ、お前とも連れションしてやれるんだがな」
7:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/02/26(日) 22:55:27.44 :Erqo33dK0
冗談のつもりだった。
しかし……
ハルヒ「キョンが女の子だったら良かったのに……」
俺の言葉に同調したようにハルヒは独りごち、その瞬間、古泉は珍しく焦ったように俺の二の腕を掴み、何やらアイコンタクトを送ってきた。
キョン「……は?」
しかしながら何を伝えたいかわからない上に、二の腕を掴むその力が思いのほか強く、その痛みと気色悪さから古泉を睨むと、奴は掴む力を緩め、場を取りなすような口調でハルヒに声をかけた。
古泉「涼宮さん、貴重な男性団員が僕だけになってしまっては少々困ります。今後の活動に支障を来す恐れが……」
ハルヒ「それもそうね……」
古泉の具申にハルヒは納得し、古泉だけでなく固唾を飲んでやり取りを見守っていた朝比奈さんや長門も肩の力を緩めた。
何故かは知らないが、俺以外の連中は相当緊張していたようだ。
しかし、そんな弛緩した空気をぶち壊すように、ハルヒはポンと手を打ち……
ハルヒ「なら、いっそのこと、団員全員の性別を入れ替えるってのはどうかしら?うん!とっても面白そうだわ!あたしも一度は男になってみたかったのよね~」
状況は加速度的に悪化した。
冗談のつもりだった。
しかし……
ハルヒ「キョンが女の子だったら良かったのに……」
俺の言葉に同調したようにハルヒは独りごち、その瞬間、古泉は珍しく焦ったように俺の二の腕を掴み、何やらアイコンタクトを送ってきた。
キョン「……は?」
しかしながら何を伝えたいかわからない上に、二の腕を掴むその力が思いのほか強く、その痛みと気色悪さから古泉を睨むと、奴は掴む力を緩め、場を取りなすような口調でハルヒに声をかけた。
古泉「涼宮さん、貴重な男性団員が僕だけになってしまっては少々困ります。今後の活動に支障を来す恐れが……」
ハルヒ「それもそうね……」
古泉の具申にハルヒは納得し、古泉だけでなく固唾を飲んでやり取りを見守っていた朝比奈さんや長門も肩の力を緩めた。
何故かは知らないが、俺以外の連中は相当緊張していたようだ。
しかし、そんな弛緩した空気をぶち壊すように、ハルヒはポンと手を打ち……
ハルヒ「なら、いっそのこと、団員全員の性別を入れ替えるってのはどうかしら?うん!とっても面白そうだわ!あたしも一度は男になってみたかったのよね~」
状況は加速度的に悪化した。
8:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/02/26(日) 22:56:53.04 :Erqo33dK0
ここまでくれば如何に鈍い俺だって、団員達が何を恐れているのかを理解できた。
先述した通り、涼宮ハルヒは願望を実現出来る能力がある。
つまり、古泉達はその能力で此度の願望が実現されるのではないかと恐れているのだ。
なるほど。
それが実現したら確かに恐ろしいことだ。
だが、俺から言わせてみれば、他の団員達は少々過保護過ぎると思うし、大変大袈裟である。
考えてもみろ。
いくらハルヒと言えども、まさかこんな馬鹿げた願望を本気で叶えたいと思っている筈も無かろう。
だから、適当な落とし所さえ作っておけば、それだけで十分さ。
キョン「……確かに、面白い考えだな」
ハルヒ「でしょ!?やっぱりあんたもそう思うでしょう?」
ハルヒに同意した俺に目を見開き、息を飲む団員達。
そんなに心配するなよ。
大丈夫だって。
何よりそろそろ尿意が限界だ。
この辺で事態を収束させて、トイレに行かせて貰おう。
キョン「そのアイデアは、次の映画に活かそう。きっと一作目よりも良い映画になるだろうよ」
ここまでくれば如何に鈍い俺だって、団員達が何を恐れているのかを理解できた。
先述した通り、涼宮ハルヒは願望を実現出来る能力がある。
つまり、古泉達はその能力で此度の願望が実現されるのではないかと恐れているのだ。
なるほど。
それが実現したら確かに恐ろしいことだ。
だが、俺から言わせてみれば、他の団員達は少々過保護過ぎると思うし、大変大袈裟である。
考えてもみろ。
いくらハルヒと言えども、まさかこんな馬鹿げた願望を本気で叶えたいと思っている筈も無かろう。
だから、適当な落とし所さえ作っておけば、それだけで十分さ。
キョン「……確かに、面白い考えだな」
ハルヒ「でしょ!?やっぱりあんたもそう思うでしょう?」
ハルヒに同意した俺に目を見開き、息を飲む団員達。
そんなに心配するなよ。
大丈夫だって。
何よりそろそろ尿意が限界だ。
この辺で事態を収束させて、トイレに行かせて貰おう。
キョン「そのアイデアは、次の映画に活かそう。きっと一作目よりも良い映画になるだろうよ」
10:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/02/26(日) 22:58:39.42 :Erqo33dK0
古泉「上手くいきましたね」
キョン「ふん。毎度毎度、大袈裟なんだよ、お前は」
難なく窮地を脱した俺達は、現在、絶賛連れション中である。
もちろん、古泉と連れションなど、不本意なのは言うまでもないことではあるが。
古泉「いいじゃないですか。もし本当に僕達が女性になっていたら、こうして並び立つことは出来なくなっていたのですよ?共に連れションをすることが出来る喜びを噛み締めましょう」
キョン「お前と並び立つなんて怖気が走るし、連れションをすることに対しては嫌悪感しか感じないな。これならいっそ……」
いっそ……本当に、ハルヒの言う通り……
古泉「おっと。それ以上は胸に秘めておくことをお勧めします。万が一、ということもありますからね」
わかってるよ。
いちいちうるさい奴だ。
というか、顔が近い。
男同士の連れションの際は、間を一つ空けるというマナーを知らんのか、こいつは。
古泉「……ふむ。安心しました。どうやら性転換は本当に不発に終わったようですね。立派なモノです」
キョン「何見てやがる!」
不覚だ。
意図的に古泉の存在を意識外に追いやっていたせいで、視線の先への注意が疎かになってしまっていた。
素早くイチモツを仕舞い、さっさと手を洗う俺の背に、不愉快な愉悦を含んだ笑みがまとわりつき、出し終えたばかりだというのに、またしても悪寒を感じる羽目となったのだった。
古泉「上手くいきましたね」
キョン「ふん。毎度毎度、大袈裟なんだよ、お前は」
難なく窮地を脱した俺達は、現在、絶賛連れション中である。
もちろん、古泉と連れションなど、不本意なのは言うまでもないことではあるが。
古泉「いいじゃないですか。もし本当に僕達が女性になっていたら、こうして並び立つことは出来なくなっていたのですよ?共に連れションをすることが出来る喜びを噛み締めましょう」
キョン「お前と並び立つなんて怖気が走るし、連れションをすることに対しては嫌悪感しか感じないな。これならいっそ……」
いっそ……本当に、ハルヒの言う通り……
古泉「おっと。それ以上は胸に秘めておくことをお勧めします。万が一、ということもありますからね」
わかってるよ。
いちいちうるさい奴だ。
というか、顔が近い。
男同士の連れションの際は、間を一つ空けるというマナーを知らんのか、こいつは。
古泉「……ふむ。安心しました。どうやら性転換は本当に不発に終わったようですね。立派なモノです」
キョン「何見てやがる!」
不覚だ。
意図的に古泉の存在を意識外に追いやっていたせいで、視線の先への注意が疎かになってしまっていた。
素早くイチモツを仕舞い、さっさと手を洗う俺の背に、不愉快な愉悦を含んだ笑みがまとわりつき、出し終えたばかりだというのに、またしても悪寒を感じる羽目となったのだった。
12:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/02/26(日) 23:42:34.18 :Erqo33dK0
その後、部室に戻った俺と不審者は、ハルヒの羨ましそうな視線を浴びながら、帰り支度をして帰路についた。
男の俺からするとよくわからんが、ハルヒはどうも連れションに夢を見過ぎているようだ。
しかしまあ、気持ちはわからんでもない。
今日みたいな得体の知れない不審者との連れションは御免だが、谷口や国木田なんかと連れ立って用を済ませるのは、楽しいとまでは行かずとも、和むことは確かだ。
そして、そのような感覚を我が部の女性陣と共有出来ないのは、少しばかり寂しいとも思う。
だからこそ、俺はあのような妄言を口走ってしまったわけで……というか、今思えば、別に俺が女にならずとも、ハルヒ1人が男になればいいのではないか?
まわりに迷惑をかけず自分自身の性別を変えるだけならば、それは本人の自由だし、他の団員達も無理に反対することもないだろう。
しかし、ハルヒが男、か。
そこまで考えた、その時。
キョン「……ん?」
ふと気配を感じて辺りを見渡すと、隣に長門が並んで歩いていて、そんな神出鬼没な彼女が不意に俺の手を取ってきた。
その後、部室に戻った俺と不審者は、ハルヒの羨ましそうな視線を浴びながら、帰り支度をして帰路についた。
男の俺からするとよくわからんが、ハルヒはどうも連れションに夢を見過ぎているようだ。
しかしまあ、気持ちはわからんでもない。
今日みたいな得体の知れない不審者との連れションは御免だが、谷口や国木田なんかと連れ立って用を済ませるのは、楽しいとまでは行かずとも、和むことは確かだ。
そして、そのような感覚を我が部の女性陣と共有出来ないのは、少しばかり寂しいとも思う。
だからこそ、俺はあのような妄言を口走ってしまったわけで……というか、今思えば、別に俺が女にならずとも、ハルヒ1人が男になればいいのではないか?
まわりに迷惑をかけず自分自身の性別を変えるだけならば、それは本人の自由だし、他の団員達も無理に反対することもないだろう。
しかし、ハルヒが男、か。
そこまで考えた、その時。
キョン「……ん?」
ふと気配を感じて辺りを見渡すと、隣に長門が並んで歩いていて、そんな神出鬼没な彼女が不意に俺の手を取ってきた。
13:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/02/26(日) 23:46:23.32 :Erqo33dK0
柔らかで、ひんやりとしたその手の感触に戸惑い、まるで意図がわからず呆気に取られていると……
長門「……はむっ」
いきなり手首に噛み付かれた。
キョン「お、おい!いきなりどうしたんだよ、長門?」
甘噛みにも似た、むず痒い疼痛でようやく我に返った俺が慌てて、問いただすと、彼女はいつも通り感情を感じさせない声音で、短くこう説明した。
長門「……おまじない」
なるほど……おまじない、か。
いや、まったく意味がわからない。
しかし、この情報統合思念体お手製の対有機生命体用、ヒューマノイド・インターフェースが取る行動について全てを理解するなど、平凡な男子高校生には不可能なので、せいぜい甘噛みされたことを喜んでおくことにしよう。
それで、なんだっけ?
ああ、ハルヒが男になったら、だっけ?
そんなことを考えていたっけ。
俺は未だに少し疼く手首をさすりつつ、仮にハルヒの願望が叶い、あいつが男になれば、さっきの長門の手の感触のような、女としての心地良い部分が失われてしまうこと想像して……
それはなんだか、嫌だなと。
そう思わずにはいられなかったのだった。
柔らかで、ひんやりとしたその手の感触に戸惑い、まるで意図がわからず呆気に取られていると……
長門「……はむっ」
いきなり手首に噛み付かれた。
キョン「お、おい!いきなりどうしたんだよ、長門?」
甘噛みにも似た、むず痒い疼痛でようやく我に返った俺が慌てて、問いただすと、彼女はいつも通り感情を感じさせない声音で、短くこう説明した。
長門「……おまじない」
なるほど……おまじない、か。
いや、まったく意味がわからない。
しかし、この情報統合思念体お手製の対有機生命体用、ヒューマノイド・インターフェースが取る行動について全てを理解するなど、平凡な男子高校生には不可能なので、せいぜい甘噛みされたことを喜んでおくことにしよう。
それで、なんだっけ?
ああ、ハルヒが男になったら、だっけ?
そんなことを考えていたっけ。
俺は未だに少し疼く手首をさすりつつ、仮にハルヒの願望が叶い、あいつが男になれば、さっきの長門の手の感触のような、女としての心地良い部分が失われてしまうこと想像して……
それはなんだか、嫌だなと。
そう思わずにはいられなかったのだった。
14:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/02/26(日) 23:50:41.77 :Erqo33dK0
翌朝。
キョンの妹「朝だよ~!おーきーてー!!」
けたたましい目覚まし時計のベル……
よりも早く、妹が起こしにきた。
モゾモゾと布団から這い出て時計を確認すると、まだ起床時間の30分前。
あと5分どころか、あと30分寝かせて欲しい。
しかしながら、この妹にそんな要求がまかり通る筈もなく、渋々俺は身を起こした。
まず感じたことは、なんだか身が軽い。
頭も、腕も、上半身全体が、10キロ20キロは軽くなった感覚。
昨日風呂に入れた入浴剤が余程の効き目だったのだろうか?
そんなことをボンヤリ考え、首を傾げると……
キョン「……ん?」
パサリと、長い髪の束が、肩口から胸元に滑り落ちた。
ぞくりと、背筋が震える。
なんだこの髪は。
一体誰の髪だ?
まず脳裏によぎったのは呪いの人形。
夜な夜な髪が伸びるという、アレだ。
しかしながら、俺の部屋にはそんな曰くつきの日本人形はおろか、ぬいぐるみの類いすら置いた覚えはない。
ならば、この髪は一体……?
恐る恐る、割と手入れが行き届いているような艶やかな長い髪に手を伸ばし、引っ張ってみると……
キョン「いてっ!?」
なんのことはない。
この髪はどうやら、自分の髪だったようだ。
翌朝。
キョンの妹「朝だよ~!おーきーてー!!」
けたたましい目覚まし時計のベル……
よりも早く、妹が起こしにきた。
モゾモゾと布団から這い出て時計を確認すると、まだ起床時間の30分前。
あと5分どころか、あと30分寝かせて欲しい。
しかしながら、この妹にそんな要求がまかり通る筈もなく、渋々俺は身を起こした。
まず感じたことは、なんだか身が軽い。
頭も、腕も、上半身全体が、10キロ20キロは軽くなった感覚。
昨日風呂に入れた入浴剤が余程の効き目だったのだろうか?
そんなことをボンヤリ考え、首を傾げると……
キョン「……ん?」
パサリと、長い髪の束が、肩口から胸元に滑り落ちた。
ぞくりと、背筋が震える。
なんだこの髪は。
一体誰の髪だ?
まず脳裏によぎったのは呪いの人形。
夜な夜な髪が伸びるという、アレだ。
しかしながら、俺の部屋にはそんな曰くつきの日本人形はおろか、ぬいぐるみの類いすら置いた覚えはない。
ならば、この髪は一体……?
恐る恐る、割と手入れが行き届いているような艶やかな長い髪に手を伸ばし、引っ張ってみると……
キョン「いてっ!?」
なんのことはない。
この髪はどうやら、自分の髪だったようだ。
16:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/02/26(日) 23:53:49.09 :Erqo33dK0
キョンの妹「お姉ちゃん何してんのー?」
キョン「お、お姉ちゃん……だと?」
どうやら一夜にして背中の中ほどまで伸びてしまったマイヘヤーを、さわさわニギニギしていると、ポカンと口を開いた妹が不思議な物を見るかのような目をして、俺のことを『お姉ちゃん』と、そう呼んだ。
俺は今、妹から『お姉ちゃん』と、呼ばれたのだ。
Why? 何故?
頬が引きつり、金縛りにあったかのようにぎこちない首をなんとか下に向けると……
キョン「なんだ……良かった」
そこには断崖絶壁が広がっており、安堵のため息が漏れた。
よくよく見れば、パジャマの襟元から覗く鎖骨などが随分華奢になっているようだが、このまっ平らな胸で、女ということはあるまい。
キョン「って、あれ?あーごほんごほんっ!あー!あー!……なんか、声がおかしいな」
そこでようやく、自分の声がおかしいことに気づいた。
常時裏返っているような、か細い声。
少し掠れているような声音に、風邪かとも思ったが、特に喉が痛いということなく、体調は至って普通だ。
しかし、これはひょっとすると、ひょっとするかも知れない。
そう思い、視線を巡らせた先に、それはあった。
昨日、俺が脱ぎ散らかした制服のズボン……の代わりに、見覚えのあるデザインのスカートが、床に花のように広がっていたのだった。
キョンの妹「お姉ちゃん何してんのー?」
キョン「お、お姉ちゃん……だと?」
どうやら一夜にして背中の中ほどまで伸びてしまったマイヘヤーを、さわさわニギニギしていると、ポカンと口を開いた妹が不思議な物を見るかのような目をして、俺のことを『お姉ちゃん』と、そう呼んだ。
俺は今、妹から『お姉ちゃん』と、呼ばれたのだ。
Why? 何故?
頬が引きつり、金縛りにあったかのようにぎこちない首をなんとか下に向けると……
キョン「なんだ……良かった」
そこには断崖絶壁が広がっており、安堵のため息が漏れた。
よくよく見れば、パジャマの襟元から覗く鎖骨などが随分華奢になっているようだが、このまっ平らな胸で、女ということはあるまい。
キョン「って、あれ?あーごほんごほんっ!あー!あー!……なんか、声がおかしいな」
そこでようやく、自分の声がおかしいことに気づいた。
常時裏返っているような、か細い声。
少し掠れているような声音に、風邪かとも思ったが、特に喉が痛いということなく、体調は至って普通だ。
しかし、これはひょっとすると、ひょっとするかも知れない。
そう思い、視線を巡らせた先に、それはあった。
昨日、俺が脱ぎ散らかした制服のズボン……の代わりに、見覚えのあるデザインのスカートが、床に花のように広がっていたのだった。
17:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/02/26(日) 23:56:34.04 :Erqo33dK0
いやはや、参った。
あの後、妹の手前、取り乱すわけにはいかず、素知らぬ顔で朝食を摂り、歯磨き洗顔をして、邪魔な髪を悪戦苦闘しつつ後頭部で一本に束ねた俺は、ようやく完全に状況を把握した。
俺は、本当に女になってしまったみたいだ。
昨日のハルヒの言動からして、原因は明らかである。
どうやらあいつは、あの願望を本当に叶えてしまったらしい。
まったく、いくらハルヒと言えども妄想と現実の区別くらいはつくだろうと高を括っていたが、そんなことはなかったようだ。
最近はそれなりに物分かりが良くなってきたように見えていたので、このような結果になってしまったことは少し残念だ。
だが、くよくよしてばかりもしてられない。
さっき髪を結う際にも感じたが、この身体は色々と面倒だ。
いつだかハルヒが言ってたな……
ポニーテールは簡単そうに見えて、ちゃんとするのは大変だと。
その大変さを俺は今日、実感したのだ。
そう、女は色々と面倒で、色々と問題がある。
問題は山積みだが、目下の問題は……
キョン「……制服の着方がわからん」
目の前に広げた制服を矯めつ眇めつ眺め、どうしたものかと、この日何度目か知れないため息を吐いたのだった。
いやはや、参った。
あの後、妹の手前、取り乱すわけにはいかず、素知らぬ顔で朝食を摂り、歯磨き洗顔をして、邪魔な髪を悪戦苦闘しつつ後頭部で一本に束ねた俺は、ようやく完全に状況を把握した。
俺は、本当に女になってしまったみたいだ。
昨日のハルヒの言動からして、原因は明らかである。
どうやらあいつは、あの願望を本当に叶えてしまったらしい。
まったく、いくらハルヒと言えども妄想と現実の区別くらいはつくだろうと高を括っていたが、そんなことはなかったようだ。
最近はそれなりに物分かりが良くなってきたように見えていたので、このような結果になってしまったことは少し残念だ。
だが、くよくよしてばかりもしてられない。
さっき髪を結う際にも感じたが、この身体は色々と面倒だ。
いつだかハルヒが言ってたな……
ポニーテールは簡単そうに見えて、ちゃんとするのは大変だと。
その大変さを俺は今日、実感したのだ。
そう、女は色々と面倒で、色々と問題がある。
問題は山積みだが、目下の問題は……
キョン「……制服の着方がわからん」
目の前に広げた制服を矯めつ眇めつ眺め、どうしたものかと、この日何度目か知れないため息を吐いたのだった。
18:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/02/26(日) 23:59:02.11 :Erqo33dK0
試行錯誤を繰り返し、なんとか制服を着用した俺はトボトボと通学路を歩く。
キョン「……寒い」
奥歯を噛み締めつつ、白い息と共に思わず漏れる恨み言。
幸いなことに、いつも着用しているお気に入りの上着とマフラーは女の俺も愛用しているらしく、上半身は暖かい。
しかし、下半身は……
キョン「……おかしいだろ。世の中の女子どもはどうしてこれで耐えられるんだ……?」
このスカートという衣類の実用性に首を傾げざるを得ない。
いや、それもこれもこの季節で生足を晒している俺が悪いのだが……え?それは何故かって?
何を隠そう、タンスに収まっていた、黒いタイツを履くことを断念したからである。
いや、一度は履いてみたのだが……あれを履く際には少々コツがあるらしく、思いっきり伝線させてしまったのだ。
まあ、この際そのまま履き続けるのもやぶさかではないとも思ったのだが……どうもタイツのあの感覚が慣れず、今に至るというわけだ。
そして、いくら厚手と言えども、あんなものを一枚履くか履かないかで大差なかろうと、そう思っていた。
しかし、これは後日知ったのだが、それを履くか履かないかで女子の下半身事情は大きく変わるらしい。
タイツは偉大である。
だが、この時の俺はそんなことなど露知らず、この寒空の下、生足上等で震えながら登校する憂き目に遭っている、というわけだ。
無知は罪である。
そして俺は今、罰を受けている。
唯一増えた知識は、女の俺はこの季節、色気の欠けらもない灰色の毛糸のパンツを穿いているということだけだった。
試行錯誤を繰り返し、なんとか制服を着用した俺はトボトボと通学路を歩く。
キョン「……寒い」
奥歯を噛み締めつつ、白い息と共に思わず漏れる恨み言。
幸いなことに、いつも着用しているお気に入りの上着とマフラーは女の俺も愛用しているらしく、上半身は暖かい。
しかし、下半身は……
キョン「……おかしいだろ。世の中の女子どもはどうしてこれで耐えられるんだ……?」
このスカートという衣類の実用性に首を傾げざるを得ない。
いや、それもこれもこの季節で生足を晒している俺が悪いのだが……え?それは何故かって?
何を隠そう、タンスに収まっていた、黒いタイツを履くことを断念したからである。
いや、一度は履いてみたのだが……あれを履く際には少々コツがあるらしく、思いっきり伝線させてしまったのだ。
まあ、この際そのまま履き続けるのもやぶさかではないとも思ったのだが……どうもタイツのあの感覚が慣れず、今に至るというわけだ。
そして、いくら厚手と言えども、あんなものを一枚履くか履かないかで大差なかろうと、そう思っていた。
しかし、これは後日知ったのだが、それを履くか履かないかで女子の下半身事情は大きく変わるらしい。
タイツは偉大である。
だが、この時の俺はそんなことなど露知らず、この寒空の下、生足上等で震えながら登校する憂き目に遭っている、というわけだ。
無知は罪である。
そして俺は今、罰を受けている。
唯一増えた知識は、女の俺はこの季節、色気の欠けらもない灰色の毛糸のパンツを穿いているということだけだった。
19:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/02/27(月) 00:01:01.64 :HHOZvDS20
谷口「よぉ!キョン子!!」
キョン「どぁっ!?」
ガタガタ震えながら歩いていると、突然背中を叩かれ、その衝撃に吹っ飛びそうになってる俺の背に、馬鹿みたいな大声が響いた。
馬鹿谷口……
お前、いつからそんなに当たりが強くなったんだ?
いや、俺が軽くなっただけか。
本当にやめて頂きたい。
ただでさえ、様々な問題を抱えている俺を刺激しないでくれ。
谷口「なんだよキョン子、生足じゃねぇか。俺様を誘ってんのか?」
キョン「んなわけ……」
谷口「まあ、てめぇなんざ、たとえこの世で最後の生き残りになったとしてもお断りだけどな!!」
この、タコ野郎。
その時は俺がお前の息の根を止めてやる。
いや、それより気になることがある。
さっきからコイツの俺の呼び方に、く妙な違和感があるんだが……
谷口「あん?なんだ?馬鹿みたいな顔してよ」
キョン「お前にだけは馬鹿にされたくない。……それより谷口、お前今、俺のこと、おかしな呼び方しなかったか?」
谷口「何言ってんだ?自分のあだ名がおかしいって今頃気づいたのか?だがまあ、さすがに同情するぜ。なにせ、『キョン子』だもんな。ひでぇあだ名なことは確かだ」
『キョン子』……だと?
なんだそれは。
曲がりなりにも花の女子高生のあだ名として、それはあんまりではないだろうか。
しかも、谷口の口ぶりからして、そのあだ名は既に定着しているらしい。
どうやら俺はこれから、『キョン子』として暮らしていかなければならないようだ。
谷口「よぉ!キョン子!!」
キョン「どぁっ!?」
ガタガタ震えながら歩いていると、突然背中を叩かれ、その衝撃に吹っ飛びそうになってる俺の背に、馬鹿みたいな大声が響いた。
馬鹿谷口……
お前、いつからそんなに当たりが強くなったんだ?
いや、俺が軽くなっただけか。
本当にやめて頂きたい。
ただでさえ、様々な問題を抱えている俺を刺激しないでくれ。
谷口「なんだよキョン子、生足じゃねぇか。俺様を誘ってんのか?」
キョン「んなわけ……」
谷口「まあ、てめぇなんざ、たとえこの世で最後の生き残りになったとしてもお断りだけどな!!」
この、タコ野郎。
その時は俺がお前の息の根を止めてやる。
いや、それより気になることがある。
さっきからコイツの俺の呼び方に、く妙な違和感があるんだが……
谷口「あん?なんだ?馬鹿みたいな顔してよ」
キョン「お前にだけは馬鹿にされたくない。……それより谷口、お前今、俺のこと、おかしな呼び方しなかったか?」
谷口「何言ってんだ?自分のあだ名がおかしいって今頃気づいたのか?だがまあ、さすがに同情するぜ。なにせ、『キョン子』だもんな。ひでぇあだ名なことは確かだ」
『キョン子』……だと?
なんだそれは。
曲がりなりにも花の女子高生のあだ名として、それはあんまりではないだろうか。
しかも、谷口の口ぶりからして、そのあだ名は既に定着しているらしい。
どうやら俺はこれから、『キョン子』として暮らしていかなければならないようだ。
20:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/02/27(月) 00:03:05.78 :HHOZvDS20
ID変わりましたが>>1です。
続きです。
谷口「あん?どうしたキョン子。教室に行かねぇのか?」
キョン子「ちょっと用があってな……もし出欠に間に合わないようだったら、岡部には体調が悪いから保健室に行ったとでも言っといてくれ」
谷口「体調が悪いだぁ?この糞寒いのに生足出してっからだろ。んなことよりお前、なんか口調がおかし……」
キョン子「じゃあな!任せたぞ、谷口!!」
余計なことを詮索される前に、ようやく辿り着いた我が母校の下駄箱から足早に立ち去る。
ようやく……そう、ようやくだ。
正直、俺はかなり焦っていた。
しかし、なんとか間に合ったとしても、その先どうすればいいのかわからない。
不安に押し潰されそうになりながら、最低限、なるべく人気のないところに……そう思ってさまよっていると、いつの間にか見知った文芸部室のまで来ていた。
この辺りなら、人気はないだろう。
そう確信した俺は、いつも部活動の際、我が部の女性団員が使用しているその扉の前に立つ。
それは、女子トイレの扉だった。
ははっ。
知れず、笑い声が漏れる。
ここに入るって?
冗談じゃない。
俺にそんな特殊な趣味はない。
しかし……
ここに入らなければ、俺は人として終わる。
それほど、現状は切羽詰まっていた。
どうする?
どうしたらいい?
本来なら朝起きたらすぐに済ませるべきだったこの懸案事項は、極度の混乱状態の中、棚上げし、しかし避けられぬ現実となってこの身に襲いかかっている。
俺は切実に……
おしっこがしたかった。
ID変わりましたが>>1です。
続きです。
谷口「あん?どうしたキョン子。教室に行かねぇのか?」
キョン子「ちょっと用があってな……もし出欠に間に合わないようだったら、岡部には体調が悪いから保健室に行ったとでも言っといてくれ」
谷口「体調が悪いだぁ?この糞寒いのに生足出してっからだろ。んなことよりお前、なんか口調がおかし……」
キョン子「じゃあな!任せたぞ、谷口!!」
余計なことを詮索される前に、ようやく辿り着いた我が母校の下駄箱から足早に立ち去る。
ようやく……そう、ようやくだ。
正直、俺はかなり焦っていた。
しかし、なんとか間に合ったとしても、その先どうすればいいのかわからない。
不安に押し潰されそうになりながら、最低限、なるべく人気のないところに……そう思ってさまよっていると、いつの間にか見知った文芸部室のまで来ていた。
この辺りなら、人気はないだろう。
そう確信した俺は、いつも部活動の際、我が部の女性団員が使用しているその扉の前に立つ。
それは、女子トイレの扉だった。
ははっ。
知れず、笑い声が漏れる。
ここに入るって?
冗談じゃない。
俺にそんな特殊な趣味はない。
しかし……
ここに入らなければ、俺は人として終わる。
それほど、現状は切羽詰まっていた。
どうする?
どうしたらいい?
本来なら朝起きたらすぐに済ませるべきだったこの懸案事項は、極度の混乱状態の中、棚上げし、しかし避けられぬ現実となってこの身に襲いかかっている。
俺は切実に……
おしっこがしたかった。
21:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/02/27(月) 00:05:47.89 :HHOZvDS20
キョン子「……ちくしょう」
足を内股にして、もじもじとしていても埒があかない。
このままでは漏らすだけだ。
女になって数時間。
いつまでこの状態が続き、そして男に戻れるのかどうかすら定かではない現状、『お漏らし女』の烙印を押されることだけはなんとしても避けたい。
どの道、このまま『漏らす』という選択肢はないのだ。
行くか?
行くしかないのか?
ええい!ままよ!!
ついに決断した俺は女子トイレの扉に手をかけ……
????「……入って」
キョン子「なっ!?なんだお前は!?」
こちらが開くよりも早く、内側から扉が開き、中に居た不審人物に腕を掴まれ、
そのままトイレの中へと引っ張り込まれたのだった。
キョン子「……ちくしょう」
足を内股にして、もじもじとしていても埒があかない。
このままでは漏らすだけだ。
女になって数時間。
いつまでこの状態が続き、そして男に戻れるのかどうかすら定かではない現状、『お漏らし女』の烙印を押されることだけはなんとしても避けたい。
どの道、このまま『漏らす』という選択肢はないのだ。
行くか?
行くしかないのか?
ええい!ままよ!!
ついに決断した俺は女子トイレの扉に手をかけ……
????「……入って」
キョン子「なっ!?なんだお前は!?」
こちらが開くよりも早く、内側から扉が開き、中に居た不審人物に腕を掴まれ、
そのままトイレの中へと引っ張り込まれたのだった。
22:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/02/27(月) 00:08:22.76 :HHOZvDS20
……不味い。
これはすこぶる不味い状況だ。
????「……」
目の前には1人の青年。
背丈は男の時の俺よりは小柄だが、女になってしまった今の俺よりは頭一つ分高い。
さらりとしたストレートヘヤーは如何にも触り心地が良さそうで、もみあげがふわっと長めにカットされている分、輪郭のシャープさを引き立たせている。
端正な顔立ちではあるが、決して派手な印象はない。
むしろ地味で目立たない部類のそんな彼だが、感情を感じさせないその両の目は、ひんやりと冷気すら感じさせるほど冷え切っている。
その上、真一文字に結んだ口元も相まって、何を考えているのか全く読めない。
せめて何か喋ってくれよ……
ミステリアス、とでも言えば聞こえは良いが、なにせここは女子トイレの中である。
女の俺の目からは……いや、誰の目から見ても、彼は変質者にしか映らないだろう。
つまり、これはあれか。
俺は……これからその、酷い目に……?
ッ!?
いやいやいやいや!
冗談じゃない!!
キョン子「ッ……ま、待ってくれ!!は、話し合おう!!」
慌てて待ったをかける俺に青年は首を傾げて、静かに口を開いた。
????「……話し合っている余裕は、ない」
問答無用かよ!?
キョン子「待てって!!いいか?よく見ろ!!こんな真っ平らな胸の、色気なんざ欠けらもない俺を襲ったところで一体何になるってんだ!?しかも今日は毛糸のパンツだぞ!?わかってんのかこの野郎!!」
少しばかり口が滑ったような気もするが、今の俺にできることはこうして怒鳴り散らすことぐらいしかない。
今朝の谷口の一件からしてみても、女の俺が腕力でこの男に勝つことは出来ないだろう。
なんだこれ……
身体が震えてきやがった。
怖い。
俺は初めて、『男』という存在に恐怖した。
しかし、無情にもそんな俺の怒鳴り声にも全く意に介した様子のない青年は、相変わらず感情を感じさせない冷たい瞳でこちらを射抜き……
????「……私は、貴女を襲うつもりはない」
長い沈黙の末に、ぽつりとそう呟いた。
……不味い。
これはすこぶる不味い状況だ。
????「……」
目の前には1人の青年。
背丈は男の時の俺よりは小柄だが、女になってしまった今の俺よりは頭一つ分高い。
さらりとしたストレートヘヤーは如何にも触り心地が良さそうで、もみあげがふわっと長めにカットされている分、輪郭のシャープさを引き立たせている。
端正な顔立ちではあるが、決して派手な印象はない。
むしろ地味で目立たない部類のそんな彼だが、感情を感じさせないその両の目は、ひんやりと冷気すら感じさせるほど冷え切っている。
その上、真一文字に結んだ口元も相まって、何を考えているのか全く読めない。
せめて何か喋ってくれよ……
ミステリアス、とでも言えば聞こえは良いが、なにせここは女子トイレの中である。
女の俺の目からは……いや、誰の目から見ても、彼は変質者にしか映らないだろう。
つまり、これはあれか。
俺は……これからその、酷い目に……?
ッ!?
いやいやいやいや!
冗談じゃない!!
キョン子「ッ……ま、待ってくれ!!は、話し合おう!!」
慌てて待ったをかける俺に青年は首を傾げて、静かに口を開いた。
????「……話し合っている余裕は、ない」
問答無用かよ!?
キョン子「待てって!!いいか?よく見ろ!!こんな真っ平らな胸の、色気なんざ欠けらもない俺を襲ったところで一体何になるってんだ!?しかも今日は毛糸のパンツだぞ!?わかってんのかこの野郎!!」
少しばかり口が滑ったような気もするが、今の俺にできることはこうして怒鳴り散らすことぐらいしかない。
今朝の谷口の一件からしてみても、女の俺が腕力でこの男に勝つことは出来ないだろう。
なんだこれ……
身体が震えてきやがった。
怖い。
俺は初めて、『男』という存在に恐怖した。
しかし、無情にもそんな俺の怒鳴り声にも全く意に介した様子のない青年は、相変わらず感情を感じさせない冷たい瞳でこちらを射抜き……
????「……私は、貴女を襲うつもりはない」
長い沈黙の末に、ぽつりとそう呟いた。
24:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/02/27(月) 00:13:21.02 :HHOZvDS20
キョン子「そ、そうか……なら良かった」
彼の淡々としたその物言いに、少々鼻白んだ俺だったが、男は狼であることを思い出し、緩みかけた気を引き締め直した。
ともあれ、幸いなことに、どうやらこの青年はまるっきり話が通じないという訳ではなさそうだ。
それなら対話あるのみだ。
キョン子「あ、あのさ……1つだけ、聞かせて貰ってもいいか?」
????「……なに?」
色々聞きたいことはあるが、まず最初に聞くべきことはこれだろう。
キョン子「お前はどうしてこんなところにいるんだ?ここで一体何をしていた?」
これをはっきりさせないことには先に進めないだろう。
なにせここは女子トイレだ。
男が居ていい場所ではない。
何か納得出来る理由を……そうだな、こいつは実は女で、訳あって男子生徒の制服を着ているとか、そんな理由であれば、安心出来るのだが。
????「……貴女を、待っていた」
あー……これはもう、駄目かもわからんね。
キョン子「そ、そうか……なら良かった」
彼の淡々としたその物言いに、少々鼻白んだ俺だったが、男は狼であることを思い出し、緩みかけた気を引き締め直した。
ともあれ、幸いなことに、どうやらこの青年はまるっきり話が通じないという訳ではなさそうだ。
それなら対話あるのみだ。
キョン子「あ、あのさ……1つだけ、聞かせて貰ってもいいか?」
????「……なに?」
色々聞きたいことはあるが、まず最初に聞くべきことはこれだろう。
キョン子「お前はどうしてこんなところにいるんだ?ここで一体何をしていた?」
これをはっきりさせないことには先に進めないだろう。
なにせここは女子トイレだ。
男が居ていい場所ではない。
何か納得出来る理由を……そうだな、こいつは実は女で、訳あって男子生徒の制服を着ているとか、そんな理由であれば、安心出来るのだが。
????「……貴女を、待っていた」
あー……これはもう、駄目かもわからんね。
26:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/02/27(月) 00:16:40.43 :HHOZvDS20
キョン子「ま、待っていた?俺を?」
????「……そう」
こえーよっ!
それはつまり、待ち伏せってことだろ?
すると、こいつは俺のストーカーか何かか?
勘弁してくれ。
だが、血の気が引いたおかげで、少しばかり冷静になれた。
そもそも、こいつの言動は不可解だ。
いや、そもそも存在自体が不可解なのだが。
まず気になるのは、どうして俺がここのトイレを使用すると知っていたのかである。
女の俺が普段からこのトイレしか使用しない、という奇妙な習性があるのなら話は別だ。
しかし、そうでなければ、予知能力でもない限り、今日に限ってわざわざこんな人気のないトイレに向かうことなど誰にも分かるはずもない。
そんな風にこちらの考えや行動を見透かせる人物となると、この無口な彼はよほど女の俺に近しい者なのか?
……いや待てよ?
今日の俺の行動は、朝起きたら女になっていた為に取ったもので、それすらも把握してそれを予測したとなると……
そんなことが出来るのは、
人ならざる力を持つ『彼女』しかあり得ない。
しかし、まさか……本当に?
確信が持てず、訝しげな視線を向けると、彼はおもむろに胸元のポケットからそれを取り出し……装着した。
長門「……私の名前は、長門有希」
かつてのトレードマークと言える眼鏡を身につけたその姿を見て……
ようやく俺は、彼が『彼女』なのだと、理解した。
キョン子「ま、待っていた?俺を?」
????「……そう」
こえーよっ!
それはつまり、待ち伏せってことだろ?
すると、こいつは俺のストーカーか何かか?
勘弁してくれ。
だが、血の気が引いたおかげで、少しばかり冷静になれた。
そもそも、こいつの言動は不可解だ。
いや、そもそも存在自体が不可解なのだが。
まず気になるのは、どうして俺がここのトイレを使用すると知っていたのかである。
女の俺が普段からこのトイレしか使用しない、という奇妙な習性があるのなら話は別だ。
しかし、そうでなければ、予知能力でもない限り、今日に限ってわざわざこんな人気のないトイレに向かうことなど誰にも分かるはずもない。
そんな風にこちらの考えや行動を見透かせる人物となると、この無口な彼はよほど女の俺に近しい者なのか?
……いや待てよ?
今日の俺の行動は、朝起きたら女になっていた為に取ったもので、それすらも把握してそれを予測したとなると……
そんなことが出来るのは、
人ならざる力を持つ『彼女』しかあり得ない。
しかし、まさか……本当に?
確信が持てず、訝しげな視線を向けると、彼はおもむろに胸元のポケットからそれを取り出し……装着した。
長門「……私の名前は、長門有希」
かつてのトレードマークと言える眼鏡を身につけたその姿を見て……
ようやく俺は、彼が『彼女』なのだと、理解した。
28:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/02/27(月) 00:22:42.24 :HHOZvDS20
連投してしまい、すみません。
続きです……
変質者かに思われた青年は、なんと長門だった。
言われて見れば……なるほど。
サラリとした触り心地の良さそうなストレートヘヤーや、一見すると地味ではあるが端正な顔立ちなどは、確かに見知った彼女を連想させるものであり、そして何よりその無表情さこそ、彼が『彼女』である証拠と言えた。
というか、どうして今まで気づかなかったんだ?
己の道化っぷりに、無性に腹が立ってきた。
しかしながら、蓋を開ければこのような結果に落ち着いたものの、今の彼はどこからどう見ても男であり、そして先ほど名乗ったその名も、俺が慣れ親しんだそれとは少々違っていた。
ここは確認の意味も込めて、そのことを質問してみよう。
キョン子「長門……お前は本当に長門なのか?」
長門「……本当」
キョン子「それなら、もう一度名前を聞かせてくれ」
長門「……私の名前は、長門ゆうき」
ここだ。
この部分だけ、俺の知っている長門とは異なる。
長門の名前は、『有希』と書いて、『ゆき』と読む。
しかし、この長門は『ゆうき』と名乗った。
読み方を変えれば、そのように読むことは出来るが、果たしてこの長門の名は同じ漢字なのだろうか?
キョン子「ちなみに漢字は、有機物の『有』と、希望の『希』で合っているか?」
長門「……合っている」
それならば、男として不自然ではないように世界が辻褄を合わせた、ということなのだろう。
俺が不本意ながら『キョン子』などと呼ばれているように、だ。
しかし、『有希』と書いて『ゆうき』か……
なかなかどうして、上手い具合に改名したものだ。
『キョン子』の俺からしてみれば、羨ましい限りである。
他にも聞きたいことは山ほどある。
長門なら、俺の知りたいことの答えを、全て網羅しているに違いない。
しかし困った。
聞きたいことが多すぎて、何から聞けば良いかわからない。
途方に暮れた俺が頭を抱えていると、再び長門が重い口を開き……
長門「……今はまず、するべきことがある」
その言葉で我に返り、下腹部に渦巻く難問に、最優先で取り組むことを決めたのだった。
連投してしまい、すみません。
続きです……
変質者かに思われた青年は、なんと長門だった。
言われて見れば……なるほど。
サラリとした触り心地の良さそうなストレートヘヤーや、一見すると地味ではあるが端正な顔立ちなどは、確かに見知った彼女を連想させるものであり、そして何よりその無表情さこそ、彼が『彼女』である証拠と言えた。
というか、どうして今まで気づかなかったんだ?
己の道化っぷりに、無性に腹が立ってきた。
しかしながら、蓋を開ければこのような結果に落ち着いたものの、今の彼はどこからどう見ても男であり、そして先ほど名乗ったその名も、俺が慣れ親しんだそれとは少々違っていた。
ここは確認の意味も込めて、そのことを質問してみよう。
キョン子「長門……お前は本当に長門なのか?」
長門「……本当」
キョン子「それなら、もう一度名前を聞かせてくれ」
長門「……私の名前は、長門ゆうき」
ここだ。
この部分だけ、俺の知っている長門とは異なる。
長門の名前は、『有希』と書いて、『ゆき』と読む。
しかし、この長門は『ゆうき』と名乗った。
読み方を変えれば、そのように読むことは出来るが、果たしてこの長門の名は同じ漢字なのだろうか?
キョン子「ちなみに漢字は、有機物の『有』と、希望の『希』で合っているか?」
長門「……合っている」
それならば、男として不自然ではないように世界が辻褄を合わせた、ということなのだろう。
俺が不本意ながら『キョン子』などと呼ばれているように、だ。
しかし、『有希』と書いて『ゆうき』か……
なかなかどうして、上手い具合に改名したものだ。
『キョン子』の俺からしてみれば、羨ましい限りである。
他にも聞きたいことは山ほどある。
長門なら、俺の知りたいことの答えを、全て網羅しているに違いない。
しかし困った。
聞きたいことが多すぎて、何から聞けば良いかわからない。
途方に暮れた俺が頭を抱えていると、再び長門が重い口を開き……
長門「……今はまず、するべきことがある」
その言葉で我に返り、下腹部に渦巻く難問に、最優先で取り組むことを決めたのだった。
29:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/02/27(月) 00:27:58.48 :HHOZvDS20
いやはや、スッキリした。
俺の放尿シーンなど、どこにも需要があるとは思えないので、詳しいことは割愛させて頂くが、特筆すべき点があるとすれば、そうだな……
勢いが凄い。
いや、本当に。
我が身のことながら、びびった。
臨界点に達した膀胱から吐き出されたそれは、さながらウォーターカッターのごとく放出され、余りの勢いに便器に穴が空くのではないかと心配するほどのものだった。
男の放尿が『ジョボジョボ』だとしたら、女の放尿は『プシャーッ!!』という表現が相応しいだろう。
最短距離で尿道を駆け抜ける感覚は、筆舌に尽くし難い。
おっと。
割愛すると言いつつ、思いの外長く回想してしまったな。
気分を害された方には申し訳ない。
そんなこんなで排泄を終えた俺だったのだが、息つく暇もなく、新たな問題が待ち受けていた。
そう。言わずもがな、
『後始末』という名の、大問題である。
いやはや、スッキリした。
俺の放尿シーンなど、どこにも需要があるとは思えないので、詳しいことは割愛させて頂くが、特筆すべき点があるとすれば、そうだな……
勢いが凄い。
いや、本当に。
我が身のことながら、びびった。
臨界点に達した膀胱から吐き出されたそれは、さながらウォーターカッターのごとく放出され、余りの勢いに便器に穴が空くのではないかと心配するほどのものだった。
男の放尿が『ジョボジョボ』だとしたら、女の放尿は『プシャーッ!!』という表現が相応しいだろう。
最短距離で尿道を駆け抜ける感覚は、筆舌に尽くし難い。
おっと。
割愛すると言いつつ、思いの外長く回想してしまったな。
気分を害された方には申し訳ない。
そんなこんなで排泄を終えた俺だったのだが、息つく暇もなく、新たな問題が待ち受けていた。
そう。言わずもがな、
『後始末』という名の、大問題である。
30:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/02/27(月) 00:30:25.25 :HHOZvDS20
いや、出し終えた排泄物に関しては、ただ流すだけなので何ら問題はないのだが、排泄し終えた局部をどうするかが、問題だった。
まさか、このまま知らぬ顔で下着を穿き直すわけにもいくまい。
今現在、ただでさえ防御力皆無なスカートを、あろうことか生足で穿いているのだ。
きちんと処置しなければ、周囲にアンモニア臭が漂うことは間違いなし。
くそっ……参ったな。
男の身体であればピッピッと水気を飛ばして、それで終わりなのだが、女となってしまった今、そうすることは物理的に不可解だ。
さて、どうしたものか。
考えあぐねていると、俺が入った個室の前で待機していた長門から、ドア越しに声が掛けられた。
長門「……紙を、何度か軽く押し当てれば、それでいい」
なるほど。
了解した。
言われた通り、丸めたトイレットペーパーを局部にポンポン押し当て、水気を取る。
その拍子にピクリと身を竦ませたことは内緒だ。
その後、なるべく視線を下げずに下着を定位置に上げ終え、額の汗を拭った俺は、一仕事を終えた安堵から長い長いため息を吐き出した。
キョン子「はぁ……」
まったく、肩が凝っちまうぜ。
ちなみに余談ではあるが、灰色の毛糸のパンツの下には飾り気のない普通のパンツを穿いていたようで、そのおかげで毛糸がチクチクすることがなかったらしい。
用法として、これが正しいのかどうか俺にはわからないが、ともあれ、飾り気のない普通のパンツの色は……白だったと、明記しておこう。
こうして、たかがトイレごときで神経を使い過ぎ、かなり気疲れした俺は、身を以て知った。
女の神秘には軽々しく触れてはいけない、ということを。
いや、出し終えた排泄物に関しては、ただ流すだけなので何ら問題はないのだが、排泄し終えた局部をどうするかが、問題だった。
まさか、このまま知らぬ顔で下着を穿き直すわけにもいくまい。
今現在、ただでさえ防御力皆無なスカートを、あろうことか生足で穿いているのだ。
きちんと処置しなければ、周囲にアンモニア臭が漂うことは間違いなし。
くそっ……参ったな。
男の身体であればピッピッと水気を飛ばして、それで終わりなのだが、女となってしまった今、そうすることは物理的に不可解だ。
さて、どうしたものか。
考えあぐねていると、俺が入った個室の前で待機していた長門から、ドア越しに声が掛けられた。
長門「……紙を、何度か軽く押し当てれば、それでいい」
なるほど。
了解した。
言われた通り、丸めたトイレットペーパーを局部にポンポン押し当て、水気を取る。
その拍子にピクリと身を竦ませたことは内緒だ。
その後、なるべく視線を下げずに下着を定位置に上げ終え、額の汗を拭った俺は、一仕事を終えた安堵から長い長いため息を吐き出した。
キョン子「はぁ……」
まったく、肩が凝っちまうぜ。
ちなみに余談ではあるが、灰色の毛糸のパンツの下には飾り気のない普通のパンツを穿いていたようで、そのおかげで毛糸がチクチクすることがなかったらしい。
用法として、これが正しいのかどうか俺にはわからないが、ともあれ、飾り気のない普通のパンツの色は……白だったと、明記しておこう。
こうして、たかがトイレごときで神経を使い過ぎ、かなり気疲れした俺は、身を以て知った。
女の神秘には軽々しく触れてはいけない、ということを。
31:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/02/27(月) 00:35:45.78 :HHOZvDS20
キョン子「待たせたな」
長門「……間に合って、良かった」
マジで漏らす5秒前だったからな。
その後の後始末を含めて、長門が居てくれて本当に助かった。
さて、そろそろ本題に入ろう。
排泄し終え、少しばかり余裕が出た俺は、忘れないうちに手を洗い、長門へと向き合った。
長門の背後には、ずらりと並ぶ全室個室の女子トイレ。
些か不自然なシチュエーションではあるが、
この際仕方あるまい。
キョン子「長門、状況を確認したい。見ての通り、俺は朝起きたら女になっていた。これはハルヒの仕業と見て、間違いないか?」
山ほどある訪ねたいことから厳選し、俺は口火を切ったのだった。
キョン子「待たせたな」
長門「……間に合って、良かった」
マジで漏らす5秒前だったからな。
その後の後始末を含めて、長門が居てくれて本当に助かった。
さて、そろそろ本題に入ろう。
排泄し終え、少しばかり余裕が出た俺は、忘れないうちに手を洗い、長門へと向き合った。
長門の背後には、ずらりと並ぶ全室個室の女子トイレ。
些か不自然なシチュエーションではあるが、
この際仕方あるまい。
キョン子「長門、状況を確認したい。見ての通り、俺は朝起きたら女になっていた。これはハルヒの仕業と見て、間違いないか?」
山ほどある訪ねたいことから厳選し、俺は口火を切ったのだった。
32:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/02/27(月) 00:38:52.54 :HHOZvDS20
長門「……間違い、ない」
俺の質問に長門は小さく頷き、肯定した。
キョン子「つまり、今のお前のその姿も、俺と同じ現象なんだな?」
長門「……そう」
被害を共有出来る人物がいるのは、心強い。
何せ、妹も谷口も平然と女の俺を受け入れてたからな。
問題を問題として認識出来なければ、助けを求めることすら望めないのだ。
キョン子「ちなみに、俺が本当は男だってことを認識している奴は、他にどのくらいいるんだ?」
長門「……私だけ」
だろうな。
世界が丸ごと改変されたのだ。
忘れもしない。
ハルヒが消失したあの日、
似たような状況を俺は経験している。
しかし妙だな。
何故世界改変の際に俺の認識を上書きしなかったのだろう?
長門はともかく、俺に男の時の記憶が残っているのは、不自然と言えよう。
恐らく、何かしら理由がある筈だ。
長門「……おまじないを、かけたから」
首を傾げて思案に耽る俺に、あっさりと長門は種明かしをした。
そういや、昨日手首を噛まれたな。
その際に、俺の意識が世界改変に巻き込まれないように改変したのだろう。
あの時、女の姿の長門はそれを『おまじない』と言っていたが、このような効果があるとは思わなんだ。
しかし、疑問なのは、どうしてわざわざ手間をかけてまで俺の記憶を残したんだ?
厄介ごとに巻き込まれそうな予感がプンプンするぞ。
長門「……今回の案件に、情報統合思念体は関与しない。貴女に一任する」
ほらな?
結局貧乏くじを引くのはいつも俺なんだ。
長門「……間違い、ない」
俺の質問に長門は小さく頷き、肯定した。
キョン子「つまり、今のお前のその姿も、俺と同じ現象なんだな?」
長門「……そう」
被害を共有出来る人物がいるのは、心強い。
何せ、妹も谷口も平然と女の俺を受け入れてたからな。
問題を問題として認識出来なければ、助けを求めることすら望めないのだ。
キョン子「ちなみに、俺が本当は男だってことを認識している奴は、他にどのくらいいるんだ?」
長門「……私だけ」
だろうな。
世界が丸ごと改変されたのだ。
忘れもしない。
ハルヒが消失したあの日、
似たような状況を俺は経験している。
しかし妙だな。
何故世界改変の際に俺の認識を上書きしなかったのだろう?
長門はともかく、俺に男の時の記憶が残っているのは、不自然と言えよう。
恐らく、何かしら理由がある筈だ。
長門「……おまじないを、かけたから」
首を傾げて思案に耽る俺に、あっさりと長門は種明かしをした。
そういや、昨日手首を噛まれたな。
その際に、俺の意識が世界改変に巻き込まれないように改変したのだろう。
あの時、女の姿の長門はそれを『おまじない』と言っていたが、このような効果があるとは思わなんだ。
しかし、疑問なのは、どうしてわざわざ手間をかけてまで俺の記憶を残したんだ?
厄介ごとに巻き込まれそうな予感がプンプンするぞ。
長門「……今回の案件に、情報統合思念体は関与しない。貴女に一任する」
ほらな?
結局貧乏くじを引くのはいつも俺なんだ。
33:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/02/27(月) 00:47:09.32 :HHOZvDS20
長門曰く、観察対象の周囲にどのような変化が起きようとも静観するべき、というのが、情報統合思念体の主流派とやらの基本方針らしい。
考えてみればもっともな意見だ。
『観察対象』とはその名の通り、『観察すべき対象』である。
対象を観察することが本分なのだから、今回のような変化こそ、目を凝らして観察すべき事柄であることは明白だ。
だが、それが総意というわけではない。
中にはどこぞの通り魔委員長のように、強硬派も存在する。
積極的に介入し、より大きな変化を引き起こすべき、などと主張する危ない奴らだ。
しかしその主張は、結果としてどのような事態を引き起こしてしまうか予想が出来ない為、主流派によって封じ込められた、とのことだった。
俺としても、そう何度もサクサク刺されたくないので、主流派の意見を是非とも尊重したい。
だが、主流派の意見が通ったと言うわりには、今の状況はおかしくないか?
目の前の対有機生命体コンタクト用、ヒューマノイド・インターフェースさんが、明らかに介入しているように思えるのだが……
長門「……貴女への処置は、私の独断」
俺の疑念に答えるように、長門は白状した。
独断、ね。
長門がそのような行動に出るとは……
喜ぶべきか、心配するべきか、悩むところだ。
ともあれ、理由を聞かないことには何とも言えないな。
長門曰く、観察対象の周囲にどのような変化が起きようとも静観するべき、というのが、情報統合思念体の主流派とやらの基本方針らしい。
考えてみればもっともな意見だ。
『観察対象』とはその名の通り、『観察すべき対象』である。
対象を観察することが本分なのだから、今回のような変化こそ、目を凝らして観察すべき事柄であることは明白だ。
だが、それが総意というわけではない。
中にはどこぞの通り魔委員長のように、強硬派も存在する。
積極的に介入し、より大きな変化を引き起こすべき、などと主張する危ない奴らだ。
しかしその主張は、結果としてどのような事態を引き起こしてしまうか予想が出来ない為、主流派によって封じ込められた、とのことだった。
俺としても、そう何度もサクサク刺されたくないので、主流派の意見を是非とも尊重したい。
だが、主流派の意見が通ったと言うわりには、今の状況はおかしくないか?
目の前の対有機生命体コンタクト用、ヒューマノイド・インターフェースさんが、明らかに介入しているように思えるのだが……
長門「……貴女への処置は、私の独断」
俺の疑念に答えるように、長門は白状した。
独断、ね。
長門がそのような行動に出るとは……
喜ぶべきか、心配するべきか、悩むところだ。
ともあれ、理由を聞かないことには何とも言えないな。
34:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/02/27(月) 00:53:14.18 :HHOZvDS20
キョン子「何か、特別な理由でもあるのか?やっぱり、男になるのは嫌とか……」
長門「……私自身の性別について、特に思うことはない。重要なのは、貴女がどう思うか」
キョン子「俺が……?」
長門「……そう。貴女の意思を、尊重したい」
つまり、俺が現状をどう思うか、それ次第で長門は力になってくれるってことか。
これまたずいぶんと、俺の判断能力を買ってくれてようで恐縮なのだが、ここは素直に好意を受け取ることにしよう。
それで、だ。
俺がどうしたいか、だって?
そんなことは決まっている。
キョン子「俺は男に戻りたい。長門、お前の力でどうにか出来ないか?」
頼むぜ、長門大明神。
お前だけが頼りで、お前ならこの状況を軽くどうにか出来るだろう?
長門「……これ以上、私が直接介入することは禁じられている」
そんな甘えた考えは当然ながら打ち砕かれた。
そりゃそうだよな……
俺に男だった時の記憶を残してくれただけでも、かなり危ない橋を渡っているのだ。
あまり無茶をされて、長門自身が危機に陥ることになってしまっては困る。
親玉に情報連結を解除なんかされてしまったら、洒落にならん。
だけどせめて、当たり障りのない程度で構わないから、ヒントだけでも貰えないだろうか。
長門「……今回の世界改変は、昨日の涼宮ハルヒの願望から端を発している。それならば、今度は貴女が望む願望を、涼宮ハルヒに抱かせればいい」
縋るような俺の眼差しを受け、長門は言葉を選びながら、解決への糸口を語ってくれた。
有難や有難や。
長門に向けて両手を合わせ、拝みつつ、俺はなんとかその概要を理解した。
つまり、要約するとこうか。
キョン子「……俺の願望を、ハルヒに叶えさせるってことか?」
長門「……貴女なら、出来る」
キョン子「何か、特別な理由でもあるのか?やっぱり、男になるのは嫌とか……」
長門「……私自身の性別について、特に思うことはない。重要なのは、貴女がどう思うか」
キョン子「俺が……?」
長門「……そう。貴女の意思を、尊重したい」
つまり、俺が現状をどう思うか、それ次第で長門は力になってくれるってことか。
これまたずいぶんと、俺の判断能力を買ってくれてようで恐縮なのだが、ここは素直に好意を受け取ることにしよう。
それで、だ。
俺がどうしたいか、だって?
そんなことは決まっている。
キョン子「俺は男に戻りたい。長門、お前の力でどうにか出来ないか?」
頼むぜ、長門大明神。
お前だけが頼りで、お前ならこの状況を軽くどうにか出来るだろう?
長門「……これ以上、私が直接介入することは禁じられている」
そんな甘えた考えは当然ながら打ち砕かれた。
そりゃそうだよな……
俺に男だった時の記憶を残してくれただけでも、かなり危ない橋を渡っているのだ。
あまり無茶をされて、長門自身が危機に陥ることになってしまっては困る。
親玉に情報連結を解除なんかされてしまったら、洒落にならん。
だけどせめて、当たり障りのない程度で構わないから、ヒントだけでも貰えないだろうか。
長門「……今回の世界改変は、昨日の涼宮ハルヒの願望から端を発している。それならば、今度は貴女が望む願望を、涼宮ハルヒに抱かせればいい」
縋るような俺の眼差しを受け、長門は言葉を選びながら、解決への糸口を語ってくれた。
有難や有難や。
長門に向けて両手を合わせ、拝みつつ、俺はなんとかその概要を理解した。
つまり、要約するとこうか。
キョン子「……俺の願望を、ハルヒに叶えさせるってことか?」
長門「……貴女なら、出来る」
35:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/02/27(月) 00:56:38.65 :HHOZvDS20
長門に根拠不明な太鼓判を押された俺は現在、自分の教室の前に佇んでいた。
あの後補足された説明によると、タイムリミットは日付けが変わるまで。
なんでも、日付けが変わると俺にかけられた魔法が解け、男だった時の記憶を忘れてしまうらしい。
因果律がどうたら、難しいことを言われたが、俺なりに解釈すると、どんなに小さな矛盾でも世界は許してくれない、ということだ。
そう言われるとなんとなく、そういうものかと納得せざるを得ないだろう?
そして解決方法は先述した通り。
つまり、俺は本日中にハルヒにこちらの願いを叶えて貰わなくてはならない。
具体的な策があるのかって?
そんなもん、ある訳ない。
こればっかりはイエローカードを突きつけられている長門を頼るわけにはいかず、自力でなんとかするしかなさそうだ。
いいさ。
やるだけやってみるだけだ。
キョン子「よしっ!」
そんな具合でお先真っ暗な俺は、意を決して、諸悪の根源が待つであろう教室の扉を開いたのだった。
長門に根拠不明な太鼓判を押された俺は現在、自分の教室の前に佇んでいた。
あの後補足された説明によると、タイムリミットは日付けが変わるまで。
なんでも、日付けが変わると俺にかけられた魔法が解け、男だった時の記憶を忘れてしまうらしい。
因果律がどうたら、難しいことを言われたが、俺なりに解釈すると、どんなに小さな矛盾でも世界は許してくれない、ということだ。
そう言われるとなんとなく、そういうものかと納得せざるを得ないだろう?
そして解決方法は先述した通り。
つまり、俺は本日中にハルヒにこちらの願いを叶えて貰わなくてはならない。
具体的な策があるのかって?
そんなもん、ある訳ない。
こればっかりはイエローカードを突きつけられている長門を頼るわけにはいかず、自力でなんとかするしかなさそうだ。
いいさ。
やるだけやってみるだけだ。
キョン子「よしっ!」
そんな具合でお先真っ暗な俺は、意を決して、諸悪の根源が待つであろう教室の扉を開いたのだった。
36:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/02/27(月) 00:59:49.89 :HHOZvDS20
女子1「あ!キョン子ちゃんおはよ~!」
女子2「体調悪いって聞いたけど、大丈夫?」
女子3「あんまり無理しないでね?」
朝のSHRを既に終えた様子の教室に一歩踏み入れた俺は、思わぬ歓待を受け、たじろいだ。
これは一体どういうことだ。
どうして俺は、これまで会話を交わした覚えのない、名前すら定かではない女子達に囲まれ、ちやほやされているのだ?
まさかこれが、モテ期ってやつか?
……いや、ないな。
大方、俺のこの姿が理由だろう。
そう、今の俺は女子高生なのだ。
いやはや、思わぬ役得……
もとい、眼福……
もとい!
アクシデントだった!!
デレデレしている暇などないのだ。
とにかく、この場を脱しなければ。
キョン子「も、もう大丈夫だ!出すもん出したらスッキリしたから!!」
女子1「えっ……?」
女子2「出すもの……?」
女子3「キョン子ちゃん……なんか喋り方が変だよ?」
おっと。
失言だったようだ。
先ほどとは種類の違う心配げな眼差しを浮かべる女子達に、引きつった笑みで応え、這々の体で逃げ出した俺は、自分の席へと向かう。
途中、刺すような視線を感じたが、そんなものに取り合う余裕などなかった。
とにかく、落ち着こう。
その一心で、慣れ親しんだ机の椅子に腰掛け、あまりの前途多難さに頭を抱えていると……
????「……おいっ!」
突然怒鳴られ、椅子の背に衝撃を受けた。
キョン子「いってぇなこの野郎!?」
何者かに蹴られたと察した俺は、精神的な余裕を失っていたこともあり、堪らず怒鳴り返した。
いやもちろん、直接背中を蹴られたわけではないので、痛みなど感じていない。
それでも、何か言わずにはいられなかった。
それくらい混乱していたということを、理解して欲しい。
そんな混乱の中、振り返った俺は、自分の後ろの席に座る存在を、この日初めて視界に収めることとなった。
黄色のカチューシャで前髪を全開にして、
鋭い眼光でこちらを睨みつける、
見るからに柄の悪い、
DQNの姿を。
女子1「あ!キョン子ちゃんおはよ~!」
女子2「体調悪いって聞いたけど、大丈夫?」
女子3「あんまり無理しないでね?」
朝のSHRを既に終えた様子の教室に一歩踏み入れた俺は、思わぬ歓待を受け、たじろいだ。
これは一体どういうことだ。
どうして俺は、これまで会話を交わした覚えのない、名前すら定かではない女子達に囲まれ、ちやほやされているのだ?
まさかこれが、モテ期ってやつか?
……いや、ないな。
大方、俺のこの姿が理由だろう。
そう、今の俺は女子高生なのだ。
いやはや、思わぬ役得……
もとい、眼福……
もとい!
アクシデントだった!!
デレデレしている暇などないのだ。
とにかく、この場を脱しなければ。
キョン子「も、もう大丈夫だ!出すもん出したらスッキリしたから!!」
女子1「えっ……?」
女子2「出すもの……?」
女子3「キョン子ちゃん……なんか喋り方が変だよ?」
おっと。
失言だったようだ。
先ほどとは種類の違う心配げな眼差しを浮かべる女子達に、引きつった笑みで応え、這々の体で逃げ出した俺は、自分の席へと向かう。
途中、刺すような視線を感じたが、そんなものに取り合う余裕などなかった。
とにかく、落ち着こう。
その一心で、慣れ親しんだ机の椅子に腰掛け、あまりの前途多難さに頭を抱えていると……
????「……おいっ!」
突然怒鳴られ、椅子の背に衝撃を受けた。
キョン子「いってぇなこの野郎!?」
何者かに蹴られたと察した俺は、精神的な余裕を失っていたこともあり、堪らず怒鳴り返した。
いやもちろん、直接背中を蹴られたわけではないので、痛みなど感じていない。
それでも、何か言わずにはいられなかった。
それくらい混乱していたということを、理解して欲しい。
そんな混乱の中、振り返った俺は、自分の後ろの席に座る存在を、この日初めて視界に収めることとなった。
黄色のカチューシャで前髪を全開にして、
鋭い眼光でこちらを睨みつける、
見るからに柄の悪い、
DQNの姿を。
37:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/02/27(月) 01:02:54.88 :HHOZvDS20
どえらいDQNがそこに居た。
初対面の相手をすぐさまDQN認定するのは我ながらどうかと思うが、致し方あるまい。
緩めたネクタイ、上から2つほど開け放たれたワイシャツ、そして何より印象的なのはその髪型だ。
カチューシャで額を晒し出すなど、テレビの中のヤンキー以外存在しないだろうと思っていたが、考えを改める必要があるようだ。
その形の良いおでこから視線を下げると、肉食獣のごとくギラギラと光る双眼がこちらを見据えている。
青白くも見える白目が如何にもデンジャラスで、すぐに目を逸らした。
3秒視線が合えば、間違いなく因縁をつけられること間違いなしな相手だと、直感的に理解した。
何せこちとら目を合わせるまでもなく、こうして因縁をふっかけられているのだ。
そんな危険人物に対して反射的に楯突いてしまったことを、今更ながら後悔した平和主義者の俺は、静かに前に向き直り、事なきを得ようとしたのだが……
DQN「おい」
またしても椅子の背を蹴飛ばされる。
どうやら相当お冠らしい。
たった今教室に入って来たばかりの俺が一体何をしたと言うのか。
どうでもいいことだが、後ろの席からこちらまで伸びる長い足を羨ましく思う。
キョン子「な、何かご用ですかね……?」
無視することは不可能だと判断し、震え声で用件を訪ねてみた。
大丈夫だ。
教室内でいきなり乱闘騒ぎは起こらないだろう。
そう自分に言い聞かせながらも、内心ガクブルの俺を見て、DQNはキョトンと目を丸くして、首を傾げた。
DQN「なんか、今日のお前、おかしくねぇか?」
キョン子「い、いえいえ、お気になさらずに。ところで、あなたはどちら様ですか?」
DQN「は?」
一瞬惚けたように口をポカンと開けたDQNの目に、みるみる怒りが宿る。
これは不味い。
不味い不味い不味いっ!
DQN「てめぇ、今なんつった?」
どうやら俺は……
完全に地雷を踏んでしまったらしい。
どえらいDQNがそこに居た。
初対面の相手をすぐさまDQN認定するのは我ながらどうかと思うが、致し方あるまい。
緩めたネクタイ、上から2つほど開け放たれたワイシャツ、そして何より印象的なのはその髪型だ。
カチューシャで額を晒し出すなど、テレビの中のヤンキー以外存在しないだろうと思っていたが、考えを改める必要があるようだ。
その形の良いおでこから視線を下げると、肉食獣のごとくギラギラと光る双眼がこちらを見据えている。
青白くも見える白目が如何にもデンジャラスで、すぐに目を逸らした。
3秒視線が合えば、間違いなく因縁をつけられること間違いなしな相手だと、直感的に理解した。
何せこちとら目を合わせるまでもなく、こうして因縁をふっかけられているのだ。
そんな危険人物に対して反射的に楯突いてしまったことを、今更ながら後悔した平和主義者の俺は、静かに前に向き直り、事なきを得ようとしたのだが……
DQN「おい」
またしても椅子の背を蹴飛ばされる。
どうやら相当お冠らしい。
たった今教室に入って来たばかりの俺が一体何をしたと言うのか。
どうでもいいことだが、後ろの席からこちらまで伸びる長い足を羨ましく思う。
キョン子「な、何かご用ですかね……?」
無視することは不可能だと判断し、震え声で用件を訪ねてみた。
大丈夫だ。
教室内でいきなり乱闘騒ぎは起こらないだろう。
そう自分に言い聞かせながらも、内心ガクブルの俺を見て、DQNはキョトンと目を丸くして、首を傾げた。
DQN「なんか、今日のお前、おかしくねぇか?」
キョン子「い、いえいえ、お気になさらずに。ところで、あなたはどちら様ですか?」
DQN「は?」
一瞬惚けたように口をポカンと開けたDQNの目に、みるみる怒りが宿る。
これは不味い。
不味い不味い不味いっ!
DQN「てめぇ、今なんつった?」
どうやら俺は……
完全に地雷を踏んでしまったらしい。
39:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/02/27(月) 01:05:48.40 :HHOZvDS20
キョン子「な、何か気に障るようなことを言いましたかね……?」
DQN「チッ」
冷や汗をダラダラ垂らし、なるべく相手を刺激しないように気を使ってみたのだが、どうやらそんな態度が気に入らないようで、苛立たしげな舌打ちが返ってきた。
どうすりゃ良いってんだよ。
DQN「なんだよそのよそよそしい態度は。人が心配してやってるってのに、おちょくりやがって」
は?
誰が誰を心配してるって?
まさか……俺を?
キョン子「し、心配してくれてたの、か?」
DQN「別にお前の心配をしてたわけじゃねぇよっ!」
じゃあなんなんだ。
意味不明過ぎて、まるでハルヒを相手している気分だ。
ん?
そういや、あいつはどこ行った?
俺の後ろの席はあいつの席の筈だが……
DQN「俺は部活の心配をしていただけだ。1人でも欠ければ、SOS団の活動に支障が出るからな」
ちょっと待て。
キョン子「お前、今SOS団って言ったか?なんでお前がSOS団の活動の心配するんだ?」
嫌な予感を覚えた俺は、猫をかぶることをやめ、問いただした。
するとDQNは如何にも偉そうに腕を組み、不機嫌さを隠すことなく、驚くべき事実を口にした。
DQN「なんでって、この俺がSOS団の団長だからに決まってんだろ!」
キョン子「な、何か気に障るようなことを言いましたかね……?」
DQN「チッ」
冷や汗をダラダラ垂らし、なるべく相手を刺激しないように気を使ってみたのだが、どうやらそんな態度が気に入らないようで、苛立たしげな舌打ちが返ってきた。
どうすりゃ良いってんだよ。
DQN「なんだよそのよそよそしい態度は。人が心配してやってるってのに、おちょくりやがって」
は?
誰が誰を心配してるって?
まさか……俺を?
キョン子「し、心配してくれてたの、か?」
DQN「別にお前の心配をしてたわけじゃねぇよっ!」
じゃあなんなんだ。
意味不明過ぎて、まるでハルヒを相手している気分だ。
ん?
そういや、あいつはどこ行った?
俺の後ろの席はあいつの席の筈だが……
DQN「俺は部活の心配をしていただけだ。1人でも欠ければ、SOS団の活動に支障が出るからな」
ちょっと待て。
キョン子「お前、今SOS団って言ったか?なんでお前がSOS団の活動の心配するんだ?」
嫌な予感を覚えた俺は、猫をかぶることをやめ、問いただした。
するとDQNは如何にも偉そうに腕を組み、不機嫌さを隠すことなく、驚くべき事実を口にした。
DQN「なんでって、この俺がSOS団の団長だからに決まってんだろ!」
40:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/02/27(月) 01:09:51.09 :HHOZvDS20
こいつがSOS団の団長……だと?
なんだそれは。
俺の知らぬ間に代替わりしたってのか?
いや、それよりも、ハルヒはどうした。
あいつはどうなってしまったんだ?
キョン子「え、SOS団の団長は、涼宮ハルヒの筈だ。あいつはどうしたんだ?」
DQN「涼宮、『ハルヒ』だと?てめぇ、また人のことおちょくるつもりか?」
キョン子「ま、待ってくれ!おちょくるつもりなんて一切ない!俺はただ、涼宮ハルヒのことを知りたくて……」
DQN「だから、人のこと女みたいに呼ぶのをやめろっ!!」
どういうことだ?
こいつは一体何を言ってるんだ?
どうにも話が噛み合っていないような、そんな気がする。
そもそも、こいつは誰なんだ?
DQN「チッ」
狼狽する俺に再び心底苛立たしげな舌打ちをかましたDQNは、ダンッ!と、机に拳を打ちつけ、名乗った。
ハル「俺の名前は『涼宮ハル』だ!二度と『ハルヒ』なんて女みてぇな呼び方すんなっ!わかったか!?」
DQNの名は、『涼宮ハル』。
なるほどな。
そういうことか。
全てを悟った俺は、ようやく事態の深刻さを認識することとなったのだった。
こいつがSOS団の団長……だと?
なんだそれは。
俺の知らぬ間に代替わりしたってのか?
いや、それよりも、ハルヒはどうした。
あいつはどうなってしまったんだ?
キョン子「え、SOS団の団長は、涼宮ハルヒの筈だ。あいつはどうしたんだ?」
DQN「涼宮、『ハルヒ』だと?てめぇ、また人のことおちょくるつもりか?」
キョン子「ま、待ってくれ!おちょくるつもりなんて一切ない!俺はただ、涼宮ハルヒのことを知りたくて……」
DQN「だから、人のこと女みたいに呼ぶのをやめろっ!!」
どういうことだ?
こいつは一体何を言ってるんだ?
どうにも話が噛み合っていないような、そんな気がする。
そもそも、こいつは誰なんだ?
DQN「チッ」
狼狽する俺に再び心底苛立たしげな舌打ちをかましたDQNは、ダンッ!と、机に拳を打ちつけ、名乗った。
ハル「俺の名前は『涼宮ハル』だ!二度と『ハルヒ』なんて女みてぇな呼び方すんなっ!わかったか!?」
DQNの名は、『涼宮ハル』。
なるほどな。
そういうことか。
全てを悟った俺は、ようやく事態の深刻さを認識することとなったのだった。
41:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/02/27(月) 01:13:09.94 :HHOZvDS20
涼宮ハルヒが男になった。
それは衝撃的な事実ではあったが、今朝方、同じく男になっていた長門の姿を目撃していたこともあり、辛うじて取り乱すことはなかった。
ハルヒが消失したあの日、騒ぐだけ騒いで精神異常者扱いをされた俺は、完全に孤立した。
あんな思いは二度とごめんだ。
そして長門は言っていた。
この異常事態を認識しているのは、俺と長門だけだと。
ならば、ハルと名乗った彼に何を聞いたところで得られるものはないだろう。
キョン子「そうか……悪かったな。変なこと聞いて」
ハル「お前、本当に大丈夫かよ」
愛想笑いを顔に貼り付け、ぎこちなくそう言うと、本気で心配されてしまった。
形の良い眉をひそめ、覗き込むように見つめられると、その大きな瞳に吸い込まれそうな気持ちになり、酷く落ち着かない。
ハル「ちょっと動くな」
視線をせわしなく泳がせている俺の額めがけ、ハルはおもむろに手を伸ばし、触れた。
その手のひらは温かくて、彼の体温の高さがよくわかる。
ハル「……熱はないようだな」
限界だった。
キョン子「だ、大丈夫だって!もう平気だから!!」
顔全体が酷く熱い。
このままではありもしない熱が上がってしまうと思い、身をよじらせてその手から逃れる。
くそっ。
こいつはこうして、たまに優しいから調子が狂うんだよな。
キョン子「そ、そろそろ授業が始まるな。俺は本当に大丈夫だから、気にしないでくれ」
タイミングよく予鈴が鳴ったこともあり、会話を切り上げた。
前に向き直る前に、まだ訝しげな表情を浮かべているハルに一応、礼を言っておく。
キョン子「心配してくれてありがとな……ハル」
ハル「……ふん」
するとハルはふっと表情を緩め、それからぷいっと顔を逸らして、鼻を鳴らした。
その仕草を見て、改めて彼はハルヒなのだと、実感したのだった。
涼宮ハルヒが男になった。
それは衝撃的な事実ではあったが、今朝方、同じく男になっていた長門の姿を目撃していたこともあり、辛うじて取り乱すことはなかった。
ハルヒが消失したあの日、騒ぐだけ騒いで精神異常者扱いをされた俺は、完全に孤立した。
あんな思いは二度とごめんだ。
そして長門は言っていた。
この異常事態を認識しているのは、俺と長門だけだと。
ならば、ハルと名乗った彼に何を聞いたところで得られるものはないだろう。
キョン子「そうか……悪かったな。変なこと聞いて」
ハル「お前、本当に大丈夫かよ」
愛想笑いを顔に貼り付け、ぎこちなくそう言うと、本気で心配されてしまった。
形の良い眉をひそめ、覗き込むように見つめられると、その大きな瞳に吸い込まれそうな気持ちになり、酷く落ち着かない。
ハル「ちょっと動くな」
視線をせわしなく泳がせている俺の額めがけ、ハルはおもむろに手を伸ばし、触れた。
その手のひらは温かくて、彼の体温の高さがよくわかる。
ハル「……熱はないようだな」
限界だった。
キョン子「だ、大丈夫だって!もう平気だから!!」
顔全体が酷く熱い。
このままではありもしない熱が上がってしまうと思い、身をよじらせてその手から逃れる。
くそっ。
こいつはこうして、たまに優しいから調子が狂うんだよな。
キョン子「そ、そろそろ授業が始まるな。俺は本当に大丈夫だから、気にしないでくれ」
タイミングよく予鈴が鳴ったこともあり、会話を切り上げた。
前に向き直る前に、まだ訝しげな表情を浮かべているハルに一応、礼を言っておく。
キョン子「心配してくれてありがとな……ハル」
ハル「……ふん」
するとハルはふっと表情を緩め、それからぷいっと顔を逸らして、鼻を鳴らした。
その仕草を見て、改めて彼はハルヒなのだと、実感したのだった。
42:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/02/27(月) 01:16:17.22 :HHOZvDS20
さて。
そのような一悶着を朝っぱらから巻き起こし、今日1日を無事に過ごせるかどうか不安で仕方なかった俺だったが、意外なことにそんな不安は杞憂に終わった。
朝の一件以来、後ろの席の危険人物は大人しかったのだ。
それはもう、不気味なほどに。
あまりの静けさを不審に思い、恐る恐る振り返り、覗き見ると、彼はスヤスヤ眠っていた。
起きてる時は困った奴だが、寝ている時だけはこうしてあどけない寝顔を見せるところは、男になろうが変わっていないらしい。
ともあれ、眠れる獅子をわざわざ起こす必要はなく、虎の尾を踏むつもりもない俺は、スヤスヤ眠る彼をそっとしておいた。
周囲のクラスメイト達もその方針に異論はないようで、起こす様子はない。
しかし、それが授業中ともなると話は別で……
先生「……涼宮、この問題を答えてみろ」
ハル「あ?」
意地悪な数学教師から、この日一番の難問の解答を問われた彼は、ダルそうに立ち上がり、あくびを1つかまし、頭をぽりぽりかいた。
ハル「……キョン子、どれだ?」
キョン子「……一番左の式だ」
小声で聞かれたので、同じく小声でそう返してやると、幾ばくかの間を置いて、彼は再び口を開く。
ハル「X=3」
先生「ぐっ……せ、正解だ」
ことも無さげに暗算で答えを導き出した彼に、教師は悔しげな表情を浮かべた。
どうやら男の姿でも、その聡明な頭脳に陰りはないようだな。
そんな風に感心していると、意地悪な数学教師は矛先を変えたようで……
先生「じゃあ、次はお前。こっちを答えてみろ」
キョン子「へ?あ……えっと」
参ったな。
とばっちりじゃないか。
ハル「……X=5」
しどろもどろになりかけた俺の背に、心底面倒くさそうなハルの声が届き、救われた。
ふとした拍子に見せる優しさは、本当にずるいと思う。
さて。
そのような一悶着を朝っぱらから巻き起こし、今日1日を無事に過ごせるかどうか不安で仕方なかった俺だったが、意外なことにそんな不安は杞憂に終わった。
朝の一件以来、後ろの席の危険人物は大人しかったのだ。
それはもう、不気味なほどに。
あまりの静けさを不審に思い、恐る恐る振り返り、覗き見ると、彼はスヤスヤ眠っていた。
起きてる時は困った奴だが、寝ている時だけはこうしてあどけない寝顔を見せるところは、男になろうが変わっていないらしい。
ともあれ、眠れる獅子をわざわざ起こす必要はなく、虎の尾を踏むつもりもない俺は、スヤスヤ眠る彼をそっとしておいた。
周囲のクラスメイト達もその方針に異論はないようで、起こす様子はない。
しかし、それが授業中ともなると話は別で……
先生「……涼宮、この問題を答えてみろ」
ハル「あ?」
意地悪な数学教師から、この日一番の難問の解答を問われた彼は、ダルそうに立ち上がり、あくびを1つかまし、頭をぽりぽりかいた。
ハル「……キョン子、どれだ?」
キョン子「……一番左の式だ」
小声で聞かれたので、同じく小声でそう返してやると、幾ばくかの間を置いて、彼は再び口を開く。
ハル「X=3」
先生「ぐっ……せ、正解だ」
ことも無さげに暗算で答えを導き出した彼に、教師は悔しげな表情を浮かべた。
どうやら男の姿でも、その聡明な頭脳に陰りはないようだな。
そんな風に感心していると、意地悪な数学教師は矛先を変えたようで……
先生「じゃあ、次はお前。こっちを答えてみろ」
キョン子「へ?あ……えっと」
参ったな。
とばっちりじゃないか。
ハル「……X=5」
しどろもどろになりかけた俺の背に、心底面倒くさそうなハルの声が届き、救われた。
ふとした拍子に見せる優しさは、本当にずるいと思う。
43:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/02/27(月) 01:19:49.72 :HHOZvDS20
そんなこんなで午前中の授業をなんとか乗り切り、昼休みとなった。
授業の合間にクラスの女子から聞いた情報によると、どうやら俺は『涼宮ハル』という災害に対し、防波堤のような役割を担っているらしい。
なんでも、見栄えだけなら目の保養だが奇行癖のあるハルを、大人しくさせることが出来る俺は大変重宝されている、とのことだ。
今朝俺が教室に踏み入れた際の歓待ぷりは、この役割によるところが大きいのだろう。
まったく。
損な役回りだぜ。
谷口「おーい!キョン子、飯にしようぜ」
国木田「お邪魔するよ」
悲嘆に暮れていると、お馴染みの凸凹コンビが弁当を引っさげてやってきた。
意外なことに、俺は女になっても、この凸凹コンビとトリオを結成しているようだ。
それは嬉しいような、クラスの女子達と箸を突っつくことが出来ずに悲しいような……
そんな複雑な心境になりつつも、弁当を取り出すべく鞄を漁っていた俺は、愕然とした。
キョン子「やべぇ……弁当忘れたみたいだ」
谷口「あん?何やってんだよ、ドジだな」
国木田「今なら購買のパンが売れ残ってるかもしれないよ。行くなら早く行った方がいいよ」
今朝はバタバタしてたからな。
仕方ない。
購買にパンを買いに行くか……と、思った矢先。
ハル「来い」
キョン子「えっ?」
ハル「いいから来いっての!」
突然割って入ってきた涼宮ハルに、二の腕をガッシリと掴まれた俺は、なす術なく、連れ去られてしまったのだった。
そんなこんなで午前中の授業をなんとか乗り切り、昼休みとなった。
授業の合間にクラスの女子から聞いた情報によると、どうやら俺は『涼宮ハル』という災害に対し、防波堤のような役割を担っているらしい。
なんでも、見栄えだけなら目の保養だが奇行癖のあるハルを、大人しくさせることが出来る俺は大変重宝されている、とのことだ。
今朝俺が教室に踏み入れた際の歓待ぷりは、この役割によるところが大きいのだろう。
まったく。
損な役回りだぜ。
谷口「おーい!キョン子、飯にしようぜ」
国木田「お邪魔するよ」
悲嘆に暮れていると、お馴染みの凸凹コンビが弁当を引っさげてやってきた。
意外なことに、俺は女になっても、この凸凹コンビとトリオを結成しているようだ。
それは嬉しいような、クラスの女子達と箸を突っつくことが出来ずに悲しいような……
そんな複雑な心境になりつつも、弁当を取り出すべく鞄を漁っていた俺は、愕然とした。
キョン子「やべぇ……弁当忘れたみたいだ」
谷口「あん?何やってんだよ、ドジだな」
国木田「今なら購買のパンが売れ残ってるかもしれないよ。行くなら早く行った方がいいよ」
今朝はバタバタしてたからな。
仕方ない。
購買にパンを買いに行くか……と、思った矢先。
ハル「来い」
キョン子「えっ?」
ハル「いいから来いっての!」
突然割って入ってきた涼宮ハルに、二の腕をガッシリと掴まれた俺は、なす術なく、連れ去られてしまったのだった。
44:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/02/27(月) 01:22:59.70 :HHOZvDS20
涼宮ハルに引きずられ、連れてこられた場所は、SOS団の部室でもある、文芸部室だった。
ハル「入れ」
突き飛ばされるようにして中に入ると、そこは俺の知る部室となんら変わった様子はない。
様変わりしていないことに、正直ホッとした。
しかし残念なことに、この場に長門の姿はなく、どうやら俺は、1人でこの状況に対処しなければならないようだ。
おずおずと自分の定位置に座り、涼宮ハルの出方を伺う。
ま、まさか、この場で襲われるってことはないよな?
いかん。
女になってから、どうも自意識過剰というか、被害妄想が強すぎて腰が引けてしまう。
腕力が自信に繋がるなんて脳筋みたいな考えは持ち合わせていないが、それでも今の俺は男のハルに対してあまりにも無力であり、どうしても恐怖が先行してしまう。
ドキドキハラハラしながら動向を伺っていると、彼は右手に持っていた包みをドンッ!と俺の前に置き……
ハル「食え」
それを食うように促した。
えっ?
なんだ、この状況。
察するに、この包みの中身は弁当なのだろうが、1つしかない以上、これは彼の分と見て間違いない。
それを俺が食ってしまって良いのだろうか?
ハル「さっさと食え」
腕を組み、口をへの字に曲げてこちらを見下ろす彼の威圧感に、堪らずコクコク頷き、包みを解いて、弁当のふたを開けた。
その中には、豊富なおかずによって栄養バランスがよく取れていると思われる弁当が詰まっており、本当に食ってしまっていいのかと視線を向けると、ハルは黙って頷いた。
ならば、遠慮なく頂こう。
キョン子「いただきます」
ハル「全部食えよ。食って、早く体調を治せ」
なんだよ。
お前、男の方が優しいんじゃないか?
見栄えだけでなく、味ももちろん絶品な弁当に舌鼓を打ちながら、俺はハルの優しさに心から感謝した。
涼宮ハルに引きずられ、連れてこられた場所は、SOS団の部室でもある、文芸部室だった。
ハル「入れ」
突き飛ばされるようにして中に入ると、そこは俺の知る部室となんら変わった様子はない。
様変わりしていないことに、正直ホッとした。
しかし残念なことに、この場に長門の姿はなく、どうやら俺は、1人でこの状況に対処しなければならないようだ。
おずおずと自分の定位置に座り、涼宮ハルの出方を伺う。
ま、まさか、この場で襲われるってことはないよな?
いかん。
女になってから、どうも自意識過剰というか、被害妄想が強すぎて腰が引けてしまう。
腕力が自信に繋がるなんて脳筋みたいな考えは持ち合わせていないが、それでも今の俺は男のハルに対してあまりにも無力であり、どうしても恐怖が先行してしまう。
ドキドキハラハラしながら動向を伺っていると、彼は右手に持っていた包みをドンッ!と俺の前に置き……
ハル「食え」
それを食うように促した。
えっ?
なんだ、この状況。
察するに、この包みの中身は弁当なのだろうが、1つしかない以上、これは彼の分と見て間違いない。
それを俺が食ってしまって良いのだろうか?
ハル「さっさと食え」
腕を組み、口をへの字に曲げてこちらを見下ろす彼の威圧感に、堪らずコクコク頷き、包みを解いて、弁当のふたを開けた。
その中には、豊富なおかずによって栄養バランスがよく取れていると思われる弁当が詰まっており、本当に食ってしまっていいのかと視線を向けると、ハルは黙って頷いた。
ならば、遠慮なく頂こう。
キョン子「いただきます」
ハル「全部食えよ。食って、早く体調を治せ」
なんだよ。
お前、男の方が優しいんじゃないか?
見栄えだけでなく、味ももちろん絶品な弁当に舌鼓を打ちながら、俺はハルの優しさに心から感謝した。
45:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/02/27(月) 01:25:11.07 :HHOZvDS20
ガツガツと弁当を食っていた俺が、ふと顔を上げるとハルの姿がない。
どこに行っちまったのかとキョロキョロしていると、背後から声が掛けられた。
ハル「お前、その髪どうしたんだ?ぐちゃぐちゃじゃねぇか」
悪かったな。
余計なお世話だ。
キョン子「今朝は時間がなくてな。上手く結えなかったんだよ」
ハル「みっともねぇな。……ちょっとじっとしてろ、結ってやる」
は?
おい、ちょっと待て。
そんな待ったをかける暇もなく、ハルは俺の下手くそなポニテを解き、手際よく結い直していく。
力加減は少々荒っぽいが、手つきは繊細で、髪に触れられてることもあり、ほんの少し心地良い。
うん。
まあ、悪くない気分だ。
それなりに……
いや、かなり……
髪を梳く、彼の指先が気持ち良い。
人に髪を触られることに、もっと自分は嫌悪感を覚えるかと思ったが、そうでもないらしい。
それは、もしかして……
相手がハルだからだろうか?
ハル「よし、終わったぞ」
キョン子「あ、ありがとう」
ぼんやりとそんな訳のわからないことを考えていたら、結い終わったようで、『私』は慌ててお礼を言い、彼が結ってくれたポニテを手で触って確認した。
鏡がないので確信は持てないが、触った感じ、『私』が今朝結った時よりは格段に出来が良さそうだ。
かなりきっちり結えている。
ハル「どうだ、上手いもんだろ?」
キョン子「うん。ありがと、ハル」
改めて礼を言うと、彼は嬉しそうに微笑み、その無邪気な笑顔に思わず……
『私』は見惚れてしまったのだった。
ガツガツと弁当を食っていた俺が、ふと顔を上げるとハルの姿がない。
どこに行っちまったのかとキョロキョロしていると、背後から声が掛けられた。
ハル「お前、その髪どうしたんだ?ぐちゃぐちゃじゃねぇか」
悪かったな。
余計なお世話だ。
キョン子「今朝は時間がなくてな。上手く結えなかったんだよ」
ハル「みっともねぇな。……ちょっとじっとしてろ、結ってやる」
は?
おい、ちょっと待て。
そんな待ったをかける暇もなく、ハルは俺の下手くそなポニテを解き、手際よく結い直していく。
力加減は少々荒っぽいが、手つきは繊細で、髪に触れられてることもあり、ほんの少し心地良い。
うん。
まあ、悪くない気分だ。
それなりに……
いや、かなり……
髪を梳く、彼の指先が気持ち良い。
人に髪を触られることに、もっと自分は嫌悪感を覚えるかと思ったが、そうでもないらしい。
それは、もしかして……
相手がハルだからだろうか?
ハル「よし、終わったぞ」
キョン子「あ、ありがとう」
ぼんやりとそんな訳のわからないことを考えていたら、結い終わったようで、『私』は慌ててお礼を言い、彼が結ってくれたポニテを手で触って確認した。
鏡がないので確信は持てないが、触った感じ、『私』が今朝結った時よりは格段に出来が良さそうだ。
かなりきっちり結えている。
ハル「どうだ、上手いもんだろ?」
キョン子「うん。ありがと、ハル」
改めて礼を言うと、彼は嬉しそうに微笑み、その無邪気な笑顔に思わず……
『私』は見惚れてしまったのだった。
46:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/02/27(月) 01:28:14.14 :HHOZvDS20
その後、あらかた弁当を食べ終えると、ハルは満足げな表情を浮かべて部室を後にした。
これから購買にでも行って、自分の昼食を買うつもりなのだろう。
パンが残っているか心配だ。
そう考えると居ても立っても居られなくて、弁当の残りを素早くかっ込み、彼の後を追おうとした『私』は……
ふと我に返った。
キョン子「『私』……なんで、こんなにハルのことを……いやいや!そうじゃなくて!!」
かぶりを振って思考を切り替える。
『私』……だと?
『俺』はそんな一人称ではなかった筈だ。
『俺』は男だから、当然一人称は『俺』である訳で……
ああ、でも、今朝長門は男の姿で『私』と言っていたし、そこまで気にすることじゃないのかも知れない。
それに、今のこの状況も、それほど不利益があるわけでもないのだから、いっそこのまま……
キョン子「『俺』は一体……何を考えているんだ?」
『俺』は……
『私』は……
自分がどうしたいのか、わからなくなってしまった。
その後、あらかた弁当を食べ終えると、ハルは満足げな表情を浮かべて部室を後にした。
これから購買にでも行って、自分の昼食を買うつもりなのだろう。
パンが残っているか心配だ。
そう考えると居ても立っても居られなくて、弁当の残りを素早くかっ込み、彼の後を追おうとした『私』は……
ふと我に返った。
キョン子「『私』……なんで、こんなにハルのことを……いやいや!そうじゃなくて!!」
かぶりを振って思考を切り替える。
『私』……だと?
『俺』はそんな一人称ではなかった筈だ。
『俺』は男だから、当然一人称は『俺』である訳で……
ああ、でも、今朝長門は男の姿で『私』と言っていたし、そこまで気にすることじゃないのかも知れない。
それに、今のこの状況も、それほど不利益があるわけでもないのだから、いっそこのまま……
キョン子「『俺』は一体……何を考えているんだ?」
『俺』は……
『私』は……
自分がどうしたいのか、わからなくなってしまった。
47:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/02/27(月) 01:32:30.22 :HHOZvDS20
キョン子「はぁ……」
空になった弁当を片手に、トボトボと教室に戻る。
結局、ハルの後を追うことはしなかった。
彼とこれ以上関わると、『俺』が『私』になってしまいそうで、怖かったからだ。
改めて現在の自分自身の状態を分析してみる。
今朝方女となってしまった俺は、長門の魔法により、男だった時の記憶を保持していた。
そして、その魔法の効果が切れるのは、日付けが変わる時。
つまり、昼過ぎの現在、タイムリミットまで12時間を切っているということになる。
それを踏まえて、この状況を鑑みるに……
恐らく、長門の魔法は、日付けが変わると同時に切れるのではなく、徐々にその効果を失っていくような、そんな魔法なのだろう。
もしかしたら、矛盾を許さないという世界の修正力とやらが、そのように作用しているのかも知れないが、それはこの際どちらでもいい。
とにかく、男に戻るのであれば、急がなくてはならない。
急がなくては、自分の気持ちが不明瞭となり、意味を見失ってしまう。
そんな焦燥感に駆られ、俯き気味に歩いていると、目の前で誰かが立ち止まる気配がした。
????「あれ?そこに居るのは、キョン子ちゃんじゃないかっ!」
聞き馴染みがある、快活な声音。
はっとして顔を上げると、そこには……
鶴屋さん「やっぱりキョン子ちゃんだ!今日も可愛いねっ!」
可愛いのは鶴屋さん、あなたですよ。
彼女は俺の知る鶴屋さんそのものだった。
しかし、スラリとしたその体躯は、女となった今の私よりも高くて、格好良く映った。
キョン子「鶴屋さん……」
鶴屋さん「おや、なんだか、顔色が悪いにょろよ~?どうかしたのかい?」
弱気な俺の声音を耳聡く聞きつけた鶴屋さんが、心配そうにこちらを覗き込んでくる。
キョン子「鶴屋さん、俺……私、どうしたらいいか、わからなくて……」
どうしようもなくなった私は、俺の知る限り、もっとも頼りになる先輩に縋りついた。
キョン子「はぁ……」
空になった弁当を片手に、トボトボと教室に戻る。
結局、ハルの後を追うことはしなかった。
彼とこれ以上関わると、『俺』が『私』になってしまいそうで、怖かったからだ。
改めて現在の自分自身の状態を分析してみる。
今朝方女となってしまった俺は、長門の魔法により、男だった時の記憶を保持していた。
そして、その魔法の効果が切れるのは、日付けが変わる時。
つまり、昼過ぎの現在、タイムリミットまで12時間を切っているということになる。
それを踏まえて、この状況を鑑みるに……
恐らく、長門の魔法は、日付けが変わると同時に切れるのではなく、徐々にその効果を失っていくような、そんな魔法なのだろう。
もしかしたら、矛盾を許さないという世界の修正力とやらが、そのように作用しているのかも知れないが、それはこの際どちらでもいい。
とにかく、男に戻るのであれば、急がなくてはならない。
急がなくては、自分の気持ちが不明瞭となり、意味を見失ってしまう。
そんな焦燥感に駆られ、俯き気味に歩いていると、目の前で誰かが立ち止まる気配がした。
????「あれ?そこに居るのは、キョン子ちゃんじゃないかっ!」
聞き馴染みがある、快活な声音。
はっとして顔を上げると、そこには……
鶴屋さん「やっぱりキョン子ちゃんだ!今日も可愛いねっ!」
可愛いのは鶴屋さん、あなたですよ。
彼女は俺の知る鶴屋さんそのものだった。
しかし、スラリとしたその体躯は、女となった今の私よりも高くて、格好良く映った。
キョン子「鶴屋さん……」
鶴屋さん「おや、なんだか、顔色が悪いにょろよ~?どうかしたのかい?」
弱気な俺の声音を耳聡く聞きつけた鶴屋さんが、心配そうにこちらを覗き込んでくる。
キョン子「鶴屋さん、俺……私、どうしたらいいか、わからなくて……」
どうしようもなくなった私は、俺の知る限り、もっとも頼りになる先輩に縋りついた。
48:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/02/27(月) 01:37:52.82 :HHOZvDS20
縋り付いてしまったとは言え、ありのままを話したところで理解は得られず、余計に心配されてしまうことは目に見えているので、当たり障りのないように言葉を選ぶことにした。
キョン子「もし仮に、重大な二択のどちらかを選ばないといけない状況に置かれたとして、鶴屋さんならどう選びますか?」
鶴屋さん「ふむふむ。二択かぁ……それならもちろん、より良い方っさ!」
単純明快なその回答は、実に彼女らしい。
しかし、今現在俺を悩ます状況は、そこまで単純なものではなかった。
キョン子「それなら、どちらがより良いか、自分自身にもわからない場合はどうしますか?」
鶴屋さん「むむっ。それはめがっさ難しいねっ!でもね、キョン子ちゃん」
そこで鶴屋さんは一旦間を置いて、探るような目でこちらを見つめて、再び口を開いた。
鶴屋さん「自分自身でわからないなんて、そんなのは嘘だと思うなっ!だって君は、どうするべきか、ちゃんと分かってるよね?」
キョン子「鶴屋さん……買いかぶり過ぎですよ」
思わず苦笑して後頭部をかくと、彼女はニッコリ笑って、よしよしと頭を撫でてきた。
その鶴屋さんの優しげな手つきにうっとりしていると、何もかもがどうでも良くなってくる。
そうだ。
男に戻れば、こんな甘美な思いは味わえない。
ならば、より良い選択とは、やはりこのまま女のまま……
鶴屋さん「それよりキョン子ちゃん。なんだか今日の喋り方、男の子みたいでカッコイイにょろね~?」
キョン子「へ?……そ、そう、ですかね?」
突然そんなことを言われて、思わず赤面した俺に、鶴屋さんはほんの少し意地悪な笑みを浮かべて、こう続けた。
鶴屋さん「キョン子ちゃんが男の子だったら良かったのに!」
そう言ってペロリと舌を出す鶴屋さん。
これ以上の殺し文句が、存在するだろうか?
縋り付いてしまったとは言え、ありのままを話したところで理解は得られず、余計に心配されてしまうことは目に見えているので、当たり障りのないように言葉を選ぶことにした。
キョン子「もし仮に、重大な二択のどちらかを選ばないといけない状況に置かれたとして、鶴屋さんならどう選びますか?」
鶴屋さん「ふむふむ。二択かぁ……それならもちろん、より良い方っさ!」
単純明快なその回答は、実に彼女らしい。
しかし、今現在俺を悩ます状況は、そこまで単純なものではなかった。
キョン子「それなら、どちらがより良いか、自分自身にもわからない場合はどうしますか?」
鶴屋さん「むむっ。それはめがっさ難しいねっ!でもね、キョン子ちゃん」
そこで鶴屋さんは一旦間を置いて、探るような目でこちらを見つめて、再び口を開いた。
鶴屋さん「自分自身でわからないなんて、そんなのは嘘だと思うなっ!だって君は、どうするべきか、ちゃんと分かってるよね?」
キョン子「鶴屋さん……買いかぶり過ぎですよ」
思わず苦笑して後頭部をかくと、彼女はニッコリ笑って、よしよしと頭を撫でてきた。
その鶴屋さんの優しげな手つきにうっとりしていると、何もかもがどうでも良くなってくる。
そうだ。
男に戻れば、こんな甘美な思いは味わえない。
ならば、より良い選択とは、やはりこのまま女のまま……
鶴屋さん「それよりキョン子ちゃん。なんだか今日の喋り方、男の子みたいでカッコイイにょろね~?」
キョン子「へ?……そ、そう、ですかね?」
突然そんなことを言われて、思わず赤面した俺に、鶴屋さんはほんの少し意地悪な笑みを浮かべて、こう続けた。
鶴屋さん「キョン子ちゃんが男の子だったら良かったのに!」
そう言ってペロリと舌を出す鶴屋さん。
これ以上の殺し文句が、存在するだろうか?
49:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/02/27(月) 01:44:05.62 :HHOZvDS20
結局上手いこと鶴屋さんに丸め込まれてしまった俺は、午後の授業も手につかず、悩みを抱えたまま放課後を迎えた。
そそくさと支度をして、重い足取りで部室へ向かう。
ちなみにハルは、終業のベルと同時に教室を飛び出して行った。
何が彼をそこまで掻き立てるのかはわからない。
だが、こちらとしても今日に限っては、気合いを入れなくてはならないだろう。
どちらを選ぶにしても、今日の部活動での俺の立ち居振る舞いにかかっているのだ。
その結果、上手くハルを誘導することが出来れば、男に戻ることが出来るだろうが……
ここに来ても、その為の具体策は何一つ思いついていなかった。
もう、終わりだな。
半ば自棄になっていると、いつの間にか部室の前に辿り着いていた。
キョン子「……よし、いくか」
うだうだ悩んでいても仕方ない。
自分に出来ることしか、出来ないのだから。
????「あっ!キョン子ちゃん!今、お茶を入れますね~」
部室の扉を開けた俺は固まった。
そこには、愛らしい小動物が、忙しなく駆け回っていたからだ。
いや、小動物とはさすがに失礼か。
彼だって男の子だ。
プライドを傷つけるかも知れない。
そう、部室には見知らぬ少年が居た。
何やら奇妙な格好をしていて、よくよく見ると、どうやら執事服のようだ。
果たして彼は、どうしてそんな格好でここに居るのだろうかと首を傾げて、部室内を見渡すと……
彼女がいなかった。
俺の心の清涼剤。
『朝比奈みくる』の姿がない。
ハルは仏頂面でパソコンのキーボードを叩きつつ、まるでそれが当然のように執事服の少年に差し出されたお茶を啜っていて……それで俺は理解した。
つまり、この少年が……
????「はい!どうぞ、キョン子ちゃん!」
キョン子「ありがとうございます。……朝比奈さん」
彼こそが、朝比奈みくるだった。
結局上手いこと鶴屋さんに丸め込まれてしまった俺は、午後の授業も手につかず、悩みを抱えたまま放課後を迎えた。
そそくさと支度をして、重い足取りで部室へ向かう。
ちなみにハルは、終業のベルと同時に教室を飛び出して行った。
何が彼をそこまで掻き立てるのかはわからない。
だが、こちらとしても今日に限っては、気合いを入れなくてはならないだろう。
どちらを選ぶにしても、今日の部活動での俺の立ち居振る舞いにかかっているのだ。
その結果、上手くハルを誘導することが出来れば、男に戻ることが出来るだろうが……
ここに来ても、その為の具体策は何一つ思いついていなかった。
もう、終わりだな。
半ば自棄になっていると、いつの間にか部室の前に辿り着いていた。
キョン子「……よし、いくか」
うだうだ悩んでいても仕方ない。
自分に出来ることしか、出来ないのだから。
????「あっ!キョン子ちゃん!今、お茶を入れますね~」
部室の扉を開けた俺は固まった。
そこには、愛らしい小動物が、忙しなく駆け回っていたからだ。
いや、小動物とはさすがに失礼か。
彼だって男の子だ。
プライドを傷つけるかも知れない。
そう、部室には見知らぬ少年が居た。
何やら奇妙な格好をしていて、よくよく見ると、どうやら執事服のようだ。
果たして彼は、どうしてそんな格好でここに居るのだろうかと首を傾げて、部室内を見渡すと……
彼女がいなかった。
俺の心の清涼剤。
『朝比奈みくる』の姿がない。
ハルは仏頂面でパソコンのキーボードを叩きつつ、まるでそれが当然のように執事服の少年に差し出されたお茶を啜っていて……それで俺は理解した。
つまり、この少年が……
????「はい!どうぞ、キョン子ちゃん!」
キョン子「ありがとうございます。……朝比奈さん」
彼こそが、朝比奈みくるだった。
50:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/02/27(月) 01:48:56.29 :HHOZvDS20
ハル「おーい、みく。お茶、おかわり!」
みく「はい!わかりました~」
朝比奈さんは、男となった今、『みく』と名乗っているらしい。
男の名前としてどうかとは思うが、可愛いのでとやかく言うまい。
そう。
朝比奈さんは、男になっても可愛かった。
今の私と大差ない小さな背丈、愛嬌のある表情、そして見るからに柔らかそうなふわふわの髪は、ショートボブにカットされていて、思わず抱きしめたくなってしまう。
私って、ショタコンだったっけ?
いや、可愛いものを愛でるのに、性別や年齢など関係ないではないか。
そうだ!
可愛いは正義であって、可愛いければ全てどうでもいい……って、待て待て待て!
危ない危ない。
また、『私』になるところだった。
恐るべし、『朝比奈みく』の破壊力。
みく「キョン子ちゃん、どうかしましたか?」
キョン子「いえ、お気になさらずに」
そんな愛らしい朝比奈さんを観察した結果、彼は今回の事態を認識すらしていないと確信した。
わかりやすさで右に出る者が居ない朝比奈さんが、朝起きたら突然男になっていたならば、こうも自然に振る舞うことは出来ないだろう。
長門が言っていた通り、この人は何も知らないのだ。
ちなみに長門はいつもの定位置でパソコンをカタカタやっている。
何も言葉を発することはないが、この場に居てくれるだけで少なからず安心感を覚えた。
それに、時折目が合うので、こちらのことを気にしてくれていることには違いあるまい。
え?
1人足りなくないかって?
やめてくれ。
そんなことを言ったら、ほら……
古泉「あら、これはこれは皆さまお揃いで。お待たせしてしまって、申し訳ありません」
見計らったように扉が開き、敢えて意識から除外していた奴が、姿を現した。
ハル「おーい、みく。お茶、おかわり!」
みく「はい!わかりました~」
朝比奈さんは、男となった今、『みく』と名乗っているらしい。
男の名前としてどうかとは思うが、可愛いのでとやかく言うまい。
そう。
朝比奈さんは、男になっても可愛かった。
今の私と大差ない小さな背丈、愛嬌のある表情、そして見るからに柔らかそうなふわふわの髪は、ショートボブにカットされていて、思わず抱きしめたくなってしまう。
私って、ショタコンだったっけ?
いや、可愛いものを愛でるのに、性別や年齢など関係ないではないか。
そうだ!
可愛いは正義であって、可愛いければ全てどうでもいい……って、待て待て待て!
危ない危ない。
また、『私』になるところだった。
恐るべし、『朝比奈みく』の破壊力。
みく「キョン子ちゃん、どうかしましたか?」
キョン子「いえ、お気になさらずに」
そんな愛らしい朝比奈さんを観察した結果、彼は今回の事態を認識すらしていないと確信した。
わかりやすさで右に出る者が居ない朝比奈さんが、朝起きたら突然男になっていたならば、こうも自然に振る舞うことは出来ないだろう。
長門が言っていた通り、この人は何も知らないのだ。
ちなみに長門はいつもの定位置でパソコンをカタカタやっている。
何も言葉を発することはないが、この場に居てくれるだけで少なからず安心感を覚えた。
それに、時折目が合うので、こちらのことを気にしてくれていることには違いあるまい。
え?
1人足りなくないかって?
やめてくれ。
そんなことを言ったら、ほら……
古泉「あら、これはこれは皆さまお揃いで。お待たせしてしまって、申し訳ありません」
見計らったように扉が開き、敢えて意識から除外していた奴が、姿を現した。
51:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/02/27(月) 01:53:48.30 :HHOZvDS20
女狐を連想させる切れ長の瞳、口元に張り付く営業スマイル、時間をかけてセットしたと思われるセミロングの髪を耳にかけ、形の良いお耳を晒せばあら不思議……誰もが彼女を振り返ること間違いなし。
古泉は、そんな完璧な美少女の姿へと変貌を遂げていた。
もっとも、すっかり団員の性転換に慣れてしまった俺が、今更動じることはない。
それにしても……
古泉「おや?どうかしましたか?私の胸をじっと見つめて……んふっ、おかしな気分になってしまいますね」
うるせぇ。
つーか、なんだそのメロンみたいな胸は。
もぎ取って収穫してやろうか?
古泉「痛く、しないで下さいね……?」
こいつは……
男でも女でも気持ち悪い奴だ。
誰か助けてくれ。
みく「はわわわわわ……」
ハル「イツキはいつもエロエロだな」
赤面して顔を覆ってしまった朝比奈さんと、呆れ顔で嘆息するハル。
彼らではこの痴女を止めることはできまい。
ならば……
頼む長門、助けてくれ。
長門「……」
どうやらまったく興味なし。
まあ、長門だしな。
この手のことに、口を挟むわけないか。
キョン子「どちらにせよ、これなのか……」
結局、変態古泉のことはそのまま放置することにして、どっと疲労感に襲われた俺は、そのまま机に突っ伏したのだった。
女狐を連想させる切れ長の瞳、口元に張り付く営業スマイル、時間をかけてセットしたと思われるセミロングの髪を耳にかけ、形の良いお耳を晒せばあら不思議……誰もが彼女を振り返ること間違いなし。
古泉は、そんな完璧な美少女の姿へと変貌を遂げていた。
もっとも、すっかり団員の性転換に慣れてしまった俺が、今更動じることはない。
それにしても……
古泉「おや?どうかしましたか?私の胸をじっと見つめて……んふっ、おかしな気分になってしまいますね」
うるせぇ。
つーか、なんだそのメロンみたいな胸は。
もぎ取って収穫してやろうか?
古泉「痛く、しないで下さいね……?」
こいつは……
男でも女でも気持ち悪い奴だ。
誰か助けてくれ。
みく「はわわわわわ……」
ハル「イツキはいつもエロエロだな」
赤面して顔を覆ってしまった朝比奈さんと、呆れ顔で嘆息するハル。
彼らではこの痴女を止めることはできまい。
ならば……
頼む長門、助けてくれ。
長門「……」
どうやらまったく興味なし。
まあ、長門だしな。
この手のことに、口を挟むわけないか。
キョン子「どちらにせよ、これなのか……」
結局、変態古泉のことはそのまま放置することにして、どっと疲労感に襲われた俺は、そのまま机に突っ伏したのだった。
52:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/02/27(月) 01:58:37.53 :HHOZvDS20
何をするでもなく、ただただ緩慢に時間が流れていく。
しかし退屈かと言えば、そうでもなく、私は案外、この時間を好ましく思っていたようだ。
今日も今日とて、古泉とボードゲームを繰り広げながら、なんとなく、それを自覚した。
それは、自分がしようとしていたことを……
自分がしなければならないことを……
忘れかけている何よりの証拠であり、そもそもそれが何だったのかすら、今となっては定かではない。
いや、もはやどうでもいい。
そんな風に思える程、この空間を……
そしてこの状況を、私は心地よく感じていた。
古泉「また負けてしまいましたね。仕方ありません。罰ゲームとして服を……」
キョン子「脱ぐな」
何度目とも知れない敗北宣言と共に、おもむろに自身のスカートに手を差し入れた古泉を一喝する。
油断するとすぐこれだ。
私に怒られた古泉は肩を竦めるジャスチャーをした後、いそいそとボードゲームを片付け始めた。
すっかり丸まった背筋を伸ばし、部室に備えられた壁掛け時計を仰ぎ見ると、そろそろ下校時間になるところだった。
キョン子「ちょっと席を外すぞ」
帰る前に用を足しておこうと思い、席を立つと……
古泉「あら、それなら私も同行しましょう」
キョン子「は?」
何故か古泉まで席を立つ。
いや、私はトイレに行きたいんだけど……
古泉「うふっ。いいじゃないですか。一緒にお花を摘みに行きましょう」
いやいや。
こいつに常識はないのか?
常識知らずのこの痴女を、どうやって引き離そうかと頭を悩ませていると……
ハル「お?連れションか!よし!ゆうき、みく!俺たちも連れションしようぜ!!」
ハルの一言により、状況が大きく動き始めた。
何をするでもなく、ただただ緩慢に時間が流れていく。
しかし退屈かと言えば、そうでもなく、私は案外、この時間を好ましく思っていたようだ。
今日も今日とて、古泉とボードゲームを繰り広げながら、なんとなく、それを自覚した。
それは、自分がしようとしていたことを……
自分がしなければならないことを……
忘れかけている何よりの証拠であり、そもそもそれが何だったのかすら、今となっては定かではない。
いや、もはやどうでもいい。
そんな風に思える程、この空間を……
そしてこの状況を、私は心地よく感じていた。
古泉「また負けてしまいましたね。仕方ありません。罰ゲームとして服を……」
キョン子「脱ぐな」
何度目とも知れない敗北宣言と共に、おもむろに自身のスカートに手を差し入れた古泉を一喝する。
油断するとすぐこれだ。
私に怒られた古泉は肩を竦めるジャスチャーをした後、いそいそとボードゲームを片付け始めた。
すっかり丸まった背筋を伸ばし、部室に備えられた壁掛け時計を仰ぎ見ると、そろそろ下校時間になるところだった。
キョン子「ちょっと席を外すぞ」
帰る前に用を足しておこうと思い、席を立つと……
古泉「あら、それなら私も同行しましょう」
キョン子「は?」
何故か古泉まで席を立つ。
いや、私はトイレに行きたいんだけど……
古泉「うふっ。いいじゃないですか。一緒にお花を摘みに行きましょう」
いやいや。
こいつに常識はないのか?
常識知らずのこの痴女を、どうやって引き離そうかと頭を悩ませていると……
ハル「お?連れションか!よし!ゆうき、みく!俺たちも連れションしようぜ!!」
ハルの一言により、状況が大きく動き始めた。
53:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/02/27(月) 02:02:19.70 :HHOZvDS20
みく「つ、連れション、ですか?ぼ、僕はちょっと……」
長門「……特に尿意は感じていない」
突然のハルの提案に、恥ずかしそうにもじもじする朝比奈さんと、取りつく島もない長門。
長門はともかく、もしかしたら朝比奈さんは自分のブツに自信がないのだろうか?
そうならば、実に可愛い。うん、可愛い。
お姉さんが、自信をつけてあげたい。
おっと。
つい余計な妄想をしてしまった。
いけないいけない。
ハル「なんだよ、ツレねぇな……」
ハルは面白くなさそうにそう呟き、あっさりと諦めた。
強要しないことはいいことだが、こいつにしてはやけに物分かりが良かったな。
さてはこの男、それほど尿意を感じていなかったな?
そう思って、表情を伺うと……
ハル「……ふん」
彼はしょんぼりとしていて、つまらなそうに鼻を鳴らした。
どこか見覚えのある、その寂しそうな表情がやけに印象的で……私は胸が締め付けられる感覚を覚えたのだった。
みく「つ、連れション、ですか?ぼ、僕はちょっと……」
長門「……特に尿意は感じていない」
突然のハルの提案に、恥ずかしそうにもじもじする朝比奈さんと、取りつく島もない長門。
長門はともかく、もしかしたら朝比奈さんは自分のブツに自信がないのだろうか?
そうならば、実に可愛い。うん、可愛い。
お姉さんが、自信をつけてあげたい。
おっと。
つい余計な妄想をしてしまった。
いけないいけない。
ハル「なんだよ、ツレねぇな……」
ハルは面白くなさそうにそう呟き、あっさりと諦めた。
強要しないことはいいことだが、こいつにしてはやけに物分かりが良かったな。
さてはこの男、それほど尿意を感じていなかったな?
そう思って、表情を伺うと……
ハル「……ふん」
彼はしょんぼりとしていて、つまらなそうに鼻を鳴らした。
どこか見覚えのある、その寂しそうな表情がやけに印象的で……私は胸が締め付けられる感覚を覚えたのだった。
54:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/02/27(月) 02:06:11.55 :HHOZvDS20
そんな騒動のどさくさに紛れて、私は古泉を残し、そそくさと部室を出た。
なにせ、ハルがへそを曲げて一番困ることになるのは彼女なのだ。
せいぜい、閉鎖空間が生み出されることがないように善処してくれ。
キョン子「それにしても寒いな……」
だいぶ日が長くなってきたとは言え、今にも沈みそうなほど太陽が傾いたことにより、廊下はかなり冷え込んでいた。
その上、今日の私は生足なのだ。
どうしてタイツを履いて来なかったのか、後悔してもしきれない。
そして、その後悔は形となって、この身に襲いかかることとなった。
キョン子「……腹が痛い」
急激に腹を冷やしたことにより、トイレの前に辿り着くや否や、突如腹痛に見舞われた。
もしかしたら、昼にハルの弁当を全て平らげてしまったことも理由の一つかも知れない。
男子の弁当は、私には少々多すぎたのだ。
なにはともあれ、帰り道でこうならなかったのは、不幸中の幸いと言えよう。
よもやここに来て
『大』をすることになるとは……
これから自分がすることに躊躇いを覚える。
しかし……
どうして、躊躇う必要があるのだろう。
『私』には自分自信がその行為に躊躇する意味すら、わからなくなっていた。
キョン子「ふぅ……」
なんにせよ漏らすわけにはいかなかった私は、女子トイレの個室に駆け込み、腹痛の原因を全てひねり出した。
……少々下品な表現ではあるが、それがもっとも相応しいと思ったのだ。
寛大な心で了承して貰いたい。
さて。
出し終えてスッキリ爽快な気分を味わった私は、付着物を拭き取るべく、トイレットペーパーに手を伸ばし……
衝撃を受けた。
キョン子「紙が……ない、だと?」
Oh……My Jesus!
とうやら神は……
いや、紙は、私に最後の試練を課したらしい。
そんな騒動のどさくさに紛れて、私は古泉を残し、そそくさと部室を出た。
なにせ、ハルがへそを曲げて一番困ることになるのは彼女なのだ。
せいぜい、閉鎖空間が生み出されることがないように善処してくれ。
キョン子「それにしても寒いな……」
だいぶ日が長くなってきたとは言え、今にも沈みそうなほど太陽が傾いたことにより、廊下はかなり冷え込んでいた。
その上、今日の私は生足なのだ。
どうしてタイツを履いて来なかったのか、後悔してもしきれない。
そして、その後悔は形となって、この身に襲いかかることとなった。
キョン子「……腹が痛い」
急激に腹を冷やしたことにより、トイレの前に辿り着くや否や、突如腹痛に見舞われた。
もしかしたら、昼にハルの弁当を全て平らげてしまったことも理由の一つかも知れない。
男子の弁当は、私には少々多すぎたのだ。
なにはともあれ、帰り道でこうならなかったのは、不幸中の幸いと言えよう。
よもやここに来て
『大』をすることになるとは……
これから自分がすることに躊躇いを覚える。
しかし……
どうして、躊躇う必要があるのだろう。
『私』には自分自信がその行為に躊躇する意味すら、わからなくなっていた。
キョン子「ふぅ……」
なんにせよ漏らすわけにはいかなかった私は、女子トイレの個室に駆け込み、腹痛の原因を全てひねり出した。
……少々下品な表現ではあるが、それがもっとも相応しいと思ったのだ。
寛大な心で了承して貰いたい。
さて。
出し終えてスッキリ爽快な気分を味わった私は、付着物を拭き取るべく、トイレットペーパーに手を伸ばし……
衝撃を受けた。
キョン子「紙が……ない、だと?」
Oh……My Jesus!
とうやら神は……
いや、紙は、私に最後の試練を課したらしい。
55:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/02/27(月) 02:10:11.08 :HHOZvDS20
くそっ。
どこのバカがトイレットペーパーを無駄遣いしやがったんだ?
そんな風に憤ってみたが、実はそのバカは自分自身であり、今朝慣れない排泄の際に、これでもかと紙を消費したことが原因だった。
もっとも、極度の混乱状態の私がそのことに気づいたのは、ずっと後になってからである。
とにかく、絶望の淵に沈んでいても状況の好転は望めまいと考えた私は、下着を下ろしたまま隣の個室へ赴き、紙を拝借することを決めた。
女子としてあるまじき行為ではあるが、この際仕方ない。
幸いなことにこのトイレを利用するのは我々SOS団くらいなので、人が入ってくることはまずない筈。
意を決して個室から出ようとした、その時。
ガチャリとドアが開き、誰かが女子トイレに入ってきた。
私は中腰の姿勢のまま、慌てて息を潜めた。
トイレに入って来た何者かに助けを求めるよりも先に、今のこの状況を恥じたのである。
乙女の恥じらいとして、理解して貰いたい。
????「……」
ツカツカツカ……
足音がこちらに向かって来て、そして私の入った個室の前で侵入者は足を止めた。
なにか得体の知れない恐怖を感じ、身じろぎ一つ出来ず、息を押し殺して様子を伺っていると……
????「くんくん……くんくん……フハッ!」
なんだこいつ!?
匂いを嗅いだと思ったら笑い出しやがった!!
排泄物を流さずに放置していたことが悔やまれる。
慌てて流そうと思っても後の祭りだ。
私が大をしたことは既に向こうに伝わってしまったのだ。
????「……紙が、ないのですか?」
羞恥と怒りがごちゃ混ぜになり、もういっそのこと怒鳴り散らしてやろうかと思ったその矢先、突然扉の前から訪ねられた。
って、この声はまさか。
キョン子「古泉……か?何してんだ、お前」
古泉「あなたが随分遅いもので、様子を見に来ました。それで、紙はいりませんか?」
喋り口調はこちらを慮っているが、私の耳は誤魔化されないぞ。
愉悦が含まれてやがる。
本来ならばこんな変態に助けを求めるなど業腹以外の何物でもないが……仕方あるまい。
キョン子「古泉……紙をくれ」
こうして私は、大変不本意ながらも、変態古泉に救われたのだった。
くそっ。
どこのバカがトイレットペーパーを無駄遣いしやがったんだ?
そんな風に憤ってみたが、実はそのバカは自分自身であり、今朝慣れない排泄の際に、これでもかと紙を消費したことが原因だった。
もっとも、極度の混乱状態の私がそのことに気づいたのは、ずっと後になってからである。
とにかく、絶望の淵に沈んでいても状況の好転は望めまいと考えた私は、下着を下ろしたまま隣の個室へ赴き、紙を拝借することを決めた。
女子としてあるまじき行為ではあるが、この際仕方ない。
幸いなことにこのトイレを利用するのは我々SOS団くらいなので、人が入ってくることはまずない筈。
意を決して個室から出ようとした、その時。
ガチャリとドアが開き、誰かが女子トイレに入ってきた。
私は中腰の姿勢のまま、慌てて息を潜めた。
トイレに入って来た何者かに助けを求めるよりも先に、今のこの状況を恥じたのである。
乙女の恥じらいとして、理解して貰いたい。
????「……」
ツカツカツカ……
足音がこちらに向かって来て、そして私の入った個室の前で侵入者は足を止めた。
なにか得体の知れない恐怖を感じ、身じろぎ一つ出来ず、息を押し殺して様子を伺っていると……
????「くんくん……くんくん……フハッ!」
なんだこいつ!?
匂いを嗅いだと思ったら笑い出しやがった!!
排泄物を流さずに放置していたことが悔やまれる。
慌てて流そうと思っても後の祭りだ。
私が大をしたことは既に向こうに伝わってしまったのだ。
????「……紙が、ないのですか?」
羞恥と怒りがごちゃ混ぜになり、もういっそのこと怒鳴り散らしてやろうかと思ったその矢先、突然扉の前から訪ねられた。
って、この声はまさか。
キョン子「古泉……か?何してんだ、お前」
古泉「あなたが随分遅いもので、様子を見に来ました。それで、紙はいりませんか?」
喋り口調はこちらを慮っているが、私の耳は誤魔化されないぞ。
愉悦が含まれてやがる。
本来ならばこんな変態に助けを求めるなど業腹以外の何物でもないが……仕方あるまい。
キョン子「古泉……紙をくれ」
こうして私は、大変不本意ながらも、変態古泉に救われたのだった。
56:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/02/27(月) 02:14:51.99 :HHOZvDS20
個室の頭上から古泉が投げ入れたトイレットペーパーを受け取った私は、それでお尻を拭き、個室から出た。
キョン子「ハルをほっといて良かったのか?」
手を洗う際にそう訪ねると、古泉は苦笑して……
古泉「もちろん、良くありませんよ。ですが、問題の根本をどうにかする方が先決かと思いまして」
何やら意味深なことを口にしやがる。
相変わらず、遠回しな言い方をする奴だ。
キョン子「どういう意味だ?」
古泉「考えても見てください。涼宮さんは男だから連れションが出来ない。彼が女だったら良かったのですが……」
いやいや、女なら余計に連れションをしづらくなるだろう。
現にこうして、自分の性別に不満を持ったハルヒは世界を変えて……
そこまで考えて、はっとした。
そうだ。
どうして忘れていたんだ。
もともとハルは……
ハルヒは、女だった。
そして『私』は……
『俺』は、男だった。
連れションなんて下らないことの為に、あいつは団員全員を巻き添えに性転換しやがったんだ。
古泉「あら?表情が変わりましたね。今朝のあなたの言動は報告に上がっています。もちろん、長門さんと一緒にこのトイレに篭っていたことも、ね」
してやったりと嬉しそうに微笑む、その無駄に綺麗な顔をぶん殴りたい。
キョン子「古泉……お前はどこまで知ってるんだ?」
古泉「私は何も知りません。ですが、今のあなたの反応を見て、大方予想通りだと確信が持てました」
悪かったな。
わかりやすい顔をしてて。
古泉「あなたにお願いがあります」
ふてくされていると、古泉は急に真面目くさった顔になり……
古泉「涼宮さんを、女性に戻してあげてくれませんか?」
その願いは、俺が抱いていた望みだった。
個室の頭上から古泉が投げ入れたトイレットペーパーを受け取った私は、それでお尻を拭き、個室から出た。
キョン子「ハルをほっといて良かったのか?」
手を洗う際にそう訪ねると、古泉は苦笑して……
古泉「もちろん、良くありませんよ。ですが、問題の根本をどうにかする方が先決かと思いまして」
何やら意味深なことを口にしやがる。
相変わらず、遠回しな言い方をする奴だ。
キョン子「どういう意味だ?」
古泉「考えても見てください。涼宮さんは男だから連れションが出来ない。彼が女だったら良かったのですが……」
いやいや、女なら余計に連れションをしづらくなるだろう。
現にこうして、自分の性別に不満を持ったハルヒは世界を変えて……
そこまで考えて、はっとした。
そうだ。
どうして忘れていたんだ。
もともとハルは……
ハルヒは、女だった。
そして『私』は……
『俺』は、男だった。
連れションなんて下らないことの為に、あいつは団員全員を巻き添えに性転換しやがったんだ。
古泉「あら?表情が変わりましたね。今朝のあなたの言動は報告に上がっています。もちろん、長門さんと一緒にこのトイレに篭っていたことも、ね」
してやったりと嬉しそうに微笑む、その無駄に綺麗な顔をぶん殴りたい。
キョン子「古泉……お前はどこまで知ってるんだ?」
古泉「私は何も知りません。ですが、今のあなたの反応を見て、大方予想通りだと確信が持てました」
悪かったな。
わかりやすい顔をしてて。
古泉「あなたにお願いがあります」
ふてくされていると、古泉は急に真面目くさった顔になり……
古泉「涼宮さんを、女性に戻してあげてくれませんか?」
その願いは、俺が抱いていた望みだった。
57:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/02/27(月) 02:28:56.81 :HHOZvDS20
キョン子「お前が願いはわかった。だが、どうにも腑に落ちない点がある」
古泉「なんでしょう?」
口元の笑みを絶やすことなく、余裕たっぷりの古泉は、何を聞かれても答えられると言わんばかりな自信に満ち溢れていた。
そんな彼女の微笑を見ていると、ムカムカして仕方ないのだが、それはさておき、聞きたいことを聞き出すことに専念しよう。
キョン子「お前は問題の根本は涼宮ハルの性別にあると言ったな」
古泉「はい。確かに言いました」
キョン子「仮にあいつを女にしたとして、それはあいつが望む『連れション』の実現からは遠ざかると思うんだが……」
古泉「それはどうしてでしょう?」
どうしてもこうしてもないだろ。
ハルヒは女だから連れションすることが出来なかったのだ。
キョン子「お前が願いはわかった。だが、どうにも腑に落ちない点がある」
古泉「なんでしょう?」
口元の笑みを絶やすことなく、余裕たっぷりの古泉は、何を聞かれても答えられると言わんばかりな自信に満ち溢れていた。
そんな彼女の微笑を見ていると、ムカムカして仕方ないのだが、それはさておき、聞きたいことを聞き出すことに専念しよう。
キョン子「お前は問題の根本は涼宮ハルの性別にあると言ったな」
古泉「はい。確かに言いました」
キョン子「仮にあいつを女にしたとして、それはあいつが望む『連れション』の実現からは遠ざかると思うんだが……」
古泉「それはどうしてでしょう?」
どうしてもこうしてもないだろ。
ハルヒは女だから連れションすることが出来なかったのだ。
58:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/02/27(月) 02:39:45.55 :HHOZvDS20
古泉「女性が皆、連れションをしない、というのはあなたの偏見ですよ。涼宮さんが連れション出来なかったのは、周囲の方達に適正がなかったのでしょう」
なるほど。
長門や朝比奈さんの性格を鑑みるに、連れションの適正がなかった為、ハルヒの提案に乗らなかったと考えるのが自然か。
その言い分には一理ある。
だが、それでは……
キョン子「なら、結局どちらの性別でもあいつは連れション出来ないってことじゃないか」
そうなってしまう。
いや、方法がないわけじゃない。
俺があいつと同じ性別になってやれば……
古泉「それは無理ですね。あなたは涼宮さんと同じ性別になることは出来ませんよ。あの方は本能として、それを望まない」
確信を持って言い切る古泉。
その根拠を教えて貰いたいもんだ。
古泉「あなただって、それを本能的に望まない筈です。それが理由と言っておきましょう」
お前に俺の何がわかる。
まあ、わざわざ否定はしないがな。
キョン子「もういい。それで、どうして涼宮ハルを女にする必要があるんだ?具体的な理由を示してくれ」
そろそろ堪忍袋の尾がぶち切れそうな俺が、苛つきを隠しもせずに問うと、古泉は微笑は更に深め……
古泉「男子生徒が女子トイレに入ることは出来ません。ですが、女子生徒が男子トイレに入ったところで、さほど問題にはならない。ここまで言えば、もうおわかりでしょう?」
そんな暴論に、俺は納得せざるを得なかった。
古泉「女性が皆、連れションをしない、というのはあなたの偏見ですよ。涼宮さんが連れション出来なかったのは、周囲の方達に適正がなかったのでしょう」
なるほど。
長門や朝比奈さんの性格を鑑みるに、連れションの適正がなかった為、ハルヒの提案に乗らなかったと考えるのが自然か。
その言い分には一理ある。
だが、それでは……
キョン子「なら、結局どちらの性別でもあいつは連れション出来ないってことじゃないか」
そうなってしまう。
いや、方法がないわけじゃない。
俺があいつと同じ性別になってやれば……
古泉「それは無理ですね。あなたは涼宮さんと同じ性別になることは出来ませんよ。あの方は本能として、それを望まない」
確信を持って言い切る古泉。
その根拠を教えて貰いたいもんだ。
古泉「あなただって、それを本能的に望まない筈です。それが理由と言っておきましょう」
お前に俺の何がわかる。
まあ、わざわざ否定はしないがな。
キョン子「もういい。それで、どうして涼宮ハルを女にする必要があるんだ?具体的な理由を示してくれ」
そろそろ堪忍袋の尾がぶち切れそうな俺が、苛つきを隠しもせずに問うと、古泉は微笑は更に深め……
古泉「男子生徒が女子トイレに入ることは出来ません。ですが、女子生徒が男子トイレに入ったところで、さほど問題にはならない。ここまで言えば、もうおわかりでしょう?」
そんな暴論に、俺は納得せざるを得なかった。
59:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/02/27(月) 02:48:25.36 :HHOZvDS20
渋々納得した俺は、部室に戻る道中、古泉と具体的な策を練っていた。
キョン子「それで?どうやってハルに願いを叶えさせるつもりだ?」
古泉「それはあなたの仕事です。私が口を挟むことではありません」
なんだそれ。
結局俺に丸投げかよ。
いや、先に丸投げしようとしたのは、こっちか……
古泉「そんな顔をしないでください。そうですね……それではヒントをお教えしましょう」
こちらの反応を楽しんでることなんざ、そのニヤニヤ笑いで丸わかりだぞ。
古泉「私はこれでも、あなたが思っている以上に、あなたのことを高く評価しています」
ふんっ。
どいつもこいつも俺を買い被り過ぎなんだよ。
それにおだてたって、お前には何一つやらん。
古泉「私は最近思うのですよ。涼宮さんは神ですが、その神を創り上げたのは、あなたではないかと、ね」
なんだそれは。
妄想も甚だしいぞ。
俺はこれまで、あんな傍迷惑な神様の存在を望んだことなんざ、一度もない。
古泉「あなたは涼宮さんが巻き起こす騒動を、なんだかんだと言っても楽しんでいる。そうでしょう?」
馬鹿馬鹿しい。
否定する気も起きないな。
古泉「涼宮さんの願いはあなたの願いでもあり、そしてその逆もまた然り、です」
……俺は今、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべているだろう。
古泉「ですから、あなたが涼宮さんに可愛くお願いすれば、きっと万事解決ですよ」
阿呆らしいことをいけしゃあしゃあと好き放題言ってくれた古泉は、最後に頼みもしないのに無駄に上手いウインクを添えて、助言を締めくくったのだった。
渋々納得した俺は、部室に戻る道中、古泉と具体的な策を練っていた。
キョン子「それで?どうやってハルに願いを叶えさせるつもりだ?」
古泉「それはあなたの仕事です。私が口を挟むことではありません」
なんだそれ。
結局俺に丸投げかよ。
いや、先に丸投げしようとしたのは、こっちか……
古泉「そんな顔をしないでください。そうですね……それではヒントをお教えしましょう」
こちらの反応を楽しんでることなんざ、そのニヤニヤ笑いで丸わかりだぞ。
古泉「私はこれでも、あなたが思っている以上に、あなたのことを高く評価しています」
ふんっ。
どいつもこいつも俺を買い被り過ぎなんだよ。
それにおだてたって、お前には何一つやらん。
古泉「私は最近思うのですよ。涼宮さんは神ですが、その神を創り上げたのは、あなたではないかと、ね」
なんだそれは。
妄想も甚だしいぞ。
俺はこれまで、あんな傍迷惑な神様の存在を望んだことなんざ、一度もない。
古泉「あなたは涼宮さんが巻き起こす騒動を、なんだかんだと言っても楽しんでいる。そうでしょう?」
馬鹿馬鹿しい。
否定する気も起きないな。
古泉「涼宮さんの願いはあなたの願いでもあり、そしてその逆もまた然り、です」
……俺は今、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべているだろう。
古泉「ですから、あなたが涼宮さんに可愛くお願いすれば、きっと万事解決ですよ」
阿呆らしいことをいけしゃあしゃあと好き放題言ってくれた古泉は、最後に頼みもしないのに無駄に上手いウインクを添えて、助言を締めくくったのだった。
60:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/02/27(月) 02:52:54.22 :HHOZvDS20
結局策らしいものを何一つ練られなかった俺が、覚悟を決めて部室を開くと、朝比奈さんと長門はいそいそと帰り支度を始めた。
俺が入ってきた際に、ほっとした表情を浮かべた朝比奈さんの様子を見るに、不在の間、部内はさぞかしピリピリとしていたのだろう。
その元凶の人物はと言えば……
不機嫌さを隠そうともせずに、のそのそと、気怠げに帰り支度を始めていた。
そんなハルにそっと歩みより、訪ねる。
キョン子「ハル……お前、そんなに連れションがしたかったのか?」
ハル「……別に」
まったく。
素直じゃない奴だ。
ただ……
そんなところが、お前らしい。
キョン子「俺が男だったら良かったんだけどな……」
ハル「……は?」
伊達に長く付き合ってるわけじゃない。
お前の気の引き方くらい、わかっているさ。
キョン子「いっそのこと、団員全員の性別を入れ替える……なんてのも、面白そうだって思わないか?」
ハル「……ふん。何馬鹿なこと言ってんだ」
ハルは……
ハルヒは、素直じゃない。
だから、
素直じゃない『彼』は……
天邪鬼な『彼女』は……
口ではそう言いつつも、きっと……
ハル「だけど、まあ……なかなか、面白いじゃねぇか」
ほらな。
チョロいもんだろう?
結局策らしいものを何一つ練られなかった俺が、覚悟を決めて部室を開くと、朝比奈さんと長門はいそいそと帰り支度を始めた。
俺が入ってきた際に、ほっとした表情を浮かべた朝比奈さんの様子を見るに、不在の間、部内はさぞかしピリピリとしていたのだろう。
その元凶の人物はと言えば……
不機嫌さを隠そうともせずに、のそのそと、気怠げに帰り支度を始めていた。
そんなハルにそっと歩みより、訪ねる。
キョン子「ハル……お前、そんなに連れションがしたかったのか?」
ハル「……別に」
まったく。
素直じゃない奴だ。
ただ……
そんなところが、お前らしい。
キョン子「俺が男だったら良かったんだけどな……」
ハル「……は?」
伊達に長く付き合ってるわけじゃない。
お前の気の引き方くらい、わかっているさ。
キョン子「いっそのこと、団員全員の性別を入れ替える……なんてのも、面白そうだって思わないか?」
ハル「……ふん。何馬鹿なこと言ってんだ」
ハルは……
ハルヒは、素直じゃない。
だから、
素直じゃない『彼』は……
天邪鬼な『彼女』は……
口ではそう言いつつも、きっと……
ハル「だけど、まあ……なかなか、面白いじゃねぇか」
ほらな。
チョロいもんだろう?
61:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/02/27(月) 02:58:00.22 :HHOZvDS20
そうして俺は男の姿へと戻ることが出来た。
朝起きると……
キョンの妹「キョンくん、朝だよ~!おーきーてー!!」
と、愛しい妹が目覚ましダイビングをかましてきた。
この可愛い妹に、もう『お姉ちゃん』と呼ばれることがないと思うと悲しい。
もっとも、
男の姿で『お姉ちゃん』と呼ばれたくなどはないが。
だけど妹よ……
せめて、『お兄ちゃん』と呼んでくれ。
そんな、ようやく帰ってきた日常を噛み締めつつ、今日も今日とて谷口とどうでもいい会話をしながら登校し、教室の扉を開けると……
キョン「よう、ハルヒ。どうしたんだ?その頭」
ハルヒ「……別に」
すっかり元の女の姿になったハルヒだったが、今日は一風変わった髪型をしていた。
黄色のカチューシャで、前髪を全開にした、どこぞのヤンキーのような髪型。
まったく……
そんな髪型、テレビの中の不良でしか見たことがない。
ただ、似合っているかどうかという観点から判断するのならば、こう言わざるを得まい。
キョン「似合ってるぞ」
ハルヒ「……ふんっ」
やっぱりこいつは素直じゃない。
だが俺は、素直じゃないお前に、もう一つ言いたいことがあるんだよ。
キョン「連れション、一緒に行くか?」
その後……
ポカンと口を開けたハルヒの顔が真っ赤に染まり、思いっきりぶん殴られたことなんざ……
そんなこと、言うまでもないことだろう?
FIN
そうして俺は男の姿へと戻ることが出来た。
朝起きると……
キョンの妹「キョンくん、朝だよ~!おーきーてー!!」
と、愛しい妹が目覚ましダイビングをかましてきた。
この可愛い妹に、もう『お姉ちゃん』と呼ばれることがないと思うと悲しい。
もっとも、
男の姿で『お姉ちゃん』と呼ばれたくなどはないが。
だけど妹よ……
せめて、『お兄ちゃん』と呼んでくれ。
そんな、ようやく帰ってきた日常を噛み締めつつ、今日も今日とて谷口とどうでもいい会話をしながら登校し、教室の扉を開けると……
キョン「よう、ハルヒ。どうしたんだ?その頭」
ハルヒ「……別に」
すっかり元の女の姿になったハルヒだったが、今日は一風変わった髪型をしていた。
黄色のカチューシャで、前髪を全開にした、どこぞのヤンキーのような髪型。
まったく……
そんな髪型、テレビの中の不良でしか見たことがない。
ただ、似合っているかどうかという観点から判断するのならば、こう言わざるを得まい。
キョン「似合ってるぞ」
ハルヒ「……ふんっ」
やっぱりこいつは素直じゃない。
だが俺は、素直じゃないお前に、もう一つ言いたいことがあるんだよ。
キョン「連れション、一緒に行くか?」
その後……
ポカンと口を開けたハルヒの顔が真っ赤に染まり、思いっきりぶん殴られたことなんざ……
そんなこと、言うまでもないことだろう?
FIN
コメント
段々と男の頃の記憶が消えていく展開あんまり好きじゃない
最終的にただの女になるんじゃTSの意味ないじゃん