＜暗殺組織＞

上司「おい、ナイフ使い！」

ナイフ使い「なんです？」

上司「汚職政治家暗殺の件はどうなった？」

ナイフ使い「ああ、あれですか。ちゃんとやりましたよ」

上司「やりましたよ、じゃない！　任務を終えたら、俺にもちゃんと報告しろ！　バカモン！」

ナイフ使い「へいへい、気をつけます」ﾍﾟﾛｯ

上司「あとナイフなめるのもやめろ！　みっともないぞ！」

ナイフ使い「こればかりはやめられませんよ」

上司（まったく……こいつは腕は立つがマイペースすぎるのが玉にキズだ……）

暗殺娘「まーた、怒られてたわね」

ナイフ使い「あの人は細かすぎるんだよ」

暗殺娘「あんたが大雑把すぎんのよ」

ナイフ使い「かもな……だが、ナイフの技は繊細なつもりだぜ」ﾍﾟﾛｯ

暗殺娘「ところで一度聞きたかったんだけど、なんであんたっていちいちナイフをなめるの？」

ナイフ使い「かっこいいだろ？」

暗殺娘「あんまりかっこいいとは思えないけど……」

ナイフ使い「女にゃ、この仕草のロマンは分からねえのさ」ﾍﾟﾛｯ

暗殺娘「分かりたくもないわよ」

数日後――

上司「ナイフ使い、仕事だ」

ナイフ使い「標的は？」

上司「標的はこの科学者だ」ﾋﾟﾗｯ

上司「再三の警告を無視して、自分の研究所で怪しい薬品の開発を続けている危険人物だ」

ナイフ使い「絵に描いたようなマッドサイエンティストですねぇ」

ナイフ使い「分かりました、この俺のナイフでちゃちゃっと片付けてみせますよ」ﾍﾟﾛｯ

上司「頼んだぞ」

＜研究所＞

科学者「な、なんだお前は！？」

ナイフ使い「あんたに消えて欲しいって人間がいるもんでね……」

ナイフ使い「悪いが、俺のナイフで死んでもらうぜ」ﾍﾟﾛｯ

科学者「くっ、政府の奴らだな！」

科学者「小生の高尚な研究を理解しないばかりか、ついに殺し屋を差し向けてきたか！」

科学者「小生は死なんぞ！　まだやりたい研究がたくさんあるのだ！」

ナイフ使い「続きはあの世でやるこった」

科学者「てやぁっ！」ｼｭｯ

ボウンッ！

ナイフ使い（煙幕……？）ｹﾎｯ

科学者「今だ！」ﾀﾀﾀﾀﾀｯ

ナイフ使い「甘いぜ」

科学者「ひっ！」

ナイフ使い「あんなので俺から逃げられるわけないだろ」

科学者「う、うわわっ！」

ザンッ！

科学者「あぐぅぅ……」ﾄﾞｻｯ

ナイフ使い「任務完了っと」ﾍﾟﾛｯ

＜暗殺組織＞

上司「科学者暗殺はどうなった？」

ナイフ使い「ああ、無事終わりましたよ」

上司「だから、報告はすぐにしろといっているだろうに！　こっちも把握しなきゃならんのだ！」

ナイフ使い「そんな怒らないで下さないよ、あとで報告書出しますから」

ナイフ使い「それじゃ！」ｽﾀｽﾀ

上司「あの問題児めが……！」

上司（いつか、あのマイペースさで身を滅ぼさねばいいが……）

暗殺娘「あの研究所のセキュリティは並じゃないのに、相変わらず見事ね」

ナイフ使い「赤外線センサーをかいくぐるのは多少骨が折れたけどな」

ナイフ使い「あと生意気にも煙幕使って逃げようとしてきたが、あんなのは子供騙しだ」

ナイフ使い「で、今夜食事にでも行かないか？」

ナイフ使い「仕事が終わると、美人と飯を食いたくなるんだ」

暗殺娘「あら、あんたも口説き文句ってのを少しは勉強したじゃない」

ナイフ使い「まぁな」ﾍﾟﾛｯ

＜レストラン＞

暗殺娘「それにしてもあんたのナイフって、切れ味抜群よね～」

ナイフ使い「そりゃそうさ、なにしろ特注品だからな」

ナイフ使い「一流の刀鍛冶に作らせて、一流の研ぎ師に手入れさせてるからな」ﾍﾟﾛｯ

ナイフ使い「もっとも、かかる金の方も一流だが……」ﾍﾟﾛｯ

暗殺娘「そんなナイフなのに、なんでなめちゃうのよ」

ナイフ使い「ナイフなめってのは男のロマンだからさ」ﾍﾟﾛｯ

暗殺娘「全然分からない……」

ナイフ使い「それに、ナイフなめってのは、仕事でも役に立つんだ」ﾍﾟﾛｯ

ナイフ使い「ナイフをなめることで、敵を威嚇することもできるし」ﾍﾟﾛｯ

ナイフ使い「舌は敏感だから、ナイフに異常がないか確認することもできる」ﾍﾟﾛｯ

ナイフ使い「つまり……」ﾍﾟﾛｯ

暗殺娘「ねえ、ちょっと待って」

ナイフ使い「ん？」ﾍﾟﾛｯ

暗殺娘「さっきから、いくらなんでもナイフなめすぎでしょ」

ナイフ使い「そういえば……」ﾍﾟﾛｯ

ナイフ使い「おかしいな……」ﾍﾟﾛｯ

ナイフ使い「なんで、こんなにナイフをなめたくなるんだ……？」ﾍﾟﾛｯ

暗殺娘「もうすぐ食事来るし、ナイフしまいなさいよ」

ナイフ使い「分かってる……分かってるんだが」ﾍﾟﾛｯ

暗殺娘「？」

ナイフ使い「ナイフなめるのやめられねええええええええええ！！！」ﾍﾟﾛﾍﾟﾛﾍﾟﾛﾍﾟﾛﾍﾟﾛ

暗殺娘「えええええ！？」

暗殺娘「――んもう、食事中もずっとナイフなめてたし、なにやってんのよ！？」

ナイフ使い「分かんねえ……」

ナイフ使い「もしかして、ナイフなめすぎてナイフなめ中毒になっちまったのかも」ﾍﾟﾛｯ

暗殺娘「なにそれ？　そんなのあるの？」

ナイフ使い「だって……やめようとしてもやめられないんだもん！」ﾍﾟﾛﾍﾟﾛ

暗殺娘「明らかに異常よ！　なんとしてもやめないと！」

ナイフ使い「どうやって？」

暗殺娘「あたしに考えがあるわ」

暗殺娘「ジャン！」

ナイフ使い「なんだそりゃ」

暗殺娘「ワサビよ、これをナイフに塗ればなめられなくなるでしょ？」

ナイフ使い「なるほどな」

ﾇﾘﾇﾘ…

ナイフ使い「……」

ナイフ使い「ダメだ、なめたい！」ﾍﾟﾛﾍﾟﾛ

暗殺娘「ちょっ」

ナイフ使い「ツーンとするけど、ナイフなめるのやめられねええええええええええ！！！」ﾍﾟﾛﾍﾟﾛﾍﾟﾛ

暗殺娘「涙流しながらナイフなめないでぇぇぇ！」

暗殺娘「だったらちょっと手荒だけど、こうしましょう」

暗殺娘「あたしは大小さまざまな暗殺用の針を持ってるけど」

暗殺娘「これを刃にくっつけちゃうの！」

暗殺娘「これをなめたら舌がズタズタになるし、なめられないでしょ？」

ナイフ使い「たしかにこれなら俺だって……」

ナイフ使い「あ、無理！　なめちゃう！」ﾍﾞﾛｯ

暗殺娘「ちょっ」

ナイフ使い「痛いけどなめちゃうぅぅぅぅぅぅ！！！」ｻﾞｸｻﾞｸｻﾞｸ

暗殺娘「きゃあああっ！　ストップストップ！」

ナイフ使い「あだだだ……！」

暗殺娘「まったく……手間かけさせるんだから」ﾁｮﾝﾁｮﾝ

暗殺娘「……だったら最後の手段ね」

暗殺娘「あんたからナイフを没収するわ！」ｻｯ

ナイフ使い「ええ～！？」

暗殺娘「ナイフがなきゃ、絶対ナイフをなめられないでしょ？」

暗殺娘「ナイフなめ中毒を克服するにはこれしかない！」

ナイフ使い「ちっ、分かったよ」

暗殺娘（これでなんとかなればいいけど……）ｽﾀｽﾀ


ﾍﾟﾛ…　ﾍﾟﾛ…　ﾍﾟﾛ…


暗殺娘「ん？」

＜刃物店＞

ナイフ使い「ナイフうっめえええええええ！！！」ﾍﾟﾛﾍﾟﾛﾍﾟﾛ

店主「お客さーん、困りますよぉ～」

ナイフ使い「うへへへ、どのナイフもうめえよおおおおお！！！」ﾍﾟﾛﾍﾟﾛﾍﾟﾛﾍﾟﾛﾍﾟﾛ





暗殺娘「ダメだこりゃ！」

暗殺娘「これはもう、あたしもサジを投げちゃう！」

ナイフ使い「お、針じゃなくてサジ投げるのか」

暗殺娘「黙れ」

ナイフ使い「ごめん」

暗殺娘「暗殺組織専属のお医者さんに診てもらうしかないわ！」

ナイフ使い「えぇ～、俺お医者さん嫌い……」

暗殺娘「針で刺すよ」

ナイフ使い「わ、分かった分かった！」

＜診療所＞

闇医者「ふむ……」

暗殺娘「なにか分かりましたか？」

闇医者「検査の結果、ナイフ使い君の体内には鉄分が著しく不足してることが分かった」

闇医者「その結果、体の防衛反応で鉄を欲するようになったのだろう」

闇医者「ナイフを過剰になめる、という形でね」

ナイフ使い「鉄分不足……！？」

暗殺娘「どうしてそんなことになったんです？」

闇医者「おそらく毒や薬物の仕業だろうねえ」

闇医者「このところの任務で、なにかそういう心当たりはないかい？」

ナイフ使い「毒や薬物……」


科学者『てやぁっ！』ｼｭｯ

ボウンッ！

ナイフ使い≪煙幕……？≫ｹﾎｯ


ナイフ使い「あ……」

ナイフ使い「あの煙には、体内の鉄分を除去するような毒が混ざってたのか！」

暗殺娘「で、どうなるんですか？　まさか一生このままじゃ……」

闇医者「その点は心配ない。診療所に備蓄してある解毒剤で、少しずつ解毒できるだろう」

ナイフ使い「よかった……」ﾎｯ

闇医者「ただし、しばらくは鉄分の多い食事を心がけた方がいい」

ナイフ使い「鉄分の多いっていうと、たとえば？」

闇医者「ほうれん草とか」

ナイフ使い「あ～あ、しばらくはほうれん草を食いまくる生活が続きそうだ」ﾓｼｬﾓｼｬ

暗殺娘「まるでポパイね～」

ナイフ使い「んじゃ、お前はオリーブだな」

暗殺娘「ったく、ちゃんと煙幕を受けたことを報告してれば、もっと早く治療できたのに！」

ナイフ使い「面目ない……」

暗殺娘「これからは報告・連絡・相談はちゃんとすること！　いいわね！」

ナイフ使い「分かったよ……」

ナイフ使い「暗殺なんて業界でも、報・連・相は大事なんだな……」







― END ―