1:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2018/08/15(水) 13:08:14.621 :uLpqf265D.net
喪黒「私の名は喪黒福造。人呼んで『笑ゥせぇるすまん』。
ただの『せぇるすまん』じゃございません。私の取り扱う品物はココロ、人間のココロでございます。
この世は、老いも若きも男も女も、ココロのさみしい人ばかり。
そんな皆さんのココロのスキマをお埋めいたします。
いいえ、お金は一銭もいただきません。お客様が満足されたら、それが何よりの報酬でございます。
さて、今日のお客様は……。
毛利克人(44) オートレーサー
【限界への挑戦】
ホーッホッホッホ……。」
喪黒「私の名は喪黒福造。人呼んで『笑ゥせぇるすまん』。
ただの『せぇるすまん』じゃございません。私の取り扱う品物はココロ、人間のココロでございます。
この世は、老いも若きも男も女も、ココロのさみしい人ばかり。
そんな皆さんのココロのスキマをお埋めいたします。
いいえ、お金は一銭もいただきません。お客様が満足されたら、それが何よりの報酬でございます。
さて、今日のお客様は……。
毛利克人(44) オートレーサー
【限界への挑戦】
ホーッホッホッホ……。」
3:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2018/08/15(水) 13:10:19.441 :uLpqf265D.net
ナレーション「1995年――」
東京都、日本武道館。
建物の中では、6人組の男性アイドルグループによるライブが行われている。
客席にいる大勢の女性ファンたちが、アイドルたちに声援を送っている。
テロップ「アイドルグループ『MAPY(マッピィ)』。
中内雅彦(リーダー)。木野卓郎。稲本良明。毛利克人。草川龍。香川晋作」
ナレーション「翌1996年――」
毛利克人のグループ脱退を一面トップで報道するスポーツ紙。
スポーツ紙「毛利克人(22)、MAPY卒業 オートレースへ転身へ」
バラエディー番組に出演するMAPYメンバーたち。毛利が番組で芸能界引退を表明する。
毛利「本当に8年間、MAPYでやってこれたのは……。ファンのおかげだと思います――」
毛利の挨拶を聞き、目に涙を浮かべる中内。
ナレーション「1995年――」
東京都、日本武道館。
建物の中では、6人組の男性アイドルグループによるライブが行われている。
客席にいる大勢の女性ファンたちが、アイドルたちに声援を送っている。
テロップ「アイドルグループ『MAPY(マッピィ)』。
中内雅彦(リーダー)。木野卓郎。稲本良明。毛利克人。草川龍。香川晋作」
ナレーション「翌1996年――」
毛利克人のグループ脱退を一面トップで報道するスポーツ紙。
スポーツ紙「毛利克人(22)、MAPY卒業 オートレースへ転身へ」
バラエディー番組に出演するMAPYメンバーたち。毛利が番組で芸能界引退を表明する。
毛利「本当に8年間、MAPYでやってこれたのは……。ファンのおかげだと思います――」
毛利の挨拶を聞き、目に涙を浮かべる中内。
4:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2018/08/15(水) 13:12:23.144 :uLpqf265D.net
ナレーション「2017年――」
福岡県、飯塚オートレース場。レース場のコースをいくつもの競走車が疾走している。
テロップ「毛利克人(43) オートレーサー、元アイドル」
後続を走るオートレーサーの競走車が、毛利の競走車に追突する。
競走車から放り出され、地面へと身体を強く叩きつけられる毛利。
観客たちは、レース中に起きた事故の瞬間を見て悲壮な表情を浮かべる。
スポーツ紙「元MAPY・毛利克人(43)、脊髄損傷 オートレース中に事故」
大学病院。ベッドの上に横たわる毛利。彼を見守る妻・明子と息子。
テロップ「毛利明子 克人の妻」
毛利「医者は、俺はオートレーサーとして再起不能だと言った。だが、俺は必ずレースに復帰し……」
明子「もうやめて!!!オートレースなんて、もうこりごりよ!!!」
明子は涙ぐみながら、毛利に向かって叫ぶ。
ナレーション「2017年――」
福岡県、飯塚オートレース場。レース場のコースをいくつもの競走車が疾走している。
テロップ「毛利克人(43) オートレーサー、元アイドル」
後続を走るオートレーサーの競走車が、毛利の競走車に追突する。
競走車から放り出され、地面へと身体を強く叩きつけられる毛利。
観客たちは、レース中に起きた事故の瞬間を見て悲壮な表情を浮かべる。
スポーツ紙「元MAPY・毛利克人(43)、脊髄損傷 オートレース中に事故」
大学病院。ベッドの上に横たわる毛利。彼を見守る妻・明子と息子。
テロップ「毛利明子 克人の妻」
毛利「医者は、俺はオートレーサーとして再起不能だと言った。だが、俺は必ずレースに復帰し……」
明子「もうやめて!!!オートレースなんて、もうこりごりよ!!!」
明子は涙ぐみながら、毛利に向かって叫ぶ。
6:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2018/08/15(水) 13:14:17.537 :uLpqf265D.net
初舞リハビリテーション病院。
ベッドの上に横たわる毛利。医師は、彼の右足をマッサージしている。
毛利「くっ……」 足の痛みに苦しみ、毛利は顔をゆがめる。
両手で手すりを掴み、両足をやっと動かしながら、歩行訓練をする毛利。
毛利(俺は必ず……、オートレーサーとして復帰を果たすんだ……)
ナレーション「2018年――」
夕方、東京都のある運動場。運動場には杖をついた毛利がいる。
テロップ「毛利克人(44) オートレーサー」
毛利は杖をつきながら、何とか懸命に歩いている。しかし、苦痛に耐えている様子の表情だ。
毛利の頭の中に、大学病院の医者や、妻・明子の顔が思い浮かぶ。
(医者「残念ですが、毛利さん……。あなたはもう……、オートレーサーとしては再起不能でしょう」)
(明子「もうやめて!!!オートレースなんて、もうこりごりよ!!!」)
毛利「誰が何と言おうと……、俺は諦めないぞ!!」
初舞リハビリテーション病院。
ベッドの上に横たわる毛利。医師は、彼の右足をマッサージしている。
毛利「くっ……」 足の痛みに苦しみ、毛利は顔をゆがめる。
両手で手すりを掴み、両足をやっと動かしながら、歩行訓練をする毛利。
毛利(俺は必ず……、オートレーサーとして復帰を果たすんだ……)
ナレーション「2018年――」
夕方、東京都のある運動場。運動場には杖をついた毛利がいる。
テロップ「毛利克人(44) オートレーサー」
毛利は杖をつきながら、何とか懸命に歩いている。しかし、苦痛に耐えている様子の表情だ。
毛利の頭の中に、大学病院の医者や、妻・明子の顔が思い浮かぶ。
(医者「残念ですが、毛利さん……。あなたはもう……、オートレーサーとしては再起不能でしょう」)
(明子「もうやめて!!!オートレースなんて、もうこりごりよ!!!」)
毛利「誰が何と言おうと……、俺は諦めないぞ!!」
7:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2018/08/15(水) 13:16:39.952 :uLpqf265D.net
運動場にいる喪黒福造。彼は、運動場でリハビリをする毛利を遠くの方から見つける。
毛利の方へゆっくりと近づく喪黒。
喪黒「毛利克人さん……、ですね!?」
毛利「い、今の俺は……。あなたの相手をしている場合じゃないんです!!何しろ俺は……」
「リハビリで身体を完全復活させ……、オートレーサーとして復帰するという……」
「大目標があるんですから……!!」
喪黒「私なら、あなたの身体を元通りにできるんですがねぇ……」
毛利「えっ!?い、今何とおっしゃったんですか!?」
喪黒「事故で傷ついたあなたの身体、私なら治せますよ」
毛利「じょ……、冗談ですよね!?」
喪黒「私は本気です。私ならあなたを治せます」
毛利「あ、あなた……。もしかして医者なんですか!?」
喪黒「私は医者ではないですが……。まあ、一応こういう者です」
喪黒が差し出した名刺には、「ココロのスキマ…お埋めします 喪黒福造」と書かれている。
運動場にいる喪黒福造。彼は、運動場でリハビリをする毛利を遠くの方から見つける。
毛利の方へゆっくりと近づく喪黒。
喪黒「毛利克人さん……、ですね!?」
毛利「い、今の俺は……。あなたの相手をしている場合じゃないんです!!何しろ俺は……」
「リハビリで身体を完全復活させ……、オートレーサーとして復帰するという……」
「大目標があるんですから……!!」
喪黒「私なら、あなたの身体を元通りにできるんですがねぇ……」
毛利「えっ!?い、今何とおっしゃったんですか!?」
喪黒「事故で傷ついたあなたの身体、私なら治せますよ」
毛利「じょ……、冗談ですよね!?」
喪黒「私は本気です。私ならあなたを治せます」
毛利「あ、あなた……。もしかして医者なんですか!?」
喪黒「私は医者ではないですが……。まあ、一応こういう者です」
喪黒が差し出した名刺には、「ココロのスキマ…お埋めします 喪黒福造」と書かれている。
8:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2018/08/15(水) 13:18:30.416 :uLpqf265D.net
杖に頼りながら、やっとの思いで喪黒の名刺を受取る毛利。
毛利「……ココロのスキマ、お埋めします?」
喪黒「私はセールスマンです。お客様の心にポッカリ空いたスキマをお埋めするのがお仕事です」
毛利「セールスマンだって……!?まさか、俺が弱っていることに付け込んで……」
「怪しい健康食品でも売りつけるつもりなんですか!?」
喪黒「そうではありません。私なら、もう一度、毛利さんを五体満足な肉体にできると言っているのですよ!」
「昔のように何不自由なく歩くことができ……、腕には前のような腕力や握力が戻ってくる……」
「そういう肉体に……ですよ」
毛利「そ、その話は本当なんですか!?」
喪黒「本当ですよ」
毛利「い、一体どんなリハビリ方法で俺の肉体の全快は可能なんですか!?」
喪黒「リハビリというよりはむしろ……。特殊なやり方による『治療法』と言った方がいいでしょう……」
毛利「じゃあ、その『治療法』とやらに俺は賭けてみますよ!!それで俺の肉体が元通りになるのなら本望ですから!!」
杖に頼りながら、やっとの思いで喪黒の名刺を受取る毛利。
毛利「……ココロのスキマ、お埋めします?」
喪黒「私はセールスマンです。お客様の心にポッカリ空いたスキマをお埋めするのがお仕事です」
毛利「セールスマンだって……!?まさか、俺が弱っていることに付け込んで……」
「怪しい健康食品でも売りつけるつもりなんですか!?」
喪黒「そうではありません。私なら、もう一度、毛利さんを五体満足な肉体にできると言っているのですよ!」
「昔のように何不自由なく歩くことができ……、腕には前のような腕力や握力が戻ってくる……」
「そういう肉体に……ですよ」
毛利「そ、その話は本当なんですか!?」
喪黒「本当ですよ」
毛利「い、一体どんなリハビリ方法で俺の肉体の全快は可能なんですか!?」
喪黒「リハビリというよりはむしろ……。特殊なやり方による『治療法』と言った方がいいでしょう……」
毛利「じゃあ、その『治療法』とやらに俺は賭けてみますよ!!それで俺の肉体が元通りになるのなら本望ですから!!」
9:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2018/08/15(水) 13:20:32.537 :uLpqf265D.net
喪黒「どうも……。とはいえ、あなたの肉体を治す代わりに……。私とある約束をしていただきたいのですよ」
「毛利さん、あなたはその約束を守れますか!?」
毛利「ええ、守れますよ!!一体、どんな約束なんですか!?」
喪黒「それは、あなたの肉体が治ってから言いますから……」
毛利「いいでしょう!!俺の肉体が元通りになるためなら、どんな言うことでも聞きますよ!!」
喪黒「分かりました……。では、毛利さん……。私の手をよーく見ててください……」
喪黒は毛利に向かって右手の人差し指を差し出す。
喪黒「ドーーーーーーーーーーーン!!!」
毛利「ギャアアアアアアアアア!!!」
喪黒のドーンを受けて、吹っ飛ぶ毛利。毛利は運動場の地面へ倒れる。
毛利「くっ……。いきなり何をするんだ……。病人に向かって……」
毛利はゆっくり起き上がり、喪黒に詰め寄る。毛利が右の拳を振り上げた、その時――。
喪黒「どうも……。とはいえ、あなたの肉体を治す代わりに……。私とある約束をしていただきたいのですよ」
「毛利さん、あなたはその約束を守れますか!?」
毛利「ええ、守れますよ!!一体、どんな約束なんですか!?」
喪黒「それは、あなたの肉体が治ってから言いますから……」
毛利「いいでしょう!!俺の肉体が元通りになるためなら、どんな言うことでも聞きますよ!!」
喪黒「分かりました……。では、毛利さん……。私の手をよーく見ててください……」
喪黒は毛利に向かって右手の人差し指を差し出す。
喪黒「ドーーーーーーーーーーーン!!!」
毛利「ギャアアアアアアアアア!!!」
喪黒のドーンを受けて、吹っ飛ぶ毛利。毛利は運動場の地面へ倒れる。
毛利「くっ……。いきなり何をするんだ……。病人に向かって……」
毛利はゆっくり起き上がり、喪黒に詰め寄る。毛利が右の拳を振り上げた、その時――。
10:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2018/08/15(水) 13:22:30.895 :uLpqf265D.net
喪黒「おや、毛利さん。あなた、杖を持っていませんねぇ」
毛利「えっ……!?言われてみれば、そうだ……!!」
喪黒「いつものような、両足への鈍い痛みやしびれもなくなっているでしょう」
毛利「そういえば、今の俺は……!!」
喪黒「さあ……、歩いてみなさい!!毛利さん!!」
喪黒に促され、毛利は運動場をゆっくりと歩く。
毛利「歩ける……!!俺は……!!杖なしで……、歩けるんだ!!」
喪黒「今のあなたは、走ることも可能ですよ。さあ、走ってみなさい!!」
喪黒の掛け声とともに、運動場を走り出す毛利。
毛利「おおっ……、走れる……!!」
喪黒「その調子ですよ、毛利さん!!」
毛利「自分の足で走ることが……、こんなに気持ち良かったなんて!!」
運動場を走る毛利は、快さそうな顔をしている。
喪黒「おや、毛利さん。あなた、杖を持っていませんねぇ」
毛利「えっ……!?言われてみれば、そうだ……!!」
喪黒「いつものような、両足への鈍い痛みやしびれもなくなっているでしょう」
毛利「そういえば、今の俺は……!!」
喪黒「さあ……、歩いてみなさい!!毛利さん!!」
喪黒に促され、毛利は運動場をゆっくりと歩く。
毛利「歩ける……!!俺は……!!杖なしで……、歩けるんだ!!」
喪黒「今のあなたは、走ることも可能ですよ。さあ、走ってみなさい!!」
喪黒の掛け声とともに、運動場を走り出す毛利。
毛利「おおっ……、走れる……!!」
喪黒「その調子ですよ、毛利さん!!」
毛利「自分の足で走ることが……、こんなに気持ち良かったなんて!!」
運動場を走る毛利は、快さそうな顔をしている。
11:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2018/08/15(水) 13:24:38.911 :uLpqf265D.net
運動場に立ち、会話をする喪黒と毛利。毛利の手からは、杖が離れている。
毛利「まるで魔法のようです!!信じられません!!」
喪黒「いえいえ、これは現実ですよ」
毛利「あ……、ありがとうございます!!喪黒さん!!このご恩は、一生忘れません!!」
毛利は喪黒の両手を握りしめ、目に涙を浮かべる。
喪黒「いやぁ……。私はあくまでも、ボランティアとしてやったまでですから……」
毛利「あなたと出会っていなかったら……。俺は……!!俺は……!!」
喪黒「そうそう、あなたには私との約束がありましたなぁ。肉体を治す代わりの……」
毛利「ええ、承知していますよ。一体、どんな約束なんですか!?」
喪黒「肉体を元のように治す代わりに……。毛利さんはオートレースの世界からきっぱり身を引く……」
「これが、あなたと私との約束です!!」
毛利「何ですって!?」
喪黒「つまり、毛利さんはオートレーサーを引退するのですよ!」
毛利「そんな……!!あまりにもひどすぎる……!!少年時代のころからオートレースに憧れてきた俺にとっては……」
「これ以上なく残酷すぎる約束だ!!」
運動場に立ち、会話をする喪黒と毛利。毛利の手からは、杖が離れている。
毛利「まるで魔法のようです!!信じられません!!」
喪黒「いえいえ、これは現実ですよ」
毛利「あ……、ありがとうございます!!喪黒さん!!このご恩は、一生忘れません!!」
毛利は喪黒の両手を握りしめ、目に涙を浮かべる。
喪黒「いやぁ……。私はあくまでも、ボランティアとしてやったまでですから……」
毛利「あなたと出会っていなかったら……。俺は……!!俺は……!!」
喪黒「そうそう、あなたには私との約束がありましたなぁ。肉体を治す代わりの……」
毛利「ええ、承知していますよ。一体、どんな約束なんですか!?」
喪黒「肉体を元のように治す代わりに……。毛利さんはオートレースの世界からきっぱり身を引く……」
「これが、あなたと私との約束です!!」
毛利「何ですって!?」
喪黒「つまり、毛利さんはオートレーサーを引退するのですよ!」
毛利「そんな……!!あまりにもひどすぎる……!!少年時代のころからオートレースに憧れてきた俺にとっては……」
「これ以上なく残酷すぎる約束だ!!」
13:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2018/08/15(水) 13:27:00.598 :uLpqf265D.net
喪黒「毛利さん……。オートレーサーをやめるのと……、事故で身体に重い後遺症を負うのと……」
「あなたにとっては、果たしてどちらが残酷なのですか!?よーく、考えてみてください」
毛利「ぐっ……!!」
喪黒「毛利さんがまたオートレースの世界に関わって、万一事故でも起こしたならば……。それは……」
「私があなたの肉体を治したことは、無駄骨だったということを意味していますからねぇ……」
毛利「言われてみれば、そうですよねぇ……」
喪黒「あなたがオートレースの事故で命を落としたら……、奥様も息子さんも悲しい思いをしますよ!」
毛利「ごもっともです……」
喪黒「元に戻った肉体を大切にするために、危険なオートレースの世界とは2度と関わらないでください」
「いいですね、約束ですよ!?」
毛利「わ、分かりました……。喪黒さん」
数日後。
スポーツ紙「元MAPY・毛利(44)、オートレース選手の活動休止へ」
喪黒「毛利さん……。オートレーサーをやめるのと……、事故で身体に重い後遺症を負うのと……」
「あなたにとっては、果たしてどちらが残酷なのですか!?よーく、考えてみてください」
毛利「ぐっ……!!」
喪黒「毛利さんがまたオートレースの世界に関わって、万一事故でも起こしたならば……。それは……」
「私があなたの肉体を治したことは、無駄骨だったということを意味していますからねぇ……」
毛利「言われてみれば、そうですよねぇ……」
喪黒「あなたがオートレースの事故で命を落としたら……、奥様も息子さんも悲しい思いをしますよ!」
毛利「ごもっともです……」
喪黒「元に戻った肉体を大切にするために、危険なオートレースの世界とは2度と関わらないでください」
「いいですね、約束ですよ!?」
毛利「わ、分かりました……。喪黒さん」
数日後。
スポーツ紙「元MAPY・毛利(44)、オートレース選手の活動休止へ」
14:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2018/08/15(水) 13:29:26.294 :uLpqf265D.net
ある日の朝。都内の道をジョギングする毛利。
毛利「ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ」
回想する毛利。幼いころの毛利が、ブラウン管テレビを見ている。
テレビは特撮番組を放送しており、画面にはバイクに乗ったヒーローが映っている。
ヒーローによるキックを受け、敵の怪人が大爆発する。
スポーツジム。毛利はトレーニングマシンを使ってウェイトトレーニングをしている。
回想する毛利。父とともにオートレース場に来ている少年時代の毛利。
レース場のコースを走る競走車たちを見て、目を輝かせる毛利少年。
さらに回想する毛利。
ローラースケートに乗ってコンサート会場で歌を歌う男性アイドルの卵たち。そこには毛利の姿もいる。
とあるホールで、6人のアイドルグループMAPYの一員として歌を歌う毛利。
スポーツ紙「高校野球の入場行進曲 MAPYの『頑張りキッズ』採用」
ある日の朝。都内の道をジョギングする毛利。
毛利「ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ」
回想する毛利。幼いころの毛利が、ブラウン管テレビを見ている。
テレビは特撮番組を放送しており、画面にはバイクに乗ったヒーローが映っている。
ヒーローによるキックを受け、敵の怪人が大爆発する。
スポーツジム。毛利はトレーニングマシンを使ってウェイトトレーニングをしている。
回想する毛利。父とともにオートレース場に来ている少年時代の毛利。
レース場のコースを走る競走車たちを見て、目を輝かせる毛利少年。
さらに回想する毛利。
ローラースケートに乗ってコンサート会場で歌を歌う男性アイドルの卵たち。そこには毛利の姿もいる。
とあるホールで、6人のアイドルグループMAPYの一員として歌を歌う毛利。
スポーツ紙「高校野球の入場行進曲 MAPYの『頑張りキッズ』採用」
15:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2018/08/15(水) 13:31:28.793 :uLpqf265D.net
ある日。MAPYのメンバーたちが会話をしている。
毛利「俺はオートレーサーになりたい」
木野「ハハハ。まぁた、いつものお前の癖が始まったよ」
毛利「いや、今の俺は至って本気だ」
中内「じゃあ、お前……。芸能界を辞めるというのか!?」
ダニーズ事務所。副社長室で、副社長と会話をする毛利。
テロップ「マリー喜多島 ダニーズ事務所副社長」
マリー「分かったわ……。どうしてもオートレーサーになりたいというのなら、好きにしなさい!!」
「その代わり……。MAPYでのあなたの存在は、最初からいなかったことにしておくから!!いいわね!!」
毛利の回想は終わり、場面はスポーツジムに戻る。
銀河テレビ。建物の中では、スポーツ・エンタテインメントの番組「SARUTOBI」の撮影が行われている。
巨大なフィールドアスレチックに両手でしがみつきながら、障害物を乗り越えていく毛利。
ある日。MAPYのメンバーたちが会話をしている。
毛利「俺はオートレーサーになりたい」
木野「ハハハ。まぁた、いつものお前の癖が始まったよ」
毛利「いや、今の俺は至って本気だ」
中内「じゃあ、お前……。芸能界を辞めるというのか!?」
ダニーズ事務所。副社長室で、副社長と会話をする毛利。
テロップ「マリー喜多島 ダニーズ事務所副社長」
マリー「分かったわ……。どうしてもオートレーサーになりたいというのなら、好きにしなさい!!」
「その代わり……。MAPYでのあなたの存在は、最初からいなかったことにしておくから!!いいわね!!」
毛利の回想は終わり、場面はスポーツジムに戻る。
銀河テレビ。建物の中では、スポーツ・エンタテインメントの番組「SARUTOBI」の撮影が行われている。
巨大なフィールドアスレチックに両手でしがみつきながら、障害物を乗り越えていく毛利。
16:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2018/08/15(水) 13:33:25.219 :uLpqf265D.net
ある日の夜。東京の下町の居酒屋。
テレビを見る居酒屋の客たち。テレビ画面には、銀河テレビの番組に出演する毛利の姿が映っている。
客A「お、元MAPYの毛利が『SARUTOBI』に出ているぞ」
客B「毛利の奴、『SARUTOBI』に出演できるまでに回復したのか」
居酒屋にいる客たちの中には、喪黒福造の姿もある。
ある日の昼。炎天下の中、ヘルメットをかぶり、ツルハシで岩を砕く毛利。
そんな毛利を現場にいるバイトたちは奇異な目で見つめる。
バイトA「元MAPYでオートレーサーの毛利が……。遺跡発掘のバイトに参加しているのか……」
バイトB「生活費を稼ぐためとはいえ……。いくら何でも、落ちぶれすぎだろ……」
毛利(違う、俺は……。元通りになった肉体の様々な可能性を……。限界への挑戦を……。試してみたいだけなんだ!!)
ある夜。居酒屋チェーン店。店には、MAPY時代に仲間だった草川龍の姿がある。
草川「全快おめでとう!克人の身体が元通りになることを、俺は信じていたよ!」
毛利「ありがとう、龍!」
ある日の夜。東京の下町の居酒屋。
テレビを見る居酒屋の客たち。テレビ画面には、銀河テレビの番組に出演する毛利の姿が映っている。
客A「お、元MAPYの毛利が『SARUTOBI』に出ているぞ」
客B「毛利の奴、『SARUTOBI』に出演できるまでに回復したのか」
居酒屋にいる客たちの中には、喪黒福造の姿もある。
ある日の昼。炎天下の中、ヘルメットをかぶり、ツルハシで岩を砕く毛利。
そんな毛利を現場にいるバイトたちは奇異な目で見つめる。
バイトA「元MAPYでオートレーサーの毛利が……。遺跡発掘のバイトに参加しているのか……」
バイトB「生活費を稼ぐためとはいえ……。いくら何でも、落ちぶれすぎだろ……」
毛利(違う、俺は……。元通りになった肉体の様々な可能性を……。限界への挑戦を……。試してみたいだけなんだ!!)
ある夜。居酒屋チェーン店。店には、MAPY時代に仲間だった草川龍の姿がある。
草川「全快おめでとう!克人の身体が元通りになることを、俺は信じていたよ!」
毛利「ありがとう、龍!」
17:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2018/08/15(水) 13:36:36.883 :uLpqf265D.net
草川「身体が治ってからのお前は、悠々自適な生活をしているようだなぁ」
毛利「まあ……、自分の肉体の可能性をいろいろ試してみてはいるんだがね……」
「でも結局……。オートレーサーとしてレース場を走っていたころほどの……」
「気持ちよさや満足感までは得られていないんだよなぁ……」
草川「お前の好きなようにすればいいさ。俺だって、ダニーズ事務所を独立して……」
「今、好きなように生きている。人間、自由に生きるのが一番いいんだ」
毛利「自由、か……」
草川「自由とは責任が伴うことでもあるからな。自分の人生を自分で決めることの責任が……な」
毛利「そう言われてみると、何か吹っ切れたような気がする……」
「俺はある人に肉体を治して貰い、その代わり、ある約束をしていたんだが……」
「俺は俺の意思を貫いていいだろうな……」
草川「約束だと!?まさか、黒づくめの服を着た男じゃないだろうな!?」
毛利「そうだよ、黒づくめの服を着た男だよ……」
草川「そいつは、確か……。『喪黒福造』とかいう奴じゃないだろうな!?」
毛利「よく知ってるな、お前。そうだよ、喪黒福造という謎の男だよ……」
草川の顔がみるみる青ざめていく。
草川「身体が治ってからのお前は、悠々自適な生活をしているようだなぁ」
毛利「まあ……、自分の肉体の可能性をいろいろ試してみてはいるんだがね……」
「でも結局……。オートレーサーとしてレース場を走っていたころほどの……」
「気持ちよさや満足感までは得られていないんだよなぁ……」
草川「お前の好きなようにすればいいさ。俺だって、ダニーズ事務所を独立して……」
「今、好きなように生きている。人間、自由に生きるのが一番いいんだ」
毛利「自由、か……」
草川「自由とは責任が伴うことでもあるからな。自分の人生を自分で決めることの責任が……な」
毛利「そう言われてみると、何か吹っ切れたような気がする……」
「俺はある人に肉体を治して貰い、その代わり、ある約束をしていたんだが……」
「俺は俺の意思を貫いていいだろうな……」
草川「約束だと!?まさか、黒づくめの服を着た男じゃないだろうな!?」
毛利「そうだよ、黒づくめの服を着た男だよ……」
草川「そいつは、確か……。『喪黒福造』とかいう奴じゃないだろうな!?」
毛利「よく知ってるな、お前。そうだよ、喪黒福造という謎の男だよ……」
草川の顔がみるみる青ざめていく。
18:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2018/08/15(水) 13:40:13.135 :uLpqf265D.net
草川「実は、俺……。過去に喪黒に会ってるんだよ……。今から、9年前……。ほら、2009年に!!」
毛利「お前も喪黒さんに何か恩を受けたのか!?」
草川「とんでもない!!喪黒のせいで、俺はひどい目に遭ったんだぞ!!」
「あいつとの約束を破った俺は……。気がついた時、あの例の事件を起こしていたんだ!!」
毛利「一体、何を言ってるんだ。お前は……」
草川「俺は……。『笑うセールスマン』の存在は、あくまでも都市伝説だと思っていた……」
「喪黒と出会い、あの事件を起こすまでは……。喪黒は悪魔だ!!奴は関わった人間を破滅させるんだ!!」
毛利「龍、俺の恩人に失礼なことを言うな!!喪黒さんは、俺の肉体を元通りにしてくれたんだぞ!!」
草川「すまない……」
毛利「まあいい!!お前の自由な生き方を見たおかげで、俺は決心がついた!!俺はオートレースに復帰する!!」
草川「はああ……」 威勢のいい毛利の姿を見て、ため息をつき落ち込む草川。
ナレーション「2019年――」
埼玉県、川口オートレース場。ヘルメットをかぶり、ライダースーツを身にまとった毛利が競走車を運転している。
彼はオートレースへの復帰に向け、このレース場で練習をしている。
草川「実は、俺……。過去に喪黒に会ってるんだよ……。今から、9年前……。ほら、2009年に!!」
毛利「お前も喪黒さんに何か恩を受けたのか!?」
草川「とんでもない!!喪黒のせいで、俺はひどい目に遭ったんだぞ!!」
「あいつとの約束を破った俺は……。気がついた時、あの例の事件を起こしていたんだ!!」
毛利「一体、何を言ってるんだ。お前は……」
草川「俺は……。『笑うセールスマン』の存在は、あくまでも都市伝説だと思っていた……」
「喪黒と出会い、あの事件を起こすまでは……。喪黒は悪魔だ!!奴は関わった人間を破滅させるんだ!!」
毛利「龍、俺の恩人に失礼なことを言うな!!喪黒さんは、俺の肉体を元通りにしてくれたんだぞ!!」
草川「すまない……」
毛利「まあいい!!お前の自由な生き方を見たおかげで、俺は決心がついた!!俺はオートレースに復帰する!!」
草川「はああ……」 威勢のいい毛利の姿を見て、ため息をつき落ち込む草川。
ナレーション「2019年――」
埼玉県、川口オートレース場。ヘルメットをかぶり、ライダースーツを身にまとった毛利が競走車を運転している。
彼はオートレースへの復帰に向け、このレース場で練習をしている。
19:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2018/08/15(水) 13:43:20.665 :uLpqf265D.net
毛利が運転する競走車の目の前に、人の影がむくむくと現れる。影は、はっきりした人物の姿――喪黒福造となる。
毛利は急ブレーキをかけ、慌てて競走車を停車させる。
毛利「も、喪黒さん!!あなた、何でこんなところに……」
喪黒「毛利克人さん……。あなた、約束を破りましたね……」
毛利「なっ!?」
喪黒「肉体を元のように治す代わり、オートレースの世界とは2度と関わらないようにする……」
「これが、あなたと私との約束でしたよねぇ……。毛利さん……」
毛利「俺は決めたんです!!元通りになった肉体の可能性を試し、限界に挑戦すると……」
「そのためには、自分が一番好きなオートレースの世界に復帰するしかないと決心しました!!」
「俺は自由に生きます!!俺の人生は、あくまでも俺が決めます!!俺の責任で!!」
喪黒「そうですか……。ならば、今度のレースでは……。私との約束を破った責任を取って貰いましょう!!」
喪黒は毛利に右手の人差し指を向ける。
喪黒「ドーーーーーーーーーーーン!!!」
毛利「ギャアアアアアアアアア!!!」
毛利が運転する競走車の目の前に、人の影がむくむくと現れる。影は、はっきりした人物の姿――喪黒福造となる。
毛利は急ブレーキをかけ、慌てて競走車を停車させる。
毛利「も、喪黒さん!!あなた、何でこんなところに……」
喪黒「毛利克人さん……。あなた、約束を破りましたね……」
毛利「なっ!?」
喪黒「肉体を元のように治す代わり、オートレースの世界とは2度と関わらないようにする……」
「これが、あなたと私との約束でしたよねぇ……。毛利さん……」
毛利「俺は決めたんです!!元通りになった肉体の可能性を試し、限界に挑戦すると……」
「そのためには、自分が一番好きなオートレースの世界に復帰するしかないと決心しました!!」
「俺は自由に生きます!!俺の人生は、あくまでも俺が決めます!!俺の責任で!!」
喪黒「そうですか……。ならば、今度のレースでは……。私との約束を破った責任を取って貰いましょう!!」
喪黒は毛利に右手の人差し指を向ける。
喪黒「ドーーーーーーーーーーーン!!!」
毛利「ギャアアアアアアアアア!!!」
20:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2018/08/15(水) 13:47:03.368 :uLpqf265D.net
群馬県、伊勢崎オートレース場。レース場のコースを疾走する競走車たち。
ある競走車がコーナーを曲がり切れず転倒する。それに伴い、周囲を走る競走車も次々と転倒に巻き込まれる。
玉突き事故により、競走車から放り出されたライダーが地面に激突し、さらに壁へと衝突する。
ライダーは地べたに叩きつけられ、ボロ雑巾のように変わり果てた姿で倒れる。その男はそう――。毛利克人だ。
翌日。スポーツ紙「元MAPY・毛利克人さん(45) 死去」
伊勢崎オートレース場の前にいる喪黒。喪黒は、毛利の死去を伝えるスポーツ紙を持っている。
喪黒「精神分析学者のフロイトは、人間には、生の衝動(エロス)と死の衝動(タナトス)の2つがあると言いました」
「そもそも人間は、エロスが満たされなかった時、一転して自己破壊への衝動にとらわれる生き物でもあります」
「危険で無謀と分かっている行動であっても、肉体の可能性を試してまで行うのはタナトスの表れなのでしょう」
「エロスとは一見、正反対に見えるタナトスも、見方によっては、人間にとって生を実感する手段の一つと言えます」
「本能が壊れた生き物である人間が、自由と生を実感するための手段……。それが限界への挑戦なのかもしれませんねぇ」
「オーホッホッホッホッホッホッホ……」
―完―
群馬県、伊勢崎オートレース場。レース場のコースを疾走する競走車たち。
ある競走車がコーナーを曲がり切れず転倒する。それに伴い、周囲を走る競走車も次々と転倒に巻き込まれる。
玉突き事故により、競走車から放り出されたライダーが地面に激突し、さらに壁へと衝突する。
ライダーは地べたに叩きつけられ、ボロ雑巾のように変わり果てた姿で倒れる。その男はそう――。毛利克人だ。
翌日。スポーツ紙「元MAPY・毛利克人さん(45) 死去」
伊勢崎オートレース場の前にいる喪黒。喪黒は、毛利の死去を伝えるスポーツ紙を持っている。
喪黒「精神分析学者のフロイトは、人間には、生の衝動(エロス)と死の衝動(タナトス)の2つがあると言いました」
「そもそも人間は、エロスが満たされなかった時、一転して自己破壊への衝動にとらわれる生き物でもあります」
「危険で無謀と分かっている行動であっても、肉体の可能性を試してまで行うのはタナトスの表れなのでしょう」
「エロスとは一見、正反対に見えるタナトスも、見方によっては、人間にとって生を実感する手段の一つと言えます」
「本能が壊れた生き物である人間が、自由と生を実感するための手段……。それが限界への挑戦なのかもしれませんねぇ」
「オーホッホッホッホッホッホッホ……」
―完―
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