DQN「オラッ！」ｶﾞﾊﾞｯ

女「！？」

DQN「このハンカチに染み込ませた睡眠薬を嗅ぎやがれ！」

女「んーっ！　んんーっ！」ｼﾞﾀﾊﾞﾀ

女「ん……」ｶﾞｸｯ

DQN「よし……拉致るぞ」

ギャル「イェーイ！」

女「んん……ん」

女「ハッ！」ﾑｸｯ

DQN「目が覚めたか」

女「あんたは私を眠らせた……。ここは……私の家じゃないの！」

DQN「ああ、そうだ」

女「なんで！？　なんでこんなことしたのよ！」

DQN「決まってんだろォ？」ﾆﾔ…

DQN「妹さんに頼まれたんだよ」

ギャル「お姉ちゃん……」

女「あなたが……！」

DQN「妹さんによると、あんた近頃全然寝てないそうじゃねえか」

DQN「心配した妹さんが、俺に“お姉ちゃんをムリヤリ眠らせてくれ”って頼んできたんだ」

DQN「久々にぐっすり眠った気持ちはどうだ？」

女「……まあまあね」

DQN「ちなみに最近の一日の睡眠時間はどのくらいだ？」

女「ざっと二時間ってところかしら」

ギャル「二時間！？　ほとんど寝てないじゃない！」

女「仕方ないのよ……上司命令なんだから……」

ギャル「いくら上司命令だからっておかしいよ！　過労死しちゃうよ！」

女「……」

DQN「ったく、とんだブラック企業だな……。よし、この俺が成敗してやるぜ！」

会社――

DQN「やい、課長！」

課長「な、なんだね君は！？」

DQN「あんた、部下を毎日寝る間もないほど働かせてるそうだなぁ！？」

DQN「出るとこ出て、訴えてもいいんだぜぇ！？」

課長「うう……仕方ないじゃないか！」

DQN「ンだとォ！？　開き直る気か！？」

課長「わ、私だってやらせたくて、やらせてるわけじゃないんだ……」

DQN「……どういうことだよ」

課長「実は……我が社のコンピュータが何者かに侵入され、顧客情報が流出しまくってしまったんだ」

DQN「なんだと……！」

課長「それで、社員はみんな残業を余儀なくされているのだよ……」

課長「私だって、このところ家に帰れない日々が続いている……」

課長「妻には浮気を疑われるし、もう散々だよ……」

DQN「ハッキングってやつか……！　許せねェ！」

ギャル「正確にはクラッキングっていうらしいけどね」

DQN「よーし、俺に任せな！　俺が流出した顧客情報を取り戻してやる！」

課長「そんなことできるのか！？」

DQN「俺を誰だと思ってるんだ？　アメリカ国防総省（ペンタゴン）のコンピュータにも忍び込んだ男だぜ！」

DQN「これをああして、こうして……」ｶﾀｶﾀｶﾀ…

課長「す、すごい……！」

女「みるみるうちに顧客情報が戻ってくるわ！　まるで海から川に戻ってくる鮭みたい！」

ギャル「やるぅ！」

DQN「へへへ……」ｶﾀｶﾀ

DQN「ついでにこの会社のネット上のセキュリティも完璧にしてやるよぉ！」ｶﾀｶﾀ

女「アフターケアも万全ね！」

DQN「これでよし、と」ｶﾀｶﾀｯﾀｰﾝ

DQN「もうあんた、残業しなくていいぜ。今日からは定時で帰りな」

女「ありがとう……！」

ギャル「よかったね、お姉ちゃん！」


～


ハッカー（む、この会社から盗んだ顧客情報を全部奪い返された上、侵入できなくなってしまった！）

ハッカー（どうやらよほど腕のいいプログラマーが、味方についたようだな……）

ハッカー（こうなったら……！）

ハッカー「直接やってきたぞ」

DQN「……な！？」

ハッカー「顧客情報は頂く！　お前を倒してな」

DQN「“物理的ハッキング”ってやつか……やれるもんならやってみな！」

女「気をつけて！　あいつ、ものすごく強いわ！」

DQN「たしかにな……だが、逃げるわけにはいかねえ！」

ハッカー「いくぞぉ！」ﾀﾞｯ

ハッカー「ハッ！」ﾋﾞｭｵｯ

ベシィッ！

ハッカーのローキックが、DQNの足にヒットする。

DQN「ぐああっ……！」ﾐｼﾐｼ…

ハッカー「クックック、パソコンばかりいじっていて、足は鍛えてなかったようだな！」

DQN「ぐ……！」

ハッカー「カッ！」

グシャッ！

さらに、ヒザ蹴りがDQNの顔面にめり込む。

DQN「ぶげあっ……！」ﾌﾞｼｭｩｩｩ…



ギャル「キャーッ！」

女「ああっ……！　すごい鼻血！」

課長「DQN君！」

ハッカー「トドメだ！」ﾋﾞｭｵｱｯ

ドゴォッ！

必殺のハイキックが、DQNの頭部に炸裂した。

DQN「うぐぅ……」ﾄﾞｻｯ…

ハッカー「フッ、終わった……」

ハッカー「パソコンの勉強ばかりして、肉体の鍛錬を怠るからこうなるのだ！」

ハッカー「顧客情報はもらっていくぞ！　ハーッハッハッハッハッハ！」

女「DQNッ！」

DQN「す、すまねえ……。顧客情報……また盗まれち、まった……」

女「しっかりしてっ！」

DQN「妹さんと、仲良く、な……」ｶﾞｸｯ

女「いやぁぁぁぁぁっ！！！」



…………

……

病院――

ﾋﾟｯ…　ﾋﾟｯ…　ﾋﾟｯ…

女「DQNの容態は！？」

医者「非常に危険な状態です……」

医者「脳に深刻なダメージを負っており、このまま目を覚まさない可能性も……」

女「そんな……！」

女（許せない……許せないわ、ハッカー！）

女「私……出かけてくる」

ギャル「お姉ちゃん、どこ行くの！？」

女「決まってるでしょ……DQNの仇討ちよ！」

女「あの人は私を眠らせてくれた……その恩返しをしなくちゃ！」

ギャル「あ、あたしも……」

女「ダメよ。あなたじゃ足手まといになるだけ」

ギャル「うう……」

女「ここでDQNが目覚めるのを待っててあげて」

ギャル「分かったよ……だけど必ず戻ってきてね！」

女「もちろんよ」

アパート――

ハッカー「クックック……」ｸﾞﾋﾞｸﾞﾋﾞ…

ハッカー「ぷはーっ！　うまい！」

ハッカー「盗んだ顧客情報を見ながら飲むビールは格別だ！」

ハッカー「これからもどんどん顧客情報を盗んで、ビールのおつまみにしてやるぜ！」

ハッカー「ハーッハッハッハッハッハッハ！！！」


ﾋﾟﾝﾎﾟｰﾝ…


ハッカー「ん？」

ハッカー「はい」ｶﾞﾁｬｯ

女「こんばんは」

ハッカー「！」

ハッカー「お前はあの会社にいた……。なんの用だ？」

女「DQNの仇を取りにきたわ」

ハッカー「ほう……“ハッキング返し”というわけか！」

両者は即座に戦闘態勢に入った。

ハッカーは鋭い踏み込みから、ローキックを浴びせる。

ベシィッ！

女「ぐう……っ！」

ハッカー「もういっちょ！」

バキィッ！

女「……っ！」

ハッカー（倒れないだと……！？）

ハッカー「大した足腰の鍛え方だ……俺のローに耐えるだなんて」

女「ふん、こんな足技じゃいくらやっても私は倒せないわよ」

ハッカー「なんだとォ！？」

女「やっぱり人間を倒すなら、首から上――“頭部”を狙わないとね」

ハッカー「……どうやら、お前もあのDQNと同じ目にあいたいようだな！」

ハッカー「病院送りにしてやるよォ！」

ハッカー「ハイキック！」ﾌﾞｵｯ

女「上段蹴りなんて、うかつに出すものじゃないわ」ｶﾞｼｯ

女はハッカーの蹴り足を捕獲した。

ハッカー「し、しまった！」

女「だって読まれてたら、こうやって簡単に掴まれてしまうもの」

ハッカー「は、はなせ！」ﾋﾟｮﾝﾋﾟｮﾝ

女「はなすもんですかッ！」

女（見ていて、DQN！）

女「このまま一本背負いッ！」ｸﾞｵｯ

グオオオッ！

ハッカー「う、うわぁぁぁぁぁ！！！」ｸﾞｵｵｵｵｯ





ドゴォンッ！！！

ハッカー「……」ﾋﾟｸﾋﾟｸ…

ハッカー「俺の負けだ……」

女「顧客情報は返してもらうわよ」

ハッカー「好きにしろ……」

ハッカー「と、ところで……君の強さに惚れちまった……。今度、一緒に食事でも……」

女「私、盗人は嫌いなのよ」

ﾊﾞﾀﾝ…

ハッカー「フッ、ハッキングで数々の機密情報を盗んできたこの俺だが……」

ハッカー「彼女の心は、盗めなかった、か……」

病院――

ギャル「DQNは！？　DQNはどうなっちゃうの！？」

医者「今夜が山でしょう……。今夜中に目覚めなければ、一生植物状態かと……」

ギャル「そんなぁ……」

女「……」ﾀﾀﾀｯ

ギャル「あっ、お姉ちゃん！」

女「顧客情報は取り戻してきたわ！」

ギャル「さすがお姉ちゃん！　だけどDQNが……！」

女「お医者さん、私を集中治療室に入れて下さい！」

医者「しかし……」

女「お願いしますッ！」

ﾋﾟｯ…　ﾋﾟｯ…　ﾋﾟｯ…



医者「ご覧の通り、脳波はまったく変わりありません……」

女「DQN……」

DQN「……」

女（目覚めないのなら、目を覚まさせてみせる！　古の王子がやった、あのやり方で！）

女「お願い、目を覚まして！」

ﾁｭｯ

DQN「……ん」

女「DQN！」

ギャル「やったぁ！」

医者「おおっ、奇跡だ！」

DQN「君は……。そうか、君がキスしてくれたのか……」

DQN「あまりに刺激的だったから、おかげで目が覚めたよ……」

女「よかった……！」

ｷﾞｭｯ…

女「DQN……好きよ」

DQN「……俺もだよ」

女「よーし、今夜は寝かさないんだから！」

ギャル「やっちゃえやっちゃえ！」

DQN「おいおい、勘弁してくれよ～！　ここ病院のベッドだぜ～？」







おわり