男「経営が厳しい孤児院が増えている……か。支援も期待できない状況だろうしな」

ﾋﾟﾝﾎﾟｰﾝ…

男「はい」ｶﾞﾁｬｯ

女「肉じゃがを作りすぎたので、よかったら……」

男「すみません、ありがとうございます」

テレビ『畑で作物が盗まれ……』

男「ずいぶんと平和なニュースだな。もっと他にも報じることあるだろ」

ﾋﾟﾝﾎﾟｰﾝ…

男「はい」ｶﾞﾁｬｯ

女「また肉じゃがを作りすぎてしまって……」

男「これはどうも」

ﾋﾟﾝﾎﾟｰﾝ…

男「はい」ｶﾞﾁｬｯ

女「肉じゃがを作りすぎてしまったので、食べて下さい」

男（またか……今日で十日連続だぞ）

男（今までなにも言わなかったけど、いくらなんでもおかしい！）

男「あの……毎日毎日なんなんですか？」

女「……」

女「気づかない？」

男「は？」

女「あたしからのメッセージに」

男「メッセージ？」

女「肉じゃがの“にく”は憎しみの“にく”よ」

男「な、なにいってんだアンタ？」

女「じゃあはっきり教えてあげる」

女「よくもあたしのジャガイモ畑から、イモを盗んでくれたなぁ！」

男「は！？」

男「ジャガイモを？　俺が盗んだ？　なにいってんです？」

女「ウソつけえ！　このところしょっちゅう、あたしの畑から盗んでくじゃねえか！」

女「売れそうにない小さなイモばかりとはいえ、許せるもんじゃねえ！」

男「だからなんの話だよ……俺は知らないって！」

女「ウソこくなぁ！」

女「あたし、見たんだ！　畑から走り去るアンタの姿を！」

女「だからあたしは“お前がジャガイモ盗んでるの知ってるぞ”ってメッセージを込めて」

女「肉じゃがをおすそわけしてきたんだぁ！　罪悪感を揺さぶって自首するようになぁ！」

男「なんて回りくどい方法を……」

女「うるさいうるさぁい！」

男「……いや、ちょっと待てよ」

女「待ってやる」

男「君は俺を見たといったよな」

女「ああ！」

男「本当に“俺”を見たのか？」

女「ああ……見た」

男「間違いなく“俺”なんだな！？」

女「う、うん」

男「頼む、君の畑に連れてってくれ！　今すぐに！」

ジャガイモ畑――

男「ここか」

女「いつもここからアンタはジャガイモかっぱらっていくんだ！」

男「だから俺じゃないって」

女「今までの傾向からして、きっと今日あたりもやってくるに違いねえ」

男「よし、それならどこか物陰に潜んで待ち伏せしよう」

ｺｿｺｿ…

ｶﾞｻｺﾞｿ　ｶﾞｻｺﾞｿ




男「……怪しい奴がやってきた」

女「間違いねえ！　あいつだ！」

男「よぉし！」

男「このジャガイモ泥棒！」ﾀﾞｯ

ガシィッ！

男「捕まえたぞ！」

女「やったぁ！」

女「ってことは、アンタは犯人じゃなかったんだな。すまないことしたなぁ」

男「いや、俺を疑ったのも無理はない。こいつの顔を見ろ」

女「……この顔は！？」

女「同じ顔！？」

男「もしかしてと思ったが、やっぱりお前だったのか……」

弟「兄さん……」

女「まさか……アンタたち双子か！？」

男「ああ、俺とこいつは双子の兄弟なんだ」

弟「……」

男「近頃連絡が取れないから心配してたけど、まさか泥棒なんかやってたとはな」

男「なんでこんなことをした？」

弟「……」

男「話せ！」

弟「分かった……全て話すよ……」

弟「二人とも僕についてきてくれ」

男「……」

女「……」



ｽﾀｽﾀ　ｽﾀｽﾀ

男「ここは……孤児院？」

女「こんな場所があるなんて知らなかった……」

弟「やぁ、みんな」

子供A「あっ、お兄さんだ！」

子供B「お兄ちゃんが来てくれた！」

子供C「こないだのジャガイモ、とってもおいしかったよ！」

ワーイワーイ！

院長「あら、今日はお連れの方がいらっしゃるの」

院長「このところ、当施設も経営が厳しくなっていて、食費にも事欠く有様で」

院長「そんな時、ふらりと立ち寄った弟さんが私たちを憐れんで、支援の手を与えて下さったんです」

院長「このところはジャガイモを持ってきてくれて……大変助かってます」

男「……なるほど」

男（最初は金で支援してたんだろうけど、すぐ底を尽きて、ジャガイモ畑に手を出した……ってところか）

男「ちょっと来い！」ｸﾞｲｯ

弟「ううっ……」

男「お前が音信不通になってた理由と、ジャガイモを盗んだ理由は分かった」

男「だがな、盗んだジャガイモで子供達を助けたって、なんの意味もねえだろ！」

男「お前のやってることは慈善でもなんでもなく、ただの犯罪だよ！」

弟「ごめん……」

男「俺に謝ってもしょうがねえだろ！　この人に謝れ！」

弟「申し訳ありませんでした……！」

女「……」

男「こいつ、どうする？　警察に突き出すか？」

弟「……」

女「いや……突き出さない」

男「え？」

弟「え？」

女「たしかに盗みはよくねえけど、反省してるし、盗まれたのは小さいイモばかりだし……」

女「それに、こんな事情だったらあたしとしても是非協力したい！」

女「あたし、この孤児院にジャガイモを提供する！」

女「小さいのばかりじゃなくて、大きいやつも！」

弟「ホ、ホントですか！？」

男「いいのか？」

女「うん、あの子供達を食わすぐらいの量ならどうってことないしな」

女「それにもちろんタダでとはいわねえ。金じゃなくてもいいから、いつか何かできっちり返してくれ」

弟「はいっ！　この恩は絶対忘れません……！」

女「んじゃ、さっそくあの子たちにジャガイモ料理を作るかな」

弟「なににします？　ポテトサラダ？　じゃがバタ？　フライドポテトなんかもいいですね！」

女「いやいや……そりゃ決まってるだろ」

男「ねー」

女「ねー」

弟「？」

男女「肉じゃがだよ！！！」

女「じゃあ、あたしはイモ剥いてるから、他の材料を買ってきてくれ！」

男「ラジャー！　今日は奮発して、沢山いい肉買ってくるよ！」

男「ほら、行くぞ！　金ねえならせめて買い物手伝え！」

弟「うん！」



…………

……

ﾄﾞｯｻﾘ…

男「……どうする、これ」

弟「はりきって作りすぎちゃったね……」

子供A「うわっ、山みたい！」

子供B「いくらなんでもこんなに食べられないよー！」

女「うーん……こりゃよそにおすそ分けするしかねえなぁ」







～おわり～