面接当日――

就活生「面接は3時からだから……そろそろ行くか」

就活生「全部脱いで、と」ﾇｷﾞﾇｷﾞ

就活生「これでOK！」

就活生「行ってきまーす！」

母「あら、どこに行くの？　ヌーディストビーチ？」

就活生「違うよ、面接！」

母「面接？　全裸で？」

就活生「うん、そういう指示だから」

母「変わった会社もあるのねえ。行ってらっしゃい」

就活生（あ、近所のおばさんだ）

就活生「こんにちはー！」

おばさん「あ、あら、こんにちは。どこへ行くの？」

就活生「面接です」

おばさん「め、面接？　行ってらっしゃい」

就活生「はい！」

おばさん「んまあ、あんなに小さかった子が立派になって……」ｺﾞｸｯ

ｻﾞﾜｻﾞﾜ…　ﾋｿﾋｿ…


就活生（人が多くなってくると、さすがにみんな見てくるな……）

就活生（あまり見られると興奮して……いかんいかん）

就活生（鎮まれっ……！　鎮まれっ……！）

就活生（あー……無理だ。もういいや、このままにしておこう）

＜駅＞

就活生（駅に着いた……）

就活生（駅員に見つかると、痴漢と間違えられる恐れがある……）

会社員「……」ｽﾀｽﾀ

就活生（よし、あのサラリーマンの陰を歩こう！）

就活生（尻に入れておいたSUICAで……入場成功！）ﾋﾟｯ

ｶﾞﾀﾝｺﾞﾄﾝ…　ｶﾞﾀﾝｺﾞﾄﾝ…

就活生（何とか駅員に見つからず乗れた……）

就活生「む！」


女「……」

痴漢「ヒヒヒ……」ｻﾜｻﾜ


就活生（あの人、痴漢されてる！　――許せないッ！）

就活生「コラァ、痴漢はやめろぉ！」ｶﾞｼｯ

痴漢「わっ！？」

就活生「このぉ！」ﾊﾞｷｯ

痴漢「ぐえぇぇぇ！」

女「あ、ありがとうございます！　助かりました！」

就活生「いえ、僕はこういう性犯罪者は絶対許せないタチなんです！」

就活生（面接前にいい自己PRエピソードができたぞ、ラッキー！）

会社近く――

ｻﾞﾜｻﾞﾜ…　ｶﾞﾔｶﾞﾔ…


就活生（俺の最寄り駅よりさらに人が多い……）

就活生（だけど全裸を見られるのも慣れてきたから、俺のイチモツも落ち着いてきたな）

就活生（このまま堂々と会社まで向かおう……！）

ｽﾀｽﾀ…

ﾋﾟﾋﾟｰｯ

警官A「コラーッ！」

警官B「そこの全裸男、止まりなさい！」

就活生「まずい！　今捕まったら、面接を受けられない！」

就活生「逃げなきゃ！」ﾀﾀﾀｯ

警官A「くっ！」

警官B「服を着ていない分、身軽で速いっ！」

ﾀﾀﾀﾀﾀｯ…　ﾀﾀﾀﾀﾀｯ…

就活生「ふぅー、やっと撒けた。ここまで来れば大丈夫だろう」

就活生（と、ここでふと気付く）

就活生（会社に着いてから脱げば、それでよかったのでは？）

就活生「……」

就活生（まあいいや）

就活生（全裸で家から会社まで行くという貴重な体験ができたのだから……！）

＜会社＞

就活生（俺以外のメンバーは、と）


スーツ男「……」

シャツ男「……」

スーツ女「……」


就活生（みんな、スーツかシャツだと！？　くそっ、カジュアルすぎたか！）

スーツ男「……」

シャツ男「……」

就活生（スーツやシャツのどこがカジュアルなんだよ！？　この裏切り者どもが！）

スーツ女「……」ﾁﾗｯﾁﾗｯ

就活生（特にあの女、やたらチラチラ見てきやがる！　バカにしやがって！　全裸で悪かったな！）

面接官「それでは集団面接を始めま……えっ」

就活生「……」

面接官「そこのあなた、なぜ全裸なのですか」

就活生「カジュアルな格好でとのことだったので」

就活生「カジュアルとは日常的・実用的という意味です。つまり全裸こそ究極のカジュアルなのです」

面接官「なるほど」

面接官「ではさっそく、自己PRをお願いします」

面接官「全裸の君からどうぞ」

就活生「はいっ！」

就活生「私は社会的な常識をわきまえた男です！」

就活生「たとえばお酒の席で無礼講などといわれても、絶対に無礼なことはしません！」

就活生「社会にはルールというものがあり、すぐ極端な行動に走る人間は社会人失格です！」

面接官「なるほど」

面接官「最近、成し遂げたことがあれば教えて下さい」

面接官「全裸の君からどうぞ」

就活生「はいっ！」

就活生「先ほど私は痴漢をつかまえました！」

就活生「無防備な女性のお尻を触るという、卑劣極まりない男でありました！」

就活生「私は性犯罪者を絶対許しません！」

面接官「なるほど」

就活生「終わったー……さ、帰ろ」

スーツ女「あ、あの……」

就活生「？」

スーツ女「よかったらライン交換しない？」

就活生「いいけど」

スーツ女「やった！　じゃああとで連絡するね！」

就活生「うん」

就活生「ただいまー」

母「お帰りなさい」

母「どうだった？　逮捕されなかった？」

就活生「うん、なんとか逃げ切ったよ」

母「あんたは昔から足だけは速かったものね」

就活生「あちゃー……それも自己PRでいっておくべきだった！」

ﾋﾟﾛﾛﾛﾝ…

就活生「ん、さっきの女からライン来た」


『あなたの全裸姿に惚れました。また会えませんか』


就活生「こりゃ危ない女だな。既読スルーしよ」

数日後――

就活生「お、あの会社からメール来た」


『あなたの今後のご活躍をお祈り申し上げます』


就活生「やっぱりダメだったか……」

就活生「全裸はカジュアルすぎた……今度から気をつけるようにしよう」

就活生（だが、最後に書かれていた一文で、俺の心は救われることになるのであった）

『しかしながら、立派なおいなりだったとも申し上げます』







おわり