女「……」ﾄﾞｻｯ

男「ククク、スクーターで“TVの者です”と話しかければあの番組のスタッフと思い込んで気を許しやがる」

男「いい時代になったもんだぜ……！」



………………

…………

……

―警察署―

女刑事「課長、この地域での女性の失踪はこれで10人目です！」

女刑事「なんらかの事件性があると考えていいと思います！　もっと本格的に捜査すべきです！」

課長「しかしだな、失踪者はいずれも20代から30代の女性、それを易々と誘拐できる人間がいるとは思えん」

課長「グループなら可能かもしれんが、今のところそういう目撃情報もないんだろう？」

女刑事「……はい」

課長「だったら、これ以上の人員は割けんよ。我々はいくつもの事件を抱えているんだから」

女刑事「……」

刑事「10人とも大人の女性で、失踪するような理由もない……か」

女刑事「これは絶対何かあるわよ！」

刑事「俺たちももうすぐ結婚式だってのに、厄介な事件が舞い込んだな」

女刑事「だけどもし誘拐事件だとしたら、絶対解決しないと！」

刑事「そうだな」

刑事「こいつを解決したら、新婚旅行でハワイだ！」

女刑事「うん！」

刑事「しかし、失踪したと思われる地域じゃ、一切争った物音だのの情報がないんだよな」

刑事「いったいどんな方法で女性を拉致してるんだか……」

女刑事「監視カメラにもそれらしき光景は映ってないしね」

刑事「カメラの位置もきっと熟知してるんだろう。相当頭がいいぞ、この犯人は」

刑事「とにかく……地道に聞き込みを続けるしかないか」

女刑事「それしかないわね」

主婦「いえ、見てないわねえ」



会社員「いや……怪しい奴は特に……」



老人「うーん……見ておらんのう」



刑事「これだけ聞き込んでも有力な情報は無しか。やっぱりただの失踪なんだろうか……」

女刑事「……いえ、犯人はいるわ！」

刑事「なんでそう言い切れる？」

女刑事「刑事の……いえ、女の勘よ」

刑事「女の勘ねえ」

刑事「だとしても今の状況じゃ、俺たち以外の刑事を協力させることは難しいし」

刑事「なにより、犯人が尻尾を出さないとどうしようもない」

女刑事「だったら私がオトリをやる！」

刑事「え？」

女刑事「私なら今までに失踪した10人と人物像が近いでしょ？」

女刑事「事件があった地域をうろついていれば、あっちから食い付いてくれるかもしれない！」

刑事「だけどオトリなんて……危険すぎる！」

女刑事「あら平気よ。これでも刑事なんだし、並みの男には負けないわ」

女刑事「……お願い！」

刑事「分かったよ。二人でこの事件を解決しよう！」

女刑事「どう？」

刑事「うん、どう見てもかよわいOLに見えるよ」

女刑事「それどういう意味？　いつもはかよわくないってこと？」

刑事「いや、そうじゃなくて……」

女刑事「フフッ、冗談よ」

女刑事「犯人め、もし私に襲いかかってきたら返り討ちにしてやる！」

刑事（上手くいけばいいんだが……）

女刑事「それじゃオトリ捜査開始ね」

刑事「俺は後ろから尾行するよ。くれぐれも気をつけて」

ｽﾀｽﾀｽﾀ…



……



刑事（あいつを尾行しながら周囲にも気を配ってるけど、特に怪しい奴はいないな）

女刑事「……」

ﾌﾞﾛﾛﾛﾛﾛ…　ｷｷｯ

男「あのー」

女刑事「？」

男「私、TVの旅番組の者なんですけどぉ」

女刑事「ああ、もしかしてあの番組の！」

男「ええ、そうです！」

女刑事「私あの番組よく見てます！　特に民家で充電させてもらう場面が好きで……」

男「ありがとうございます。ところでお願いがあるんですが……」

男「感電させてもらえませんか？」

女刑事「どうぞ……って、え！？」

男「バーカ」

ﾊﾞﾁﾊﾞﾁﾊﾞﾁｯ

女刑事「きゃあああっ！！！」

女刑事「う、ぐぅ……」

男「どうよ、改造スタンガンの味は？」

女刑事（そうか……これが大勢の女性を警戒させず連れ去るトリック……）





刑事「動くな！！！」ﾊﾞｯ

刑事「傷害の現行犯と連続誘拐の容疑で、お前を逮捕する！」

男「……な、刑事！？」

刑事「動くなよ……容赦なく撃つぞ」

男「……すいませんでした」ｻｯ

刑事（手を上げた……）

刑事「よし、手錠をかけるから動くなよ……」

男「スタンガンは一つだけじゃないんだぜ」ｶﾁｯ

ﾊﾟﾝｯ!

ﾊﾞﾁﾊﾞﾁﾊﾞﾁｯ!

刑事「あがっ……！」

刑事（なんだ、今の……！？）

男「テーザー銃ってんだ。一言でいや飛び道具になるスタンガンだ」

男「まさか、こんなもんが飛び出てくるとは予想外だったろ？」

刑事「あ、ぐ……」

男「刑事がこんなタイミングで出てくるってことは、さてはお前らグルだな？」

男「この女はもらってくぜ！　じっくり電流で調教してやるよ！」

男「あばよ！」

ﾌﾞﾛﾛﾛﾛﾛﾛ…

刑事（目を覚ましたら……あいつは連れ去られていた）

刑事「――くそっ！」ｶﾞﾝｯ

刑事（最悪だ……！）

刑事（これで犯人は警戒して、もうめったなことじゃ表に出てこなくなるだろう）

刑事（仮にまた出会うことができたとして、あのスタンガンとどうやって戦う……！？）

刑事「電気に勝つためには、どうすればいいんだ！」

刑事「電気に勝つためには……ん？」



少年A「いっけーっ！　かみなり！」

少年B「きかねーよ！」

少年A「あれえ、なんで！？」

少年B「だって俺のモンスターはじめんタイプだからな！　通じないんだよーん！」



刑事「――これだ！」

刑事「地面を掘って……」ｻﾞｸｯｻﾞｸｯ

刑事（穴の中に自ら埋まって瞑想する……）

刑事（地面の力を借りるために、否、自らを“地面”と化すために――）

刑事「……」

刑事「……」

刑事「……」

…………

……

『……人間よ』

刑事（……ん？）

大地の神『人間よ』

刑事（あなたは……！？）

大地の神『私は大地の神、よくぞこの短時間で大地の真髄を悟りました』

大地の神『あなたに力を授けましょう』

刑事（ありがとうございます……！）

ｺﾞｺﾞｺﾞｺﾞｺﾞ…

刑事（む、これは南海トラフを発生させる震動……）

刑事（打ち消す！）ｸﾜｯ

バシュッ！

大地の神『お見事、これで南海トラフ地震は100年は封印されたでしょう』

大地の神『さあ、ゆくのです。大地の申し子よ』

刑事（はいっ！）

ﾎﾞｺｯ…

刑事「これで俺は晴れて“地面”になることができた」

刑事（浮かれてる場合じゃない。あいつと犯人を探さないと……）

刑事（大地に耳を近づけると……地面を通じて気配を探ることができる……）ｿｯ…

刑事（犯人の気配は……）

刑事「――見つけた！」

―アジト―

女刑事「う、ぐぅ……」

男「女刑事さん、そろそろギブしちゃえば～？」

男「俺としても嫌がる女をムリヤリ……ってのは心苦しいのよ」

女刑事「誰が……！」

男「だったらもういっちょ」

ﾊﾞﾁﾊﾞﾁﾊﾞﾁｯ!

女刑事「ああああああああっ！」

男「ヒヒヒ、効くだろぉ～？　今までの女も全員これで参ったして奴隷になったぜ」

男「今じゃ俺がバチバチ音を鳴らすだけで、あっちから俺を求めてきやがる！」

男「まるでベル鳴らすだけでヨダレ垂らす犬みたいになァ！」

女刑事「クズ、野郎……！」

女刑事（こんな奴の奴隷になるなんて、とても耐えられない……）

女刑事（こうなったら舌を噛むしか……）ｸﾞｯ…



ﾎﾞｺﾎﾞｺﾎﾞｺﾎﾞｺﾎﾞｺ…



女刑事「え？」

男「な、なんだ？　床下から変な音が……」

ボゴォッ！

刑事「――助けに来たぞ！」

女刑事「来てくれたのね！」

男「どうしてここが！？　ってか、なんで床から出てくんだよ！？」

刑事「答える義務はない。さあ、前の借りを返すぞ」

男「また感電させてやる！　今度は死ぬぐらいの大電流でなァ！」

ﾊﾞﾘﾊﾞﾘﾊﾞﾘｯ!

男「どうだ！？」

刑事「効果がないみたいだ……」

男「なんだとォ！？」

男「なんだお前……化け物かァ！？」

刑事「俺はお前の天敵だからな。もはやお前を逮捕することは容易い」

刑事「だが、大勢の女性を玩具にしたお前には、相応の苦しみを与えてやらなきゃならん」

男「相応の苦しみ……？」

刑事「俺は大地を操って、こんな土人形を造ることもできる」ｸｲｯ

屈強な大男「……」ﾎﾞｺｯ

男「うわっ！」

刑事「土人形といっても、動いてる最中は人間そのものだがな」

刑事「やれ」ﾊﾟﾁﾝｯ

屈強な大男「……」ｽﾞｲｯ

男「な、殴る気か！？」

屈強な大男「あなをほる」

男「え」

屈強な大男「あなをほる」

男「や、やめ……」

屈強な大男「　あ　な　を　ほ　る　」

男「やめてええええええっ！！！」

ああぁぁぁぁぁ……！

刑事「大丈夫か！？」

女刑事「うん、私はなんとか……」

女刑事「だけど他の女性はみんなあいつに……！」

刑事「大丈夫、俺が大地の力で体の汚れを浄化し、嫌な記憶も大地に封印するよ」

刑事「事件自体をなかったことにする。多分それが一番いいんだ」

女刑事「ありがとう……！」

刑事「さあ、事件は解決したし、結婚式挙げてハネムーンに行こう！」

女刑事「うん！」



刑事（しかし、こんな俺たちを思わぬ悲劇が待ち受けていた――！）

……

アナウンス『当機はまもなくハワイに到着いたします』

女刑事「大丈夫？　震えてるけど……」

刑事「あ、ああ……平気だとも」ｶﾞﾀｶﾞﾀ

女刑事「……」

刑事「う、うう、ううう……早く地面に降りて……」ｶﾞﾀｶﾞﾀｶﾞﾀ

女刑事「やっぱり……国内旅行にしておけばよかったね」







―　完　―