ｱﾊﾊﾊ…　ﾜｲﾜｲ…

男（なんか鼻がむずむずするな……）ﾎｼﾞﾎｼﾞ

男（取れた！）ﾎｼﾞｯ

男（取ったはいいけど、どうしよこれ。弾き飛ばして誰かについたら悪いしなぁ）

男（ええい、食べちゃえ）ﾊﾟｸｯ

村人「……」

村娘「……」

男（って思い切り見られた！？）

男「あの……これは……その……今のは……」

村人＆村娘「すげえええええええええええ！！！」

村人「今、鼻クソ食べたよな！？　食えるんだ、あれ！」

村娘「その発想はなかったわ！」

男「え……？　え……！？」

村人「試しに俺もやってみるか」ﾎｼﾞﾎｼﾞ

村娘「あたしも！」ﾎｼﾞﾎｼﾞ

男「ちょっ……」

村人＆村娘「……」ﾊﾟｸｯ

村人＆村娘「うめええええええええええ！！！」

村人「これは……美味い、美味すぎる！」

村娘「うん、しょっぱくて、ねっとりしてて、クセになる味！」

男「なるかなぁ」

村人「これは……村のみんなにも広めないと！」

村娘「うん、そうしよう！」

男「いや、やめた方が……」

男「ああ……行っちゃった」

一週間後――

村長「こりゃあ美味い！」

老婆「おいしいねえ……」

農夫「たまらねえや！」

村人「だろ？」

村娘「彼がやってたの！　すごいでしょ！」

男「たしかに俺だけど……」

男（こんなことで起源や発祥みたいな扱いされても全然嬉しくねえ）

ある日――

ﾊﾟｶﾗｯ　ﾊﾟｶﾗｯ　ﾊﾟｶﾗｯ

領主「……」ｻﾞｯ



男「あの人は……？」

村人「この辺りの領主様だ！」

男「ええっ、領主！？」

村娘「どうしてこんな小さな村に……？」

領主「この村に、鼻クソを食すなどというふざけた食文化を広めている輩がいると聞いたが……」

男「！」ｷﾞｸｯ

領主「誰だ！？」

村人「この人です！」

村娘「彼です！」

男「ちょっ！？」

領主「貴様か……」ｷﾞﾛｯ

男「あ、ああああ……」

領主「我々とは顔つきが違うな。なるほど、よそ者が異文化で村人を惑わしてるというわけか」

男「惑わすだなんてそんな……」

領主「領内に潜む不穏分子は全て排除せねばならん。よって貴様を捕える！」

男「ひいいっ！」

領主「……といいたいところだが、やってみもしないうちに否定するのは私の主義に反する」

男「へ……」

領主「鼻クソを食するとはいったいどうやってやるのだ？」

男（どうやってもなにも、方法なんか一つしかないじゃねえか）

男「鼻クソをほじって……」ﾎｼﾞﾎｼﾞ

男「食べるんです」ﾊﾟｸｯ

領主「ずいぶん簡単だな。もし、不味かったらただでは済まんぞ」ﾎｼﾞﾎｼﾞ

領主「……」ﾊﾟｸｯ

男「……」ﾄﾞｷﾄﾞｷ

領主「――うまい！！！」

領主「こ、これは……！」ﾎｼﾞﾊﾟｸ

領主「なんという美味！」ﾎｼﾞﾊﾟｸ

領主「このしょっぱさがやめられない止まらない！」ﾎｼﾞﾊﾟｸ

領主「鼻クソがこんなにも美味いものであったとは……！」ﾎｼﾞﾊﾟｸ

男「ちょっと食べすぎでは……」

領主「このような美味を独り占めするのはもったいない！」

領主「鼻クソ食はもっと他の地域にも広めた方がよいだろう！」

村人「それはいい考えですね！」

村娘「あたしも手伝います！」

男「あの、ちょっと待って……」

――

――

配達人「郵便でーす」

男「どうもー」

男（この村からほとんど出たことがない俺に手紙……？　誰からだろ）

男（ずいぶんと立派な封筒だけど……）ｶﾞｻ…

男「え……！　王様から……！？」

国王「にわかには信じがたいが、貴殿は異世界から来たそうだな」

男「は、はい……」

国王「そして、鼻クソを食するなどという文化を、領主を利用して各地に広めているとか……」

男「広めてません！　あれは勝手に……！」

兵士「陛下に口答えするな、下郎！」ﾁｬｷｯ

男「ひっ！」

男（なんでこんなことに……）

国王「貴殿に問おう」

男「はい……」

国王「鼻クソとは、鼻の穴に溜まった埃や老廃物の塊だ」

国王「何故このようなものを食す？　汚いだけではないか！」

男（正論すぎて、一ミリも反論の隙間がない……）

国王「黙ってないで答えよ！」

兵士「首をはねるぞ！」

男「えぇと……あの……王様もやってみれば、分かるかと……」

兵士「貴様ッ！」

国王「まぁよい。やってみようではないか」

国王「ただし、もしも不味かった時は貴殿の首を――」ﾎｼﾞﾎｼﾞﾊﾟｸｯ

国王「んまぁぁぁぁぁぁぁぁぁい！！！」

男「……」

男（なぜだろう。あまり驚いてない自分がいる）

兵士「え、俺もやってみよ」ﾎｼﾞﾊﾟｸｯ

兵士「おいひぃぃぃぃぃぃぃぃぃ！！！」

国王「鼻クソは食べるものではないという先入観に囚われていた我々には思いもよらぬ発想！」

国王「貴殿のいた世界は、きっと皆が鼻クソを食す素晴らしい世界だったのであろう」

男（ものすごい誤解を受けている）

国王「これより貴殿は国賓として扱う！　そして鼻クソ食は国中に広めることとする！」

男（もうどうにでもなれ）

ﾜｲﾜｲ…　ｶﾞﾔｶﾞﾔ…

町民「鼻クソがこんなにうまいもんだったとはな！」

主婦「美味しいわねえ」

少女「しょっぱくておいしー！」

職人「よし、二個も取れた……！」ﾊﾟｸﾊﾟｸｯ

貴族「トレビア～ン！」

次第に鼻クソ食にも工夫が見られるようになり――



店主「パンに鼻クソをたっぷりつけたパンだよー！」

町娘「まぁっ、レーズンパンみたいでキレイ！」



商人「たっぷり集めた鼻クソを練って作った“鼻クソース”はいかが？」

客「買う買う！」



騎士団長「保存食として乾かした鼻クソを持っていくぞ！」

騎士「はっ！」

国王「今日の夕食も楽しみだな」

男「そうですね……」

シェフ「鼻くそをソテーした、鼻クソテーでございます」ｺﾄｯ

国王「おおっ！」

男「うわぁ……」

シェフ「お味はいかがでございましょう？」

国王「実に美味だ。さすが我が国一のシェフであるぞ！」ﾓｸﾞﾓｸﾞ

男「おいしい……です」ﾓｸﾞﾓｸﾞ

男（普通のソテーが食べたい……）

しかし――



「さてと……今日も鼻クソ食べるか」ﾎｼﾞﾎｼﾞ

「あれ……取れない！？」

「俺もだ！」ﾎｼﾞﾎｼﾞ

「私もよ！」ﾎｼﾞﾎｼﾞ

「どうなってんだ！？」ﾎｼﾞﾎｼﾞ



資源というのはいつか必ず枯渇するものである。

鼻クソも例外ではなかった……。

国王「くっ、くそっ！」ﾎｼﾞﾎｼﾞ

国王「なぜだ、なぜほじくれんのだ！？」ﾎｼﾞﾎｼﾞ

男「おそらく……みんな鼻をほじりすぎて、鼻クソが枯渇してしまったのでしょう」

国王「どうにかならんのか！？」

男「また溜まるのを待つしかありませんね。しかし、どれぐらいかかるか……」

国王「そんなぁ……！」

男（陛下には悪いがホッとしたよ。これでようやく鼻クソブームも終わる……）

国王「余は諦めんぞ！　もっと掘れば、きっと新たな鉱脈が……！」ﾎｼﾞﾎｼﾞﾎｼﾞﾎｼﾞﾎｼﾞ

男「いけません！　無理にほじくったら！」

国王「いでぇ！」ｸﾞｻｯ

兵士「陛下！」

国王「鼻血が出てきた……」ﾀﾗｰ…

男「あーあ、いわんこっちゃない。誰か、ハンカチを持ってこい！」

国王「……」

国王「……」ﾍﾟﾛｯ

国王「あっ、鼻血もうまぁい！　鼻水と混ざってとってもいい味になってる！」

大臣「本当ですか！？」

兵士「俺もやろっと！」

男「これは……！」

男（今度は鼻血スープや鼻血ケチャップなんてのが流行るんだろうか……）







―おわり―