この王国は世界有数のプロテイン産出国であったが、

長い王国史においてプロテインを飲むという発想をした者は一人もなかった。

しかし、今ここに新たな扉が開かれたのである。



女王「筋トレをしてから……」ｸﾞｯｸﾞｯ

市民「うおおおおおおおお！」ｸﾞｯｸﾞｯ

女王「プロテインの粉を牛乳と混ぜて飲む！」ｺﾞｷｭｺﾞｷｭｺﾞｷｭ

市民「これはうまい！」ｺﾞｷｭｺﾞｷｭｺﾞｷｭ

――

労働者A「今日も一日よく働いたな！」

労働者B「カンパーイ！」

ｶﾁﾝｯ

ｺﾞｷｭｺﾞｷｭｺﾞｷｭｺﾞｷｭｺﾞｷｭ

労働者A「ぷはーっ！　んめえな、おい！」

労働者B「肉体労働後のプロテインは格別だぜ！」

ﾜｲﾜｲ　ｷｬｯｷｬｯ

教師「みんなー、運動の時間はここまで！」

子供「はーい！」

教師「運動の後は……プロテインを飲みましょう！」ｺﾞｷｭｺﾞｷｭｺﾞｷｭ

子供「いただきまーす！」ｺﾞｷｭｺﾞｷｭｺﾞｷｭ

赤子「おぎゃあ、おぎゃあ、おぎゃあ……！」

母「お腹すいちゃった？」

母「今プロテインを飲ませてあげるからね」

赤子「……」ﾁｭﾊﾟﾁｭﾊﾟ

赤子「きゃっ、きゃっ」

母「よしよし……強くなるのよ」

いつしか王国民にとって、筋トレは趣味となり――

日課となり――

食事や睡眠と同じぐらい“して当然のこと”になっていった――



「ふぁぁ……朝か……まず筋トレするかな」

「やべ……寝ぼけてダンベルカールやってたわ」

「スクワットしながらメシ食うと超うまい！」

「筋トレ後はもちろん――」

ｺﾞｷｭｺﾞｷｭｺﾞｷｭｺﾞｷｭｺﾞｷｭ…

女王「よっと」ｸﾞﾝｯ

大臣「ベンチプレス500kg……お見事です」

女王「ありがと」

女王「大臣こそ、近頃頑張ってるじゃない」

大臣「いやぁ、最近はデッドリフトに凝ってましてな」

女王「よーし、負けないわよ！」

隣国――

女王の国と隣国は長年仲が悪く、いつどちらかが戦争を仕掛けてもおかしくない状態であった。



国王「ほう、あの王国の連中がみんな筋トレにうつつを抜かしていると？」

側近「はい」

側近「兵士から一般市民に至るまで、筋トレに夢中になっております」

国王「ふん、我が国が攻め込んでくるわけがないと油断したか！」

国王「よし、奴らが筋トレをしているスキに、全軍を率いて攻め込むのだ！」

側近「はっ！」

兵士「女王様！　大臣閣下！」

女王「どうしたの？」ｸﾞｯｸﾞｯ

兵士「筋トレ中失礼しました！」

女王「かまわないわ。何かあったの？」ｸﾞｯｸﾞｯ

兵士「隣国が……隣国が我が国に攻め込んで参りました！」

大臣「な、なんだと！？」

女王「まあ……」ｸﾞｯｸﾞｯ

女王「隣国の軍隊は？」ｸﾞｯｸﾞｯ

兵士「まっすぐこの首都に向かっています」

兵士「おそらく一気に我が国を制圧するつもりなのでしょう」

大臣「むむ……いかがいたしましょう？　女王陛下」

女王「……」ｸﾞｯｸﾞｯ

女王「いい筋トレができそうね」ﾆｺｯ

女王「全兵士たち！」

女王「祖国のため、存分に戦ってちょうだい！　……とその前に」

女王「プロテインを飲みましょう！」ｺﾞｷｭｺﾞｷｭｺﾞｷｭ

兵士A「はいっ！」ｺﾞｷｭｺﾞｷｭｺﾞｷｭ

兵士B「うめえ～！」ｺﾞｷｭｺﾞｷｭｺﾞｷｭ

兵士C「このコク、この喉ごし、この後味！」ｺﾞｷｭｺﾞｷｭｺﾞｷｭ

兵士D「たまんねえや！」ｺﾞｷｭｺﾞｷｭｺﾞｷｭ

女王「ぷはぁっ！」

女王「出撃ィッ！！！」

戦いが始まった。

兵士A「おっ、この敵兵士持ち上げて筋トレしよ」ｸﾞｯｸﾞｯ

敵兵A「うわああああああっ！」



敵兵B「ひいいっ！　腹を刺したら槍が折れた！」

兵士B「もっと刺してくれ！　腹筋の仕上がりを試したいんだ！」



兵士C「大丈夫か！？　軽く突き飛ばしただけで……」

敵兵C「あうう……」

兵士だけでなく民間人も――

敵兵D「つ、強すぎる……」

村人「なんだよ、デコピンで倒せちゃったぜ」



長老「ほれっ」ﾎﾟｲｯ

敵兵E「うわあああああああっ……！」ﾋｭｰﾝ…



幼女「おじちゃんたち、よわーい！」ﾑｷｯ

敵兵F「我が隊が全滅だなんて……」

隣国――

国王「我が軍が押されているだと！？」

側近「はっ……」

側近「敵軍はおろか、ただの村人や子供にも歯が立たない有様で……」

国王「おのれ……！　だが、まだ逆転の手は残っている！」

国王「女王だ！　なんとかして女王を殺すのだ！　戦争とは敵の頭を獲れば勝ちなのだからな！」

側近「そ、それが……」

ドゴォォォォォォンッ！

砲撃手「やった！　大砲が命中したぞ！」

女王「……こんなんじゃ筋トレにもなりゃしないわ」

砲撃手「ひいい、無傷だって……！？」





側近「女王は最前線に立って戦っているようで……」

国王「なんだとおおおおおお！？」

一時間後――

女王「……」ｶﾞﾁｬｯ

国王「お前は……女王！」

女王「……」ｽﾞﾝｽﾞﾝ

国王「もうここまで来たのか……」

女王「……」ｽﾞﾝｽﾞﾝ

国王「化け物め……！」

女王「……」ｽﾞﾝｯ

国王「まさか、余がこのような言葉を口にすることになるとはな……」

国王「くっ、殺せ！」

女王「殺せ？　何を勘違いしているの？」

国王「……へ」

女王「私はあなたにこれを飲ませに来ただけよ」

女王「うまいぞ、飲め」ｽｯ

国王「こ、これは……」

国王「プロテイン！？」

女王「サービスで、すでに牛乳と混ぜてあるわ」

国王「い、いただきます」ｺﾞｷｭｺﾞｷｭｺﾞｷｭ

国王「う、うまい……！」

女王「私はね、あなたたちにもこの味を知ってもらいたかったのよ」

国王「そうだったのか……！」

国王「それなのに余は……余ってやつは……！」

女王「もう、いいのよ……」

国王「しかし！　余は戦争を仕掛けたのに！」

女王「過ちは誰だってあるわ」

国王「許して……くれるのか……」

女王「ええ……さあ、一緒に筋トレしましょう。器具はたくさん用意してあるわ」

国王「はいっ！」

こうして両国は和解し、長年いがみ合った仲も解消された。

以後、両国は親密な同盟関係を築き上げ、二人三脚で世界屈指の大国へと成長していくこととなる。



女王「みんな、戦争は終わったわ！」

女王「今日も元気に筋トレして、プロテインを飲みましょう！！！」

ワァァァァ……！



いつしか人々は偉大なる女王を、敬意を込めてこう称するようになる。

“蛋白女王（プロテクイーン）”と――





―　完　―