男「第一もあの怪物な外見が好きって意見を見たことあるけど、第二が好きってのは珍しいな」

友「そうか？」

男「どのあたりが好きなんだ？」

友「まず、なんといってもぶ厚いタラコ唇だな」

友「あの唇を見てると、なんかこう胸がキュンとくるんだ」

男「……まあ。そういう人もいるかもな」

友「あと体も大きいだろう？　とても包容力がありそうで……」

友「羽根がなくなったのもいい。シンプルで、男らしくて……」

男「そういや、完全体より体は大きかったんだっけ」

男「本編で好きなシーンはある？」

友「まず、セル第二形態で痺れるところは16号を一撃で倒すシーンだな」

男「ああ、あったなぁ」

友「16号のパンチを顔面に受けても全くノーダメージで、エネルギー波一発で戦闘不能にしてしまうんだ」

男「あのシーンもかなりの絶望感だったな」

友「すごくクールでさ、俺が16号になりたい！　……って思ったよ」

男「なりたいのかよ」

友「その後、セルは天津飯の新気功砲に邪魔されて、18号を逃がしちゃうんだけど」

友「そこがまたいい！」

友「天津飯なんて格下なのに！　悔しいっ！　……って感じでさ」

男「あそこの天津飯は輝いてたよな」

友「セルの無念さが伝わってきて、あの前後のシーンだけでご飯三杯はいける」

男「よく食うなぁ」

友「18号を吸収したいセルは、あちこちの島を消し始める。あそこも大好きなんだよね～」

男「な、なんで？」

友「人間なんてまるでゴミとしか思ってない感じでさ」

友「あの冷酷さ、まさに悪の鑑って感じだね！」

友「俺はセルに消された島の住民たちが羨ましい！　むしろ俺が島になりたい！」

男「島になりたいって言い出す奴はじめて見た」

男「だけど、第二形態セルが順調なのってそこまでだよな」

友「へ？」

男「たしか島を消してる最中に、精神と時の部屋で修行したベジータとトランクスが現れて」

男「セルはベジータにボコられまくるわけじゃん？」

男「あの辺のシーンは、セル第二形態好きのお前としちゃ見てて辛かったろ」

友「ああ、たしかに辛かった……」

友「超ベジータになったベジータに手も足も出ず」

友「本気を出して殴っても全く通じず、ボコボコにされるセル……」

友「俺は悲しくて悲しくて、涙が出そうになったよ。いや、むしろ出てた」

男「だろ？」

友「だけど……同時にある種の快感も覚えていたんだ」

男「へ……？」

友「俺の大好きなセルが殴り飛ばされてる！」

友「俺の大好きなセルが蹴り飛ばされてる！」

友「俺の大好きなセルが背負い投げされてる！」

友「まるで、自分の好きな子が暴行されてるような背徳的な興奮を覚えちゃってさ……」

男「えええ……？」

友「“ベジータ許せん”って気持ちと“ベジータもっとやれ”って気持ちが交互に浮かんできて」

友「俺は心のバランスを保つのが大変だったよ……」

男（ヤバイ……だんだんついていけなくなってきたぞ）

友「特に丸々1ページ使って、ベジータがセルの腹を蹴り上げるシーンがあるんだけど」

友「あそこなんか特に……もう……最高で……」

男「最高……？」

友「こうして思い出すだけで……。いったい何百回あそこで抜……」

男「へ？　今なんか言おうとしたか？」

友「いや、なんでもない」

男（よかった……聞かなかったことにしよう）

友「ベジータに勝てないと悟ったセルは、それでも諦めない」

友「なんとかベジータのプライドにすがって、見逃してもらおうとするんだ」

友「そこが情けなくて、本当にヘタレで……」

友「だけど、ある種の母性本能も刺激してくれて……」

男「母性本能って……お前男だろ？」

友「男が母性本能抱いちゃいけないのか！？」

男「いや、そんなことは……すいません」

友「セルの母親になりたいなぁ、って本気で思ったね」

男「もしなれたとしたら父親はドクターゲロになるのかな」

友「だから、セルが完全体になった時、俺は泣いたね。本気で泣いた」

友「物語の都合上、セルが完全体にならないのはありえないから覚悟はしてたけど……」

友「それでも本気で悲しかった」

男（しょっちゅう本気になってるなこいつ）

友「もう、あの愛しき第二形態を見ることはできないんだなって……」

男「そこからはずっと完全体のターンだからなぁ。ベジータ倒して、セルゲーム開いて……」

友「ああ……だけどセル編ラストにまさかの展開が起こるんだよ！」

友「悟飯のパンチを喰らったセルが、18号を吐き出して、元の形態に戻るんだ！」

男「あ、そういえばそうだっけ」

友「あの時の俺の気持ちを表現してやろう」

友「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお！！！」

友「バンザァァァァァァァイ！！！」

友「鳥山先生ありがとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ！！！」

男（こんなことで感謝されても、鳥山先生全く嬉しくないだろうな）

友「追い詰められたセルは、体を膨らませて地球もろとも自爆しようとする」

友「あの太っちょ形態もホント可愛くてさぁ……。ツンツンしたくなっちゃう」

男「ツンツンしたら爆発するけどな」

友「いいんだよ！　セルと死ねるなら本望！」

友「あーあ、悟空もどうせなら俺のところにセルを運んでくれればよかったのに！　喜んで心中したのに！」

友「セルの自爆で死ねた界王様とバブルス君が羨ましい！　嫉妬する！」

男「嫉妬て」

男「セル編の見どころといったら、やっぱり最後の親子かめはめ波……」

友「いや、そこはもうあまり興味ないや。消化試合」

男「え？」

友「セルの自爆が俺にとってのクライマックスだから。名シーンだから」

男「あ、そう」

男（ホントにセル第二形態だけが飛び抜けて好きなんだな）

友「そうだ！」

男「ん？」

友「よかったら、今から俺んち来ないか？」

男「どうしたんだよ、突然」

友「俺がどれだけセル第二形態を愛してるか、見せたいものがあるんだ！」

男「へぇ、じゃあお邪魔しようかな」

男「お邪魔しま……うわっ！」

友「どうだ？」

ｽﾞﾗｯ

男「すげえ、これ全部セル第二形態のフィギュアか！」

友「ああ、100体以上ある」

男「世間的な人気はそこまででもないのに、こんなに種類があるのか」

友「いや、ほとんど自作だ」

男「自作！？」

友「これは亀仙流の道着を着たセル、こっちはスーツを着たセル、これはメイド服……」

男「……！」

男（コンセプトはともかく、クオリティは高い）

男「お前、フィギュア作りの才能あるんじゃねえの。これで商売できるだろ」

友「それが、セル第二形態以外は上手に作れないんだよな」

男「へ？」

友「たとえば、ベジータのフィギュアを作ろうとしたらこのザマだ」ｻｯ

男「うわっ……（まるで子供の粘土遊びのような出来……）」

友「他にもセル第二形態のポスター」

友「アニメのセル第二形態の登場シーンだけを集めたDVD」

友「自作したセル第二形態が主役のゲーム」

友「セル第二形態タオル」

友「セル第二形態カレンダー」

友「セル第二形態の……」

男「ふええ……」

男（俺はとんでもないところに迷い込んでしまったようだ）

男（これ以上いると夢にセル第二形態が出てきそうだし、そろそろ……）

男「じゃあ、俺そろそろ帰るな」

友「いや……ダメだ」

男「え」

友「実はここからが本題なんだ」

男「どういうことだ？」

友「前からずっと思ってたんだけど……お前ってセル第二形態に似てるんだよね」ﾁﾗｯ

男「え……？」

友「タラコ唇だし、体も大きいし、全体的なフォルムも……」ｼﾞｭﾙﾘ

男「ジュルリて……」

友「18号を追いまわす時のセルはちょうどこんな気分だったのかも……」ｻﾞｯｻﾞｯ

男「よせ！　近づくな！　話せば分かる！」

友「さあ……二人きりで楽しもう……」ｻﾞｯｻﾞｯ

男「あ、あああ……」

男（あそこに……さっき見たベジータのフィギュアが……）

男「おいベジータ！　こいつを何とかしてくれよ！」





完