父「風呂ってなんですか！？」

借金取り「もちろん……“せ”で始まり、“う”で終わる場所さ」ﾆﾔｯ

父（やはりソープか！）

借金取り「しかも、スーパーなところさ。今流行ってるしな」

父（ソープ確定じゃないか！）

借金取り「オラッ、ついてこい！」ｶﾞｼｯ

娘「いやぁっ！　お父さぁん！」

借金取り「借金返すまで娘には会わせねえ……」

父「ええっ！？」

借金取り「娘に再会したきゃ、せいぜい必死に金稼ぐこった！」

父「鬼！　悪魔！　ひとでなし！　ヒトデマン！」

借金取り「うるせえ！　さあ、行くぞ！」

娘「お父さぁん！」

父「待ってろ……必ず指名するからなァ！」

父「うっ、うっ、うっ……」

父「娘よ、すまん……。俺が不甲斐ないばかりに……」

父「だが、こうしてはいられない！」

父「さっそく金を稼がねば！」

父「借金を返して……娘を指名してムフフフするのだ！」

監督「ほう……ウチの現場で働きたいと？」

父「はいっ！」

監督「だが、ウチの仕事は厳しいぜ？　みんなすぐ辞めていきやがる」

父「絶対に辞めません！」

監督（こいつ……なんて目ェしてやがる。こんな目をした男は久々にお目にかかるぜ）

監督「分かった……雇ってやろう」

父「ありがとうございます！」

監督「さっそくお前に仕事を与える」

監督「このツルハシで、道路を掘ってもらう！」

父「はいっ！」

父「うおおおおおおおっ！」ｻﾞｸｯｻﾞｸｯ

監督（どうせ、すぐ音をあげるに決まって……）

父「うおおおおおおおおおおおっ！」ｻﾞｸｯｻﾞｸｯｻﾞｸｯ

監督「ほう……なかなか根性あるじゃねえか」

父「はぁ、はぁ、はぁ……いかがですか？」

監督「大したもんだ」

監督「しかし、お前さんの働きぶりからは並々ならぬ決意を感じる」

監督「いったいなぜ、そこまでして金が欲しいんだ？」

父「なぜなら、娘を指名したいからです！」

監督「意味は分からんが……いい顔してるぜ」

父は懸命に働き続けた。

監督「おーい、そのセメントこっちに持ってこい！」

父「はいっ！」



監督「落ちないように気をつけろよ！」

父「任せて下さい！」



父「今月の分です」

借金取り「おう、やっとちゃんと金返せるようになったな」

父「ところで……娘は？」

借金取り「心配すんな。元気にやってるよ」

父（元気にヤってる、か……）

……

……

監督「お前さんが、ウチに来てからどれぐらい経つか……今やすっかりエースだ」

父「これも監督や仲間のおかげですよ」

監督「こいつは特別ボーナスだ。これからも頑張ってくれよ」ﾄﾞｻｯ

父「ありがとうございますっ！」

父（これだけの額があれば……！）

父「どうぞ」

借金取り「おう！」

父「これで……借金は完済ですよね？」

借金取り「ああ、よく頑張ったな！」

父「じゃあ！　娘に！　娘に会わせて下さい！」

借金取り「……今のお前ならいいだろう。会わせてやる。ついてきな」

借金取り（娘への愛がこいつを奮起させたか……）

父（やっと……やっと指名できる！）

≪スーパー銭湯≫



借金取り「娘が働いてるのはここだ」

父（変わった名前のソープだ！）

借金取り「最初はオドオドしてたが、今やすっかり看板娘だ」

父（さっすが俺の娘！　すぐ父さんが指名してやるからなァ！）

ﾜｲﾜｲ…　ｶﾞﾔｶﾞﾔ…

借金取り「どうだ、いい場所だろ？」

父「ええ……ワクワクしてきました」

父（老若男女色んな客がいる……変わったソープだ。子供までいるじゃないか……）

借金取り「ほら、娘はあそこだ」

娘「お父さん！」

父「おおっ、娘よ！」

父「どうだ！？　体は大丈夫か！？　病気は！？」

娘「いたって健康よ。とってもよくしてもらってるわ」

娘「お給料はいいし、福利厚生はしっかりしてるし、資格まで取らせてくれて……」

娘「この前は従業員の皆さんと旅行に行ったの！」

父「そうか……」

借金取り「フッ、俺だって鬼じゃねえってことだ」

父「ありがとうございます……」

父「これで心おきなく、お前を指名できるというわけだァ！！！」

父「さあ！」ｶﾞﾊﾞｯ

娘「えっ！？」

父「父さんと一つになるんだ！」

娘「いやぁぁぁ！」

父「早く！　もう我慢できない！」

借金取り「何してやがる！」

父「決まってるだろう！　近親――」

借金取り「ハァ？　なにトチ狂ってやがんだ、このバカ親父がァ！」

父「え、だって……ここはソープだろう？」

借金取り「誰がそういったよ！？　スーパー銭湯だよ！」

父「スーパー銭湯？　なんだそれ……？」

借金取り「色々なサービスが付随した銭湯ってところだ。もちろん健全なサービスな」

借金取り「ったく、少しはマシになったと思いきや……全然なってなかったな」

父「ううう……じゃあ俺の頑張りはどうなる！？」

父「娘を指名したいという気持ち一本でここまで頑張ってきたのに！」

父「汗かいて土と泥にまみれて頑張ってきたのにィ！」

借金取り「うるせえ！　だったらとっとと風呂に入ってきやがれぇっ！」

バキィッ！

父「ぶげぇっ！」

娘「一名様ごあんなーい！」

父「いてて……なにも殴ることはないだろうに……」

父「まあいいや。服をロッカーにしまって、と」ｺﾞｿｺﾞｿ

父「さっそく……」

老人「これこれ、いきなり入るヤツがあるかい。まずはかけ湯をしなきゃ」

父「あ、すいません……」

ﾊﾞｼｬｯ　ﾊﾞｼｬｯ

父（かけ湯って気持ちいいな……）

父（体をしっかり洗って……）ｺﾞｼｺﾞｼ

父（頭もしっかり洗って……）ﾜｼｬﾜｼｬ

父（うわ、ものすごい垢だ。俺ってこんなに汚れてたのか……）ｺﾞｼｺﾞｼ



ｻﾞﾌﾞ…

父「ふぅ～、気持ちいい」

父（そういや、こうやってちゃんと風呂に入るのはいつぶりだろう……）

父（このところは仕事で忙しかったから……）

老人「どうだい、気持ちいいだろう？」

父「ええ……極楽です……」

ﾑﾜｧｧｧｧｧ…

父（サウナもいいもんだ）ﾀﾞﾗﾀﾞﾗ…

父（なんていうか、体の中の悪いもん全部流れ出る感じがする！）ﾀﾞﾗﾀﾞﾗ…



ｻﾞﾌﾞｯ…

父「サウナの後の水風呂たまらん！」

父「スーパー銭湯……最ッ高ッ！！！」

父「ふぅ～、サッパリした。ついつい長湯してしまった」ﾌｷﾌｷ

娘「お父さん、お風呂はどうだった？」

父「娘よ……」

父「！」ﾊｯ

父（俺は今までこの娘に何をしてきた？）

父（酒とギャンブルに夢中で苦労ばかりかけ、借金のカタに取られ、挙げ句指名までしようと……）

父「俺は今までなんてことを……！」ｶﾞｸｯ

父「すまなかった……許してくれ」

娘「いいのよ。私は何も気にしてないから……」ﾆｺｯ

借金取り「……」

借金取り「ほら、コーヒー牛乳だ」ｺﾄｯ

父「これは……？」

借金取り「俺からのおごりだ。美味いぞ」

父「……はいっ！」

娘「いただきます！」

父娘「……」ｸﾞﾋﾞｸﾞﾋﾞ

父「ぷはぁっ！　風呂上がりのコーヒー牛乳は最高だ！」

娘「あたしも……お父さんと飲むコーヒー牛乳は最高！」

父「これからは……俺は父としてお前を守るぞ！　それが俺の使命だ！」

娘「お父さんっ……！」



借金取り「フッ……」

借金取り「風呂が……娘の辛い運命と親父の汚れた心を洗い流してくれたようだな」ﾆﾔｯ







―おわり―