村長「村の共用トイレが汚くなってしまってのう」

村長「掃除してもちっとも綺麗にならんのじゃ」

薬師「でしたら、このトイレ洗浄中をお使い下さい」

薬師「これを入れると……」

ｼｭﾜｧｧｧｧ…

村長「おおっ！　みるみるトイレが綺麗になっていく！　まるで魔法じゃ！」

村娘「今日もありがとうございました」

村娘「安くていいお薬をいっぱい紹介して下さって」

薬師「いえいえ、とんでもない。薬師として当然のことです」

薬師「あったらいいなを形にするのが我々≪小林製薬≫の使命ですから」



小林製薬とは――

この王国において王家御用達にもなっている大手薬屋である。

医薬品開発や店頭での販売を行う他、こうした薬師が王都から離れた地方に出向くこともある。



そう、これは異世界に存在する“もう一つの小林製薬”にまつわる物語……。

ｻﾞﾜｻﾞﾜ…　ﾄﾞﾖﾄﾞﾖ…



薬師「ん？　村の出入り口が騒がしいですね」

村娘「あれは……また奴らが来たんだわ！」

薬師「奴ら？」

首領「さぁて、今月分の代金、払ってもらおうか」

村長「どうぞ……」ｼﾞｬﾗｯ

首領「……おいおい、これじゃ足りねえなァ！」

村長「な……！　いつもこの額で引き上げて下さってたじゃないですか！」

首領「値上げしたんだよ、値上げ。なぁ？」

山賊A「その通り！」

山賊B「オラオラ、死にたくなきゃとっとと払えやァ！」

ﾋﾋﾋ…　ﾊﾊﾊ…

村長「そんな、これ以上値上げされたら村みんな飢え死にしてしまう！」

首領「だったら、もう一日だけ待ってやる」

首領「その時までに不足分、用意しておきな」

首領「もし用意できてなかったら……分かってるよなぁ？」

村長「たった一日でなんて……！」

首領「んじゃ、また来るぜ」

ｱｯﾊｯﾊｯﾊｯﾊ…

村長「くううっ……！」

薬師「あれは……山賊ですか？」

村娘「そうよ」

村娘「毎月やってきては、“襲わない代わりに金をよこせ”なんてムチャクチャをいってくるの」

村娘「だけど、どんどん額を吊り上げてきて……」

村娘「これ以上搾り取られたら、もうあなたから薬を買うどころじゃなくなっちゃうわ」

村娘「きっとあいつらは、どの道この村を滅ぼすつもりなのよ……！」

村娘「猫がネズミをいたぶって殺すように、あたしたちが足掻くのを楽しんでるんだわ！」

薬師「国は動いて下さらないのですか？」

村娘「直談判したこともあるけど、全然ダメ」

村娘「こんな大して税も取れない小さな村を助けるため、わざわざ兵なんか出してくれないわ」

村娘「仮に出してくれるとしても、明日までにはとても間に合わない……」

薬師「……でしたら」

薬師「小林製薬に村の防衛を依頼するというのはどうでしょう？」

村娘「……え？」

村娘「どういうこと？」

薬師「実は小林製薬は、傭兵稼業も始めましてね」

村娘「えええ？」

薬師「依頼して下されば、山賊ぐらいあっさり蹴散らせる剣士をすぐに出動させられますよ」

村娘「でも……お金が……」

薬師「1000Gでいかがです？」

村娘「安い！　あたしでも払えちゃうわ！」

薬師「決まりですね」

その夜、村の会合――

村人「奴らが見逃してくれるわけがねえ！　こうなったら山賊どもと戦おう！」

デブ「そうだぁ！　むざむざ殺されるよりマシだぁ！」

村長「ううむ……勝ち目は限りなく薄いが、もはやそれしかあるまいか」

ｿｳﾀﾞｿｳﾀﾞ!　ﾀﾀｶｵｳ!　ﾜｰﾜｰ…!

村娘「待って、みんな！」

村長「村娘よ、どうした？」

村娘「実はさっき……」

村長「小林製薬が……傭兵？　聞いたことないが……」

村人「そもそも、なんで薬屋が傭兵稼業やるんだよ」

デブ「色々とおかしいよぉ～」

村娘「それは……聞きそびれちゃったけど、あの薬師さんは信頼できる人よ」

村娘「無茶な戦いを仕掛けるより、ずっと勝算はあるはずだわ」

村長「たしかに……そうかもしれんな」

村長「分かった。この村の命運……小林製薬の剣士とやらに託そう！」

翌日――

村人「本当に来るのか？　小林製薬の剣士ってのは」

村娘「うん……あっ！」

デブ「誰か来たよぉ！」

剣士「……」ｻﾞｯ

村娘「あなたが小林製薬の剣士……！？」

剣士「……」ｺｸｯ

村娘「ずいぶんと青い剣を持ってらっしゃるんですね」

剣士「ブルーソード」ﾁｬｷｯ

村人「覆面つけて顔隠して、あんまり強そうには見えねえが……」

村長「この村を……守って下さるのですかな？」

剣士「ムラマモル」

村長「！？」

村人「山賊どもは屈強なのが30人はいるが……それでも自信あんのか？」

剣士「アルピタン」

村人「！？」

村娘「が、頑張って下さい！」

剣士「ガンバルン」

村娘「！？」

……

首領「返事を聞きに来たぜ。金は用意できたか？」

村長「出来ておりません……」

首領「そっか、ならしかたねえ。この村は……もうお終いだ！」

首領「野郎ども！　煮るなり焼くなり好きにしちまいな！」

ウオオオオオオオオッ！！！

村長「くうっ……！」

剣士「ソコマデン」

首領「あ？　誰だてめえ……」

剣士「ムラマモル」

首領「村を守るだぁ～？」

山賊A「おもしれえ！　どうやって守るってんだ？　ああん？」ｽﾞｲｯ

剣士「バッサリン」

山賊A「は？」

ズバァッ！

山賊A「がはっ……！」ﾄﾞｻｯ

首領「な……て、てめえ！　よくも……！」

剣士「イノチトール」

剣士「カカッテコイン」ｸｲｸｲ

首領「上等だ……！」

首領「野郎ども！　まずあの剣士を血祭りに上げてやれぇ！」

ワァッ！！！　ﾄﾞﾄﾞﾄﾞﾄﾞﾄﾞ…



村娘（山賊たちが一斉に襲いかかっていくわ！）

山賊B「死にやがれッ！」

剣士「ヒトキル」ｼｭﾊﾞｯ

ガキィンッ！

山賊B「へっ、防いだぜ！」

剣士「ニドキル」

ザンッ！

山賊B「ぐぎゃっ……！」

剣士「ニドキル」

キンッ！　ギンッ！

山賊C「大した連続攻撃だが、俺には通用しな――」

剣士「サンドキル」

ザバシュッ！

山賊C「ぐばぁっ！」

剣士「サンドキル」

キンッ！　ギンッ！　ガキンッ！

山賊D「よし、全部凌いだぜ！」

剣士「ヨンドキル」

ザシュッ！

山賊D「四回目もいける、のね……」ﾄﾞｻｯ

山賊E「オラァッ！」ﾀﾞｯ

剣士「ブレスケア」ﾊﾟｸｯ

剣士「……」ﾌｰｯ

山賊E「あ、いい匂い……」

剣士「ミジンギーリ」

ズババババババッ！

山賊E「ぎゃばっ……！」ﾄﾞﾁｬｯ

山賊F「脇腹ががら空きだぜぇ！」

ギィンッ！

山賊F「へ？」

剣士「ワキガード」

山賊F「こいつ……脇腹にも鉄壁の防具を……！」

山賊G「ダメだ……こいつまるで隙がねえ！」

剣士「スキノン」

剣士「ホンキダス」

剣士「熱さまスラッシュ」

ドシュッ！

剣士「のどき～るストラッシュ」

ズバッ！

ザシュッ……！　ズバッ……！　ザンッ……！

ｸﾞｴｴｴｯ…　ｷﾞｬｧｧｧｧ…　ｸﾞﾜｯ…



村人「つ、つええ……！」

デブ「一人でどんどん片付けていくぅ……！」

首領「く、くそぉっ！」ｶﾞｼｯ

村娘「きゃっ！？」

剣士「！」

首領「そこまでだッ！」

剣士「……」

首領「この女を殺されたくなきゃ、剣を捨てろ！　こっちによこせ！」

村娘「ダメ……あたしにかまわないで……！」

首領「てめえは黙ってろ！」

首領「さあ、どうする！？」

首領「もたもたしてると、斧でこの女の首をちょん切っちまうぜぇ？」

剣士「ワカッタン」ﾎﾟｲｯ

ｶﾗﾝｶﾗﾝ…

首領「ガハハ、本当に捨てやがった！　これでお前はオシマイだ！　どけっ！」ﾄﾞﾝｯ

村娘「きゃっ！」

首領（この剣を拾って、あの野郎をブッ殺してやる！）ｻｯ

ﾌﾟｼｭｩｩｩ…

首領「うっ！？」

首領「な、なんだこりゃ」

首領「うげっ……く、苦しい……！」ｶﾞｸｯ

村娘「えっ！？」

村人「何が起きた！？」

村長「そ、そうか！　きっと彼は剣の柄の部分に、毒ガスを封入しておいたんじゃ！」

村長「そして、剣を捨てる時にこっそり蓋を開けておいた……。もし拾おうとすれば……」

首領「うごぉぉぉぉぉ……っ！」

首領「うげぇぇぇっ！　ぐはぁぁぁっ！」

首領「た……たすけてぇ……」

村娘「ふん、今まであたしたちを苦しめてきた罰よ！」

村人「ざまあないぜ！」

首領「ぢ、ぢぐじょう……」ｶﾞｸｯ

剣士「ブルーソードおくだけ」

ワアァァァァァ……！

村人「すげえ！　すげえよ、あんた！」

村長「ありがとうございます！　本当にありがとうございます！」

村長「あなたの働きぶりはとても1000Gでは足らぬでしょう。是非、もっとお礼を……」

剣士「オレイノン」ｸﾙｯ

ｽﾀｽﾀ…

村長「ううむ……名も名乗らずあっさりと帰ってしまった……」

村人「同じ男として憧れちまうぜ……」

デブ「まさにこの村を治療してくれたんだねぇ」

村娘「もう行っちゃうの？」

剣士「……」

村娘「本当に無口なのね。必要なこと以外ほとんど喋らない」

剣士「……」

村娘「ところで薬師さん、今度はいつ来てくれるの？」

剣士「また来月には来ようかと……」

剣士「――あっ！」

村娘「やっぱりね……」

村娘「小林製薬が傭兵稼業をやってるなんてウソでしょ？」

村娘「きっとあなたはあたしたちが必要以上に恩を感じないように」

村娘「形式上傭兵という形であたしたちを助けてくれた……違う？」

剣士「まあ……そのようなものです」

村娘「ありがとう、薬師さん」

剣士「いえいえ」

村娘「今度来た時は……二人きりでご飯でも食べない？　いいでしょ！」

剣士「……いいですよ」

村娘「やったーっ！　嬉しいっ！」ｷﾞｭｯ

剣士「……っ！」

剣士「それじゃ、私は失礼します」

村娘「さようなら。だけど最後ぐらい、覆面取ってくれてもいいじゃない」

剣士「そうはいきません」

村娘「どうして？」

剣士「……」

剣士「フェイス赤面中」







おわり