おれ「おれたちが子供のころって1＄80円だったじゃん」

シャミ子「そうだったんですか？」

🍑「一時期1＄120円だったよね」

シャミ子「授業では110円くらいって習いました」

🍑「今はそれくらいだね」

おれ「計算しづらいから80円と120円にしようよ」

🍑「そうだね」

シャミ子「？」

🍑「1＄80円だと円高で、1＄120円だと円安なんだよ」

おれ「相対的な話だよ　1＄の適正レートなんて決まってないしね」

シャミ子「80円だと高くて、120円だと安いんですか？」

シャミ子「逆じゃないですか？」

🍑「計算すればわかるよ」

シャミ子「？？？」

🍑「トヨタが360万円の車を作った場合、何＄？」

シャミ子「なんで＄にするんですか？」

おれ「輸出するからだよ」

おれ「アメリカでは円ではなく＄がお金でしょ？」

おれ「だからアメリカで売るために＄の値段が必要なんだよ」

シャミ子「なるほど」

シャミ子「えと……、何＄になるんですか？」

🍑「計算しなよ」

🍑「1＄120円ってことは、120円のものは何＄？」

シャミ子「……え？1＄が120円なら……、120円は1＄ですか？」

🍑「そうだよ」

🍑「じゃあ360万円は？」

シャミ子「はわ？」

おれ「1＄＝120円でしょ」カリカリ

おれ「360万÷120は？」カリカリ

シャミ子「……3万？」

🍑「そうだよ」

🍑「120円が3万個あると360万円なんだよ」

シャミ子「……」

🍑「1＄は？」

シャミ子「120円です」

🍑「360万円は何＄？」

シャミ子「120円が3万個あるってことは3万＄ですか？」

🍑「そうだよ」

🍑「1＄120円の場合、360万円のトヨタの車はアメリカで3万＄で売られるんだ」

シャミ子「へー……」

🍑「これが1＄80円だとどうなる？」

シャミ子「はわ？360万÷80ですか？」

おれ「そうだよ　わかってるじゃん」

シャミ子「あ、ちょっと計算します」カリカリ

シャミ子「その場合、360万円の車は、アメリカで4万5千＄で売られるんですか？」

🍑「そうだよ」

シャミ子「……え？同じ360万円の車なのに値段が変わるんですか？」

🍑「そうだよ」

シャミ子「……詐欺ですか？」

🍑「え？なんで？」

シャミ子「だって360万円の価値が変わるわけないじゃないですか」

🍑「ああ、いいところに気づいたね」

シャミ子「？？？」

🍑「1＄80円のとき、4万5千＄でアメリカでトヨタの車が売れても」

🍑「1＄120円のとき、3万＄でアメリカでトヨタの車が売れても」

🍑「トヨタに入ってくるお金は360万円なんだよ」

シャミ子「え？え？」

おれ「まぁ円建での話だけどね」

🍑「つまり円安になればトヨタの車を安くアメリカ人に売りつけられるんだ」

シャミ子「……それってどういうことなんですか？」

おれ「シャミ子は同じ車が3万円と4万5千円で売ってたらどっちを買う？」

シャミ子「それは本当に同じ車なんですか？」

🍑「同じだよ」

シャミ子「なら3万円の車を買います」

🍑「そういうことだよ」

シャミ子「は、はわ？」

シャミ子「え、じゃあ1＄が1万円だったらどうなるんですか？」

🍑「さっきと同じように計算しなよ」

シャミ子「360万÷1万だから360＄ですか？」

🍑「そうだよ」

シャミ子「……、トヨタの車が360＄で買えるってことですか？」

🍑「そうだよ」

シャミ子「おれさん、360＄っていくらですか？」

おれ「え？360万円」

シャミ子「そ、そうじゃなくて、アメリカではどれくらいの価値のお金なんですか？」

おれ「え？あー、アメリカの最低賃金が時給15＄だったかな？」

シャミ子「時給15＄？」

🍑「シャミ子はバイトしてるよね？」

シャミ子「してます」

🍑「シャミ子が1時間バイトしたらいくらもらえる？」

シャミ子「1000円です　時給1000円です」

おれ「（東京の最低賃金スレスレだな……）」

🍑「時給15＄ってそういうことだよ」

🍑「アメリカ人は最低賃金で働いた場合1時間で15＄もらえるんだ」

シャミ子「はわ～……」

シャミ子「じゃあ360＄は」

おれ「360÷15だよ」

シャミ子「……24時間働けばもらえるお給料ってことですか？」

🍑「そうだよ」

シャミ子「え、じゃあ1＄1万円の場合、24時間働けばトヨタの車が買えるんですか？」

🍑「そうだよ」

シャミ子「そんなバカな」

🍑「え、なんで？」

🍑「さっき一緒に計算したじゃん」

シャミ子「はわ……しました……」

🍑「だったらおかしくないじゃん」

🍑「どこがおかしいの？」

シャミ子「はわわ……、何もおかしくないです……計算は何もおかしくないです……」

シャミ子「でもおかしいと思っちゃうんです」

シャミ子「魂が納得しないんです」

おれ「まぁ、わかるよ　そもそも1＄1万円ってのが納得できない数字だからね」

シャミ子「じゃあ円安になると……、1＄が200円になったり300円になったりすると」

シャミ子「トヨタの車が安くアメリカ人に売れるってことですか？」

🍑「そうだよ」

おれ「まぁトヨタの車だけじゃなくて、日本が輸出する全てのものが安くなるんだけどね」

シャミ子「しかも、日本に入ってくるお金は変わらない」

シャミ子「じゃあ、円安にすれば円安にするだけお得じゃないですか！」

シャミ子「どんどん円安にしましょう！」

シャミ子「1＄3万円くらいにしてやりましょう！」

おれ「……」

🍑「それはどうだろう……」

シャミ子「はわ！？」

シャミ子「え、なんですか？　なんか困ることがあるんですか？」

🍑「う～ん、おれくんなにかわかりやすい話ない？」

おれ「石油かな？1000億＄ほど輸入してるのかな？」

シャミ子「あ、今なら計算できますよ！」

シャミ子「今1＄は110円ですから、1000億＄は11兆円です！」

シャミ子「……、……、日本って11兆円も石油を輸入しているんですかああああああ！！！！！！！？」

おれ「引くよね」

🍑「笑えない」

🍑「まぁ、それはいいとして、1＄が3万円だった場合1000億＄は何円？」

シャミ子「はわ？」

シャミ子「……え、3000兆円……え？」

シャミ子「え？」

おれ「円安だと輸入がやばいことになるからね」

🍑「円安にすればいいってもんでもないんだよ」

シャミ子「……はわ～」

シャミ子「え、じゃあ円安と円高……どっちがいいんですか？」

🍑「シャミ子、世の中って良いか悪いかじゃないんだよ」

🍑「良いこともあれば悪いこともあるんだよ」

🍑「円安で得する人もいるし、損をする人もいるんだよ」

シャミ子「……」

おれ「アベノミクスを悪く言うわけじゃないけど」　🍑「あれは良い政策だよ」合いの手

おれ「もしどちらかを絶対に良いものだ、もしくは悪いものだという人間がいるなら」

おれ「それはただ頭の悪い人間か、詐欺師かだよ」

シャミ子「はわ……」

おれ「……」

シャミ子「私、経済のことはさっぱりわかりそうにないんで、家計簿だけつけておきます」

🍑「それはミクロ経済だよ」

シャミ子「はわ！？」

🍑「シャミ子、経済から逃げることはできないんだよ！」

おれ「人間は経済と生きていくしかないんだよ！」

シャミ子「イヤですぅ～……！」

終わり