DQN「……」ﾋﾟｸﾋﾟｸ

女「一撃か……つまらん」

男「あ、あの！　ありがとうござ――」

女「手袋を逆から読むと？」

男「え？」

女「手袋を逆から読むと？」

男「ろ、ろくぶて……？」

女「ハァッ！！！」ﾎﾞｯ

男「ひいっ！」

ﾋﾟﾀｯ

男「す、寸止め……」

女「殴る価値もない、とはこのことね」

女「……」ｸﾙｯ

ｽﾀｽﾀ…

男（行ってしまった……）

友人「ああ、それは今巷で噂になってる“ろくぶて女”だな」

男「ろくぶて女？」

友人「『手袋を逆から読むと？』って聞いて『ろくぶて』って答えると殴りかかってくるんだ」

友人「あの女の六回攻撃を耐えられた者はいないらしいぜ」

男「人間なのか？」

友人「さぁ……人間なのかもしれないし、そうじゃないのかもしれない」

男「ふうん……」

男「ありがとう」ｸﾙｯ

友人「？　どこ行くんだ？」

男「ちょっと……修行にね」

友人「修行……？」



…………

……

ろくぶて女の噂は広がっていき――



「耐えたらどうなるんだろうな……？」

「俺なら耐えられるぜ！」

「いや……俺だ！」

「チャレンジしてみるか！」

ボクサー「へへへ、出やがったな」

女「手袋を逆から読むと？」

ボクサー「ろくぶて」

女「ハァッ！！！」ﾎﾞｯ

ボクサー「耐えてみせる！」

ドゴォッ！

ボクサー「～～～～！」ﾐｼﾐｼ…

ボクサー（なんつー威力だ……本当に女か！？）

ボクサー（だが、耐えられないほどじゃない！　あと五発ならイケる！）

女「ハァッ！！！」ﾎﾞｯ

ズドンッ！

ボクサー「！？」

ボクサー「オエエッ……！」

ボクサー（なんだこりゃあ……！？）

ボクサー（一発目より……威力が上がっ……）ﾄﾞｻﾞｧｯ…

女「……」

女「二撃……まぁ、こんなものね」

ｻﾞｯｻﾞｯｻﾞｯ…

レスラー「ガハハハ、女のパンチ如きはね返してみせるぜぇ！」

女「ハァッ！！！」

ドゴォッ！　ドゴォッ！

レスラー（よし、二発耐え――）

女「ハァッ！！！」

ドゴォンッ！

レスラー「ぶぎゃああっ……！」ｽﾞﾝ…

女「うん、よく持った方じゃない」

甲冑男「フフフ……防具は別に禁止されていないよな？」

女「手袋を逆から読むと？」

甲冑男「ろくぶて」

女「ハァッ！！！」

ドゴォッ！　ドゴォッ！　メキィッ！　ズドンッ！

甲冑男（ぐおお……かなり響くが、四発耐えきった！　あと二発――）

女「……」

女「ハァッ！！！」ﾎﾞｯ

ドズンッ！

甲冑男「うぐっ！？」

ﾍﾟｷﾍﾟｷ…　ﾊﾟｷﾊﾟｷ…

甲冑男（拳が、甲冑を割って――）

甲冑男「ぐはぁぁぁぁぁ……！」ﾊﾞｯｷｬｧｧｧｧｧﾝ

女「五撃……なかなか楽しめたわ」

外国人「HAHAHA、このアーマーは核シェルターと同じ材質で出来てるんデース！」

外国人「つまり、絶対壊れまセーン！」

ドゴォッ！　ドゴォッ！　ズドッ！　ドゴォッ！　バキィッ！

外国人「HAHAHA、五発耐えまーシタ！」

女「……」

女「ハァッ！！！」ﾎﾞｯ

外国人「ボクの勝ちデース！」

ドゴォォォォンッ！！！

外国人「What！？」ﾒｷﾒｷ…

ﾊﾞｷｬｧｧｧｧｧﾝｯ!

外国人「Oh……クレイジー……」ｶﾞｸｯ

女「出直してきなさい」



幾人もの男が挑んだが――

武術家（あ、あと一発……）ﾖﾛ…

女「ハァッ！！！」

ボゴォッ！

武術家「あびゃああっ……！」



最強の六撃目を耐えられる者は現れなかった。

友人（またろくぶて女が、挑戦者を打ち破ったらしいな）

友人（ろくぶて女といえば……そういやあいつどこ行ったんだ？）

友人（修行に行くとかいってたけど……）

大男「やぁ」

友人「（なんだこの2m以上ありそうな大男は……）どちらさま？」

大男「やだなぁ。僕だよ、僕」

友人「え、まさか……」

大男「修行から帰ってきたんだ」

友人「え～～～～～！？」

友人「ちょっと待て！　筋肉がついたのはいいとしても――」

友人「身長伸びてるのはおかしいだろ！　成長期は過ぎてるし、お前は170cmぐらいだったはず！」

大男「牛乳をたくさん飲んで、小魚をいっぱい食べたからね」

友人「牛乳と小魚すげえ！」

大男「僕は今こそろくぶて女に挑む！　行ってくるよ！」

友人「……」

友人（あの変貌ぶり……あいつならひょっとして……）

大男「お久しぶりです」

女「あなたは……昔どこかで会ったわね」

大男「はい、カツアゲされてるところを助けてもらいました」

大男「あれ以来、僕の心にはずっとあなたがいました。今日はあなたに想いを伝えたくてやってきたんです！」

女「手袋を逆から読むと？」

大男「ろくぶて！」

女「ハァッ！！！」ﾎﾞｯ

ドゴォッ！

女「ハァッ！！！」

ズドンッ！

女「ハァッ！！！」

バキィッ！

女「ハァッ！！！」

メキィッ！

女「ハァッ！！！」

ドゴォォンッ！

大男「……！」ｼｭｩｩｩｩ…

大男（五発まで耐えた……あと……一発！）

女「……」

女「ハァッ！！！」ﾎﾞｯ

大男（これは……！）

大男（この六撃目……これは今までとは違う！）

大男（五発耐え抜いた者への感謝……耐え抜いた者への“愛”！）

大男（それゆえ防御（きょぜつ）してしまえば、どんなに鍛えられた筋肉や頑強な防具をも貫いてしまう！）

大男（だから僕は――）

大男（この六撃目を――）



受　け　入　れ　る　！　！　！

ｼｭｩｩｩｩｩ…

大男「……」

女「……」

大男「ど、どうです、か……」

女「見事だわ……よくぞ耐えきったわね……」

大男「じゃあ、僕の気持ちを伝えてもよろしいですか」

女「ええ、どうぞ」

大男「僕はあなたのことが……好きです！」

大男「付き合って下さい！」

女「ええ、こちらこそよろしくお願いします！」

ｷﾞｭｯ…



こうして二人は交際を始めた――

女「ふんふ～ん」ｱﾐｱﾐ

大男「なにしてるの？」

女「ちょっと……編み物をね。あなたにプレゼントしたくて。これから寒くなるし」

大男「へぇ～、嬉しいなぁ、ありがとう！」

大男「楽しみにしてるよ！」

女「うん」ｱﾐｱﾐ

友人「まさか、お前に彼女ができるとはなぁ。しかも、相手はあの……」

大男「えへへ……」

友人「で、彼女とは最近どうよ？」

大男「それがね、なんと彼女、手編みのプレゼントを僕にくれたんだ」

友人「へぇ～、なになに？」

大男「これさ」

大男「手編みのマフラー！」

友人「手袋じゃねーのかよ！！！」







完