シャロ「そもそも系統分離って何をやりたいかはわかるわよね。」

チノ「水溶液中になんのイオンが含まれているかを調べることです。」

シャロ「そうね。じゃあそのためには何をすればいいかしら?」

チノ「何かを入れて反応するかどうかで判別する、とかですか?」

シャロ「そうよ。系統分離はその中でも『沈殿が形成されるかどうか』で判別することが多いのよ。一つ一つ解説していくわねから」

シャロ「まずはCl-よ。」

チノ「塩酸を加える、とかで見ますね。」

シャロ「Ag+(銀)とPb2+(鉛)、Hg2+(水銀)はCl-を加えると白色沈殿を形成するわよ。語呂合わせは『ピンクボーイはハゲの味』ね。」

チノ「Ag+とPb2+、Hg2+を区別する方法はないんですか?」

シャロ「いい質問ね。Pb2Clは溶液を熱すると溶けるわ。一方でAgClはチオ硫酸ナトリウムや後で解説するけどアンモニア水に溶けるの。」

シャロ「お次はS2-よ。」

チノ「硫化水素ですね。」

シャロ「S2-は溶液の液性によって沈殿する金属イオンが変わるわ。」

チノ「酸性でしか溶けないものと塩基性でしか溶けないものがあるんですか?」

シャロ「ちょっと違うわ。液性がなんでも沈殿するものと塩基性、中性でしか沈殿しないものがあるの。」

シャロ「Ag+、Hg2+、Cu2+(銅)、Sn2+(スズ)、Cd2+(カドミウム)、Pb2+は液性に関わらず沈殿を形成するわ。覚え方は『参議院衆議院どうすんかな』よ。」

チノ「酸性だとこれらしか沈殿を形成しないんですね。」

シャロ「そうね。一方でZn2+(亜鉛)、Fe2+(鉄)、Ni2+(ニッケル)、Co2+(コバルト)、Mn2+(マンガン)は塩基性か中性じゃないと沈殿しないわ。こっちは『アルカリはあえて煮込まん』って覚えるといいわ。」

チノ「塩基性でもさっきの6つは沈殿を形成するんですよね。」

シャロ「そうよ。あと沈殿の色だけどZn2+が白色、Cd2+が黄色、Mn2+が淡赤色で他は全部黒色よ。」

チノ「そういえば酸性条件下でH2Sを吹き込んだあと溶液を煮沸して硝酸を加えてるんですけどこれはなんですか?」

シャロ「いいところに気がついたわね。煮沸するのはH2Sを取り除くため、硝酸を加えるのはFe2+をFe3+に酸化するためよ。もともと含まれていたのがFe3+でもH2Sは還元力が強いからFe3+をFe2+に還元してしまうのよ。」

チノ「戻すとなにかいいことがあるんですか?」

シャロ「Fe2+はOH-を加えるとFe3+と違う物質が出てくるんだけどこっちは溶解度がわりと大きいから完全に取り出すのが難しいのよ。だからこの操作が含まれる場合は後でOH-を加えることになるわ。」

シャロ「次はそのOH-よ。OH-で沈殿を形成しない金属イオンはアルカリ金属とアルカリ土類金属のものぐらいよ。沈殿の色はFe2+(鉄)が緑白色、Fe3+が赤褐色、Cu2+が青白色、Cr3+(クロム)が灰緑色、Ni2+が緑色であとは白色よ。Ag+とHg2+ももちろん沈殿を形成してAg+は褐色、Hg2+は黄色になるんだけどこの2つの沈殿は水酸化物ではなく酸化物だから気をつけてね。」

チノ「じゃあ大体の金属は沈殿するんですか?」

シャロ「そうなんだけど過剰量、つまりたっぷり加えると沈殿が溶ける金属もあるわ。」

チノ「あ、そういえば習いました。両性金属が溶けるんですよね。」

※両性金属...酸にも塩基にも反応して水素を発生する金属。

シャロ「そうね。ちなみに両性金属はAl3+(アルミニウム)、Zn2+、Sn2+、Pb2+で『ああすんなり』って覚えるといいわ。」

シャロ「それと両性金属が過剰量のOH-に溶けるといってもそれは強塩基だけでNH3みたいな弱塩基では溶けないから注意してね。」

チノ「NH3を過剰に加えることで溶けるものはないんですか?」

シャロ「あるわよ。Cu2+、Ag+、Zn2+、Ni2+は過剰量のNH3を加えると錯イオンを形成して溶けるわ。こっちは『どうあがいても会えない』って覚えてね。このうちCu2+は溶液が深青色になるわ。」

※錯イオン...金属イオンに非共有電子対を持った分子やイオンが配位結合してできたイオンのこと。

チノ「さっき出てきたAg+ですね。」

シャロ「今度はSO4(2-)とCO3(2-)、CrO4(2-)ね。この辺は単純だから一気に行くわよ。」

チノ「それぞれ硫酸イオン、炭酸イオン、クロム酸イオンですね。」

シャロ「SO4(2-)ではBa2+(バリウム)、Ca2+(カルシウム)、Sr2+(ストロンチウム)が沈殿するわ。『馬鹿にするな』で覚えてね。CO3(2-)は沈殿するものではなく沈殿しないものを覚えるといいわ。」

チノ「殆どのものは沈殿するんですか?」

シャロ「そうよ。沈殿しないものはNH4+(アンモニウム)、Na+(ナトリウム)、K+(カリウム)で『あんまり仲良くない』って覚えるといいわ。そうそう、SO4(2-)もCO3(2-)もできる沈殿は全部白色よ。」

チノ「金属イオンでないものが出てきましたね。」

シャロ「まあNH4+も陽イオンだから系統分離にかけられるのよ。そしてCrO4(2-)はAg+、Ba2+、Pb2+が沈殿を形成するわ。語呂合わせは『銀歯に名前』で沈殿の色はAg+だけ赤褐色、あとは黄色よ。」

シャロ「最後は炎色反応よ。」

チノ「これは沈殿形成じゃないんですね」

シャロ「アルカリ金属やアルカリ土類金属はなかなか沈殿を形成しないからこれで判別するのよ。Li+(リチウム)が赤色、Na+が黄色、K+が紫、Ca2+が橙色、Cu2+が緑色、Ba2+が緑色、Sr2+が赤色で『リアカーなきK村加藤の動力馬力する秋』と覚えるわ。」

チノ「そういえばこの前味噌汁が吹きこぼれたとき炎が黄色くなったのって...。」

シャロ「ナトリウムの炎色反応ね。これで系統分離はおしまいよ。」

チノ「ありがとうございます。早速ココアさんに硫化水素を吹き込んで沈殿させてきます。」

※ココアのイメージカラーは淡赤色

シャロ「そんなことされたら沈殿じゃなくて意気消沈しそうね。」


おしまい