男「これ……なんだか分かりますか？」ﾜｷﾜｷ

男「生きてる昆虫でーす」

男「これを……口の中に放り込みます！」ﾊﾟｸｯ

男「む……むぐ……」ｺﾞﾘｺﾞﾘ

男「……食ったーっ！」



9000再生

男「ストッキングをかぶって……」ﾓｿﾞﾓｿﾞ

男「これでよし」

男「銀行強盗ダンスをおどりまーす！」

男「金を出せ♪　金を出せ♪」ｽﾀﾀﾝｯ

男「このバッグに札束ぜーんぶ詰めろ♪　お前ら人質だー♪」ｸﾙｸﾙｯ



10000再生

友「新しい動画見たよ。ザリガニに鼻挟まれるやつ」

男「おー、見てくれたか。ありがとう！」

友「次々新しいことやって……お前もよくやるよな」

男「そりゃあ再生数稼ぎたいからな」

友「再生数のためなら何だってやる勢いだな」

男「ああ、動画再生数のためならどんなことだってやるさ……！」

友「その執念がありゃ、マジでなんだってできる気がするよ。空だって飛べるんじゃないか？」

男「だけど……」

友「？」

男「近頃、再生数が伸び悩んでるんだ。10000を超えたあたりから……」

友「あー、俺はよく知らないけど、そのあたりに壁があるらしいな」

男「10000までは順調に増えたのに、そこからはいくら新しいことやってもなかなか増えない」

男「マンネリって思われちゃってるんだろうか。飽きられちゃってるんだろうか」

友「んなことないだろ。地道にやってけばいつか壁を突破できるさ」

友「だけどあえてアドバイスするなら……確かにもうちょっと刺激があった方がいいかもしれない」

男「刺激かぁ……」

男（地上にカメラをセットして……）

男「えー、二階から飛び降りまーす！」

男「……」ｺﾞｸｯ

男「せいっ！」ﾋﾟｮﾝｯ

ﾄﾞｻﾞｯ　ｺﾞﾛｺﾞﾛ…

男「いてて……成功！」



30000再生

男「やった！　ついに10000再生の壁を突破したぞ！」

男「コメントは……」



『ドキドキしながら見てました！』

『すごい度胸ですね』

『とても僕にはできません！　いい動画でした！』



男「これだ……！　俺が目指すべき方向はこれだったんだ……！」

ｻﾞｧｧｧ…

男「ここは近所の川です」

男「昨日雨が降ったせいか、ちょーっと流れが速いです」

男「今からこの川に飛び込んでみたいと思います！」

男「とうっ！」

ｻﾞﾊﾞｧﾝｯ!



70000再生

男「結構長い階段ですね。30段ぐらいあるでしょうか」

男「では今から、ここから転げ落ちてみたいと思います！」

男「果たしてスタントマンのように上手く転がることができるでしょうか！」

男「行きます！」

ｺﾞﾛｺﾞﾛｺﾞﾛｺﾞﾛｺﾞﾛ…

ﾄﾞｻﾞｯ!



100000再生

友「……新しい動画見たぞ」

男「見てくれたか、ありがとう」

友「てかお前何やってんだ！？　どんどん危険なチャレンジしやがって！　包帯も増えてる！」

男「そりゃあ再生数稼ぎたいからな……」

友「いくら稼ぎたいからって……限度ってもんがあるだろ！」

友「刺激があった方がいいってアドバイスは間違ってた。今すぐ軌道修正しろ！」

男「アドバイスは関係ないよ。俺がやりたいからやってるだけさ」

男「次は……3階から飛び降りようかな、と思ってるんだ」

友「3階！？」

男「ああ、もちろん下にマット敷くけど」

友「マットったって、どうせそこらへんで売ってるようなやつだろ？　死ぬぞ！」

男「再生数のためなら別に死んだって……」ﾎﾞｿ…

友「え？」

男「いや、何でもない。とにかくやめるつもりはないから見ててくれよ」

男「下にマットを敷きまして……ここは3階です」

男「ここから飛びまーす！」

男「そりゃっ！」

ﾎﾞﾌｯ!

男「ぐううっ……！　上手く着地はできたけど……足が折れたっぽい……」



100000再生

男（3階から飛び降りても10万再生か……）

男（今度は10万の壁にぶつかったみたいだな）

男（もっと刺激的な動画を考えないと……）

男（もっと……もっと……もっと……）



『その執念がありゃ、マジでなんだってできる気がするよ。空だって飛べるんじゃないか？』



男「これだ……！」

男「いい眺めだ……」

男（ここから俺はこのマントをつけて飛ぶ）

男（そうすれば、夢の100万再生を果たせるかもしれない！）

男（動画再生数のためなら……俺は命をかけたっていい！）

男「えー、それじゃ皆さん！　今からこの崖から飛び立って、空を飛びたいと思いまーす！」

男「風に乗って飛ぶ俺の雄姿、見てて下さいね！」

男「では……そりゃっ！」ﾋﾟｮﾝｯ

男「あっ……！」

男（飛んでコンマ数秒で悟った――）

男（こんなチャチなマントじゃ……空なんか飛べっこない）

男「うわあああああああっ！！！」

ｶﾞｯ!

ｺﾞｯ!

ｶﾞﾂｯ!

男「……！」

……

……

男「……」

男「……」

男（マジかよ……生きてる……）

男（だけど……体は全くピクリともしないな……全身が麻痺してるっぽい……）

男（顔も手足も……きっとひどいことになってるんだろうな……）

男（救助……来るかな……。無理だろうな……生で配信してたわけじゃないし……）

男（ここで……俺は……死ぬのか……）

男（死んだら……俺の死を報じる動画……100万再生、いくかな……？）

男（絶対いくよな……だって……ここまでやったんだもの……）

男（どんなコメントつくかな……褒める奴もいれば……叩く奴もいるだろうな……）

男（100万再生達成できるなら……もう死んでもいいや……）

男（だけど……だけど、このまま死んだら……その達成するところを見ることは、できない……）

男（あの世が、この世を見れる場所ならいいけど……そうじゃなかったら……）

男（嫌だっ！　そんなの嫌だっ！）

男（死にたくないっ！　助かりたいっ！）

男（俺はこんなとこで死ぬわけにはいかないんだっ！）

男（生き残って……100万再生を達成する！　絶対生き残ってやる！）

男「うおおおおおおおおおっ……！！！」



………………

…………

……

男「はいどうも、皆さん！」

男「今日はこの鉄骨をも切ってしまう大型マシーンで、なんと右腕を切断したいと思います！」

ｷﾞｭﾙﾙﾙﾙﾙﾙﾙ…

ズバッ！

男「うぐっ！　はい切れましたー！　手品じゃありません、マジで切ってます！」

男「では、ここからが本番！　今から腕に力を込めます！」

男「ふんっ！　ぐううううう……！」ｽﾞｽﾞｽﾞ…

男「はい、生えましたー！　ちゃんと動かせます！」ﾋﾟｸﾋﾟｸ

友「先週の動画見たよ。右腕生えてくるやつ。1000万再生おめでとう」

男「ありがとう！　痛かったけど、それに見合う再生数は稼げたよ」

友「いやー、人間の執念ってやつの恐ろしさを思い知ったよ」

友「まさしくお前は再生数のためなら何でもできる男だ」

男「ああ、動画再生数のためならどんなことだってやるさ……！」

男「“自分の肉体を再生できるようになること”だってね……」





END